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◆前金二重取り◆「「「「イヤーッ!」」」」ヤワラカマクラ無残!「アッコワレタァ!」「もう一度見せてくれ!」「いいよ」「ニャーッ!ニャーッ!ニャーッ!」ダルマサンドバッグ頭が激しく前後に動く!「アー、なんというか、スミマセンでヤンス」◆ヨクバリにはインガオホー◆
【ファースト・クエスト・ファースト・ショー・オフ#2】
(これで釣れる筈だが)ドブネズミは逡巡した様子を見せ、顔をしかめて脇腹のあたりを押さえてみせた。ピストル良し。中肉中背、金髪碧眼の、ナヨナヨとしたひよわそうなサラリマン保護者の擬態。そしてニュービーとは思えないカラテ才能を見せた少女。
ここまでの調査結果と併せて、誘拐犯は少女を連れ去ろうとするはずだ。そこで誘拐犯確保するというのがドブネズミのプランである。「ドシタノ?」「ちょっと緊張したでヤンス」存在格下アトモスフィアを維持し、ミドル層住居地街を歩いていく。
ミドル層住宅地は、12あるベルリン区に1地区は用意されたエリアで、やや小さい一戸建てハウスが区画整理されて幾何学的に並んでいる。それぞれの庭がソトバめいた柵の連立で区切られ、各家庭スペースを明確にしていた。とくに目ぼしいものはない。ただ平凡な、ありきたりの平和があるだけだ。
保護者が生きるか死ぬかはフィフティ・フィフティ。生存者は頭部に衝撃を受け、当時の記憶をほとんど失っている。調べた限り。子息を攫われたことが数少ない記憶である。危険だ。それなりに。だが、まあ、とにかくどうにかする。
「楽しかったナー」並んで歩く少女がフンフンと鼻歌を歌った。「フーン、そっか」ドブネズミは無感動に呟く。空を見上げれば「話題性」「いま流行りの」「まずはここまで↓」などと書かれたアドバルーン広告のロープが引かれ、下ろされている。夜間に広告を上げていてもあまり意味がない。
ロープの中ほどが光って見えた気がしたが、なんらかの反射板めいた正体不明が目をくらませただけだろう。太陽は沈みつつあり、帰路のミドル層住居地を照らしている。ガス灯保守点検の七三分けゲルマンワーカーが「1-56-4ヨシ!」などと口に出し、順々に指差し点検している。
ドブネズミは普段、ニューロンが警告を発する依頼は請け負わない。情報屋としての正確さを重点しつつも、あくまで右から左へ情報のやりとりを済ませる。だが今回は、少女の語ったワガママのこともあって、少し深いところまで自ら調べることを請けおった。都合が良かったからだ。稼ぎも。
「ドンドンするの、またやりたいナー」「また今度にしてくれ」ミドル層住宅街を抜ければ、区画整理されたノイアー商店街だ。「安い!安い!実際安い!」「デキタテノーホッカホカ!」「特に味で勝負!」この時間は飲食店の客引きが多い。商店街エリアにおいてこの程度の喧騒は違法ではない。
優越的な店舗が生き残り、劣悪的な店はいずれ潰れる。ショッギョ・ムッジョ。ドブネズミは煩わしい商店街を避け、路地裏に入った。わざとだ。どこで仕掛けてくるか。誘拐ポイントは実際バラバラ。だがホッフェンハイム地区外周は3件ヒット。襲撃可能性。
「どこ行くの?おうち、こっちじゃないよ」少女は訝しんだ。爪を磨いていた際どい衣装のナイトファルカーがドブネズミに目をやり、次に少女を見て、再び爪の手入れに戻った。「ホッフェンハイムに美味しい店があるんだ。今日は外食」歩行カラテ警戒。「ヤッタ!」
少女は無邪気に喜んだ。「まあ、その前に、サプライズ・イベントがあるんだけど」ナイトファルカーの横を擦れ違う。彼女は誘拐犯ではない。「ホントー?」少女の表情はコロコロと変わる。実際隙だらけだ。一時はキアイを見せていたが、長続きしない。興味があちこちに移る。何らかの精神誘導の疑い。
外部のセンはない。ならば内部。内心というやつだ。二重意識、あるいは三重意識。注意深く観察すれば分かる。たった一つの憎悪を除いて、右に左に揺らぐ。まっとうな保護者であれば、その多感では片付けられぬ不安定メンタルを指導なり矯正なりすべき。だがドブネズミはそうしない。
路地裏を通り抜ければベルリン内に多数ある橋のうちのひとつがあり、二人は橋を渡った。それなりの人通り。ドブネズミは更に人通りの少ない通りに入った。「どこまでいくのー?」「ちょっとそこまで」復讐は虐げられた者が行いうる正当な権利だと信じているからだ。
常識などという下らない倫理観でとりあげるなどとんでもない。「このへんかな」奥まったところでドブネズミのニューロンがチリチリと生存本能的警告を発した。「エー?なんにもないよ」更には変装用トレンチコートの背広側からカウボーイめいた投げ縄を引っ張り出した。
なにも少女に誘拐犯確保まで頼る気はない。ドブネズミはいまから勝ってメンポを確かめよ、というコトワザを実践してみせようとしていた。ミスれば死ぬという端的なザユウ・ミームが彼のニューロンにポップアップする。パラドックスのようだが、死ぬ覚悟の無い人間から死んでいくのだ。
アビインフェルノ・サーカス団のように。「そこのカドだよ」壁に並走するパイプラインが揃って90度曲がるコーナーをアゴで指し、ドブネズミは言った。そして縄げ縄ワッカをぐるぐるする。「ネーネー、なにしてるの?」「ぐるぐるしてる」「アタシもやりたい!」「あとでね」
人気のない裏路地コーナー地帯。首都ベルリン内に意図的か否か、無数にある警察巡回デッドゾーンの一つ。何らかの意図を感じるがドブネズミは深入りをしていない。ニューロンが警告したからだ。裏路地コーナーを曲がれば、一目で誘拐犯と分かる相手がいた。誘拐犯は隠れ潜みすらしていなかった。
誘拐犯は両手を合わせてオジギした。「ドーモ、ヴァイスサムニテです」「えっ」少女はロウバイした。ミスった。コンマ2秒で後悔と投げ縄ワッカを投げ捨てたドブネズミは、トレンチコート内側両脇に吊るした八丁のピストルを次々に真上へ放り投げた!この間ジャスト2秒!ハヤイ!
こ、これはまさか!暗黒大道芸!ジャグリング・ピストルカラテ!次々とピストルのゲキテツ・ハンマーが引き起こされる!ドブネズミは一つを構え、トリガーを引いた!発射!BANGBANGBANGBANG!ハヤイ!四連射!「ホッホッホッホッ!」ヴァイスサムニテは三次元的な駆動で回避!
左右のパイプラインを活かしているのだ!BANGBANGBANGBANG!ハヤイ!更に四連射!撃ち終えたピストルが次々と投げ捨てられ、瞬く間にアウト・オブ・アモー!「ホッホッホッホッ!」だがヴァイスサムニテは悠々と回避!最後に地上3メートル位置のパイプを掴む!プシューッ!
ジャグリング・ピストルで穿った弾痕からスチーム!「ヌウッ!?」ヴァイスサムニテは怯んだ!「ヌッ!」スチームを浴びてバランス崩壊落下したヴァイスサムニテは前回り受身!「だが今のでタマ切れだろう」ヴァイスサムニテはモータルの意外な健闘に驚き、称えた。
「ナイスファイト。だが無意味だ」タタミ一枚距離。「そうだ、ねっ!」グイイ!「ヌウッ!」ヴァイスサムニテがよろめいた!投げ捨てた筈の投げ縄ワッカがヴァイスサムニテの踏み出した足に絡んだのだ!縄を引くのはドブネズミ!まさかドブネズミはここまで考えて!?
否。投げ縄ワッカ直下にヴァイスサムニテが踏み込んだのは相手の増上慢。だが起こって欲しいウカツではあった。「ヌッ!」ヴァイスサムニテは更によろめいた。モータルに実力差を分からせようとしたカラテ拮抗が突如として無抵抗になり、カラテが空回りしたのだ。
ドブネズミはニンジャにカラテで勝てないのは経験済みであり、ツナヒキに付き合わず縄を手放した。その状況判断テンポアドバンテージの一瞬を活かし、ドブネズミは背中の固定具から最後のピストルを引き抜いた。ピストル?どこが?
アメリカ西部開拓者らが好んで使うショットガンの銃身を極限まで切り詰めた、近未来的ソード・オフ・ショットガン改善ではないか!即座にセーフティを解除し、ドブネズミは微塵の躊躇いも無く引き金を引いた。ダーン!散弾!
「イヤーッ!」「マジかよ」ヴァイスサムニテはブリッジ回避!タタミ一枚距離で散弾が拡散前であったのだ!「お嬢ちゃん!」恥もプライドも投げ捨てて、ドブネズミは叫んだ。「ド、ドーモ、ニンジャスレイヤーです」状況判断が遅い!ドブネズミは叱り付けそうになった。
その隙だけでヴァイスサムニテには十分だった。「イヤーッ!」「グワーッ!」近未来的ソード・オフ・ショットガン改善とともにドブネズミの右腕がひしゃげた。そして、パイプラインの走る壁面へ水平飛行し打ちつけられる。「グワーッ!」「えっ」プシューッ!複数パイプからスチーム多数!
(ニンジャとは聞いてないぞ、フォンゼ=サン、いや、確かに僕が調べるってことで話は決まったんだけどさ)10秒前後のブラックアウトから覚めたドブネズミは、ヨシナシゴトを考えることで言語化しがたい複雑な激痛を強いて無視した。
そして、死んだマグロめいた瞳で見た。「イヤアアアアーッ!」激しく抵抗するニンジャスレイヤー少女がヴァイスサムニテに押さえこまれ、子ども一人収納できそうなチャイルド・イナ・バッグに包み込まれんとするところを。ナムサン。少女はカラテ及ばず、いままさに誘拐されようとしている。
そして聞いた。「古代ローマカラテは魔技!身をもって分かっただろう!君は今日から古代ローマカラテを学ぶのだ!私のアプレンティスとなるがいいニンジャスレイヤー=サン!」ヴァイスサムニテと名乗ったニンジャが聞き慣れないカラテ流派を口にするのを。
どうしてこんなことが起こる?ただの社会見学じゃないか。裏側の。新鮮なカラテニュービー体験からの、サプライズ・インシデント。誘拐犯は捕縛され、拐われた子供たちは救われる。依頼者から救助特別報酬。そして最後にドブネズミが今日の出来事を教訓に語って1日を終える……
そんなメルヘンめいた話は終わる筈だった。予定では。何故ニンジャなんだ。ナンデ今回に限って。ニンジャがクエストを滅茶苦茶にした。ナンデ……ナンデ!チクショウ!これこそが大きいクエストと小さいクエストの前金を両取りしようとしたヨクバリに向けた、メルヘンからのインガオホーなのか。
ドブネズミは再び少女を見た。そして息を呑んだ。チャイルド・イナ・バッグから手を伸ばす少女の両目が邪悪に見開き、センコめいて瞳が小さく収縮し、赤く光ったところを見たのだから!
(「ファースト・クエスト・ファースト・ショー・オフ」#2終わり、#3に続く)