魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。   作:八魔刀

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第87話 弟なんだ

 

 

「駆けろ――風狼!」

 

 ユーリの手により、風で構成された二体の巨大な狼が召喚される。風狼はアーサーに向かって襲い掛かり、爪と牙を振るった。

 

 アーサーは光の剣で風狼の一体を斬り、もう一体を蒼い剣で斬り裂いた。

 

 だが風狼は斬られたところから身体を再構築し、元の姿で再びアーサーに襲い掛かる。

 

 一体の風狼が前足を振るってアーサーを殴り飛ばし、もう一体が同じようにアーサーを殴り飛ばす。それを何度も繰り返し、アーサーを上空へと打ち上げた。

 

「掻き消せ――咆哮破!」

 

 上空に打ち上がったアーサーに向けて風狼が吠えると、風の衝撃波を発生させてアーサーに放つ。

 アーサーは上空で体勢を整え、二つの剣で衝撃波を両断する。殴られた傷も無く、アーサーは健在だった。

 

「迅雷一閃!」

 

 衝撃波を斬り払って硬直している隙を狙い、エリシアが紫電を纏って上空のアーサーの横を駆け抜けた。擦れ違い様にカタナでの一撃を与え、アーサーの光の剣が折れた。

 

「鳴神一閃!」

 

 返す刃で放ったエリシアの一撃は剣閃に沿って稲妻が走り、空間を雷で斬り裂いた。斬り裂かれ、放たれた雷の斬撃はアーサーだけではなく、城を斜めに大きく斬り付けた。力をセーブしていたのか、城は両断されずに済んだが、大きな傷痕が残された。

 

 そして斬り裂かれたはずのアーサーは白いコートに斬り裂かれた痕を残してはいるものの、さしてダメージを負っておらず、エリシアを睨み付けていた。

 

「そんなっ!?」

「殺す気で放たないと、今の僕はやれないよ」

 

 アーサーはエリシアの頭を左手で掴み、地面へと投げ付ける。凄まじい力で投げられたエリシアはそのまま地面に激突し、大きな窪みを生み出した。

 

 そしてアーサーは剣をエリシアに向け、光の魔力を放つ。

 

「光の雨に呑まれろ――ホーリーレイ!」

 

 アーサーの周囲から光の矢が雨の如く放たれ、エリシアに襲い掛かる。

 

 その間にユーリが操る風狼が割り込み、一体はエリシアに覆い被さり、もう一体は咆哮破を光の雨に向かって放つ。咆哮破によって光の雨は掻き消されるが、消しきれなかった雨が二体の風狼を貫き、木っ端微塵に打ち消してしまう。

 

 その間にエリシアは雷速でその場から離脱し、光の雨を避けることができた。

 地面に着地したアーサーは剣を地面に突き刺し、光の魔力を荒ぶらせる。

 

「光に裁かれ消え失せろ――シャイニングジャッジメント!」

 

 空が白く光り輝く――。

 雲の間から幾十もの光の柱が落ち、アーサー達が立っている場所を焼き始める。

 

 アーサーは地面から剣を抜き、ギラついた瞳を浮かべながらエリシアとユーリに歩み寄る。

 その間、光の柱が点々と庭園に落ちては焼き尽くしていく。

 

 エリシアとユーリは察する。あの光の柱に触れたら一巻の終わりだと。

 目の前のアーサーに集中しながらも頭上を注意しなければならない。エリシアとユーリは固唾を呑み、己が武器を構える。

 

「ユーリ……アンタの風で、一瞬だけでいい……隙を作って」

「姉さんはどうするんで?」

「……もうやるしかないのよ」

 

 エリシアは左手に持つカタナを鞘に戻し、右手のカタナを目線と平行に持ち、切っ先をアーサーに向けて構える。バチバチと紫電がカタナに纏い、エリシアの口の隙間から息のように紫電が漏れ出る。

 

 ユーリはエリシアが何をするのか顔を見ただけで察し、少しだけ顔を伏せた。

 次には覚悟が決まった顔を浮かべ、力強く頷く。

 

「今この場で放てる最大の技を放ちます。それならアイツも足を止めるでしょう」

「ええ……ごめんね、付き合わせて」

「……これも勇者の務めです」

 

 ユーリは体内の魔力を総動員し、前方に五つの魔法陣を展開する。

 中心の魔法陣は大きく、四隅に小さな魔法陣が描かれる。

 ユーリの強大な魔力を感じ取ったアーサーは足を止め、蒼い剣に光を集束させる。

 

「アーサー……弟よ……永久に眠れ」

 

 ユーリは展開した魔法陣に魔力を回した。魔法陣が激しく回転しだし、周囲の風を吸い込んでいく。すぐ側に光の柱が落ちようとも動じず、ただアーサーを真っ直ぐ見据えていた。

 

「暴風よ薙ぎ払え――テンペストゲイル!」

 

 五つの魔法陣から風の集束砲が放たれた。小さな四つの魔法陣と大きな魔法陣それぞれから放たれた風の砲撃はアーサーの眼前へと迫る。

 

 アーサーは光を集束させた蒼い剣を斜め下から上に向けて斬り上げる。

 

「ライト・オブ・カリバー!」

 

 光の集束砲が放たれ、風とぶつかり合う。

 ユーリは魔力を更に強め、光に対抗して競り合いに持ち込む。

 アーサーは一撃で打ち消すつもりだったのか一瞬だけ驚き、光の力を注ぎ混む。

 

 やがて二つの力は大きく始め、二人の間で消し飛んだ。

 

 その消し飛んだ力の中から、紫電となったエリシアが現れ、アーサーの正面に辿り着いた。

 

 紫電が静かに揺らめき、アーサーは目を大きく見張る。エリシアに対処しようと剣を持つ腕を振るおうとするが、先程の技による反動で動きが鈍る。

 

 エリシアはカタナの切っ先をアーサーの胸に向けたまま更に接近し、雷の力を解放した。

 

「ごめん――アーサー……ごめんね……!」

 

 紫電がカタナから激しく迸り、エリシアはカタナをアーサーの心臓目掛けて力強く突き出した。

 

 そして、刃は肉を貫いた――――この世で一番大好きな男の胸を。

 

「え――?」

「それは――駄目だ……!」

 

 

 

    ★

 

 

 

 エリシアの、本気の一撃をこの身で受けたのはこれが初めてだろう。というか、過去にあって堪るか。この先もあってほしくない。

 

 怪我の再生が終わり動けるようになった俺は急いで立ち上がり、窓から庭園を見下ろした。

 先程から三人の凄まじい攻防が続いているのは動けないでも分かっていた。

 

 だがまさか、エリシアがアーサーを殺そうとしていたのには驚いた。

 

 あくまでも兄弟喧嘩、お説教で済ませるかと勝手に思っていたから、我が目を疑ってしまった。

 

 俺は光の力を引き出し、最速でアーサーとエリシアの間に割り込み、この身でエリシアの一撃を受け止めた。心臓は僅かにずれたが、エリシアの雷撃が直接体内に流れ込んでくる。

 

 咄嗟に技を止めてくれたのだろう、それだけで済んだ。もしこのまま技が最後まで発動してしまえば、落雷が俺に落ちて更に体内で雷撃が暴れ回り最後には内側から雷が爆発するところだった。

 

「る、ルドガー!? 何で!?」

 

 エリシアがカタナを俺から抜き取る。血が勢い良く噴き出すが、傷はすぐに再生する。

 俺はエリシアの肩に手を置き、痛みを堪えながら怒鳴りつける。

 

「姉弟が殺し合うな! その一線だけは越えるな! アーサーは俺達の弟だろ!?」

「で――でもアーサーはもうそんなこと思ってないわ!」

「だとしても! 何処まで行ってもアーサーは弟だ! 弟を殺すことは、この俺が許さない!」

 

 足手纏いのくせに何言ってやがる……アーサーと同等に戦える力を持っていない奴が何を語っている。

 

 そんなことは言われなくても分かっている。だけど、アーサーは弟なんだ。今は憎まれていても、馬鹿な野望を持っていても、どれだけ殺されかけようとも、アーサーは俺達にとって弟なんだよ。

 

 だからお前達に殺し合いはさせない。死にかけたとしても死なせない。

 それが俺の、兄として親父に誓ったことだ。

 

「兄さん――――――だから駄目なんだよ」

 

 ガシリッ、と右腕が掴まれた。

 

 その直後、俺の中にある光の力が俺に牙を向けた。体内から俺の身体を壊すように、生物が体内から食い破ろうとするように、光の力が俺を蝕み始めた。

 

「がっ、ぐっ、オアアアアアアアア!?」

「ルドガー!? アーサー!」

 

 エリシアが俺の腕を掴んでいるアーサーを斬り付ける。アーサーは俺の腕を離し、俺達から離れた。

 俺は痛みに藻掻き苦しみ、エリシアにもたれかかってしまう。

 

 掴まれた腕を見ると、その腕は肉が腐ったように黒く変色し、それは肘まで達していた。激しい痛みは全身からというよりも、この右腕からだ。

 

 いったいこれは何だ!? 毒!? いや毒じゃない! 呪いか! 何の呪いか分からないが、とても強力な呪いだ!

 

「兄さん!」

「ユーリ! ルドガーを下げて! アーサァー! ルドガーに何したのよ!?」

 

 俺はユーリに預けられ、エリシアはアーサーにカタナを向ける。

 

「これは……予想以上だ。随分と『恨まれてる』ようだね」

「何を言って――!?」

 

 その時、俺達とアーサーの間が炎の壁で隔てられた。

 

「よぉよぉ、お取り込み中悪ぃな」

「ライア……!?」

 

 炎の壁を出したのは、火の勇者であるライアだった。

 ライアはアーサーの隣に立ち、俺達を値踏みするように見つめてくる。

 

「あの様子じゃあ、力は上手く発動したようだな?」

「……撤収するぞ」

「なぁ、ちょっと此処で摘まみ食いしても――」

「……」

 

 ライアの首筋にアーサーは剣を突き出した。ライアは肩をすくめ、アーサーと一緒にこの場から去って行く。

 

「ま、待ちなさい!」

「姉さん! 今は兄さんを何とかしないと!」

「くっ……!」

 

 俺の右腕の変色は肘を越えて二の腕に食い込んでいた。痛みは治まらず、俺の身体を内側から食い破ろうとしてくる。

 

 その痛みに耐えながら、俺は意識を失ってしまった――。

 

 

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