ニンジャスレイヤーIF少女   作:BANZAINAMUSAN

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レッド・フード・ガール・シリンズ・マッチ

 

 

産業革命が進み、スチーム機関が普遍化した19世紀。ヨーロッパ統一など稚気じみた夢。人々は黒い重化学スモッグを吐きだす工場で働き、酸性雨を神の怒りと恐れる。王より金を持つメガコーポが区画整理を主導し、経済を支配する。ここはベルリン。ネオプロイセン連合王国の首都だ。

 

 

一週間前に酸性雨は止み、灰色の雪が降る日と晴れの日が交互につづいていた。ベルリン国立歌劇場では、カチグミたちがワインを傾けオペラを楽しんでいる。アドバルーンから「石炭ストーブ」「魅力的な」「少し高いが」などとショドーされた垂れ幕が下がり、街路を行き交う人々の購買意欲を煽っていた。

 

 

アドバルーンは一つだけではない。「タイムイズマネー懐中時計」「新触感スシ」「ポテトソーセージ」時間交代制の垂れ幕はコマーシャル権利を買うことで利用出来る。金で空が買える時代。ドイツ軍人が都市間有人飛行訓練をしている気球を意識する人間は驚くほど少ない。

 

 

真にベルリンの空を支配するのは威圧的な装いの飛行船だ。「君も機械化歩兵になれる!」「国境警備隊員随時募集中!」軍事企業メガコーポ、ハンス重工のものだ。バルーン部分に力強い墨絵で描かれた黒鉄のマッシーン、アイゼン・ティーガー。愛国精神を刺激するショドー。

 

 

「ガガーッ!であるからして、日本は文明的に未熟なれど、カラテ先進国であることに間違いない!プシューッ!オイツケオイコセ!月月火水木金金!ガガーッ!戦争が始まる日は実際近い!」スチーム拡声器が政府の意向に沿った声を撒き散らす。

 

 

ナポレオン戦争に敗北して数十年。プロイセン王国は紆余曲折の末に産業革命を始めとした近代化政策を力強く推し進めるネオプロイセン連合王国に生まれ変わった。危機感からのナショナリズム台頭。カラテ近代化政策により腕に覚えのある若者の多くは祖国防衛に集う。

 

 

「マッポーが近づいておる!戦争望むなかれ!」時代錯誤の老人アナーキストがビラをばら撒き、騒乱罪でネオプロイセン警察に逮捕される。行き着く先はへータイ・ニュービーのインストラクション、銃殺刑だろう。だがこのような逮捕劇はベルリンではチャメシ・インシデントだ。

 

 

交通の要衝、ポツダム駅前広場の大通りには「ビョウキ」「トシヨリ」「ヨロシサン」と外国語を掲げるヨロシサン製薬ビル。「マッチは要りませんか?」赤いビロードの頭巾を被った薄汚れた少女が出入口の両脇に立つ黒スーツの男に声をかけたが、男たちは揃って「「要りません」」と返した。

 

 

「おじさんたち、そっくり!どこの生まれのおひと?」「日本の方から来ました」「まあ!日本といったら、オーゴン=サンの国だって聞いたことあるわ。ドイツ語おじょうずねえ!」「スミマセン、仕事中なので」「アッゴメンナサイ」セールストークに繋げられぬまま、少女は奥ゆかしく身を引く。

 

 

ガコンプシュー!停車したスチーム機関車が人々をベルリンへと迎え入れ、新たに旅立つ人々を乗せていく。プオォー!シュッポ!シュッポ!そしてスチームを噴出して走り去る。大通りを荷馬車が行き交い、道路のぬかるみから泥を跳ねた。「アッ……」不運にも泥を浴びる少女。通行人は無関心。

 

 

「マッチはいかがですか?」少女は泥を払い、実家から唯一持ち出せた財産をカネに変えようとしていた。だが誰もが無関心に先を急ぎ、去っていく。新年を迎えるための家路、大晦日の夕暮れ、粉めいた雪の降る中、誰がストリートチルドレンめいた少女の売る粗悪品マッチを欲しがるだろう?

 

 

警察の保護?残念だが、ネオプロイセン警察の仕事は犯罪者の逮捕だ。そして、彼らが声をかけた者の行く末には銃殺刑がちらつく。巡回マッポに残された人間性が、少女に声をかけることを躊躇う。(あの少女は犯罪者ではない!ただ懸命に、今を生きようとしているだけだ!)

 

 

少女はしょんぼりとポツダム大通りを歩く。そして突如、虚空に吼えた!「絶対ダメ!アクマの誘惑には負けないわ!チャーチ(訳注・教会)で聞いたことあるモン!アタシ詳しいのよ!」すわ発狂か!?少女は心の中のアクマめいた存在が囁くアブナイな誘惑を頑なに退けた。

 

 

巡回マッポは犯罪者の狼藉は見逃せぬ。これ以上騒ぐようなら騒乱罪で逮捕しなければ。だが少女は以後騒ぐことはなかった。「あのガキ怪しいのか?無許可ナハトファルカーか?」相棒マッポの声。「いや、気のせいだ。ただのマッチ売り。異常なし」巡回マッポは目のカワイイな少女へ向けた視線を切った。

 

 

マッポーめいて、救われず、報われぬ……過酷な現実に少女が耐えきれなくなった時、その視界は滲み、世界の解像度を下げ、自我のあやふやな幼年期めいたふわふわローカルコトダマ空間へとリンクしてメルヘン妄想を幻視するのだ……01011000110……

 

 

0110……やがてあたりはすっかり暗くなり、人通りも少なくなってきました。

カチグミ住宅街には明かりがともり、スープのおいしそうなにおいが漂ってきます。

「お腹空いた」少女は寒さと空腹で、ガタガタと震えました。血中カラテが足りないのです。

 

 

「一本だけなら」と言って、少女はマッチに火をつけました。

すると目の前に石炭ストーブが現れました。

少女が石炭ストーブに手を近づけると、石炭ストーブはフッと消えてしまいました。

 

 

少女はまたマッチをこすりました。

今度はスシやポテトソーセージが並んだテーブルが現れました。

思わず食べようとすると、またフッと消えてしまいます。

 

 

少女はまたすぐに次のマッチをこすりました。

ふかふかのマシュマロベッドが現れました。

思わず寝ようとすると、またフッと消えてしまいます。

 

 

少女は空を仰ぎ見ました。いつの間にか雲は晴れていて、ネオンめいた星々が煌き、長い光の尾を引く流れ星が見えました。

「アッゴウランガ。きっと誰かが死んだんだわ」と少女は言いました。

亡くなったおばあさんから、「星が流れ星になる時は、誰かが死んだときなんだよ」と教えられていたのでした。

 

 

「ああ、おばあさまに会いたい」少女は、おばあさんのことを思い出していました。

そして、また一本マッチをこすりました。

すると、目の前にはあの時の優しかったおばあさんが、ニンジャにスレイされていました。

 

 

(ニンジャが!ニンジャがおばあさまを!)(((そうだ!思い出せ!そして憎め!殺すのだ!)))アクマめいた誘惑!少女は絶対に開けてはいけないと忠告された、封じられた記憶の蓋を開けてしまう!ああ、人は何故ほとんど違法行為をしてしまうのだ……そこから先はアビインフェルノジゴクだぞ少女!

 

 

0100……敬愛する祖母の住まう離れ屋。離れ屋が燃えていた。燃えあがる家屋の中で、灰色の毛皮装束を纏ったニンジャが、敬愛する祖母を……0110111011……「逃げなさい……アバッ……」「イタダキマス!」「アバーッ!」(絶対許さない……)(((許す必要なし!)))誘惑!

 

 

そのニンジャは、敬愛する祖母の体を、とてつもなく大きな獣の口で無慈悲に噛み砕いたのだ!「サヨナラ!」敬愛する祖母は、それだけ言うのがやっとだった。そして少女もまた……0100……マッチから呼び起こされた記憶が憎悪の炉の燃料となり、寒さに震えていた少女の体が怒りに震えた!

 

 

ゴウッ!憎悪の炉から赤黒の炎が噴出!内燃機関燃焼!少女のカンニンブクロが温まる!(絶対許さない……絶対許さないンだから!)(((怒れ!憎め!)))憎しみによって過度に鋭敏化した少女のニンジャ第六感が、ベルリンに潜むニンジャ気配を察知!「イヤーッ!」

 

 

少女は色のついた風のように駆ける!もうその目はカワイイをしていない。復讐に狂った狂人の眼差しだ!赤いビロードの頭巾は赤黒く変色!一歩一歩踏み出すカラテエネルギがスチームめいて噴出し、赤黒のニンジャ装束となって少女を覆う!口元には「忍」「殺」と刻まれたメンポ!

 

 

そう!少女はニンジャスレイヤーだったのだ!その胸は平坦であった。

 

 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはパルクールめいて飛び上がり、カチグミハウスの二階窓の縁へ!二階窓の縁からカチグミハウスの屋根へ!カチグミハウスの屋根から隣家の屋根へ!隣家の屋根から更に隣家の屋根へ!闇夜を駆けるニンジャスレイヤーの冷たく刺すような視線の先はベルリン大聖堂である!

 

 

 

(「レッド・フード・ガール・シリンズ・マッチ」終わり。「キャッツ・フレンズ・ドブネズミ」につづく)

 

 

 

 




◆忍殺◆ニンジャ名鑑#001【ニンジャスレイヤー】◆少女◆
生まれ育った村をニンジャに襲われた少女へ謎めいたニンジャソウルが入り込み地獄の淵から生還した。
実際未成熟でありカラテに不足だが、ゴールデンエイジめいたニンジャ成長性を感じさせる。
憎悪の炉で動く内燃機関が少女のカラテの源だ。
 
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