魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。 作:八魔刀
とうとう氷の勇者の登場です。
城へ戻り、エリシアの書斎室ではなく、大会議室へと向かう。そこにシオンはいるようで、俺達の帰還を待っているらしい。
大会議室のドアを潜り中へ入ると、そこにはララ、シンク、アイリーン、リイン、モリソンの五人もいた。
椅子に座る白髪の女性の具合をララが見ており、テーブルの上には空の小瓶がいくつも置かれていた。
「ありがとう、もう大丈夫よ」
「そうか」
どうやらララは霊薬を使って女性の怪我を治していたようだ。
白髪の女性は俺達に気が付くと、アクアブルーの瞳を此方に向けてくる。
彼女こそがシオン・ライオット。勇者兄妹の末妹であり、氷の力を有する勇者だ。
シオンは椅子から立ち上がると、凄まじい勢いで俺達に駆け寄ってくる。
そしてシオンは――――俺に跳び蹴りを食らわし、俺は壁まで吹き飛んだ。
「お姉様! お兄様が! お兄様が!」
「あーはいはい。分かったから落ち着いて」
俺を蹴り飛ばしたシオンは泣き顔を浮かべてエリシアに縋り付く。
あぁ……何だかもの凄く懐かしい感じ。よくシオンにはこうやって暴力を振るわれてたっけか。五年経って大人になった今ならそれも引っ込んでると思ってたけど、どうやら健在らしい。
壁に食い込んだ身体を引っ張り出し、ゴキゴキと全身の骨を鳴らしながらエリシアとシオンに歩み寄る。
ほら見てみぃ。ララ達が驚いて固まってるじゃないか。
「シオン、いきなりご挨拶だ――」
「黙ってろクソ兄」
「……ぐすん」
拝啓親父殿――我が妹の言葉に早くも心が折れそうです。
床に項垂れている俺を余所に、エリシアとシオンは話を進めていく。
「お姉様! お兄様をお助け下さい!」
「分かってる、分かってるから。先ずは落ち着いて、何があったのか話して」
エリシアはシオンを落ち着かせて椅子に座らせ、自分も椅子に座る。他の皆も俺を心配する視線を向け(リインだけは呆れた目で見ていた)、空いている席に座る。
シンクだけは俺の傍に来て「大丈夫?」と訊いてくれた。
シンクの心に癒やされた俺はシンクを抱きかかえ、一緒の椅子に座る。
シオンは一息吐いてから、何があったのか話始めた。
「いきなりでした……。私とお兄様の前にライアとガイウス、それからアーサーが現れたんです。アーサーがお兄様に一緒に来るよう申し出た時、お兄様は魔法でアーサー達を阻んだのです。それから……」
シオンは少し辛そうな表情を浮かべる。
「それから……激しい戦闘になって、私はお兄様と一緒に戦いましたけど、ライアとガイウスは兎も角、アーサーに勝てずお兄様は私を庇って――!」
シオンはその時のことを思い出したのか、再び泣き出してしまう。エリシアがシオンの肩に手を置くと、シオンは益々涙を流す。
「その時お兄様が言ったんです『大兄上を頼れと』……! その後お兄様の魔法で強制的にリィンウェルに飛ばされたんです! 今頃お兄様が彼らに何をされているのか……!」
「シオン……っ、あの子は何でまたそんなことを……!」
アーサー……今度はいったい何を企んでいる? しかも今回はアーサーだけじゃない。ライアとガイウス――火と地の勇者がアーサーに付いている。
アーサーの最終的な目的は親父の復活なのだろう。その手段として二人を味方に付け、カイを狙った――そう言うことなんだろうが、どうしてライアとガイウスはアーサーに付いた?
まさか二人も魔王復活を望んでいる? 何の為に? アイツらもそんなに親父に執着していたのか?
それにどうしてカイを狙った? 復活にカイの『力』が必要だったのか?
「ねぇ、父さん」
「ん?」
シンクが俺を呼んだ。
「カイって人は父さんの弟……なんだよね? どうして兄弟で戦いになったの?」
「どうして、か……。おそらくだが、カイはアーサーの魂を『視た』んだろう。カイは万物の魂を視認することができる。魂は生物の本質だ。嘘も偽りも隠せない。悪意や善意も見抜ける。だからカイはアーサーが良からぬことを企んでいると見抜いて――」
そこまで口にして、俺は何かに思考が引っ掛かった。それが何なのか確かめる為に、今話した内容を頭の中で復唱する。
カイは魂を視ることができる……それはどの勇者にも無いカイだけの力。
魂……魂……魂……もし魂を視るだけじゃなくて触れる、つまりは干渉することが可能ならば? その術をアーサーが心得ていたら? 親父の魂を手中に収める算段を付けていたのなら?
「……父さん?」
「ルドガー……? どうしたの?」
「……シオン。カイはアーサーと敵対したんだな?」
「ぐずっ……そうよ」
ならカイはアーサーの企みに決して屈しない。そういう男だ、カイは。
だが今のアーサーがそれを是とする訳がない。何かしらの方法で力を使わせるか、それとも力を奪い取るかもしれない。それを許すカイじゃない。
俺は立ち上がり、エリシアに伝える。
「エリシア、俺は今すぐにローマンダルフ王国へと向かう」
「えぇ!? 今から!? いや、カイを助けに行くのは当然だけど準備とかあるでしょう?」
「時間が惜しい。早くしないとカイが……」
シオンを見る。此処であくまでも可能性の話を彼女に聞かせて取り乱させる訳にはいかないが、重大さを伝えるためには致し方ないか。
「――カイが死ぬ」
「――ッ!?」
シオンが驚愕と恐怖に満ちた表情を浮かべて立ち上がった。
「なんで……なんでそんなこと言うのよ!?」
「落ち着け、まだ死んだとは言ってない。だが時間が経てば経つほどカイの命は危ぶまれる。アーサーはおそらくカイの魂を視る力を利用するつもりだ。それをカイは拒んだ。カイは力の重要さを自覚している。アーサーを拒んだということは、力を使わせないという意思の表れ。カイがアーサーに掴まったのなら、力を使われるもしくは奪われる前に自死するだろう。そういう奴だろう、カイは」
「ぁ……!」
「……確かに」
カイをよく知るシオンとエリシアはその可能性があると納得する。
そうだ、だから急いでカイを見つけ出さなければならない。その為には今すぐに王国へ向かう必要がある。そこにカイが居なくても、居場所の手掛かりが無いかを探さなければ。
「センセ、じゃあ早く行こう」
ララが立ち上がってそう言う。
だが俺はそれに首を横に振る。
「いや、一緒にはいけない」
「何で!?」
「ローマンダルフ王国は大陸の最東端だ。此処から徒歩で向かえば何十日も掛かる。そんなに時間は掛けてられない。空を飛べる俺なら最短ルートで向かえる。お前達は来るなら後から――」
「――いいえ、それよりもっと良い方法があるわ」
エリシアが言葉を遮った。
良い方法? 転送魔法でもやるのか? あれはかなり危険だぞ?
首を傾げていると、エリシアは指をピッと立てて言う。
「皆で空を飛べば良いのよ」