魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。   作:八魔刀

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難産……でした……!


第68話 狂愛

 

 

 轟音と爆音、魔力と魔力が鬩ぎ合い、互いの光を斬り裂いていく音が耳を劈き、衝撃波と震動が周囲を襲う。

 

 屋上を破壊してしまうのではないかと思ってしまうほどの事象が発生し、屋上は光に包まれた。

 

 このライト・オブ・カリバーはアーサーの得意技であり決め技の一つだ。この技で多くの魔族を薙ぎ払ってきた。

 

 もしこれが本気の威力ならば、屋上などとうに吹き飛んでいるだろう。吹き飛んでいないということは、アーサーはまだ完全に本気を出していない。

 

「ハァァァ!」

「ウオオオ!」

 

 撃ち放った魔力が尽きるまで光の掃射を止めず、最終的には相殺に終わった。

 屋上は全体的に罅割れ、もう少しで破壊してしまうところだった。

 

 ライト・オブ・カリバー……予想以上に魔力を消費し続ける技だ。

 こんな技をアーサーはポンポン放っていたのか。正に光の権化そのものだな。

 

「……僕の技を使うとは。つくづく僕を苛つかせる」

「そうか、なら使って良かった」

『……』

 

 俺達は再び剣を構える。まだまだアーサーには出していない技がある。俺が知る技だけでもその数は多い。この五年で新たに技を習得しているのならば更に多いだろう。

 

 その点、此方は光神の力を得た。雷神と風神の力もあるが、技と言うよりは現象だ。雷や風を直接操る程度だが、使いようによっては有利に立てる。

 

 そういえば……俺の雷と風の色は黒色だったが、光だけは黒じゃないな。雷神と風神の力を得るまでは黒色じゃなかったが、得てからは色が黒に変わり威力も増大した。

 

 どうして光神の力だけ色が変わっていない?

 もしかして――まだ完全に力を手に入れているわけではない? それとも光だけは特別なのか?

 

 慌ててかぶりを振って思考を停止する。

 

 今はそれを考えてる場合じゃない。目の前にアーサーという強敵がいるんだ、アーサーに集中しなければならない。

 

 それにしても、アーサーはこの戦いを殺し合いと言った。

 だがアーサーからは敵意や怒りを感じれど、殺意までは感じられない。言っていることが矛盾しているが、それは別の真意を隠しているからなのか……。

 

「アーサー、お前……本当に俺を殺す気があるのか?」

「……何が言いたい?」

「殺し合いと言ったな? だがお前からは殺気を感じない。何を考えている?」

 

 アーサーは一呼吸置くと、剣の構えを解いた。

 

「ふぅ……流石に、隠し通せないか」

「……?」

「そうだ。僕は『兄さん』を殺すつもりはない――殺すつもりはね」

「どういうことだ?」

 

 アーサーは空いている左手の指を自分の米神に当てると、そこから白い光を取りだした。

 

「これが何か分かるか?」

「……記憶だろ? 魔法で取りだした……」

「そうだ……此処には父さんの記憶が詰まっている」

「……」

「これだけじゃない……既に僕の手の中には他の兄さんや姉さん達からコピーした父さんの記憶がある」

 

 アーサーは光を頭の中へ戻した。

 

 アーサーが何を言おうとしているのか前々読めない。俺達に親父の記憶があるのは当然だ。

 俺達には親父と初めて会った時から最期の時までの記憶がある。

 どんな姿で、どんな顔で、どんな声で、どんな性格で、全て覚えている。

 

「それだけじゃない。父さんの墓から骨も採取した」

「墓を荒らしたのか!?」

 

 親父の墓は誰にも知られない場所に隠してある。

 腐っても父親だ。墓を建てて祈ることぐらいはする。

 その墓を掘り起こしたってのか? 何故だ? 何故そんなことをする?

 記憶、骨、俺を殺すつもりはない……駄目だ、何にも結びつかない。

 

「兄さん……僕は黒き魔法を研究した。その結果、分かったことがいくつかある」

「……」

「黒き魔法は神々に封印された八番目の属性……いや、原初の魔力だ」

「原初……?」

 

 アーサーは俺との間に七色の光を魔法で投影した。

 

 土色、水色、赤色、緑色、紫色、青色、白色。

 地、水、火、風、雷、氷、光をそれぞれ現しているのだろう。

 

「今でこそ魔力は七つ存在するが――最初は一つだけだった」

 

 七つの光が一つに集まり、黒色に変わる。

 一点の光もない、漆黒の色に。

 

「それこそが『闇』……黒き魔法とは闇属性の魔法だ」

「闇属性……?」

「そうだ――今なら分かる。父さんはこの魔法を探していたんだ」

「親父が? そんなことどうして分かる?」

「それは兄さんが知る必要の無いことだ。重要なのは、その闇魔法をどうやって発現させるかだ」

 

 アーサーは手袋を外した。素肌を晒した手の甲を、俺に向ける。

 そこにはクレセントの黒魔道士達が身体の一部に刻んでいた三日月の刻印と同じものがあった。

 

「まさか……お前も?」

「禁断の果実……あれは僕が作った。拒絶反応を抑える刻印はグリゼルダが……」

 

 アーサーは手袋を填め直す。

 禁断の果実は七属性の魔力を帯びた果実、それを食べた物は皆魔力が上がり強力な魔法を使えるようになった。その代わり適正でない魔力を体内に取り入れたことで拒絶反応が起こり、最悪死に至る者が現れている。

 それを抑えるための刻印が、あの三日月の刻印だ。

 

「あの果実は魔力を強化させる為の物じゃない。服用した者に七属性を付与する為の物だ。結果、元々持っている属性が強くなる副作用が出たが」

「七属性……どうしてそんなことを?」

「言っただろう? 元は一つだけだと」

「――」

 

 合点がいった。

 つまり、闇属性の魔力を生み出す為に七属性全ての魔力を体内に取り入れさせたのか。

 

 だが結果は失敗。それはそうだ。元々持っていない魔力を体内に入れるんだ。魔力が体内を適正に循環するはずも無く拒絶反応だけが起こる。

 

 魔力というのは適正を持って初めて体内を循環することができる。

 火を強くしようとして水を焼べたら火は強くなるか? 消えるだろう。

 それと同じで、根本的に相性が悪く毒にしかならないのだ。

 

「それで? 結果的に失敗してるじゃねぇか」

「いや、そうでもない。拒絶反応が始まる寸前、服用者は確かに闇を発していた。つまり、七属性全てに耐えられる者であれば、闇属性を扱えるという訳だ」

 

 アーサーの目が俺を捉える。

 

 その瞬間、何故だかゾッとした。

 

 アーサーに何かされた訳でもない。だがとてつもなく悍ましい予感が頭を過ったのだ。

 

「兄さん……兄さんとあの子だけなんだ――闇の魔法に耐えられる者は」

 

 俺とララだけ――。

 

 俺とララだけが、七属性全てに適性がある。禁断の果実を食っても、拒絶反応を起こさず、全ての力を高めることができる存在は、俺とララだけだ。

 

「俺に果実を食えって? 食う訳ねぇだろ」

「いや、兄さんにその必要は無い。兄さんは元から闇属性を扱える。ただ、その使い方を知らないだけなんだ」

「……闇属性を使えたとして……結局何が目的なんだ?」

「――だから、言っただろ? 父の為にその身を捧げてくれと」

 

 アーサーが目の前に迫っていた。

 

 先程までよりも速い動きに俺が目が追い付けなかった。

 アーサーの手刀が俺の腹を突き破り、激しく出血する。

 

「うぐっ!?」

「兄さんは何もしなくて良い……ただその身体と記憶を父さんの為に捧げてくれ」

 

 身体の中にアーサーの手以外に何か異物が入ってきた。その異物が腹の奥底に侵食していき、腹を中心に全身へ激しい痛みが走る。

 

「うご――がぁあぁあぁああっ!?」

「最後の記憶は揃った……骨肉も、魔力も、器も。これで兄さんを父さんに変えられる……!」

 

 アーサーの身体から黒い魔力が滲み出す。

 感じたことの無い魔力に驚愕し、これがアーサーの言う闇属性なのだと察する。

 

 アーサーの肩と腕を掴み、腹から手を引き抜こうとするが、より深くアーサーの手が腹の中に食い込む。

 

「うごぁ!?」

「知ってるか兄さん? 原初の魔法は死者すらも蘇らせる……嗚呼……兄さん……! 大好きな兄さんが大好きな父さんになるんだ……!」

「アー……サー……!」

 

 アーサーの瞳が濁っていた。それはもうドス黒く、それこそ闇のようだった。

 

「兄さんはこれから父さんとして生きていくんだ! 兄さんも父さんも僕の下へ戻ってくるんだ! これは罰だよ兄さん! 兄さんが父さんを殺したから! 僕から父さんを奪っておきながら兄さんは去って行った! その罰を受けてよ! 兄さん!」

「ぐっ――ぁぁぁぁあああああああああああああっ!?」

 

 激痛の中、俺の魂を別の何かが塗り替えていく感覚を味わう。

 

 俺の意識は反転していき、真っ黒へと染まり始めた――。

 

 

 

 

 

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