魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。   作:八魔刀

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トップページに、ララとリインのイメージイラストを載せてみました。
拙い出来映えですが、少しでも想像しやすくなれますように。


第76話 兄妹水入らず

 

 

 最初に向かったのはリィンウェルの大通りにある市場である。此処にはあらゆる物が売られており、見慣れた物から珍しい物まで揃えられている。

 

 最初にララを連れてリィンウェルにやって来た時も、ガラス細工屋でアネモネをモチーフにしたガラスのブローチを買ってプレゼントした。あれには半永久保存の魔法を掛けており、俺の魔力が完全に尽きるまで壊れないようになっている。

 

 ララは今もそのブローチをずっと身に付けている。

 

「さ! ルドガー! 何か欲しい物はある!?」

 

 エリシアは俺と手を繋いだまま意気揚々と尋ねてきた。

 

 欲しい物、と言われても俺にはそこまで物欲が無い。強いて挙げるなら教材に使える物か、戦闘に使える物かになってしまうが、それはこの場では相応しくないだろうと言うことは承知している。

 

 エリシアは兄妹水入らずのこの時間を楽しみたいと思っているはずだ。そこに生徒の為にとか戦いの為にとか口に出してしまうのは間違い。あくまでもエリシアは俺『に』楽しんでもらいたいと思っているはずだ。

 

 しかし欲しい物か……何かあるか……。

 

「あー……エリシアは何かあるのか?」

 

 欲しい物が思い浮かばなかったので、逆にエリシアに尋ねてみる。

 

「私? んー……ご飯?」

「まだ昼前だぞ?」

「し、仕方ないじゃない! 朝ご飯足りなかったんだもん……」

「じゃ、まぁ……食べ歩きしながら見て回ろう」

「――え、ええ! そうね!」

 

 エリシアは俺の手を離さず、そのままズンズンと歩いて行く。

 

 思い返せば、エリシアとこうして二人きりで出かけたことは無かった。

 親父と暮らしていた頃は勉強と鍛錬の毎日だった。娯楽と言えば、食料を調達する時の狩りや漁ぐらいだった。

 

 最初は俺と親父だけだったが、最初に出会った妹はエリシアだ。エリシアは山に捨てられて衰弱死寸前の状態だった。俺と親父が見付け、親父の魔法と俺の看病でエリシアの命は助かった。

 親父にエリシアの面倒を押し付けられてからは、エリシアが元気になるまでずっと一緒だったのを覚えている。

 

 その後も何人かの子供達が親父によって拾われ、または奴隷市場で買われ、俺とエリシアで面倒を見ては家族のように過ごした。

 

 結局、その子達は親父の篩に耐えられず死んでしまったが……。

 

 何だよ、エリシアと兄妹として遊んだことなんてねぇじゃんか。ならこれが初めての遊びになるのか。

 他の弟達とだって大戦が終わってからも顔を合わせることも無く、人並みの娯楽を共有したことがない。

 

 そう考えると、この時間がとてもかけがえのないモノに思えてきた。

 

 エリシアと食い物屋を回り、肉や果物を食べながら大通りを横に並んで歩く。

 

「それ美味そうだな」

「美味しいわよ~。はい」

 

 エリシアが生地に包まれたフルーツを口元に差し出してきた。それを囓ると何とも言えない甘さと生地の食感が舌を喜ばせてくる。

 

「ねね、私にもそれちょーだい」

「肉だぞ? デザートに合わないんじゃ……」

「ルドガーだって同じじゃない。あ~ん」

「ほらよ」

 

 俺が持つ串に刺さった肉を差し出し、エリシアは俺の食いかけの肉を頬張る。

 美味そうに食べるその顔は、贔屓目じゃなくても可愛いと思う。

 

「あ! ルドガー! 服! 服みましょ!」

「服? 欲しいのか?」

「違うわよ! 定番でしょ!」

「……?」

 

 何が定番なのか分からないが、エリシアが定番と言うのならそうなのだろう。

 

 服屋に入り、エリシアはもの凄い勢いで服を見ていく。時折気になったのがあれば俺に重ねて俺に似合っているか確かめては服を戻し、また気になったのを見付けたら俺に重ねて確かめる。

 

「う~ん……結構なんでも似合うわね」

「まぁ、身体は鍛えてるし、顔も良いほうらしいし?」

「……女に言われたの?」

「エルフのな」

「……私もエルフの国に移り住みたい」

「諸々の問題を片付けたら、来たら良いさ」

「え?」

 

 今すぐにとは難しいだろう。アスガルの件もあれば、国的にも色々と面倒な手続きやら説得やら何やらあるだろう。それらさえ片付ければ、エリシアが国を去るのは問題無い。

 

 エルフ側だって、勇者を受け入れるのは光栄だと言って拒否はしないだろう。

 半人半魔の魔王殺しや、魔王の娘で聖女を受け入れてるんだ。勇者ぐらい何てことないさ。

 

「……いいの?」

「俺が断る理由なんて無いさ。また昔みたいに暮らせるのなら、それは良いことだろう」

「……うん。じゃあ、そうする」

 

 ――ん? 何で顔を赤くしてるんだ? 俺の台詞に何か恥ずかしい所あったか?

 

「つ、次行きましょ!」

「え? お前の服は良いのか?」

「い、いいの! ほら、行こ!」

 

 俺はエリシアに引かれて店の外へと連れ出され、そのまま大通りを歩く。

 エリシアが良いのなら良いが、服の一着や二着ぐらいなら買ってやれるのに。

 

 次に訪れたのは小物を扱っている雑貨屋だった。綺麗なアクセサリーや部屋の装飾品等を取り扱っている。

 エリシアはその一つ一つを吟味し、自分に合っているかどうかを見定めていく。

 

 チラリ、と反対側の通りを見ると、そこにはララと入ったガラス細工屋があった。あそこにも綺麗なアクセサリーが売っているが、別の女性と同じ店で買うというのはダメだと言うことぐらい、俺も理解している。

 

 エリシアに何かプレゼントするならこの店か、別の店にしたほうが良いだろう。

 

「……ん? 店主、これは?」

 

 品物を見ていると、側に立て掛けられている看板が目に入った。

 

「はい、それは今やっているイベントでして。彼方にご用意している砂場から宝石を探し出す遊びをしていただき、見つけ出した宝石でアクセサリーを制作いたします」

「宝石? 太っ腹ねぇ……」

「いえいえ勇者様。宝石と言っても宝石店に並べられるような価値のある物ではないのですよ。言うなれば、宝石のような綺麗な石です」

 

 店主はカウンターから見本を出して見せてくれた。綺麗な石というが、宝石と言われて出されてしまえば一瞬でも信じてしまうほどの美しさだ。

 

 これらが低予算――子供のお小遣い程度の値段で手に入るのか。

 

「へぇー……綺麗ね」

「如何です? プランとして職人に制作を依頼する他に、お客様ご自身でお作りになられるものもありますよ」

「……エリシア、作ってやろうか?」

「え? いいの!?」

 

 本当はちゃんとした宝石を贈るのが是なんだろうが、エリシアの目が訴えていた。

 

 これ欲しい、と。

 

 専門の職人に比べれば落ちたもんだが、俺もアクセサリーぐらいなら作れる。見たところ、店の奥に専用の道具もあるようだし、作れないことはないだろう。

 

「店主、俺にやらせてくれ」

「かしこまりました」

 

 店主に金を払い、砂場へと案内され、スコップと篩を渡される。どれだけの宝石がこの砂の中に埋まっているのか分からないが、せめてエリシアに似合う宝石が手に入ってほしいものだ。

 

「それでは始めてください。制限時間は三分です」

「うっし!」

 

 スコップを砂に突き刺し、すくって篩へと砂を入れる。篩を振れば砂が落ちて砂に紛れ込んでいた石が現れる。

 

 残念ながら一発目はただの小石で宝石では無い。小石を退かし、もう一度砂をすくって篩へと入れる。篩を振るうと今度は青色の宝石が一つ現れた。だが少し小さくて見栄えが無い。

 

 中々満足いく物が採れないな。まぁ、そう簡単にホイホイと採れてしまえば、店の商売としては破綻するか。

 

「ルドガー、頑張って」

「任せな」

 

 その後も何度も何度も繰り返し、制限時間ギリギリのところで漸く大きな宝石を手に入れることができた。

 アメジスト色の宝石で、大きさもそこそこあって見栄えも良い。

 

「おめでとうございます。中々良い物を見つけましたね。ではどうなさいます? 職人にお任せするか、ご自身でお作りになりますか?」

「自分で作るよ。道具は貸してもらえるんだろ?」

「はい」

 

 加工場へと案内され、俺はアクセサリーの製作に取り掛かった。

 暫くして、アメジストの宝石を組み込んだバングルが完成した。宝石の大きさに合わせて太めのバングルになったが、それでも美しい出来映えだと自負できる。

 

 俺は早速それをエリシアにプレゼントする。

 

「ほら、できたぞ」

「わ……綺麗……いいの?」

「お前の為に作ったんだから、良いに決まってるだろ」

「……ありがと! 嬉しい!」

 

 エリシアはバングルを左腕にはめ込み、嬉しそうに撫でた。

 エリシアの喜んだ顔が見られ、作った甲斐があったというものだ。

 

「半永久保存の魔法も組み込んだから壊れることは無いぞ」

「ぜーったいに壊さないわよ!」

 

 嬉しそうに笑うエリシアと一緒に店を出る。

 さて、次は何をしようかと考えていると、一人の兵士が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「ゆ、勇者様ァー! グリムロック様ァー!」

 

 俺は俺に対する呼び方にガクッと肩を落とした。今時そんな通り名で俺を呼ぶ奴は、リィンウェルの他に俺を貶す奴らだけだ。未だにグリムロックと呼ばれるのに慣れない。というか慣れたくない。

 

 兵士は俺達の前で立ち止まると、膝に手を付いて呼吸を乱れさせる。

 随分と急いで探し回ったんだろう。いったい何事だ?

 

「何? どうしたの?」

「ろ、ローマンダルフ王国から特使が! 水の勇者カイ様が凶刃に倒れられたと!」

「何だと!?」

 

 カイが……カイがやられただと!? 馬鹿な、いったい誰に!?

 

「そ、それから! 特使は氷の勇者シオン様です! シオン様もお怪我をなされております! 至急、城にお戻りください!」

 

 俺とエリシアは頷き、兵士を置いて城へと急ぎ戻るのだった――。

 

 

 

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