ニンジャスレイヤーIF少女   作:BANZAINAMUSAN

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ファースト・クエスト・ファースト・ショー・オフ#1

 

 

 

「「「「イヤーッ!」」」」数十人からなる子どもたちが、戦列歩兵めいて等間隔に並び、カラテシャウトとともにカラテチョップを振り下ろす。あらゆるカラテのベーシックアーツであるそれは、どのようなカラテ流派であれ真っ先にニュービーに教えられるものだ。

 

 

「「「「イヤーッ!」」」」チョップを振り下ろす先には色とりどりのヤワラカマクラ。子どもたちへの配慮だ。幼い内に本物の瓦割りをしては骨の発育異常に繋がる恐れがある。一度事件となり、ネオプロイセン警察はベルリン中のドージョーを調査。劣悪的な指導内容のドージョーは次々と潰れた。

 

 

「「「「カラテウケテミロオネガイシマース!」」」」ワンサイクル10回のチョップを終えた子ども達は、戦列の回りをぐるぐるしているブラックベルトのシハンダイに伺いたてる。「まだまだ甘い!モーイッチョ!」「「「「イヤーッ!」」」」そして1から繰り返す。

 

 

「「「「イヤーッ!」」」」右カラテチョップ。「「「「イヤーッ!」」」」左カラテチョップ。「「「「イヤーッ!」」」」右カラテチョップ。シハンダイがワザマエの成長を認め、許しを与えるまで、このカラテトレーニングは続くのだ。勿論タテマエであり、一定時間で切り上げる。

 

 

シハンダイは時おり、よくない動きをする子どもの背後に回り、フォームを指導していく。「ご覧の通り、ウチのドージョーはニュービー育成に力を入れています」経営者のヴェンダーは言った。「ワーオ。スゴイでヤンスねぇ」全く感動していなさそうな声でドブネズミは相槌を打った。

 

 

「「「「カラテウケテミロオネガイシマース!」」」」「まだまだ甘い!モーイッチョ!」「「「「イヤーッ!」」」」右カラテチョップ。「「「「イヤーッ!」」」」左カラテチョップ。「「「「イヤーッ!」」」」右カラテチョップ。「カラテ一体感!」鼻息荒く興奮する少女。

 

 

「そうだろうお嬢ちゃん。君にも輪に入るチャンスがある。ウチのドージョーどうかな?」ヴェンダーの勧め。「良いカモ!」少女はふわふわとした返答をした。「入門する」と断言さえしなければあとは自由にして構わないと事前にドブネズミに言い含められているのだ。

 

 

ドブネズミと生活を共にし一週間。少女に求められた第一のお願いは、少女がドージョー見学するという体裁でこの付いてきてほしいというものだった。二人が訪れたのは、ベルリン内に雨後のタケノコめいて増えては消えるゲルマンカラテ・ドージョーの1つ「シュリット」だ。

 

 

「体験入門用ジューウェアの準備出来ました。じゃ、着替えましょうネー」「ウン」マネージャーのアドミが少女を連れ、女子更衣室へと向かった。ドブネズミは死んだマグロめいた瞳で少女の後ろ姿を見送り、自身の受けた依頼の本題に入った。

 

 

「アッシ、悪い噂を聞いたでヤンス。何ヶ月も前から、このドージョーの子どもが何人も行方不明になったとか」「いい迷惑だ!」ヴェンダーは憤慨した。「あらかじめ言っておく。ウチのドージョーは一切関係ない。警察もそう判断した」事実だ。

 

 

「無関係。過ぎたこと。ネガティブキャンペーンは止めてもらいたい!」ヴェンダーの怒鳴りつける声にホワイトベルト達のカラテシャウトが途切れた。「止めるな!ハイ!モーイッチョ!」「「「「イヤーッ!」」」」カラテチョップ1から再開。「スミマセンでヤンス」存在格下アトモスフィア。

 

 

ドージョーの片隅では数人在籍するカラテ中級者の一人が壁を使ってのトライアングル・リープを繰り返す。カポエイラめいたステップを踏む者。等身大木人人形にジュドーめいた投げや関節技をする者。様々なカラテコンビネーションを試す者。

 

 

彼らはブラウンベルトのアイン・ツヴァイ・ドライ段位のいずれかに属するカラテ劣悪者たちだ。スジは悪くない。だが、より高い段位のカラテにはついていけず、一人のカラテマンとして心折れたのだ。それでも近所のカラテドージョースペースを間借りしてトレーニングを継続するのは惰性にすぎない。

 

 

しかし、それにしても彼らにはワザに統一感がない。ゲルマンカラテとは?

 

 

【ゲルマンカラテ!それは世界中から情報収集したカラテ多様性から優越性を抽出した、実際油断ならぬカラテ近代化集大成の完全オリジナルカラテである!しかも優越性の中から常に優勢性を模索するので常に進化可能性!なんとも偉大なカラテであることだなあ――ミンメイ書房・カラテ大技林から抜粋な】

 

 

「「「「イヤーッ!」」」」カラテチョップ10回目を振り下ろした子ども達。「「「「カラテウケテミロオネガイシマース!」」」」一体感のあるシャウト。「良い!5分休憩!」「「「「ダンケ!」」」」子ども達はその5分で友人と触れ合ったり、水分補給したり、思い思いに憩っている。

 

 

……そして、純白のジューウェアをホワイトベルトで締めた衣装に着替えた少女が桃色のヤワラカマクラを小脇に抱えて戻ってきた。アドミがシハンダイに事情を話す。「アー、体験入門者の……エヌエス=サンだ。ワンサイクルのトレーニングを体験してもらう。良いね?」「「「「ハイ!」」」」

 

 

エヌエス?それが少女の名前か?否。少女の名前は誰も知らない。少女自身にもだ。名前を忘れたことすら忘れている。死したシスターニンジャ、ゼクスマイレンが邪悪ニンジャソウルを封じるべく施したネイル・ザ・テン・コマンドメンツのうちの一つが、結果として少女の名をも封じているのだ。

 

 

エヌエスと言うニックネームはニンジャスレイヤーのイニシャルに過ぎぬ。ドブネズミが考えたニックネームだ。ドブネズミは奥ゆかしく、少女にニンジャネームではない本名を尋ねなかった。やがて、シハンダイから基本的なカラテチョップムーブメント指導を聞き終えた少女は、戦列の最後尾に並んだ。

 

 

「「「「カラテウケテミロオネガイシマース!」」」」少女も一体感に合わせてシャウト!「キアイ!」「「「「ハァーッ!」」」」子どもたちは思い思いにキアイを入れた。少女も?少女もだ。両脇をしめて手術前の医者めいて掌が自身に向くように胸の前で広げ、チョップの形にして合図を待つ。

 

 

「良い!はじめ!」「「「「イヤーッ!」」」」右カラテチョップ。BREAK!「アッコワレタァ!」「や、やめ!」シハンダイは慌てて止めた。見れば、少女の使った桃色のヤワラカマクラがチョップの形に破損していた。「コワレチャッタ」「……劣悪品だったか?交換して」シハンダイはアドミに指示。

 

 

子ども達は少女を見てヒソヒソしている。少女はたまらなく居心地が悪くなった。「じゃあ、ハイ、コレ」アドミは予備のヤワラカマクラを手渡し、破損ヤワラカマクラを回収した。「アー……それじゃあ、つづけてはじめ!」「「「「イヤーッ!」」」」左カラテチョップ。BREAK!「アッコワレタァ!」

 

 

「や、やめ!」シハンダイは慌てて止めた。見れば、少女の使った水色のヤワラカマクラがチョップの形に破砕していた。「コワレチャッタ」「……また劣悪品だったか?交換して」シハンダイはアドミに指示。そして、少女の後ろに立ち、腕を組んで立つ。

 

 

シハンダイの指導する限り、少女は完全にカラテニュービーだった。どこにでもいる、チョップの打ち方も知らぬ子どもであった。何度も指導した経験が、その確信を抱かせる。では一体なにが?

 

 

「じゃあ、ハイ、コレ」アドミは予備のヤワラカマクラを手渡し、破損ヤワラカマクラを回収した。「アー……それじゃあ、つづけてはじめ!」「「「「イヤーッ!」」」」右カラテチョップ。BREAK!ヤワラカマクラ無残!「アッコワレタァ!」「いまのは!」シハンダイは戦慄した。

 

 

その挙動と体躯、結果が噛み合わぬ!?シハンダイは知らぬことだが、少女はカラテニュービーはカラテニュービーでもニンジャのカラテニュービーなのだ!「ムムム。体験入門用ヤワラカマクラに劣悪品が多いな。警察に通報し、購入先を変えておこう」その様子を経営者視点で見たヴェンダーは呟いた。

 

 

予備のヤワラカマクラはもうない、アワレなことだが、少女の体験入門はこれで終わった。ヤワラカマクラ無きエアカラテチョップはニュービーにはやや危険だ。カラテエネルギの制動制御が最低限もとめられるからだ。「チェッ」ふてくされた少女はきょろきょろした。

 

 

そして、ドージョーの片隅、カラテ中級者たちが思い思いに惰性自己鍛錬するエリアに置かれた様々なトレーニング器具に目をつけた。

 

 

「ネーネー!アレやりたい!」少女がドージョーの片隅にあるダルマサンドバッグを指さした。ヴェンダーはやや気まずいアトモスフィアを払拭するように破顔した。「良いですとも。アーそこのキミ!そこのダルマサンドバッグは空いてるカネ?」「ドーモ、オーナー。空いてますよ」中級者の一人が頷いた。

 

 

「ちょっと止めないか!」シハンダイがヴェンダーの元に駆け寄った。「ニュービーにいきなりダルマサンドバッグを叩かせるなど危険だ!跳ね返ってくる反動頭突きに当たったら……」「ウルッセーゾ!誰がオーナーコラー!」ヴェンダーの恫喝!コワイ!「ネーネー、ダメ?」少女は首を傾げる。

 

 

ヴェンダーの表情がくるくる変わる。今は笑顔だ。「もちろんいいとも。アーキミ。重点な注意はしてあげて」指導者フェイス。「アッハイオーナー」「テメーは指導コラー!」そしてマフィアめいた!「しかし」「言い訳コラー!」ヴェンダーの指さす先は、チョップを止めてヒソヒソする子どもたち。

 

 

「……ハイ、モーイッチョ!」実際様々な暗澹たる思いをイカスミ・スパゲティーめいてクルクル巻き取り、シハンダイはニュービーの指導に戻った。「アー、なんというか、スミマセンでヤンス」ドブネズミの存在格下アトモスフィア。「いやいや、君の謝ることではない」ヴェンダーは経営者然とした。

 

 

「確かに悪い噂はあるだろう。だが、それはカラテで払拭する。我々は健全だ。だからどうかウチが悪いドージョーだなどと思わないでほしい。そして、良い、と思ったら入門を」「…………」ドブネズミはYES/NOさえ曖昧に頭を動かしたが、返事はしなかった。その時である!

 

 

「ニャーッ!ニャーッ!ニャーッ!」DOOOOON!DOOOOON!DOOOOON!ネコカラテ右ネコ肘打ち、左ネコフック、右ネコパンチストレート!ダルマサンドバッグ頭が激しく前後に動く!「ウソだろオイ」カラテ中級者は戦慄した。その外見からは想像もできぬほどのカラテ衝突力!

 

 

「君ホントにニュービー?」「ハイニャーッ!」少女は返事をしつつ右前足ネコキックでダルマサンドバッグの動きを止めた。カラテニュービーはカラテニュービーでもニンジャのカラテニュービーなのだ!モータル用のダルマサンドバッグなどオモチャ同然である!

 

 

そのカラテ段位をモータルに換算するとアドバンスド・ブラックベルト級を遥かに優越する。「ウワッスゴッ」「もうカラテ止めようかな……」それを見てしまった子どもたちはあまりのカラテ格差に自信喪失。既にチョップの手は止まっている。シハンダイは余所見するなとばかりに叱咤するべき状況。

 

 

だが誰よりも少女のカラテに見入っていたのがシハンダイだ。「スゴイ……100年に一人の、いや、それ以上の逸材だ……」シハンダイは少女に駆け寄った。「き、きみ!」「なあに?」「もう一度見せてくれ!」「いいよ」「ナニシテンコラー!」ヴェンダー叱責!「ルッセーゾコラー!」シハンダイ反抗!

 

 

「ニャーッ!ニャーッ!ニャーッ!」DOOOOON!DOOOOON!DOOOOON!ネコカラテ右ネコ肘打ち、左ネコフック、右ネコパンチストレート!ダルマサンドバッグ頭が激しく前後に動く!「ス、スゴイ!シャウトに一癖あるが、俺でもこうはいかないぞ!」シハンダイ大絶賛!

 

 

「アー、お嬢ちゃん。もしかして、ほかのドージョーに通っていたのかな?」「ニャーッ!」ヴェンダーの問いにノーの返事をした少女は右前足ネコキックでダルマサンドバッグの動きを止めた。「ドージョー通ったことないよ」「それじゃ、家庭教師センセイが居たり?」「ンー」少女は小首を傾げて考えた。

 

 

「イマジナリー?」「テンサイ級だ!ヤバイ級だ!」シハンダイの様子がおかしい。「きみはこんな場末のニュービー用ドージョーじゃなく国営優越的ドージョーに行くべきだ!」「テメッコラー!指導!」ヴェンダーは子どもたちを指差す!「アー?ハイ!オワリ!オツカレ!みんなもう帰っていいよ」

 

 

何たる指導者にあるまじき投げやりな対応か!シハンダイが少女のカラテに魅了されていることは誰の目にも明白だ。その様子は子どもたちへ繊細に伝わる。ないがしろにされたと感じた子どもたちの多くは、遅くとも今月いっぱいでこのドージョーを去るだろう。

 

 

「アー、なんというか、スミマセンでヤンス」ドブネズミの存在格下アトモスフィア。「一度持ち帰って検討するでヤンス。お嬢ちゃん、帰るよ」「はぁい」深い爪痕を残した自覚のない少女は、初めてのクエストがこんなに簡単で良いのかしらんと首を傾げながら帰路につくのだった。

 

 

ナムサン。少女は知らぬことだがドブネズミはゲルマン・マフィアのジアゲ代行依頼を受注しており、その前金で当面の生活費を確保していたのだ!誘拐事件調査の前金と合わせ、アウトローの憧れ、前金二重取りしていたのだ!だがそのようなヨクバリへのインガオホーは一晩と経たず訪れることになる。

 

 

◆なろうカラテマン◆

 

 

◆お知らせ・私のセルフ管理メントのため今日の執筆作業はおやすみだ。明日は23:00以降の予定でよるおそくになるので良い子はすなおに寝ておくように(おうちのひとが、気をつけてね!)◆

 

 

(「ファースト・クエスト・ファースト・ショータイム」#1終わり。#2につづく)

 

 

 

 

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