白銀に繁る森林が、いまは人の立ち入るべき時期ではないと静謐のうちに物語っていた。枝葉に繁っているのは木の葉ではなく雪。木漏れ日めいて光が差し込む先に地面の露出はなく、ほとんど痕跡の無いありのままの雪。足跡を見たとて汚泥が姿を表すことはない。
雪面には人一人歩いた痕跡が延々と続いている。一人?違う、十三人だ。ザッザッザッザッ。1ダースのメン・イン・ブラックが森の中を一列になって歩いている。その足跡、足音は一つ。一糸乱れぬ歩行。服装はベーシックな黒スーツだが、履物はスノーシューズに変わっている。
その手には……ナムサン。鉄製のキコリアックスだ。彼らはキコリとして雪残る森の中へ伐採に来たのだろうか?否。彼らの目的地はヴァーレン南東に点在する小規模湖群のうちのひとつだ。その歩みは、目的地までの進行ルートをインプットめいて暗記しているかのよう。
実際その通りで、彼らは目的地をインプットされている。ザッザッザッザッ。ザッ。不意に、先頭のメン・イン・ブラックが右胸ポケットから懐中時計を取り出し、長針がⅫを指した瞬間に足を止めた。そして口を開く。
「定時になったので点呼します。イチ」「ニ」「サン」「シ」「ゴ」「ロク」「シチ」「ハチ」「キュウ」「ジュウ」「今何時?」「十一時です」「ジュウニ」ワッザ?「ジュウイチバン=サン。時刻確認は私がしています」「スミマセン、つい」「つい?」
イチバンのメン・イン・ブラックは問い返しこそしたが、あまり状況判断機能が発達していない。数秒間停止したが、また再稼働した。「……まあいいです。行きましょう」「「「「ヨロコンデー」」」」いま何かおかしくなかったか?視点カメラをズラしてみよう。
……アッニンジャスレイヤー少女!ニンジャスレイヤー少女がジュウニバンのメン・イン・ブラックの背後に立ち、いっそ清々しいほど堂々ストーキングしているではないか!ナンデ!?その答えは、少女の地理理解力にある。
ニューロン酷使熱が収まった少女はドブネズミからの情報により、第一のメルヘンニンジャ位置情報を特定したわけであるが、地図から該当地に辿り着ける自信が全くなかったのである。そこで少女は、この時期に躊躇いなく森へと侵入するメン・イン・ブラックを追跡したのだ。
まずはヴァーレンに赴き、疑惑のナリキン、オーロンに対しニンジャにしてはかなり控えめに邪悪ではないインタビューで情報を聞き出したあと、ニンジャスレイヤーと目的地を同じくするメン・イン・ブラックを道案内に出発させたという経緯がある。
だが味方存在としたわけではない。なんかそういった登録作業はいろいろとめんどうでふくざつなこうていがあるしどうかんがえてもじかんがかかるっぽいらしいのでニンジャスレイヤー少女はカットしたのだ。閑話休題。スニーキング行程はつづく。
真後ろというのは、実際気付きづらい。人体は基本的に前を見る作りになっており、首が180度回転する構造にはなっていない以上、背後を確認するには相当以上に身体を捻らなければならない。その動きさえニンジャ観察力で察知してしまえば、距離を置いてストーキングするより発見されづらいのだ!
なんたるニンジャ野伏力を活かしたスニーキングか!バキバキバキッ!先頭メン・イン・ブラックが折れた枯れ木の枝を踏み越えて進む!バキバキバキッ!ニバンのメン・イン・ブラックも折れた枯れ木の枝を踏み越えて進む!何故?ほんの数歩避ければ躱せるというのに。
残念ながら、その発想はバイオホムンクルスのずのうしすうを高評価しすぎているといわざるをえない。現時点での彼らは進行ルートをインプットされたなら、柔軟性無くその通りにしか進行できないのだ!だがこれは、ニンジャスレイシャー少女にとって逆境だ。
このまま進めば折れた枯れ木を踏む足音で13番目の少女存在が流石にバレてしまう。ほんの数歩避ければ、今度は新雪を踏みしめる音の違いが如実となる。違和感は必定!どうするニンジャスレイヤー少女!バキバキバキッ!バキバキバキッ!バキバキッ!バキバキッ!
枯れ枝が次々と踏み折られ、その音色を変える!誤魔化すことは実際難しいのでは!?バキバキッ!バキバキッ!バキッバキッ!バキッバキッ!バキッ!バキッ!jump……ザッ!ザッザッザッ!少女はシャウト無きジャンプで音のなる折れた枯れ木も新雪も踏まずにクリア!その調子でスニーキングだ!
実際この道のりに行き着くまで1エピソードンでは語りつくせぬインシデントがあり、色々あったのだ。特にリアルな冒険はフィクションやファンタジーめいて楽しい事ばかりではない。鉛色の不安に苛まれる決断の連続……寄せては返す後悔と郷愁……コワイ!それが冒険の正体だ。
ヴァイスサムニテを惨たらしくスレイした、その二週間後!ニンジャスレイヤー少女はついにヴァーレン地方に点在する小規模湖群のうちのひとつ、トアル湖に辿り着いたのだ!半ばで幾つかのスニーキング難所が待ち受けていたが、少女は知恵と機転で乗り越えた。
そして、柔らかな陽光と雪景色がシンピテキなイルミネーションを描くトアル湖の湖畔に出る直前、ひめやかに列を抜け出し幹の太い木の背後にその姿を潜めたのである。情報によると、ここに現代まで語り継がれるミームを残す伝説のニンジャが存在するらしいが……その真偽は如何に?
縦一列に並んでいる12人のメン・イン・ブラックはこのあとどうする?(((ホムンクルスは殺しましょう。もう用済みでは?)))(静かに)潜伏少女の目前で、先頭メン・イン・ブラックがキコリアックスをトアル湖に投げ入れた。「ザッケンナコラー!」ヤクザスラング!
crash!薄く張った氷が簡単に砕け、冷たそうな水しぶきをあげた。メルヘン伝説では、キコリワークの最中にアックスを泉に落とすと女神が現れるのだが……水面が持ち上がって実際現れたのは、全裸の液状メン・イン・ブラック擬態者であった。ワッザ?
そのチキビや股間部は超自然的な発光現象で隠されているので健全だ。女神とはなんだったのか。それともジツの類だろうか?漠然としたニンジャリモートワーク性を感じぬでもない。全裸の液状メン・イン・ブラック擬態者はおもむろに口を開いた。「あなたが投げ入れたのは銀の斧ですか?」
右手に銀の斧をカラテ生成。「イイエ」「それでは金の斧ですか?」左手に金の斧をカラテ生成。「イイエ」「それではこの、鉄の斧ですか?」トアル湖に落ちた鉄の斧が水面から浮かび上がる超自然的な現象。「ハイ」「よろしい。正直者には全部あげましょう」「ハイ」なんたるYES/NO回答か!
伝説と完全に一致。たったそれだけのことで三つの斧を受け取ったメン・イン・ブラックは帰路についた。あの金の斧と銀の斧を換金し、オーロンは悪徳の財を高め、そして成敗されることとなった。ナムアミダブツ。彼らはもはや帰るべきホームポイントが無い事を知らぬ。
やや間をおいて、全裸の液状メン・イン・ブラック擬態者が湖に戻れば、次のメン・イン・ブラックが鉄の斧を投げ入れた。「ザッケンナコラー!」(((ああバイオホムンクルス!なんと邪悪な!少女!見逃してはなりません!)))テンシめいた声がとにかく少女を誘導したがる!(シーッ!)
だが少女は誘導を受け流す。ファースト・コンタクトはとても険悪であったが、今では多少の会話はする。色々あったのだ。(((バイオホムンクルスは人間ではありません!主もきっとバイオホムンクルスを殺せと言っている!)))テンシめいた声はサツバツだ。コワイ!(静かにしてよモーッ!)
ドサッ!「誰かいるのか?」その時である。少女の感情の揺らぎからの振動が幹を揺らし、枝に積もる雪を落としたのだ!「シマッタ!」プシューッ!潜伏する少女の頭上からスチームめいた熱気がエクスパラメーションマークとなる!ああ経験不足!うまく潜めばやりすごせたカモ!
「誰だ!」メン・イン・ブラック警戒態勢!「なにか居ますね」「私が見ます」イチバン、ジュウイチバン、ジュウニバンが小隊チームとなって少女潜伏箇所に近づく!(((少女!バイオホムンクルスはいつかバイオニンジャになります!邪悪錬金術の進歩!分かるのです!いまのうちにゼツメツを!)))
テンシめいた声が少女を煽る!(バイオニンジャ!?)少女の豊かな空想が憎悪の炉に直結!内燃機関燃焼!「ニンジャになるまえにみんな殺してやる!」「ナニヤツ!」ニンジャスレイヤー少女の右手がしなり、カラテ生成したスリケン投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」
スリケンはイチバンのメン・イン・ブラックの額に突き刺さり即死!「「「「ザッケンナコラー!」」」」たちまち残る11人のメン・イン・ブラックが戦闘体制となる!「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「「「「スッゾコラー!」」」」返事はチャカだ!BBAANNGG!
銃声が重なる統一感!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤー少女はブリッジ回避!そしてネコめいた柔軟性で上体を起こし、再びスリケン投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」ジュウイチバンのメン・イン・ブラックの喉に突き刺さり即死!
残る10人のメン・イン・ブラックがチャカを捨て、キコリアックスを両手で構えた!ニバンだけは左胸からボー・スティックを取り出し装備!「「「「シネッコラー!!!」」」」そして一糸乱れぬ動きで少女を囲もうと駆け寄る!スノーシューズ装備なので滑らない!「イ、イヤーッ!」
駆け寄られる前にニンジャスレイヤー少女の右手がしなり、カラテ生成したスリケン投擲!「グワーッ!」雪に足を取られ、狙いが逸れてニバンのメン・イン・ブラックの股間に突き刺さり即死!だが敵の数が多い!残る9人のメン・イン・ブラックがニンジャスレイヤー少女に肉薄!「イヤーッ!」
駆け寄られる前に少女の右手がしなり、カラテ生成したスリケン投擲!「グワーッ!」次は狙い通りジュウニバンのメン・イン・ブラックの喉に突き刺さり即死!あと8人を相手にスリケンを投げる間合いはもはや無い!未だ道半ばのネコカラテで応戦すべし!
「ニャーッ!」前足迎撃ネコキック!「グワーッ!」もはや番号の分からぬメン・イン・ブラックの股間破壊しあと7人!「ザッケンナコラー!」先頭メン・イン・ブラックがキコリアックスを振り下ろす!「ニャーッ!」キコリアックスを迎撃ネコフックで横から逸らす!ワザマエ!
「ニャーッ!」流れるようにコンパクトなネコ肘打ち!「グワーッ!」メン・イン・ブラックの内臓に重篤なダメージ死!あと6人!「「「「シネッコラーッ!」」」」ああ!メン・イン・ブラックがニンジャスレイヤー少女を囲んでキコリアックスを振り降ろす!アブナイ!
ネコカラテは全方位対応していないぞニンジャスレイヤー少女!かわせ!「ニャーッ!」あ、あれはネコカラテ奥義!ネコゾリ・ノバシ・アシ!「グワーッ!」説明しよう!ネコカラテ奥義、ネコゾリ・ノバシ・アシとは!?
【ネコゾリ・ノバシ・アシ!ネコカラテ特有の柔軟性を活かし、前屈からなだれ込むように前傾姿勢となって額から正面敵の股下を潜り抜けて攻撃を回避しつつ死角へ!下半身通過時、左右どちらかの踵部を振り上げ股間を痛打!敵には突如敵が消え、そして謎の股間痛を感じる大技だ!】
ニンジャスレイヤー少女は正面メン・イン・ブラックの股下を抜け、右足踵でその股間を破壊したのだ!あと5人!前後の足重心を入れ替えての180°ターン回転エネルギでスリケン投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」あと4人!
「「「「ザッケンナコラー!」」」」メン・イン・ブラックたちは一斉にキコリアックスを投擲!「イヤーッ!」少女は側転回避!「「「「スッゾコラー」」」」メン・イン・ブラック達は左胸からボー・スティックを取り出す!「イヤーッ!」
少女は2連続バックフリップして距離を取る!雪で滑る!追いすがるメン・イン・ブラック4人!「イヤーッ!」「グワーッ!」スリケン!あと3人!その時である!「少女一人に寄ってたかって暴力するのは感心しませんね」ニンジャスレイヤー少女の背後からニンジャスレイヤー少女の声が!
次の瞬間、イチバンのメン・イン・ブラック死体が持つ2つの斧がひとりでに高速回転しはじめたではないか!「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」ネンリキめいて動いた2つの斧が3人のメン・イン・ブラックを全員瞬殺!……メン・イン・ブラックは全滅した。
クルクルクルクル!ダブルアックスが少女を避けるように弧を描き、トアル湖へ飛んでいく。CACTH!「あの者はこの斧を受け取るべき存在ではなかった」その声は、全裸の液状メン・イン・ブラック擬態者のものから、少女めいた声に変わっていた。
ニンジャスレイヤー少女は再び前後の足重心を入れ替えての180°ターンし、両手を合わせてオジギした。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです。アリガト」感謝を述べたのはトアル湖に立つ神秘的な存在が助勢してくれたとアトモスフィアで分かったからだ。
少女の目前には……ナムサン。全裸の液状少女擬態者がトアル湖の水面に立っている。危険だ。だがチキビや股間部は超自然的な発光現象で隠されており、健全だ。卑猥は一切無い。
全裸の液状少女擬態者もまた両手を合わせてオジギした。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。イズミ・ニンジャです」木々のざわめき。静謐の空間。静かなる時の重みが場に滞留した。
【グッド・オア・バッド・オア・デッド・オア・アライブ】#1終わり。#2に続く