魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。   作:八魔刀

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最近スランプです!!!


第90話 罪の意識

 

 

 カイとの話を終え、俺は建物から出た。外では皆が各々の事をしながら俺を待っていた。

 シオンは俺に気が付くと俺に何も言わず、俺と肩をすれ違わせて建物の中へと入っていった。

 

「センセ……」

 

 ララが少し不安そうな顔をして俺を呼ぶ。手頃な場所に腰を掛け、両手で頭を抱えて深く息を吐いた。

 

 肉体的にも精神的にも疲れた……。これから先のことを考えると更に疲れる。

 だが立ち止まる訳にもいかない。カイとの話で、アーサーの目的は八割以上達成したと見るべきだ。

 アーサーの目的は親父の復活。その依り代として俺を選んでいることは依然と変わらない。

 

 その手順として一つ加えられたのが、カイの力であった魂への干渉――。

 

 手袋をはめた右手を見る――。魂の干渉がどういう具合なのかはよく知らないが、アーサーは俺の右腕に触れてその力を使った。

 

 右腕は肘を越えた辺りまで黒く変色したままだ。あの時のような激しい痛みは治まっているが、発作的に痛みが襲ってくる。

 

 おそらくだがこれは対象者の魂を蝕む呪い……だとは思う。時間が経つにつれて精神力が弱まっている気がする。それに気を抜けば忌々しい悪夢を幻視する。それを視る度に魂が削られている。

 

 万が一、このまま魂を蝕まれた状態で魔王の依り代にされてしまえば、今度こそ抗えなくなるだろう。

 

 それと、アーサーの力だ。半年前に戦った時よりも、力が上がっている気がする。それに何か得体の知れないモノを感じた。このままもう一度戦うのは危険過ぎる。闇の魔法を手に入れたからなのか、アーサーの力が変貌しているようにも思える。

 

「はぁ……」

 

 思わず溜息が出てしまう。

 あまり考えたくないが、こんな面倒な状況になっているのは俺とララに読まれている予言の所為だと思いたくなる。

 

「センセ……」

「……悪い。ちょっと考えることが多くて。それより、ララ達が無事で何よりだ」

「まぁ……シオンのおかげとしか言えないが……。地の勇者相手に私達は何もできなかった」

「ガイウスと戦ったのか? ほんと、無事で良かった……」

 

 あの筋肉ムキムキの鉄拳野郎と戦って無事で済んだのは本当に良かった。

 アイツの防御力と突貫力は勇者随一と言っても過言ではない。シオンを一緒に回して正解だった。シオンの力ならガイウスの動きを止めることぐらい造作も無いだろう。倒すとなったら話は別だが。

 

「……それで? これからどうすんの?」

 

 カタナの手入れをしていたエリシアが不貞腐れた様子で訊いてきた。

 それに苦笑し、カイとの話し合いで考えた行動方針をポツポツと伝える。

 

「ローマンダルフの民は無事。カイが安全な場所に水鏡の魔法で移動させた。街にいるゴーレムは此処に来るまでに殆ど倒した。城にいた怪物もな。アーサー達も何処かへ去った。安全が確認できたら民達を戻せば良いだろう」

「アーサーがいなくなったのか?」

 

 ララが隣に座り、霊薬を煎じた茶を渡してきた。礼を言ってそれを受け取り、喉を潤す。精神的回復を促す霊薬なのか、飲むと気持ちがだいぶマシになる。

 

「ああ……城から完全に姿を消した」

「それじゃ、もう終わったのか?」

 

 それは、この戦いが終わったのかということか。そうだとしたらどれだけ良かっただろうか。

 

 俺は首を横に振る。

 

「いや……アーサーを探し出す」

「どうしてだ?」

「……色々と借りを返さなきゃいけないからな」

 

 魔王復活……いやアーサーからすれば親父の復活か。それを此処で完全に止めなければならない。放置しておいたら、また厄介な手段を用いてくる。そうなれば危険は俺だけじゃない。ララだって狙われるはずだ。親父の実の娘なんだ、俺とは別の意味で依り代に最適だろう。

 

 それにカイのアレもある。親父の研究を調べていたアーサーなら、カイの回復手立てを知っているかもしれない。それを聞き出してカイを救う。

 

 それと……この右腕のこともある。この腕をこのままにしておけば、いずれ俺の命は――。

 

「……センセ?」

「……いや、何も。ともかく、アーサーを探す」

「どーやって探すのよ?」

 

 エリシアはカタナを鞘に戻し、腕を組んで壁に凭れる。

 

 少し苛立ってる様子だが、それも仕方ない。俺の我が儘でエリシアの覚悟を邪魔した上に、俺のドジで俺は呪いを受けてしまった。

 

 不甲斐ない、全く以て不甲斐ない。だが俺の意志は変わらない。アーサーが何を企もうと、何を仕出かそうとアーサーは弟だ。弟を兄姉である俺達が殺す訳にはいかない。

 

 ミズガでの悪行を鑑みれば、法の下に晒し出せば死罪極刑を免れない。それでも俺達が直接殺す訳にはいかない。

 

 違うな……殺したくないんだよ……これ以上、弟妹を殺したくない。他の弟妹を見殺しにしてしまった、俺の罪をこれ以上増やしたくないだけだ。

 

 これは俺の我が儘……俺のエゴだ。

 

「そうだな……。ユーリ、スカイサイファーで周囲を探索できるか?」

「できますが……それでアーサー達を探せと?」

「お前ならできるだろ? それに、アイツはまだそう遠く離れてはいないはずだ。俺が此処にいる限りな」

 

 アーサーの狙いはまだ俺のはずだ。今は呪いが俺を蝕むのを待ってるってところだろう。

 俺を依り代にしようとしているのなら、必ず何処かで俺を監視しているはずだ。頃合いを見て俺を依り代にしようとするはずだ。

 ならきっと何処か近くに隠れているはず。そこを見つけ出してこっちから行ってやる。

 

「わかりました。私が同乗して探索に力を注ぎましょう」

「頼む」

「……それで? それまで此処にいるの?」

「いや……水の神殿に行く」

 

 水の神殿……此処からそう離れていない別の湖にある。雷の神殿、風の神殿、光の神殿のように力が宿っている。その力が俺に対するモノだとは最早言うまでもない。

 

 アーサーと戦うなら更なる力が必要だ。水の力を得ることができれば、アーサーに対抗できるかもしれない。付け焼き刃かもしれないが、無いよりはマシだろう。

 

 カイの話じゃ、他の神殿と同じように力は感じるが勇者であるカイが赴いても何も無かったそうだ。きっと俺が行けば試練が行われるだろうさ。

 

「……じゃあ、私も行く」

「……」

 

 俺は考える。

 

 雷の試練と風の試練は俺とララで挑戦した。その時は俺達がセットじゃなければならないと思っていた。

 だけど光の試練の時は俺一人だった。そこから考えられるのは、試練は俺に対してだけということだ。態々危険な試練にララを連れて行く必要は無い。

 

 ララを信頼していない訳じゃない。寧ろ今は戦える相棒として信頼している。

 だがそれとこれは別だ。避けられる危険なら避けておきたい。

 

「いや……こればかりは俺一人で行く」

「え……」

 

 俺は立ち上がり、ナハトを背負い直す。ズキズキと疼く右腕に耐えながら、グルグルと右肩を回す。

 

「リイン、ララを守れ。シンクもララを守ってやってくれ。アイリーン、またララ達の面倒を頼む。エリシア、ユーリと一緒に――」

 

 ドゲシッ――。

 

 エリシアの爪先蹴りが俺の脛に直撃する。痛みに顔を歪め、蹴ったエリシアを軽く睨み付ける。

 

「……そうやって、また全部……」

「……エリシア……」

 

 エリシアは俺と顔を合わさないまま、ララの隣に立って背を向けた。

 そんなエリシアに何も声を掛けられず、俺は顔を伏せるだけだった。

 ララは俺とエリシアを交互に見て首を傾げ、俺の言葉に食ってかかる。

 

「センセ、何で? 私を置いていくのか?」

「……悪いな。今は一人にさせてくれ」

 

 ララから右腕をかくすように身体を動かす。

 

 ――この呪いを受けてからララに右腕を見せるのがもの凄く怖い。

 

 この腕は謂わば俺の罪だ。罪が俺の魂を蝕んでいる。

 その罪を、ララには見せたくない。

 

 だから、色々な言い訳を並べて俺はララから離れようとしている。

 

「――はぁ……すまない。それじゃ、俺は行く。用が終わったらすぐに合流する」

 

 そう言って俺は風を操り空を飛んだ。

 

 最後に見たのは、エリシアの震える背中と、悲しそうにしているララの顔だった。

 

 

 

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