ドブネズミはベルリン区画整理区内、下層階級のワケありどもが集うパンカラス地区のアパートメント「ミニミ」でニンジャとルームシェアしていた。ドブネズミというのは偽名で、本名を他人に名乗ったことがない事が数少ない自慢であった。
ルームシェア相手がニンジャになったのは半年前で、夏の熱い時期だった。ヤバイ工場ワークの最中にまずい動きがあったらしく、パイプラインから吹き出た重化学スチームを直接浴びて死んだという。死んだというのに、生きて戻ってきた。ニンジャになって。
その日から名前も変えて、ミンナペロリと名乗った。意味のわからぬおかしな名前だとドブネズミは思ったが、口には出さなかった。ドブネズミはその時はじめてニンジャというものをみたが、それほど恐ろしいものとは思わなかった。感性が死んでいるからだ。
感性の一般的な人間ならば、ニンジャを見ると失禁したり発狂死するほどコワイと感じるようだ。一階のレーベンがそれで死んだ。いや、レーベンの妄想癖は一般的ではなかったか……ともあれ、ミンナペロリはニンジャになってからヨタモノめいて、毎日遊んで暮らしていた。
ラットレースにのめり込み、オペラに忍び込み、オイラン遊びも覚えた様子。何故そんなことを知っているのか?ドブネズミは真偽定かならぬ新聞よりも正確な情報を切り売りして暮らしているからだ。世の中には常識では到底考えられないオカルト話もチャメシ・インシデントだ。
それらがフェイクニュースではなくニンジャ真実だった、可能性がある。「まあ、そういうこともあるだろう」と思える強かさがドブネズミにはあった。否、強さではなくイビツさだ。ドブネズミは両親を殺したときも悲しいと思わなかった。その頃には感性が死んでいたからだ。
病気、借金、人身売買。感情を殺さねば発狂死するアビインフェルノ・サーカス団。冒涜的な仮面マスク観客が望むものはサツバツ・エンタテインメント。ドブネズミは望まれるまま、なんでもつかい、なんでもやった。やがて血の繋がりからなるインガオホーを断った。
色々あったのだ。ドブネズミは故郷を捨て、懐の深いネオプロイセン連合王国に密入国した。ニンジャとのルームシェアは半年続いたが、それがいま終わろうとしている。なんの解決策もない過去の回想は終わり、死んだマグロめいたドブネズミの瞳が現実を写す。
「酷いやつだ。こんな罠を仕掛けるなんて」白黒ツートンカラーのニンジャ装束を纏ったニンジャ、ミンナペロリはトゲの生えるネズミ捕りを右手に食い込ませたまま、ドブネズミを左手で持ち上げていた。「アバッ……」「ユウジョウだと思ってたのに」ミンナペロリの顔には落胆があった。
ドブネズミの顔は既に、ニンジャのネコパンチにより酷く腫れていた。「お前はニンジャだからってビビんないし、何でも知ってるし、ジョークも面白いし、貯金だってあるし」ミンナペロリの言い訳めいた下らぬ言葉が続く。(どれほど語ったところでどうせ殺すのだろう?)ドブネズミは確信していた。
ドブネズミはゴールド・トークンを壷に入れて、まず盗まれる心配の無いベルリン大聖堂の祭壇の下に蓄えていた。紙幣は信用できない。銀行が潰れたら終わりだからだ。ところが秋のある日、壺へ貯金しにいくとゴールド・トークンが減っていた。ベルリン大聖堂に事件があったという情報はなかった。
悪徳プリーストであれば丸ごと奪う。疑問に思いつつ何度も壷の隠し場所を変えたが結果は同じ。冬になり、蓄えの大半が失われた大晦日の夜、ドブネズミは壷の中にネズミ捕りの罠をしかけて再びベルリン大聖堂の祭壇の下に隠した。犯人はミンナペロリだとわかった。だからいま、殺されそうになっている。
「アバッ……アッシもそうでヤンス」ドブネズミはかろうじて口を動かした。「ニンジャになってやることが、ヨタモノ遊びと、ルームシェア相手からのスリなんて、ケチなことだけだなんて思わなかったでヤンス」SMASH!「グワーッ!」ミンナペロリはドブネズミを床に叩きつけた。
だが生きている。「減らず口を叩く元気はあるみたいだな、ドブネズミ=サン」ミンナペロリはドブネズミの脇腹を蹴りつける。「グワーッ!」「なあ、ラットレースでもするかい?」更に蹴り。「グワーッ!」シャウト無きカラテに力は篭らぬ。手加減しているのだ。甚振っている。
「必死に逃げてみろよ。逃げ切ったらユウジョウのよしみで見逃してやるよ。追いついたら殺す」そう言って、ミンナペロリは右手からネズミ捕りを剥がし取り、カウントダウンを始めた。ドブネズミは立ち上がることさえできなかった。ラットめいて床を這うことしかできぬ。
モータルとイモータルのカラテ差は筆舌尽くしがたく、圧倒的に離れていた。ああ、この都市ニンジャ伝説めいた近代メルヘンは救いが無いまま終わるのか!?その時である!「イヤーッ!」CRASH!何者かが大聖堂ステンドグラスを蹴り破った!なんとバチアタリな!
ガラスシャワーがミンナペロリを襲う!「ヌウーッ!ナニヤツ!」ミンナペロリはバック宙ガラスシャワー回避し誰何!赤黒の影はくるくると回りながら、タタミ6枚距離でしめやかに着地した。そして素早く両手を合わせてオジギする。
「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ミンナペロリです」アイサツは絶対不可侵の礼儀である。アイサツされれば、返さねばならない。古代ローマ史にも書かれている。エジプト壁画や古事記にもだ。
「邪魔な」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは1秒と待たずモンド・ムヨーのスリケン投擲!「ニャーッ!」ミンナペロリはネコシャウトとともにブリッジ回避!(((そやつはネコ・ニンジャクランのレッサーニンジャなり!弱敵!)))(うるさい!)
ニンジャスレイヤー少女はなんだかでっぱっていて見た感じ弱そうなブリッジ部分を破壊すべく飛び上がり、ブリッジ・ストンピング!「ニャーッ!」ミンナペロリはネコめいた柔軟性でブリッジ姿勢から上体を起こし対空ネコパンチ!「ンアーッ!」
ニンジャスレイヤーの足は短く、ストンプが届く前にネコパンチで打ち落とされた!未成熟!(((バカ!ブリッジ姿勢のニンジャへ飛びかかるなど愚の骨頂!今のがサマーソルトキックであればオヌシは既に死んでおるぞ!儂に身体を貸せ!手本を見せてやる!)))(うるさいうるさいうるさい!)
ニンジャスレイヤーは6連続バックフリップし距離こそ取ったが、実際イクサの機微など知らぬ少女に何ができる?拙いニンジャ感覚に任せているだけではワザマエあるニンジャをスレイなどできないぞ!?「なんだァ?ニンジャ初日かァ?」ミンナペロリは嗜虐的に笑った。
「ガキが調子に乗るなよ?分からせてやる」ミンナペロリはちらりとドブネズミを一瞥し――そうするだけの余裕があるという増上慢の発露だ――そしてニンジャスレイヤーに向けてネコカラテを構えた。ネコカラテとは?
【ネコカラテ!それはムエタイの源流とも言われるコンパクトでミニマルなカラテ応酬を主軸に置く古代カラテである!後ろ足に重心を乗せ、前方に出した足は爪先立ち。両肩を竦め、両手首をメンポの高さで猫めいて90度曲げ、首を守る構えが基本姿勢だ!】
【その両手はあらゆるパンチやチョップに対応し、コンパクトに反撃可能!爪先立ちの前足は迎撃、膝蹴り、足払いに即応!前後の足重心を入れ替えて180°ターン可能!絶対強い!確実に強い!欠点は機動力に欠ける程度!――ミンメイ書房・カラテ大技林から抜粋な】
「ニンジャ殺すべし……」「アァン?殺されてぇのかァ?」「ニンジャ殺すべし!」ニンジャスレイヤーは殺意を研ぎ澄ませ、矢のように駆ける!まさかヤバレカバレになったのか!?「バカが!死ね!ニャーッ!」ミンナペロリは前足迎撃ネコキック!「イヤーッ!」
ニンジャスレイヤーはニンジャ動体視力でネコキック駆動を完全に目視回避し、這うように懐へ潜り込む!「ニャーッ!」ミンナペロリのコンパクトな迎撃ネコパンチ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはニンジャ動体視力でネコパンチ完全目視回避!
「ニャーッ!」ミンナペロリはミニマルなネコ肘打ち!「ニャーッ!」ニンジャスレイヤーは完全同調相殺!な、なんだってー!?どこにそんなワザマエが!「ニャーッ!」「ニャーッ!」ネコ膝キック完全同調相殺!ま、まさかこれは!?「ニャーッ!」「ニャーッ!」ネコフック完全同調相殺!
いや、そうとしか考えられない!だがありうるのか!?……これ以上の考察で読者諸君を混乱させたくない。現時点での予想だけ申し上げよう。このカラテはゴールデンエイジのニンジャが深い集中状態になったときのみ成し得るであろうと想定された机上の空論!カラテ・ミラーリング!
どれほどカラテの才能あるモータルであろうとゴールデンエイジのうちにニンジャになることはない。そう結論付けられ歴史から姿を消していた……ニンジャソウル憑依真実の明かされぬ太古の歴史から!
「ニャーッ!」「ニャーッ!」完全同調相殺!「ニャーッ!」「ニャーッ!」完全同調相殺!「ニャーッ!」「ニャーッ!」完全同調相殺!「ニャーッ!」「ニャーッ!」完全同調相殺!「ニャーッ!」「ニャーッ!」完全同調相殺!「ニャーッ!」「ニャーッ!」完全同調相殺!
ゴウランガ!それは若さというニンジャスレイヤー少女唯一の強みが成せるワザなのか!カラテ衝突しているのにカラテ斥力が発生していない。ナンデ?正直に申し上げよう。分からぬ……私にだって分からぬカラテ原理はある……この世のカラテ全てを知り尽くした人間などいるだろうか?いや、居まい。
カラテ・ミラーリングによる完全同調相殺など机上の空論……前例はない……だがいまここに、実証例が生まれつつある!もしも読者の中にニンジャアカデミー在籍のカラテ学者の方がおられるならば、各種データーの取得を急いでいただきたい!
(((無意味!所詮児戯よ!いつまで遊んでおるつもりだ!マトモに打ち合えば先にカラテ尽きるのはこちらが先ぞ!ええいまどろっこしい!ワザとワザを打ち合わせるのではなく、見切ってかわし、ひとまずボディを打て!本陣をカラテ制圧するべし!)))「ニャーッ!」
ニンジャスレイヤーのネコ肘打ちがミンナペロリのネコ肘打ちを掠めるようにすり抜け、左脇腹を抉った!「ヌウーッ!」だが威力に不足!「こンのサルマネ野郎!ニャーッ!」ミンナペロリの前足ネコ足払い!「ニャーッ!」ニンジャスレイヤーはちょこまかと回避し肘で右脇腹を抉る!
「ヌウーッ!離れろ!ニャーッ!」ミニマルネコチョップ!「ニャーッ!」ちょこまかと回避し左脇腹を執拗にネコ肘打ち!「ヌウーッ!ニャーッ!」反撃ネコ膝キック!「ニャーッ!」ちょこまかと回避し右脇腹を執拗にネコ肘打ち!「ヌウーッ!」
ニンジャスレイヤーがミンナペロリの周囲を凄まじい勢いでぐるぐるしている!正しいチョップの打ち方も知らぬカラテニュービーが、見様見真似の愚直なネコ肘打ちだけを武器に!「イヤダーッ!こんな初日みたいなニンジャに負けたくないーッ!」ミンナペロリのヘイキンテキに乱れが!?
「ニャーッ!」ニンジャスレイヤーの更なるミニマルネコ肘打ち!「ニャーッ!」ミンナペロリは堪らずブリッジ回避!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは本能的にブリッジ先端爪先部分へストンピング!「グワーッ爪先グワーッ!」痛烈!ミンナペロリのカラテが乱れ、ブリッジが崩れた!
「ニンジャ殺すべし!」「ヤメローッ!もう一回やったら俺が勝つハズだーッ!」「慈悲は無い!イイイヤアァーッ!!」ニンジャスレイヤー少女渾身の拙いカラテチョップがミンナペロリの顔面を潰す!「サヨナラ!」ミンナペロリはしめやかに爆発四散した。
「フゥーッ……ハァーッ……」少女は二度、息を吐いた。プシューッ!赤黒ニンジャ装束全体からスチームめいた熱気が噴出。いま少しカラテラリーが続けば、少女の未成熟な全身は高カラテ圧力に耐えきれずマッチめいて燃え上がっていたことだろう。赤黒に。
◆カラテ休憩◆
◆マインドセット◆
ニンジャスレイヤー少女はラットめいて床を這いずる小汚い男を見つけた。そして早足でツカツカと歩み寄る。足音に気付いたドブネズミは、それでも生を諦めず這いずりつづける。少女はその男の腕を肩に回し、立ち上がらせた。
「ウワッ顔痛そう。ダイジョブですか?」ドブネズミは死んだマグロめいた眼差しで少女を見返した。今の少女の瞳に狂気なく、カワイイであった。「ナンデ?」「何がナンデ?困っている人を助けないのは腰抜けだっておばあさまが言ってたモン」少女はどこか自慢げであった。
「フーン、そっか」ドブネズミは無感動に返事をした。「そりゃあ良いおばあちゃんだ。大事にするでヤンス」少女の顔が曇った。「でも、ニンジャに殺されちゃった」「フーン、そっか」ドブネズミは思考を回し、振り返った。「ミンナペロリ=サンは?」「アタシが殺した」
少女の目付きが鋭くなった。仄暗い狂気が渦を巻く。「フーン、そっか」ドブネズミは無感動に返事をした。「そりゃすごい」ドブネズミに悲しみはなかった。喜びも、安堵も。少女への恐怖も。感性が死んでいるからだ。「おじさんはどうしてこんなところにいたのかしら?」少女は小首を傾げた。
瞳は既にカワイイに戻っていた。「アッシはまだおじさんじゃない。お兄さんでヤンス」「アッゴメンナサイ」ドブネズミは己の頬をなでた。「ミンナペロリ=サンとトラブル。死にかけた」「痛そう」カッ!その時、割れたステンドグラスに向けてサーチライトが伸びた!ネオプロイセン警察が事件性を察知!
「逮捕されたら銃殺刑だ。こっちに……ヌウーッ!」「ダイジョブ?ポンポン痛いの?」「痛いけど、死ぬよりマシ。ちょっとアッシの言う方向に進んで欲しいでヤンス」少女はドブネズミの示すルートを通って秘密裏にベルリン大聖堂を出た。
何故か大聖堂関係者の誰とも出会わなかった。安全ルートに精通しているのか、事前に何かしらの工作をしていたのか、大晦日だからなのか……少女はそういったフシギに思い巡らせることなく、ただ純粋にドブネズミを心配し、肩を貸しつづけた。
体格差が酷く、実際歩きづらい。だがその無垢な態度が、ドブネズミ自身も自覚せぬ琴線にするりと触れたのだ。……グゥー。区画整理され、点々とガス灯の並ぶアイゼン通りに出たところで、少女の腹の虫が鳴った。「お腹空いた……」「奢ってやるよお嬢ちゃん。なに食べたいでヤンス?」
「スシ!」少女はカワイイな笑顔で声を上げた。「……スシかぁ……ま、ダイジョブダイジョブ。とにかくどうにかするでヤンス」「ワーイ!ヤッタ!」それから二人は、スシ屋までの道中で幾つものヨシナシゴト(訳注・他愛も無い会話)を交わした。たとえば、こうだ。
「お兄さん、ヤンスってなあに?」「こいつはアッシの発明でヤンス。語尾にヤンスとつけると、聞いた相手はこっちを存在格下に感じるでヤンス。実際便利。こいつでメシ食ってるでヤンスよ」「それでご飯食べられるの!?スゴイ!」「だが、お嬢ちゃんくらいの歳ごろには意味無いな。新発見だよ」
「お嬢ちゃんは一人かい?仲間は?」「仲間?」「アー家族は?」「みんな死んじゃった」「フーン、そっか。アッシと同じだな」「そうなの?」「ちょいと前に同棲相手が死んだところ。お嬢ちゃん、寝床はあるかい?」「無いよ?」「じゃ、泊まってくといい。空いてるベッドならある」
わざわざその全てを描写する必要はあるまい。二人はスシ屋でスシを食べ(ドブネズミは店主に何らかの貸し借りを用いて無理を言った)ドブネズミの住むアパート「ミニミ」内のスチーム風呂で身を清めて眠り、元旦に目覚め、朝にはベーコンを乗せたパン・トーストを食べた。
「どうしましょうお兄さん。アタシ、昨日とんでもないことしちゃってたわ」その席で、少女は顔を青くして震えていた。「オネショでもした?」「してない!」少女は顔を真っ赤にした。「アタシ!グレート・カテドラルのステンドグラス割っちゃった!」何度も大げさなジェスチャーを繰り返す。
「実際罪深い!死んだら行き先はジゴクですよ!ウワーン!」「フーン、そっか。信心深いね」ドブネズミは軽く流した。「ジゴク行きがイヤなら、ミンナペロリ=サンを殺したのはナンデ?」「ニンジャだから」とたんに少女はジェスチャーを止め、真顔でそう言った。
「殺人は十戒だろ。ジゴク行きな」「ナンデ?ニンジャは人間じゃないでしょう?」少女はさも心外であるかのようにキョトンとした。無邪気コワイ!「人間の皮を被ったアクマ。中身はモンスター。きっと主もニンジャは殺せと言っている」少女の目つきがおかしい。
「お嬢ちゃん、ニンジャ憎いかい」「憎い。ニンジャはみんな殺してやる」少女の瞳に狂気が宿る。3パターン。ドブネズミは注意深く少女を観察した。「フーン、そっか。お嬢ちゃんは運がいい。アッシは情報屋でね。ニンジャかもしれないネタも持ってる」「教えて」
瞬きの後には、ニンジャスレイヤー少女はドブネズミに詰め寄っていた。「ニンジャのネタはオカルトが多くて不確実。アッシは正確な情報でビシネスしてるから話したくない」ガシッ!ニンジャスレイヤー少女は椅子に座るドブネズミの胸倉を掴んだ。「イジワルしないで」コワイ!
だがドブネズミは動じぬ!「だからアッシが正確だと思った情報を話す」胸倉を掴まれることも構わず、言葉を続けた。「アッシが知るニンジャの噂には、一つ共通点がある」「それは何?」「民間伝承メルヘン伝説、あるだろ?」「ウン。メルヘン聞くの好き」胸倉を掴む手の力が緩んだ。
「フーン、そっか。だがな、メルヘンの影にはニンジャ存在がちらつくのさ」それはドブネズミなりの一つの真実であった。「メルヘンはニンジャ真実のカバーストーリーなのか?蘇ったニンジャの中に、伝説と同じことを繰り返してるヤツがいる……って所までがアッシの予想、精査はしてない」
いかにも狂人好みの戯言。オカルトだ。世の中にはメルヘンがたくさんあり、実質何も言っていないのと同じだ。「時間をくれたら、裏取りするが」「するが?」「お嬢ちゃん、カネ持ってるか?」ビジネスとして動くなら、報酬は必須。死んだら終わりだが、カネがなくとも終わるのだ。
既にベルリン大聖堂は「外して保持」のプロイセンテープで厳重に囲われている。壷のゴールド・トークンは絶望的だろう。証拠物件として押収だ。手持ちの大半は少女にスシを奢るために使ってしまった。ドブネズミにとって、カネは切実な問題だった。
「……」少女は無言でケープ(訳注・カワイイなマント)のポケットをまさぐり、幾つかのマッチを取り出した。「これは?」「アタシの全財産。ネーネー、これで足りる?」「オーマイブッダ」ドブネズミは両手で顔を覆った。それから腕を組んだり、額を右手中指で叩いたりした。
「よし、こうしよう」そして何らかの結論を出した。「まずお嬢ちゃん、暫くここに住め」「いいの?」「ノープロブレム。住んでるやつが入れ替わっただけ」住む場所の無い少女を放り出せば、いつ誘拐犯に誘拐されてもおかしくない。身を清めた少女にはそういうカワイイさがある。要保護。
「次にビジネス。手を貸してほしい問題がある。幾つかの」「……」ドブネズミは少女を見た。理解がおよんでいるか不安だった。「その報酬にアッシがカネを出す。そのカネで、お嬢ちゃんはニンジャのネタを買う。どうだ?」少女は右に左にと何度も首を傾げた。
難しかっただろうか?ドブネズミは相当かんたんに説明したつもりだった。これ以上の簡略化は難しい。少女はいまだに右に左にと何度も首を傾げ、次にイマジナリー・ハンドゼスチャーし、やがて掌の上を拳で叩いた。「お兄さんのお願い聞いたら、アタシのお願いも聞いてくれる、ってコト?」
「ブルズアイ。お嬢ちゃんは賢いなあ」「エヘヘ」少女はペドフィリアの者が見れば即座に誘拐するほどのカワイイな笑みを浮かべた。ドブネズミはカワイイともなんとも思わなかったし、無表情のままだった。ペドフィリアではないからだ。
こうしてニンジャスレイヤー少女は暫くの間、ニンジャも恐れぬ情報屋、ドブネズミとともにベルリンに住む事となった。ニンジャを殺すために。
(「キャッツ・フレンズ・ドブネズミ」終わり)
◆忍殺◆ニンジャ名鑑#002【ドブネズミ】◆少女◆
感性が死んでいると嘯くニンジャも恐れぬ情報屋。
敵か味方か、ニンジャスレイヤーに復讐の道筋を示す過程で利益を得ようとする。
死んだマグロめいた目が特徴。その過去には謎が多い。
◆忍殺◆ニンジャ名鑑#003【ミンナペロリ】◆少女◆
首都内にナワバリを持てるほどのカラテを持つヨタモノニンジャであったが、ニンジャスレイヤーとのイクサではカラテラリーのリズムが狂い、リズムの乱れがヘイキンテキの乱れに繋がった。ショッギョ・ムッジョ!