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「ニンジャスレイヤーIF少女:ハーゴンベルグ・イン・フレイム」より
「イン・ザ・インターミッション」#3
チェシャ・ニンジャは自由気ままである。いまは黄と黒のブチキャットのオス姿。後ろ足が妙に長くヘンゲヨーカイしており、ロングブーツを履いている。股間部位を一切隠すことなく、モータルの切り開いた街道を避け、森を、山を、獣道を二足歩行で歩いていた。
背には麻布のマント。腰にはベルトを巻き、クナイダートを数本備えている。「にゃんにゃかにゃー♪」彼は陽気なメロディーのネコウタを鳴きながら、長旅の備えをした姿で一路東を目指していた。理由は?特に無い。
ミラーマッチを信じて送り出し数ヶ月。既に割り切り終えたチェシャ・ニンジャは何者にも縛られない。木の実や野草を齧り、野生動物をハントし、生のまま喰らう。雑食性の野生動物めいている。
かと思えば、夜間の寒村に忍び込み、作りおきされた何かを盗み食い。彼にとって文明とはちょっとした味わいの変化に過ぎぬ。仮に何かの拍子でそのような姿をモータルが目撃したなら、ならまず己の正気を疑い、ニンジャ・リアリティ・ショックを受けるに違いない。
そして一時的な記憶の混乱が、見間違いか何かだと常識的な判断を下すであろう……あるいはUMA認定するかもしれない。予想できる確かなことは、チェシャ・ニンジャはどのように歴史が移り変わろうが、何がどうなっていこうが、我関せず生きようとすることだけだ。
……ハーメルン地方から東へ進み、時に西に戻ったり、北や南に進んだり、気持ちよい場所でひなたぼっこして一日過ごしたり……チェシャ・ニンジャはのんびりと、足の向くまま気の向くまま、トアル湖にやってきた。冬の間、表面を張っていた氷は既に溶けさり、静けさだけがある。
「にゃんにゃ?」そこで彼は違和感を覚えた。野生動物が水をペロペロしていない。静謐がそこにあった。一時期はコソコソとニンジャスレイヤー少女を暇つぶしがてら観察していたが、この地に巣食うニンジャはいなくなったはずでは?
ともあれ、喉が渇いた彼は、湖の水をぺろぺろする。雪解け水は流れ終えてなおキンキンに冷えた冷水がなんとも刺激的。「うげっ」しかしながら、あまりエテルによくない何かを味覚から感じ取ったのか、彼はすぐにトアル湖のペロペロをやめた、その時である。
『ネコチャン!』トアル湖内部から伸びでた空色のスイトン構成触手が、またたくまにチェシャ・ニンジャを捕らえたではないか!「ばかニャー!」ケムリ・ジツで逃れられない!フシギ!
静謐なるアンブッシュによってチェシャ・ニンジャを捕らえたスイトンの触手めいた何かは、チェシャ・ニンジャの全身をまさぐったり、肉球をつついたりした。「ニャ!ニャメローッ!」『ネコチャン!ヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシ!』
やがて水中から姿を現したのは……名状しがたいスイトン生命体。ほとんどニンジャモンスター。「ネコチャンカワイイヤッター!」乳白色じみた目と思わしき部位は情欲に濡れている。コワイ!「ドーモー、チェシャ・ニンジャ=サン。イズミ・ニンジャです」ワッザ?
いまこのスイトン生命体はイズミ・ニンジャと名乗ったか?「ドーモ、イズミ・ニンジャ=サン。チェシャ・ニンジャです」彼はアイサツこそ返したが、全身をスイトン触手で拘束され礼儀正しいアイサツなどできぬ。「アイサツできてエライ!」「ニャメロー!」
そこに半神的なアトモスフィアはない……それが逆に不気味!触手は執拗ににゅるにゅるしている!危険だ。【見せられないが】いちおうねんのため、しょうさいなびょうしゃはかくしおこう。
……さんざん彼の全身を撫で回したイズミ・ニンジャはすごく落ち着いたのか、きゅうにマトモな言葉を発した。「ああ、そうそう、チェシャ・ニンジャ=サン。私としたことがダブルアックスを無くしてしまったのですが、何か知っておるかえ?」チェシャ・ニンジャはぐったりしている!
全身をとことん撫で回され、ずぶぬれなのだ!「ニャンニャスレイニャー=ニャンがドロボウしてたニャ。イクサは覗いてたニャ」「ああ、ああ、そうか、やはりか。何か潜んでおるなと思っておったが、そなただったのかえ」イズミ・ニンジャは見栄を張った。
実はまったく気付いていなかったが、後からこうした言葉を口にすることで、さもニンジャ第六感に優れた、察しのよいリアルニンジャだと演出しているのだ。リアルニンジャはシンピテキに重点なので、こういったブラッフもまた重要なのだ。
「しかしニャンニャスレイニャー=ニャンが犯人とは……無謀なヤンチャでこそあったが、悪い子には見えなんだがな……」「なんかいか乱暴に使ってたニャ。ボクみたいなアワレなネコチャンを弄ぶより、壊れる前に回収したほうが良いニャ」「そうか、そうか」
そういわれて、ようやくイズミ・ニンジャはチェシャ・ニンジャを開放した。そして触手めいていた全身を構成する空色のスイトンを、身長8フィートは超えていようニンジャエルフにヘンゲヨーカイすると、両指でニンジャサインを描き、虚空を切る。ニンジャサインの軌跡が光る。
トリイ・ゲートウェイを象る、超自然的な発光。やがて、この世ならざる領域から、全長1フィート少々の幽鬼めいた宇宙色ニンジャモンスターが招かれた。「ドーモ、マスコット端末です。何について調べますか?」「お前を消す方法」チェシャ・ニンジャがぼそりと呟く。
「クケケケケ。そんなことも知らないのか?」マスコットは邪悪に笑った。「ニャンニャスレイニャー=ニャンの現住所はどこかや?」「アッハイ。検索します」マスコットは朗らかな笑みをイズミ・ニンジャに向けて、両手をこめかみ部位に当てた。
その外見は、徐々にイズミ・ニンジャの外見的特徴をコピーしヘンゲヨーカイしていく。カワイイ二頭身キャラクターになっていく。相互のスイトンエキスを循環交換し、ニューロン速度で変態しているのだ。なんたる冒涜的不定形生物か!
チェシャ・ニンジャはその隙に、四足をフルに活かしたニンジャ全力疾走で離れていく……とんだ災難アンブッシュであった。やがて十分な距離を取れたと判断した彼は、マントやロングブーツを干し、おしっことかしてその日のナワバリを定める。
「それにしても、ダブルアックスがにゃいにゃら、そいつを検索すれば良かったのでは?」即席ナワバリ結界内で丸まったチェシャ・ニンジャは、昼間のやりとりを思い出してふと疑問に思ったが、何らかの制限があるのであろう。
見たことや聞いたことこそあるが、彼はあの場でマスコット端末と名乗ったアレらミーム性存在の詳細な動作を知らなかった。興味が無いからだ。彼の無味乾燥とした冒険はこれからもつづく。時に死してそのボディーが入れ替わろうが、つづく。
◆リアルニンジャのその頃◆
「アバーッ!サヨナラ!」咀嚼音無慈悲!オーカミ・ニンジャはまた一人、ニンジャソウル憑依者を喰らった。語るところもないほど一方的なイクサであった。いや、イクサにすらなっていなかった。狩りであり、ハントであった。「旨味成分が全くない。サンシタめ」
観音開きに動いたメンポを閉じ、ただそう吐き捨てる。ザーン、ザザーン。寄せては返す波の音。ここはどこだろう?バルト海沿岸部の、どこかだ。「フランベルジュ=サンめ。このようなサンシタを寄越されても困る」『それはシツレイ』ザーン、ザザァーン。波の音に違和感。
ザバッ!海中から、紅色ニンジャローブ装束の女ニンジャが姿を表した。海水に濡れて皮膚へと張り付くニンジャローブがその肢体傾向を露わにする。標準的な。その背にはニンジャネームを関するフランベルジュ。海水では洗い流しきれぬ赤い帯が何らかのサツバツを想起させる。
だがちょっと待っていただきたい。いまフランベルジュは、海中から人語を発していなかったか?どこかおかしい。何らかのジツか?「それで?『姫』の調教はどうなったのだ?長く手こずっておったが」「ンフフ。完全で、完璧です」彼女はペロリと海水を舐め取った。どこか淫靡なアトモスフィア。
「ククク。であるか」かつてオーカミ・ニンジャは、己のビジョンの実現のために、科学技術とは異なるアプローチを試みた時期もあった。それが海であり、地上に生きるモータルにとってしてみれば、一種のオヒガンである、深海領域に可能性を見出していた。
しかしそこには既に、海域に適応したミズ・ニンジャクランに連なるウミの一派が支配していた……ニンジャモンスターめいたケイオス生物にヘンゲヨーカイし……流石のオーカミ・ニンジャであろうと、フーリンカザン無き水中戦は分が悪い。
「ひみつ研究所に寄っていかれますか?」「いや、もはや発展の多くはオレの手を離れている。放牧し、その成果を紳士的に収穫する状況にある」「確かに、モチベーションを刺激する以上の干渉は不要かと」二人は並んで狭い砂浜を歩く。
プライベートビーチと呼ぶには開拓されていない領域。歩く先には岩場の沿岸洞窟。この砂浜につづく、人の道はなし。ひみつの沿岸だ。沿岸洞窟の中に『姫』とやらが?
……そのニンジャ・ダンジョンの詳細については、割愛させていただく。道中を中略し、最深部。無骨な岩場に不釣り合いな、SFさくひんにでてきそうな筒状のハイテックベッド。コールドスリープマッシーンを連想させるそれは、1つだけではなく、複数ある。
オーカミ・ニンジャは注意深く観察した。「クッククククク。スリーピング・ビューティーと呼ぶにはいささか無骨だが……」「キスしてみますか?ユメアルク・プリンセスが目覚めるやも」「折角だが遠慮しておこう。オレはイバラを食う趣味はない」「さようで」
ヨシナシゴトを交わしつつも、彼は野生のニンジャ第六感を用いて、アトモスフィアを読み取る。オーカミ・ニンジャにコトダマ適正はないが、永く修行したリアルニンジャは、言語化し難いなんらかのなにかを察するものだ。「よいユガミだ。使えるな」「ハイ」
フランベルジュはコールドスリープマッシーンめいた筒状ベッドに手をかざす。キュインキュインキュイン。発されるモスキート音。『ンアーッ!』くぐもったシャウトと同時に空間にユガミが生まれる。「調教は、完全で、完璧です」フランベルジュは屋外で発した言葉を繰り返した。
「なかなかどうして、どうしようもないと思っていたが、何事も試してみるものだ」オーカミ・ニンジャは関心を高める。そしてポータル・ジツじみたゲートを半分くぐった。彼は3メートル先に己の背中を見た。「射程距離は?」「ヨーロッパ全土」「素晴らしい」
このユニーク・ジツじみたユガミが、ヨーロッパ全土に届く?あたかも21世紀未来のウキハシポータル・ネットワークを想起させる。何より、彼らには、EUヨーロッパアンダーグラウンドにはインターネットがある。シナジー効果でとても悪いことができるのは容易に想像できよう。
「クックククク。どれ。試しにスケヴェニンゲンにでも繋げてくれ。せっかくなので監査する」オーカミ・ニンジャはポータルをくぐりきり、悪戯を思い立った悪童めいた笑みを浮かべた。「ヨロコンデー」キュインキュインキュイン。発されるモスキート音。『ンアーッ!』
フランベルジュにユメアルク・プリンセスと呼ばれた何かの悲鳴を合図に、あらたなポータルが構築される。先に3メートル距離のゲートよりも、みたかんじ大きいユガミ。「それでは、行ってらっしゃいませ。引き続き研究を進めます」「任せた」オーカミ・ニンジャはポータルに消えた。
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その頃、ニンジャスレイヤー少女は、タタミ6枚構成の一室で、2本の木刀を振るっていた。ドスダガーサイズだ。部屋の隅には腕を組むバッドアップル。カンカンカンカン!逆さに吊るされた4本の木刀と打ち合わさる木の音が立て続けに響く。カンカンカンカンカンカン!
少女の足元には円を描く毛糸。少女の身長程度の全長しかないそれは、固定されておらず、彼女が踏んだり蹴ったりしてしまえば容易くその形を歪ませよう。カンカンカンカン!激しく前後に動く4本の逆さ木刀は、振り子の原理で繰り返し少女を襲う。カンカンカンカン!
シャウトなし。少女は黙々と四方の木刀を打ち払う。かなりのインスタント・トレーニング。定番のカタナドーの型指導ではなく、実戦を意識した無手におけるミニマル木人拳アレンジ。カンカンカンカン!「踏んだよ」バッドアップルは鋭く指摘した。
少女は即座にムーブメントを修正する。「二刀流はアブナイ。一刀のイアイドよりも、自分を切ったり刺したりする可能性が高い。まずは自分の振ったカタナがどう動くか、体で分かりな」バッドアップルからは初歩的なインストラクション。「ハイ!」カンカンカンカン!少女は延々と木刀を振るう。
カラテシャウトとともにそれを振るえば容易く4本の逆さ木刀を無残に破壊しようニンジャの身体能力を持ってすれば、ベイビーサブミッションなトレーニングだ。だが天井位置、十字じみて交差する木柱に絡まる糸はふくざつにからまり、少女の頭上で静止する5本目のカタナに繋がっている。
ダモクレスのカタナ。古いカタナドートレーニングだ。少女はイクサのおさらいの結果、己のカタナドーの至らなさが先のオーカミ・ニンジャ敗北に繋がったと悟ったのだ。素手のカラテは、辛うじて届いた。その一撃が『タチキリ』『バサミ』であればどれだけ良かっただろう?
イクサにおいてタラ・レバは意味がない。しかし、反省を望むのであれば、タラ・レバポイントを探ることは大いに意味がある。カンカンカンカンカンカンカンカン!カタナ振動が糸に伝わり、ついにダモクレスのカタナめいた5本目のカタナを、落とした!「イヤーッ!」SMASH!
木刀無残!重心の支えであった一刀が砕けた事により、4本の木刀はタタミ上に投げ出された。「次はカタナで……7刀編みでやるか」とバッドアップル。危険では?「ウン」だが少女は躊躇わずうなずいた。死ねば助かる。死んだら分かる。少女の境地はそのようなところか。
少女は無謀にもオーカミ・ニンジャに挑み、破れた。少なくとも、今は敵わぬ。それは、無謀にもオーカミ・ニンジャに挑まねば分からぬままであったことだ。(見てろ……心胆寒からしめてやる……!)彼女は右に左に揺れていた心を、改めて復讐に定めた。
もとより、方位磁石が北を示し続けるかのごとく、彼女が敬愛する祖母の敵を討つべく、ニンジャをスレイする方向に向くことは分かり切っていたことだ。だが、とくしゅなちけいでは磁場が狂うように、少女の心はいっとき、あらぬ方向に向くこともあった。
まだ生理すらこぬ乙女未満。時に思わぬ揺らぎを見せることもあろう。センチメントと切り捨てるにはあまりにもありきたりな、人間性。だが少女は、ニンジャスレイヤーだ。少なくとも少女は、あの日敬愛する祖母を無慈悲に殺されたとき、名も知らぬオーカミ・ニンジャを絶対に殺すと決めたのだ。
その怨嗟が、怨念が、ニンジャ磁場めいて、ニンジャ引力じみて、ニンジャ重力であるかのように、仄暗い闇の底からナラク・ニンジャを引き寄せたのである……ヒバナ・ニンジャが目をつけた無意識の才能が、過剰なストレスによって弾けて花開いた、瞬間であった。
「フゥーッ……ハァーッ……」少女は二度、息を吐いた。コンセントレーション。死ねば助かる。死んだら分かる。だが本当に死ぬ必要はない。死を意識しつつも、死に至らぬカラテ。自分が死ぬより先に相手を殺す……やはり少女のイクサ観の根底にはスーサイド・タクティクスがあるのか?
キンキンキンキン!バッドアップルが手早く準備を終え、ふたたび始まるダモクレスのカタナトレーニング。少女に待ちうける次なる試練は如何なるものか?忍殺メルヘン紀行はこれからも続く。
(「イン・ザ・インターミッション」終わり)
◆ここまでのあとがき◆
◆妙に間が空いて申し訳なかった気持ちはあるがストリートファイター6が面白いのが悪いので、私はそれほどあまり悪くないと思うけど?ちなみにインターミッションに休むのは悪いことではない。そもそもの意味が『途中休憩』とかそういう方向性の意味だからだ◆
◆本編と関係ない話はこのへんにする。今回はマルチプルな各視点を見せた。ダイジェストよりも一歩踏み込んでいるが、深く掘り下げるつもりはない。主人公はニンジャスレイヤー少女だからだ。でも何一つ情報がないと味気ないので描写したかんじだ◆
◆そしてこの話をもって名鑑まとめとか含めて100話達成でめでたい!今日はラム肉だ!明日はまた短編からはじめる◆
◆忍殺◆ニンジャ名鑑#114【シナプス】◆少女◆
ボー&バトンのカラテ防衛術センセイ。ニンジャを知らぬマジョ・ニュービーにヌンチャクを用いたカラテ防衛術やサバットを指導している。その指導力はたしかで、他のセンセイらとともにレッサーニンジャの扉を幾度も開けている。