魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。   作:八魔刀

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注意:最強はルドガーだけじゃありません。


第66話 コンビネーション

 

 

 暗闇の包み込まれたララとリインは息を呑む。暗闇はまるで星空のような点々とした光を放ち、ホールから別の異空間へと跳ばされたのだと理解するのに時間は掛からなかった。

 

 グリゼルは穴が空いた箇所を押さえながら魔力を垂れ流しており、怒りに染まった形相で二人を睨み付けている。

 

 二人は察する――ここからがグリゼルの本気だと言うことを。

 

「貴様らにこの姿を見せることになるとは……! お許し下さい我が君! アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 グリゼルが突然叫び出す。するとグリゼルの魔力が更に噴き出し、全身を覆う。魔力はどんどん肥大化していき、その中から巨大な怪物が現れた。

 

 上半身はグリゼルのままであるが、下半身は蛇であり、背中からは二対の翼が生えている。

 

 ララは以前、ルドガーから教わった怪物の中で似たような姿をしているものを思い出す。

 

 怪物エキドナ。あらゆる怪物の母と言われ、神話上の怪物だ。

 本物、と言うわけではないだろうとララは考える。先程から感じていた魔力から、純粋な魔族の気配を感じず、人族の魔力と混ざり合った気配から、どういう手段かは不明だが己に改造を施したのだろうと推察する。

 

 グリゼルの顔は人と言うよりも怪物らしい恐ろしい形相でララとリインを睨み付ける。

 

「この結界は外界と分断する魔法……これならば私の姿が我が君に見られる心配は無い。貴様達は誰にも見られることなく、私に殺されるのだ!」

 

 グリゼルは吠えた。その声はまさに怪物のそれであった。

 リインは剣を構え、ララに話しかける。

 

「……聖女様、お身体に変化は?」

「無い。本当にただの結界のようだ。だが魔法は使える」

「私が斬り込みます。聖女様は――」

「ララ、で良い、リイン」

 

 ララがリインの名前を呼んだ。

 牛女という不名誉な渾名ではなく、リインの名前を。

 

 リインは驚き、ララに振り返る。

 

「……いつまでも聖女様じゃ、私が聖女だってバラしてるようなものだ」

「……ふふっ、確かに。では、参りますよ――ララ様」

「ああ、魔法は任せろ」

 

 リインは駆けた。怪物に向かって一直線に。

 グリゼルは雷をリインに向かって降り注ぐ。リインは自身に直撃する雷だけを読み取り、その全てを避けてグリゼルに迫る。

 

 リインの魔力から行動を読み取る力はルドガーにも迫る程だ。寧ろ、純粋なエルフな分、ルドガーよりも才能がある。雷を避ける程度は造作も無かった。

 

 グリゼルは蛇のように動き出し、リインへと直接攻撃を仕掛ける。

 その動きすらリインは読み取り、最適な攻撃で防いでいく。

 

「氷の精霊よ来たれ――グラ・ド・コントゥディトズ!」

 

 ララの魔法により、グリゼルの頭上に氷塊が現れ、グリゼルを押しつぶそうと落ちてくる。

 グリゼルは蛇の動きで氷塊を避け、今度はララに向かって口から雷を吐き出した。

 

 ララは雷に反応できるほど、反応速度は速くない。

 

 だがリインは別だ。

 

 既にグリゼルの行動を見切っており、グリゼルが雷を吐くよりも先に動き出し、ララの前に躍り出ていた。

 剣で雷を受け止め、雷を剣に帯電させる。その剣を振るい、雷をグリゼルへと返した。

 

 グリゼルは雷を浴び、悲鳴を上げる。

 だが少し焼けただけでダメージはそこまで通っていない。

 

「おのれ! 炎よ――!」

「ララ様、地の防御魔法を!」

「地の精霊よ来たれ――ノム・ド・スクートゥムズ!」

 

 ララが呪文を唱えると、二人を岩の球体が包み込む。

 次の瞬間、グリゼルの魔法が発動する。

 

「――灰燼と化せ! バーン・エクスプロード!」

 

 地面が真っ赤に染まり、大爆発が起きる。

 燃えカスすら残さないような灼熱の炎が空間を包み、ララとリインを遅う。

 

 しかし岩の盾に守られている二人は無傷で生還し、爆発が収まったと同時に岩の盾が解除されてリインが飛び出す。

 

「耐えたのか!?」

「秘技――」

「させぬわ!」

 

 グリゼルが翼を広げると、無数の羽根が刃となってリインに降り注ぐ。

 

「誰に言っている? 風の精霊よ来たれ――シフ・ド・スクートゥムズ!」

 

 だがそれらはララが張った風の盾により逸らされてしまう。

 その間にリインがグリゼルに迫り、剣を腰だめに構える。

 

「――ルナエ・エクシウム!」

 

 リインが放った斬撃は三日月の如く煌めき、魔力の衝撃と共にグリゼルの翼一つを両断した。

 まさか翼が両断されるとは思っていなかったのか、グリゼルは驚愕に満ちた表情を浮かべる。

 

「き、貴様ァ!」

「火の精霊よ来たれ――サラ・ド・イクスズ!」

 

 グリゼルの顔面に、ララの爆発魔法が炸裂する。

 

 二人の連携によりグリゼルは強力な魔法を使うも、常に反撃されて圧倒されてしまう。

 

 こんなことがあって堪るか、あの男の時よりも本気を出しているのに、何故こうもいいように遇われてしまうのか。

 

 グリゼルは半ば錯乱状態に陥った。この状態を落ち着かせる為に、グリゼルは新たな魔法を発動する。

 

「絶氷よ! 凍て付け! バーン・ブリザード!」

 

 空間が白く染まり始め、氷の大爆発が発生する。

 

 一瞬で空間が凍り付き、猛吹雪が起こる。炎ですら凍り付かせるであろう絶氷に、グリゼルはこれでララとリインを凍り付かせたと思い込む。

 

 だがしかし、それは違った――。

 

 ララの魔力、魔法は戦いの中でグリゼルを上回りつつあった。

 火、たかが火だ。グリゼルの魔法は炎を凍らす程の威力が確かにあった。

 しかしララは火のゴーレムを即座に召喚し、自身とリインを包み込むようにして凍て付くのを凌いで見せたのだ。

 

 それは即ち、ララの魔力がグリゼルの魔力を上回ったということ。

 

「ば、馬鹿な――!?」

「魔王の娘を――舐めるな、下郎」

「おのれぇ! おのれおのれおのれぇえ!」

 

 グリゼルは魔力を溜め始めた。バチバチと帯電し始め、雷の魔法が発動する前触れだと分かる。

 ララは地属性の防御魔法を張ろうとしたが、流石に魔法を連発し過ぎたのか、グリゼルがこれから放とうとする魔法に対抗できるだけの魔法を放つ魔力が残っていないことに気付く。

 

「リイン、アレを完全に防ぐのは無理だ」

「ララ様、ご安心を。あの程度の雷など、私の剣で斬って見せましょう。ただ、一つお願いが」

「うむ」

 

 グリゼルの魔力が更に高まる。

 リインは姿勢を低くし、突撃の構えを取る。

 

「ララ様、お願いします!」

「地の精霊よ来たれ――ノム・ド・コンフィルマズ!」

 

 ララがリインの剣に地属性の魔力を付与し、剣身が地色に染まる。

 それを受けたリインは獣が駆け出すようにして地を蹴り出す。獣の如くグリゼルに迫り、剣を正面に突き出す。

 

「雷轟よ! 轟け! バーン・ライトニング!」

「穿ち貫け! 奥義! ノーム・クウェイカー!」

 

 グリゼルが空間を青一色で染める。雷鳴が轟き、雷の大爆発が巻き起こる。

 ララとリインを呑み込もうとするが、リインが全身から発する地属性の魔力とララが剣身に付与した地属性の魔力が連鎖爆発し、強烈な衝撃波が巻き起こり雷を遮断していく。

 

 グリゼルの胸に向かって一直線に剣が向かい、一瞬の拮抗を経てリインの剣がグリゼルの胸を穿ち貫いた。

 

「ぐあああああああ!?」

 

 グリゼルの胴体はボロボロに砕けていき、翼は羽が抜けていき、蛇の下半身は消失していく。

 リインは剣を抜き取り、ララの前に着地する。剣を血振るいし、魔力を収めた。

 勝敗は決した。ララとリインのコンビネーションを以て、魔女グリゼルを仕留めたのだ。

 

 しかし――、まだ物事は終わってはいなかった。

 

「うあああああああ!!」

「っ!?」

 

 身体が砕けていくグリゼルが咆哮を上げると、結界が解けて元のホールへと戻る。

 するとグリゼルは人型に戻り、霞となって上階へと逃げていった。

 

 グリゼルはまだ生きている。それが上階へ向かっていった。

 上階にはルドガーがいる。もしアーサーと合流されたら、ルドガーにとってよくない状況になるかもしれない。

 

 二人は急いで階段を駆け上がるのだった。

 

 

 

 

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