魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。   作:八魔刀

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ルドガー、女難の相の始まり。


第74話 新たな仲間

 

 

 エリシアからの制裁(正直、誠に遺憾ある)を受け、俺は頬に紅葉の痕を付けた状態でここ半年間住んでいる部屋に引き籠もっていた。傍ではシンクが大人しく本を読んでいる。

 

 今、女性陣達は話し合いの真っ最中だ。シンクは兎も角としてアイリーン先生が旅に加わることを許可するかどうかを、何故か俺を除け者にして決め合っているのだ。

 

 一応、旅の中心にいるのは俺とララなんだけどな……どうしてか女性陣は俺を話し合いに加えさせてくれなかった。

 

 だから俺とシンクは自室で大人しく待ってることにしたのだ。

 

「……」

 

 ロッキングチェアに座りユラユラと揺らしてシンクを眺める。

 

 容姿と知能からして十二、三歳なのは間違いない。本当に急成長して身体に悪影響が出ていないのだろうか? それに性格も変化している。

 

 普通、性格は育った環境で変わっていくものだと思うのだが。シンクの今の性格は何を基準に構成されたのだろうか?

 

「……シンク」

「何、父さん?」

 

 本を読む手を止め、此方に振り向く。

 シンクを近くに呼び寄せ、シンクを膝の上に座らせる。

 

「本当に身体は何とも無いのか?」

「無いよ。皆心配しすぎだよ」

「それほどお前を大切に考えてるってことだ。その、な……成長する前のことはどれぐらい覚えてる?」

 

 それはシンクが生まれてから俺と出会い、エフィロディアでの事件が終わるまでのことだ。

 ヴァーレン王国に移り住んでからはまぁ……良しとしてだ。

 

 シンクは出会った時から聡明な子だった。もしかしたら自分がどうやって生まれたのかも覚えているかもしれない。

 

 もしそうだとしたら、それをシンクはどう思っているのだろうか。感情を押し殺したり、無理に考えないようにしていないだろうか。

 

 シンクは首を傾げ、う~んと呻る。

 

「たぶん……全部覚えてると思う。生まれた時から大きくなるまで」

「……平気か?」

「平気だよ。だって父さんと姉さんがいるもん。友達だって沢山できたし……友達は驚いてちょっと怖がってたけど」

 

 シンクは少し悲しそうに顔を伏せる。

 

 この子は自分の異常性を自覚している。強い子だ。普通なら自分という存在に怖がったり、認められなかったりするものだ。それなのにシンクはそれを平然として受け入れている。

 

 俺とララがいるから、友達がいるからとシンクは笑みを見せる。

 

 本当に……本当に平気なのだろうか。せっかくできた友達に怖がられたと言っていたが、それは……それは辛いことじゃないのか?

 

「……シンク」

「なーに?」

「……お前は誰が何と言おうと俺の子だ。ちょっと成長が早いだけで、可愛い可愛い俺の坊やだ。ララだってお前のことを大切な弟だって思ってる。それを忘れるな」

「……うん」

 

 シンクの頭を撫で回していると、シンクが思い出したように「あ!」と声を出す。

 

「どうした?」

「父さんに見てほしいものがあるんだ!」

「ほう? 見せてみな」

 

 シンクは俺の膝上から降りると、両腕を後ろに回して隠す。

 

 何か持っているのだろうか?

 

 そう予想していると、シンクは「じゃーん!」と言って両腕を出した。

 

 ――鋭い爪を生やした獣の腕を。

 

「おぅ!?」

 

 その腕には見覚えがある。シンクがワーウルフに変化した時の腕だ。あの時は全身だったが、まさか身体の一部分だけを変化させることができるのか!?

 

「シンク、その腕……!?」

「これだけじゃないよ! えい!」

 

 ピョコン、と頭の上部から狼の耳が生えた。頭の横を見ると人族の耳が消えていた。

 これは完全に部分変化を行えている。魔族や獣族にも形態変化を持つ者はいるが、一部分だけを変化させるのは至難の技だと言う。

 

 それをこの子はこの年で完璧に変化させられている。凄い……凄いとしか言えない。

 

 シンクの両脇に手を入れ、上に持ち上げる。

 

「凄いじゃないかシンク! 部分変化は簡単にできることじゃない!」

「えへへ……! これで父さんの役に立てるかな?」

「っ……」

 

 俺はシンクを降ろし、目線を合わせる。シンクの頭に手を置き、真剣な眼差しでシンクを見つめる。

 

「いいか、シンク……お前はまだ子供だ。力があっても子供だ。お前が危険を冒す必要は無いんだ」

「……でもせっかく力があるのに、使わないのは間違ってるよ」

「どうして?」

「本で読んだ。特別な力を持つ者には特別な責任がある。僕にはその責任がまだ何だか分からないけど……じっと待ってることじゃないと思うんだ」

「……」

 

 シンクは本当に賢い。自分の力が他人に無い物と分かっており、その力を何かに役立てたいと考えている。

 

 その気持ちはありがたい。そしてシンクを戦いから遠ざけることは容易い。

 

 だが果たしてそれでいいのかと迷ってしまう。

 

 シンクは幼くも自分の道を見つけ出そうとして前に進もうとしている。それを妨げるのは教師の……大人のやることではない気がする。

 

 保護者として、親としてならばまだ若すぎると止めるたい気持ちがある。

 

 しかし同時に親として子が此処まで考えていることに感心し、意を汲んでやりたいとも思っている。

 

 これからの旅も危険になるだろう。命のやり取りを行うはずだ。シンクにその力があるかどうか……見極めなければならない。

 

「……分かった」

「父さん……!」

「だけど、俺の言うことは聞くように。お前はまだちゃんとした実戦を知らない。力があれど幼くもある。絶対に無茶はさせないし、するんじゃない。それを約束できるか?」

「……うん! 僕、僕にできることをやるよ!」

「……約束だぞ」

 

 シンクを抱き上げ頭を撫でてやると同時に、部屋のドアが開かれた。

 ノックも無く入ってくるのはどうかと思うが、どうせ彼女達に言っても聞かないだろうと呆れながら、入ってきた人物を見る。

 

 案の定、女性陣が揃って入ってきた。

 

「センセ、話はおわ――」

「まったく、姉さんたら――」

「またルドガーに女が――」

「あらあら……!」

 

 ララ、リイン、エリシア、アイリーン先生がそれぞれ何かを見て反応する。

 視線の先を見ると、俺の腕に抱えられている狼耳を生やしたシンクがいる。

 

 俺とシンクが首を傾げていると、突然エリシアが俺に蹴りを入れてシンクを奪い取った。

 

「ぐぎゃ!? 何を――!?」

 

「可愛いいいいいいいいいい! 何この子こんな姿になれるのぉ!?」

「シンク! シンク! お姉ちゃんにその耳触らせてくれ!」

「シンク君! その次は私に!」

 

「…………」

 

 俺はそっと立ち上がり、アホらしいと思ってロッキングチェアに座り込む。

 

 確かにシンクの姿は獣族の国に行っても見られない。

 

 人族と同じ姿をした状態で獣の一部を持てるのは、人族と獣族のハーフだけ。魔族や獣族の場合は、簡単に言えば四足歩行の獣が人型になっているだけだ。

 

 ――あれ? なら何でシンクは人族の姿をしてるんだ? シンクは魔族じゃ……もしかして血と魔力が濃いだけで人族の血が流れてる……?

 

 ルキアーノはどうやってシンクを生み出したんだ……?

 

「決めた! ルドガー! 私この子の母になる! 私にちょーだい!」

「は? シンクは私の弟だ。お前が私の義母になるなんて御免被る」

「はっ! そうよ! この子の母になれば、それは必然的にルドガーと……!」

「エリシア様! 次! 次私に抱かせてください!」

 

 ……ま、シンクがシンクであることには変わりないか。どんな生まれであれ、シンクは俺の子。もうそれでいいじゃないか。

 

「ルドガー様」

 

 椅子を揺らして思考を放棄していると、アイリーン先生が近寄ってきた。

 

「アイリーン先生、様は止してくれ」

「では私のことはアイリーンと。私も……その、ルドガーとお呼びさせていただきます」

 

 おっと……アイリーン先生、いやアイリーンから先生無しで呼ばれるとこう……くるものがあるな。

 

 ちょっと気恥ずかしくなり視線を逸らし、話し合いの結果について尋ねる。

 

「それで……結局付いてくるので?」

「はい。リインのこともありますし、実はルドガーと一緒に旅をしたいと考えたこともあります。これも神のお導きでしょう」

「……だけど、命懸けになる。リインが目の前で危険に見舞われるかもしれない。俺は貴女の約束を守れたとは思っていない。そんな男の旅路に本当に付いてくるのか?」

 

 アイリーンは一度目を閉じてから頷き、決意を固めた瞳で見つめてくる。

 

「確かに怖いことでもあります。ですが……私達全員で力を合わせれば、その恐怖を乗り越えられるのではないかと考えました。ですからお願いします。私も連れて行ってください」

 

 アイリーンは俺の手を握ってきた。微かに震えている。

 

 怖いはずだろうに……どうして俺の周りの女達はこんなにも強かな人が多いんだ。

 

 俺は「ハァ……」と諦めの溜息を吐き、アイリーンに向かって頷いた。

 

「分かったよ……これからよろしく、アイリーン」

「……! はい! 不束者ですが、よろしくお願いします!」

「いやあの、その言い方は似つかわしくないというか、誤解を招くというか……」

 

 チラリ、とエリシアのほうを見た。

 エリシアの目からは光が消え、ララはシンクをエリシアから遠ざけていた。

 

「……ルドガー?」

「……だから違うんだって」

 

 その日、俺は二度目の紫電をこの身に喰らうこととなった――。

 

 

 

 

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