深い暗黒の帳の闇の深遠に本体を隠す神話級ニンジャ。戯れにモータルを自身の管轄するユメミルコトダマ空間に引きずり込み弄ぶが、ウカツとかファンブルとかの理由で回線が混線してニンジャを招くこともたまにある。
少女が目を覚ますと、タタミ敷きの四角い部屋であった。「え」それはシュギ・ジキと呼ばれるパターンで、十二枚のタタミから構成されている。四方はコンクリート壁であり、それぞれの中央位置に扉がある。扉にはそれぞれ、オタマ、マキモノ、ゾウ、奴隷の見事な墨絵が描かれている。
部屋の中央にはチャブテーブルがあり、卓上にはミソ・スープが置かれている。チャブテーブルの上にはフラスコめいた器が吊るされ、謎めいた発光現象を起こしている。神秘的な。「え」少女は何故か白いニンジャローブめいた襤褸切れを着ていた。
室内には少女の他に、少女と同じく白いニンジャローブを着た褐色少女と、全身が罅割れ、顔を死のベールに覆われた成人女性が居た。「グググ……ゾウ・ニンジャか!デカシタ!キンボシ・オオキイ!グハハハ!」褐色少女は突如として高笑いを上げた。
そして、室内を見渡して目星をつけ、チャブテーブル下に手を差し込んだ。「ここは、いつものローカルコトダマ空間ではありませんね。アトモスフィアが違います」成人女性はじっくりと四方の扉に視線を飛ばし、それぞれの絵の意味を探っていた。少女は未だにぼんやりとしている。
BANG!褐色少女は卓上にニ枚の藁半紙を叩きつけた。「コレを見よ!」一枚目の藁半紙には【縁の合った者よ。 毒入りミソ・スープを飲むべし。 飲めば目覚める。 飲まねば死ぬ。 一時間以内に 飲めなかったら オムカエだ】とショドーされている。「え?」
そしてもう一枚の藁半紙には、フロアマップめいた図。四方の部屋はそれぞれ、調理室、書物庫、礼拝室、奴隷室であると記述されている。いま三人がいる部屋は、居間であるようだ。「ゾウ・ニンジャの仕業よ。儂はゾウ・ニンジャを殺す故、オヌシらは邪魔するべからず」と褐色少女。
「お待ちなさい。ひとり合点されても困ります。説明しなさい」「大人は説明しない!」成人女性のセッキョーに褐色少女は一喝!だが一考挟み、言葉を続けた。「……フン。知りたければ自ら調べよ。ホレ、書物庫があるではないか。なんぞ分かるのでは?」マキモノの墨絵が描かれた部屋を顎で指す。
その直後!「イヤーッ!」褐色少女はゾウの墨絵が描かれた扉の覗き窓へと、大きく振りかぶったツヨイ・スリケンを投げ込んだではないか!「え」「グワーッ!」なにかの悲鳴!「イヤーッ!」褐色少女は決断的にゾウの墨絵が描かれた扉を蹴破り飛び込んだ!
「ドーモ、【ピーーーーーー】です」「ドーモ、【ピーーーーーー】=サン。【プーーーーーー】です」少女は耳鳴りがした。頭が痛い。「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「サツバツ!」「アバーッ!サヨナラ!」爆発四散音!「え?」
少女はいまだ、目が覚めぬ。何度瞬きしても、ベッドの中に目覚めないのだから。「ニンジャスレイヤー=サン。落ち着いて。まずは、深呼吸しましょう」「ウン」「吸ってー」「スゥーッ……」少女が鼻から息を吸い込むと、ミソ・スープから嗅ぎ慣れたサツバツの臭いがした。
「吐いてー」「ハァーッ……」少女はやや落ち着いた。成人女性は両手を合わせてオジギした。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ゼクスマイレンです」「ドーモ、ゼクスマイレン=サン。ニンジャスレイヤーです」少女は赤黒のニンジャ装束を纏わぬままアイサツすることに激しい違和感を感じた。
「アソッカ。おかしいとおもったら、カラテが入らないんだ」少女は感覚の乖離にようやく気づいた。憎悪の炉が感じられず、腕にカラテが入らない。「カラテはおそらく、おじいたやんが握っているのでしょう」「おじいたやん?ピー=サンのこと?」少女は首を傾げた。
「ジッカイ故、おじいたやんの名を呼べませんので私はそうよんでいます」「フーン、ソッカ」少女はドブネズミのマネをした。それから改めて室内を見回し、卓上の藁半紙を読み直した。「一時間だって。今何時?時計あるのかな?」「見当たりませんね、では、用意しましょう」
ゼクスマイレンは両手を組んで片膝をつき、体内時計……コトダマタイムラインを砂時計状に定義した。「ワッスゴッ」少女は目を見開く。「砂時計が落ちきれば一時間ですが、誤差はありえます。過信しないように」少女は砂が零れ落ちるくびれ部分を注視しつつ、曖昧に頷いた。
「さて、おじいたやんはイジワルなことに何も教えてくれそうにないので、私たちは現状どういう状況にあるのか、自ら調べる他ありません。何らかのユメミル干渉の類ではあるとは思うのですが」ゼクスマイレンはマキモノの墨絵が描かれた扉へ近づき、ドアノブに触れようとした。
だが、ゼクスマイレンはドアノブを掴めなかった。実体なきコトダマビジョン存在である彼女は干渉力を持たないのだ。「これでは本やマキモノは読めません。ニンジャスレイヤー=サン。もしよければ手伝っていただけませんか?」「ウン、いいよ」少女はそのドアノブに触れ、回した。
扉を開き、中に入る。書物庫は薄暗く、部屋中央のダイニングテーブル上に置かれたローソクのみが光源であり、青白い炎は妖しく揺らめいている。四隅には本やマキモノが一杯に詰められた棚が並んでいた。「ゼクスマイレン=サンはそんな見た目だったのね」少女は成人女性を見て呟いた。
「その顔は、見れない?」「ええ」今のゼクスマイレンは奥ゆかしく、多くを語らない。彼女は一人部屋の中央へ赴き、四方に視線を飛ばした。「……フム。少女、これを」そしてある一点に歩み寄り、一冊を指さした。背表紙には【ユメミル・ミソ・スープ】と記された真っ黒な本。
「ウエー。ネトネトしてる」近づいた少女は、その本に付着する甘い香りのする黒い液体に顔をしかめた。「毒です」「えっ」「ダイジョブダッテ。触れて発症する毒ではありません。ぺろぺろしたりしなければダイジョブダッテ」少女は腕を組んで訝しんだ。「ホントかなあ」
ゼクスマイレンは口うるさく少女を困らせることもあれば、思い込みで何かを誤認していることもあり、信用度が低い。「じゃあ証拠見せてよ」少女は無茶を言った。「そうですね……」ゼクスマイレンはニューロンを働かせ、おじいたやんが口にしたゾウ・ニンジャという単語から一つひらめいた。
「では、奴隷部屋に行きましょう。ゾウ・ニンジャの奴隷に、とにかくどうにか本を触れさせてみようではありませんか」「死なない?人を殺したらいけないんだ」「死にませんとも。証明します」二人は書物庫を出ていき、奴隷室に向かった。「それに、奴隷がヒトである保証もない」
少女は奴隷部屋のドアノブを回そうとしたが、施錠の感触が返ってきた。「イヤーッ!」少女がカラテシャウトをあげて力を込めても、開かない。腕にカラテが入らないのだ。カラテ判定に不足。「何をやっておる」一人チャブテーブル前にアグラをかき、ミソ・スープを飲んでいた褐色少女が訝しんだ。
「それは毒入りスープなのでは?」ゼクスマイレンもまた訝しんだ。「ただの赤ミソよ。赤は赤でも血の赤だがな」ズズズッ!褐色少女は赤ミソスープを飲み干した。「ウエー」少女は豊かな空想で具材を連想し、顔をしかめた。褐色少女は邪悪に見開いた目の瞳をセンコめいて収縮させた。
「どれ、オオイチバンに邪魔が入らぬよう、そちらも殺しておくか」首を回して肩を鳴らした褐色少女は、奴隷部屋の扉を大仰に開け放った!バギンッ!ロック粉砕解錠!「ヤーダーッ!」カブーム!少女のカンシャクバクチクが褐色少女を襲う!「バカ!何をするか!」
「知りたければ自ら調べよって言ったクセに!邪魔しないで!」少女は少女なりの理屈を叫んだ。「調べるの邪魔したら、イクサの邪魔してやる」「ヌウーッ!」少女はジト目で唸る褐色少女を睨んだ。いわゆる一つのイシュ・カウンター。やられたら、やり返す気だ。「チッチッチッチッチッチッ」
褐色少女は舌打ちを繰り返すも、それ以上の乱暴に出ることはなかった。縁が合った者とはすなわち少女であり、ニンジャソウルまでもこの場に招かれたのはバグめいた不具合と状況判断しているからだ。少女が死ねば、奇跡めいた接続時間は終わる。ゆえに少女をスレイするわけにはいかぬ。
そも、モータルに非ず少女がゾウ・ニンジャに招かれたのも、ジッカイがなんかわるさしてバグの温床になっているからか。褐色少女はフラストレーションをこめてゼクスマイレンにケリ・キック!「イヤーッ!」「なんですか?」ケリはゼクスマイレンをすり抜けた。「グググ……意味はない」「そうですか」
そのときである。奴隷の墨絵が描かれた部屋の中から、ひたひたという足音が居間に向かって近づいて来ていたではないか。奴隷部屋内は暗黒の闇に包まれているものの、ニンジャ暗視力を持つ三人は闇を見通せる。その部屋の床はコンクリートむき出しであり、飾り気が一切なかった。
ひたひたと足音をたてているのは、十代後半ほどのやつれた女性である。女性は少女らと同じ白いニンジャローブを着ていたが、血に塗れて赤く染まり、片手には未来的なピストルを握っている。死んだマグロめいた目がどことなくドブネズミを連想させる、アルビノ女性であった。
「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」少女が代表者めいてアイサツした。アルビノ女性も両手を合わせてオジギしたが、なにか言葉を発することはなかった。そして、餌をねだるネコめいて少女と顔が近い距離まで歩み寄って、ようやく足を止めた。「もしかして、喋れない?」
少女の問いに、アルビノ女性は頷いた。「フーン、ソッカ」少女の視線は未来的なピストルに向いた。「では、また書物庫に行きましょうか」そのとき、クゥ、という鳴き声が聞こえた。「お腹空いた」少女がワガママを言った。「都合よくメシなぞないぞ。赤ミソ・スープ以外はな」
褐色少女は既に調理室を探索済みであったが、それ以上の情報共有をすることはなかった。砂時計の砂は定義時よりは確実に多く下に落ちていたが、具体的に何分何秒経ったのかまでは分からなかった。
◆絶対的に忠実な女性◆
◆少女よりは年上◆
「この本を手に取ってください」ゼクスマイレンがそういうと、アルビノ女性は軽度のニンジャリアリティーショックめいた。「人を殺したらいけないんだ」「ダイジョブダッテ。触れて発症する毒ではありません。ぺろぺろしたりしなければダイジョブダッテ」ゼクスマイレンはアルビノ女性を導く。
明らかに怯え、震えていたが、アルビノ女性は【ユメミル・ミソ・スープ】の本を手に取った。「この毒が作用すると、幻覚を見て、呼吸と心拍が激しくなっていき、一分以内に心臓は疲れ果て、死に至ります」ゼクスマイレンがよりにもよってこのタイミングで毒の作用を説明した。
アルビノ女性の震えが激しくなった。明らかに呼吸と心拍が激しくなっている。コワイ!「あーウソつき!おねーさん死んじゃうカモーッ!」「そんなはずは!?なにかの間違いだ!アッあなた!泣いて目をこすってはいけません!目からでも毒が効く!」次の瞬間!アルビノ女性の様子が!
「アーッ!アーッ!違うでしょ!?違うでしょ!?ナンデェ!?」およそ一分後、ゼクスマイレンの説明どおりに毒が作用したアルビノ女性は死んだ。少女のジト目が、滝めいた汗イメージを流すゼクスマイレンを貫いた。数秒間の静止後、ゼクスマイレンはしめやかにドゲザした。
ドゲザとは、父親とのファックを強いられる様をスケッチブックに描かれたのち絵画化されるのと同程度の、凄まじい屈辱である。このときゼクスマイレンのニューロンに巡っていたのは、こんなはずではなかったという後悔であった。ニューロンに不可逆的なヒビがまたひとつ増えた。
「違うんです」ゼクスマイレンは言い訳がましい。「私の目を見てください。ウソつきの目に見えますか?おかしいと思いませんかあなた?」「隠れてて見えない」「アッ」「騙してアタシを殺そうとしたんだ!ウソつきはタタミ針千本だ!」「ちょっやめオゴーッ!」
少女の感情的なコトダマはゼクスマイレンにタタミ針を千本呑ませた。呑み干すまで負荷をかけるのだ。「アタシ、絶対ソレ触らないからね」死んだアルビノ女性の手からこぼれ落ち、床に投げ出された【ユメミル・ミソ・スープ】の本を一瞥し、少女ははっきり宣言した。「オゴゴーッ!」
「グググ……愉快、愉快。バカがまたバカをやりおったか?」いつの間にやら書物庫にやってきた褐色少女が、ドゲザ姿勢で悶え苦しむゼクスマイレンを嘲笑う。「ングーッ!ンング、ンング!」ゼクスマイレンは身を丸めて必死だ。褐色少女はその背に「私はバカです」と書かれた藁半紙を貼り付けた。
非人道兵器マキビシめいて、時間差でニューロンを傷つけるトラップ。バトル・オブ・ゼンモンドーでも殺し尽くせぬゼクスマイレンを自我崩壊させるべく、少しでも悪影響を与えるための措置だ。ゼクスマイレンに干渉できるかどうかは、コトダマしだいだ。うまくやれば、こうなる。
それから褐色少女は床に落ちている【ユメミル・ミソ・スープ】を手にとってパラパラと速読した。「アッ毒!」「効かんわ」ざっくりと大筋を読み終えた褐色少女は、元あった場所を察して戻し、その後、部屋中央のダイニングテーブル上に立ち、四方へ視線を飛ばした。
「なにしてるの?」「状況判断だ」少女は首を左右し、ゼクスマイレンと褐色少女を交互に見た。それから、死んだアルビノ女性の手に残った未来的なピストルに目をつけた。死人の持ち物は誰の者でもない。啓示めいたアイデアが少女に舞い降りた。悪い子!
少女は未来的なピストルを拾った。「セーフティーはどこにあるのかしら?」多角的にピストルを見ながら呟く。それは二十二口径のリボルバータイプで、少女の生きるリアルにはまだ実在しないものだ。だがどこかで誰かがアイデアを持ち、ニューロン内で試作検討していても不思議ではない構造。
カチ、カチ。無造作にトリガーを引けども抵抗あり。銃砲身を覗きこんでも良くわからない。危険だ。もしも暴発したなら、少女はそのカワイイな顔を自ら吹き飛ばしてしまっていたことだろう。だがその危険行為を咎める者はこの場にいない。
「ネーネー!見て見てー!ぐるぐるー!」少女はおもむろにガンスピンを始めた。カラテこそ引き出せずにいるが、ニンジャ器用さでカラテに依らぬワザマエは披露できるのだ。「児戯!オモチャで遊ぶなら居間でやっておれ!」だが褐色少女は取り付く暇も無い。「チェッ!」少女はふてくされた。
居間に戻れば、砂時計は大半が下半分に積もっていた。45分以上の経過?少女の体感時間ではそこまで経過していない。定義者がタタミ針千本嚥下時の負荷で、時間間隔が狂っているのだろう。少女はチャブテーブル前でガール・シットダウン。成人女性が床を這いずる様に付き従う。
「イイイイヤヤヤヤヤヤ!」『UGAAA!』「UGAAA!』『UGAAA!』『UGAAA!』『UGAAA!』『UGAAA!』『UGAAA!』タツマキめいた回転音と無数のスリケンが突き刺さる音、そしてコーラスめいて折り重なりながら轟く人外的悲鳴。書物庫では何らかのイクサがはじまっている。
「セーフティーはどこにあるのかしら?」少女はイクサをまったく無視して、チャブテーブル上に22口径リボルバーを置き、多角的にチェック。ニューロンに閃きはなく、不足。見ているだけではわからない。カチリ。なにかの拍子に偶然にもゲキテツハンマーが起きたが、少女にはよくわからなかった。
銃砲身を覗きこんでも良くわからない。アブナイ!BANG!「ンアーッ!」ウカツ!少女の視界は真っ白に染まった。『ユメミル者ではいられまい!コレニテ・ゴーメン!』と言うおぞましい言葉がニューロンに響いた。『ヌカッタアーッ!バカ!バカ!ウカツ!』というアクマめいた声も。
次に目を覚ました時、少女は昨夜眠っていた場所で目を覚ました。それから、ゾウ・ニンジャとイクサできなかったと執拗にアクマめいた声に詰られ、ひどく気分を害した。
ですがこれは、ニンジャ神話的神秘体験の中でも極々些細な先触れに過ぎなかったのです……
【ユメミル・シナリオ・ポイズン・スープ】終わり
【クレジット】
◆こんかいのユメミル・シナリオ・シリーズのおはなしはクトゥルフの呼び声用シナリオで高名な泥紳士氏の製作シナリオ『毒入りスープ』をニンジャスレイヤーTRPGにコンバート後に二次創作行為して、お送りしました◆