ニンジャスレイヤーIF少女   作:BANZAINAMUSAN

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アインズ・スープ・ウィズダム#2

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

◆ソウル傾向が赤黒◆「お兄さんはカルマ・ニンジャって知ってる?」「知らないな」「ニンジャは死んだ?」左に偏らせ、バランスを取れば良い。「君が僕に言ったんだぜ。いつかお料理もしてみたいってね」◆選択肢を間違えると死ぬ◆

 

 

【アインズ・スープ・ウィズダム】#2

 

 

翌日11時。少女とドブネズミの二人はボタル地区はボッタクリ商店街にところせましと並ぶ屋台のうちのひとつへと陣取っていた。「屋台ナンデ?」少女は訝しんだ。「おいおい、ナンデとは随分だな。繰り返し言うが君が僕に言ったんだぜ。料理したいってね」

 

 

空模様は曇天交じりながらも太陽が顔を覗かせている。空には「ルイーゼ様万歳!」「女性の社会進出ですべてが2倍!」「屠殺代行」のアドバルーン。今日はやや政府広告が多い。ドブネズミはボタル地区マフィアにショバ代と呼ばれる暗黒非合法営利許可金を支払って、屋台行為しようというのだ。

 

 

屋台とは馬車めいた小規模スペースをキッチンとし、道行く者に軽食販売する実際安い商売だ。ドブネズミが借り受けた屋台はなかばオープン馬車じみている。キッチンスペースにはズンド・ナベがひとつあり、屋台用プロイセンガスが外部から取り付けられたコンロを用いて煮られていた。

 

 

言うまでもないが少女に屋台運用の知識などない。もっと言えばドブネズミにもだ。では何故?答えはシンプル。商売が目的なのではなく、あくまでも料理指導が目的なのだ。それをわざわざ「ミニミ」内のキッチンで行わない理由は当然ある。ひとまず状況を見守ろうではないか。

 

 

「お嬢ちゃんにアッシの特製料理を教えてやるでヤンス」存在格下アトモスフィアをオープンにしつつ、ドブネズミは路傍の石を拾い、ズンド・ナベに入れた。ボチャッ!「煮るとスープができるシュタインを投入して1時間くらい待つ!以上!名付けてアインズ・スープ!」「エーッ!」少女は悲鳴を上げた。

 

 

なんたる世間の荒波に揉まれながらも切磋琢磨するシェフに唾吐く冒涜的料理か!シェフも怒る!「アッハッハッハ!いまスゲェジョークが聞こえてきたぞ!なんだって?アインズ・スープだァ!?」通りすがりのモヒカンヘアのアウトロー二人組がポケットハンドでドブネズミ屋台に近づいてきた。

 

 

嘲笑を隠そうともしない。「オッサン、ここがボッタクリ商店街だからってヨ、そりゃあんまりなんじゃないのかい?ア?ナメんなよ?」若いヤンクだ。マフィア予備軍!「アッシの郷土料理めいてる。これがなかなかウマイ。アッシはむかしそれはもうコレばっかり飲んでたでヤンス」

 

 

「ふざけやがって」ボッタクリ商店街はほとんどスラムに近いベルリン最郊外だ。あやしい店舗も実際ある。しかしこうもオープンに不審行為していては、マフィアにショバ代を支払っていたとて因縁をつけられても仕方がない。ドブネズミは何を考えているのだ?「なんだあいつ」「見ない顔だな」

 

 

そら見たことか。ボタル地区に住まう最下層住民が何の騒ぎかと集まってきているではないか。「ケンカか?」「ケンカ!」「誰かアネサン呼んでこい」ギャラリーは今にも起こりそうな騒ぎをどこかワクワクとした様子で待ちかねる。何たるケンカ腰!闘争一体感に飢えているのだ!コワイ!

 

 

「ナア!このオッサンがよぉー!アインズ・スープっつってシュタイン煮込んだナメたモン売り出そうとシャガッテンヨー!」モヒカンヤンク扇動!「ザッケンナコラー!」「ボッタクリオラー!」「ブットバオラー!」何たるケンカ腰か!治安が悪い!だが巡回マッポは限られた時間にしかここへ近づかない!

 

 

「ネーネー、それじゃ、このあたりのアイントプフはどんななの?」少女はマフィアめいた者たちに気圧されることなく、素朴な疑問を口にした。高まりつつある熱気に水を差され、場が白ける。「どんな、って」「そりゃ、アレだよアレ」モヒカンヤンクたちは口を濁した。

 

 

料理は女の役割理論。ウンチクを口にできるほど詳しくないのだ。「アッアネサン!」ここで最下層住民の歓声!「アネサンこいつオレらナメてんすよ!」「やっちまってクダサイ!」困って周囲を見回したモヒカンヤンクらは、おっとり刀でエントリーしてきたファミリーメンバーに助けを求めたのだ!

 

 

「ア?」カタナめいた一瞥!「アッ」「アッ」ヤンクらはしめやかに失禁した。アネサンと呼ばれた女はカタナめいた鋭い目付きのポニーテールスチームゴスであった。「ミセモンジャナイヨ!」強烈なゴクドーチャント!だがアネサンの鋭いワザマエを見たい最下層住民は立ち去らぬ!

 

 

「ったく……ケンカ売ったのはテメェらだろ。キッタネェケツ・ノ・アナをアタイに拭かせてんじゃねぇ!」「ヒッゴメンナサイ!」「ゴメンナサイ!」二人はアネサンに腰から120°頭を下げた。最敬礼!アネサンはただちに深刻な事態では無いと見るや、腰からハーブキセルを取り出し拭かした。

 

 

紫煙めいた健康成分でひとだかりを退ける。「フーッ……アイントプフだと?」アイントプフとはドイツの郷土料理の1つであり、日本でいうところのミソ・スープだ。家庭の数だけ味が異なり、確たる正解というものはない。「アタイならソーセージとジャガイモは入れるね。ニンジンもだ」

 

 

ハーブキセルを吹かせることで状況判断内容を整理したアネサンはダシに使われた事を悟り、それだけ言ってすみやかに去っていった。「だってさ。お嬢ちゃん。ひとまずジャガイモから入れてみようじゃないか」「ウン。でもなんにも持ってきてないよ?」「ここは商店街だぜ?買ってこればいい」

 

 

ドブネズミはスペンス銅貨という劣悪的な銅貨を10枚ほど少女に渡した。「エート、エート、ジャガイモは何処に売ってますか!」少女は促されるまま声を張った。「ジャガイモ?」「レジーんトコだろ」「おいレジー!」「ジャガイモやるよ!」「ニンジンもほらよ!」

 

 

ギャラリーたちは冷えた場へと新たに投入された燃料により醸成されつつあるアトモスフィアに任せて口々に材料を準備!「ドーモドーモ、みなさんドーモ。じゃ、お嬢ちゃん。まずはそいつらをテキトーに切ってズンド・ナベに入れてみるでヤンス」とドブネズミ。説明が雑だ。

 

 

少女はマナイタスペースに並べられたジャガイモとニンジンを見つめ、借り物の劣悪性包丁を叩きつけて切り刻む!ダンダンダン!ウワーッ!アブナイ!コワイ!「おい誰か止めろ!」「ヤメローッ!」「ネコハンド重点!」あまりの恐ろしさに見ていられなくなったギャラリーが声を張り上げた。

 

 

「え?ネコハンドってなあに?」「こうだよ、こう!」あまりの恐ろしさに見ていられなくなったギャラリーのうちの一人がマナイタスペースに近づき、エアお手本を見せた。「つーかフザッケンナ!ジャガイモの皮も剥いてねーし芽も抉り取ってねーじゃねーか!」お手本を見せたギャラリーが声を張り上げた。

 

 

「アイヤッ、皮を捨てるのは勿体ないでヤンス」ドブネズミが反論。「ザッケンナコラー!皮はともかく芽には毒があるから取らないと実際死ぬンだよ!」「アッシは死んでないでヤンス?」「ヤベェよコイツ頭おかしいぞ!」この時点で既に、ドブネズミの信用はゼロも同然だ。

 

 

だがそれで良いのだ。アインズ・スープ・ウィズダムはこうして作る。

 

 

◆アインズな具材が協力で増える◆

 

 

◆料理一体感◆

 

 

ギャラリーはもはやこんな死んだマグロめいた目をしてるヤツにカワイイな少女への料理指導など見ていられなくなり、次々と少女へアドヴァイスした。「まずスープにゃ塩だろ」「コンソメは?」「トマトが良い」「ソーセージ必須でしょ」「文句あるなら持ってこいやコラー!」ケイオスめいている!

 

 

少女は聖徳太子じゃないんだぞ!そんなにたくさんアドヴァイスされてもプシューッ!ああ!その頭頂部からスチームめいた熱気が!「ワオー!スチームマジック!」「大道芸かな?」ギャラリーはもはや屋台ではなくクッキングショーめいたパフォーマンス環境をこそ楽しんでいる。

 

 

少女も?少女もだ。「こうかな?」少女はジャガイモから芽を取ったりネコハンドカットしたりした。「良い!カットがじょうず!」「カワイイ!」「こりゃカワイイだわ!」少女のカワイイな容姿も手伝い、もはや少女がなにをやっても肯定されそうなアトモスフィアに推移しつつあった。

 

 

「テメーはドケー!」「アタタ」「シッシッ!」「アタタタタ」後方シェフポジションに陣取っていたドブネズミは屋台に乱入してきた人混みに押し出されていった。「アッお兄さん!」少女は振り向いたが、人混みの混雑でもう見えない。だがドブネズミの声は暢気なものだ。

 

 

「お嬢ちゃーん。アッシは行くから、ペンスじいさんが来たら延長するか打ち切りするか伝えて帰っておいでー」ナムサン。ドブネズミは人混みに流されていく。「どうしよう」「じょうずに切れたからズンド・ナベに入れちゃえ!」「はあい」耳に入ってきた言葉に従い、ジャガイモとニンジンを投入!

 

 

「カワイイ!」「カワイイ!」「良い!」ボッタクリ商店街のみんなはとってもボッタクリ。だって、タダより高いプライスレスをこんなに押し売りしてくるのですから。それは、やさしみの、ニンジョウです。ニンジョウとは、ユウジョウと似て異なるほのかな温もり……

 

 

いろんなアドヴァイスにもみくちゃにされながら、気が付けば少女は、目から人間性の欠片をポロポロと支払っていました。「タマネギ、染みた?」「アーアー!誰だよタマネギ持ってきたヤツ!」「良いだろ!ウマイんだから!」ケイオスめいた混沌がどこか心地よい。

 

 

口の悪いオバチャン。シェフ気取りの浮浪者めいたオジサン。名も知らず、見覚えもなく、縁もユカリもない人たちが、一人の少女に手を差し伸べる。「ゴメンナサイ。嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて……」商店街住民は少女の慟哭を温かく見守りました。

 

 

戦時マッポーの訪れ近しベルリンに息づく、いつ失われてもおかしくない、でも今はそこにある暖かみ……2時間後、そこには実際多種多様な食材をズンド・ナベいっぱいにこれでもかとばかりに詰め込まれた、チャンコやオデンじみたアイントプフが!

 

 

少女は借り物の劣悪性オタマでズンド・ナベ内をぐるぐるした。「うーん赤い!」「ホントだこりゃ赤い!」スープのベースカラーは赤い。赤茶色。新鮮とはいいがたい野菜たちが表面への自己主張を譲らず浮かびあがろうとしている。「もっと煮込んだほうが良いンじゃね?」「だよな」

 

 

ギャラリーたちは少女のクッキングムーブを肴に呑み食いしているが、まだアイントプフを買おうとはしていなかった。煮込み料理は煮込めば煮込むほどスープに味が染み、より美味になると感覚的に理解しているのだ。「おーい。こりゃなんの騒ぎじゃ?」その時である。

 

 

スチームステッキをついて歩む白髪の老人が少女の屋台へと近づいてきたではないか。「ドーモー、ペンスじいさん」「カワイイな娘がクッキング・メイデンショーやってるんだ」「ホォー」ペンスじいさんと呼ばれた老人は少女の屋台の前に立った。

 

 

「どれ、お嬢さん、アッシにそのスープを一杯もらえんか?」「アッはあい!エート、エート」少女はキッチン周りを見渡したがスープ皿が見当たらぬ!「こいつを使え!」やさしいギャラリー!「アリガト!」少女はおぼつかない手取りで木製スープ皿にアイントプフをよそった。「じょうず!」

 

 

「オマチドウ!」少女は宿屋の食堂でカンバンムスメが口にしていたオーダーチャントを口にした。「ホッホッホ。おいくらかな?」「エート、エート。おいくら?」少女のニューロンにドブネズミから受け取ったスペンス銅貨存在が過ぎった。「スペンス銅貨で、エート、一枚でいいよ」

 

 

「な、なんだってー!」「実際安い!」「安すぎる!」「出血サービスな!」ギャラリーはスペンス銅貨数十枚分の価値はあると踏んでいた出来の料理のあまりの安さに興奮!少女は提供価格の相場を理解していないのだ!ズズズッ!ペンスじいさんはまずスープを飲んだ。

 

 

固唾を呑んで見守るギャラリー。この老人の批評が成功と失敗の分水嶺アトモスフィアになっているのだ。ペンスじいさんは口の中で暴れる多様な味の自己主張に眉を顰め――半数のギャラリーはここで口元を押さえたり両手を組んだりした――そして!

 

 

「ンマァイ!」老人絶叫!「ンマァイヤッター!」「ヤッター!」「カワイイヤッター!」「料理がじょうず!」ギャラリー大盛り上がり!「お、俺にも一杯くれ!」「ヌケ・ガケ!てめズリィぞ!」「私にも頂戴!」「オレにもだ!」大反響!「アワワワワ」プシュー!少女の頭から熱気!

 

 

「スチームマジックダー!」少女があわてると頭から謎めいたスチームがでるので、ギャラリーは面白がって少女を困らせたりもした。「皿はここ置くよ!」「アッアリガト!」「カネはこのドンブリだから!」「アガトー!」もはや呂律も回らぬ!大忙し!

 

 

あっという間にアイントプフは売り切れ、ズンド・ナベの底には路傍の石が残るばかりとなった。二時間煮込まれ、実際様々な味わいが染み込んだ路傍の石は、正真正銘、煮ると数度はスープができるシュタインとなる。まるでヒョウタンからオハギだ!まさかドブネズミはここまで考えて!?

 

 

「ホーッ」少女はたいへんな屋台経営をなんとか終わらせた。イクサとは別次元の競争にもうクタクタで、自分がどう乗り切ったのかあまりよくおぼえていないのだ。「アインズ・スープは銅貨一枚。これ豆な」購入したギャラリーのひとりがレンズ・マメを噛み締めながら出遅れた者へ自慢した。

 

 

「疲れただろうお嬢さん。コレをお飲み」ペンスじいさんはパイプチェアに腰掛ける少女へアインズ・スープの残りを差し出した。「ドブネズミに『屋台貸してくれ』と急に言われたときは何を企んでおるかと訝しんだがのー。企みは企みでも良い企画であったわい」ペンスじいさんは楽しげだ。

 

 

少女はスープの残りを飲んだ。実は味見をしておらず、少なからず楽しみであった。だが!「ンッ!」少女は口の中で暴れる多様な味の自己主張に……「オエッ!」スープを吐き出した!なんとモッタイナイ!「マズイ!」少女の叫びが、従来の喧騒に戻りつつあったボッタクリ商店街に轟いた。

 

 

「アインズ・スープはマズイ!」ああ、少女がボッタクリ商店街から駆け出した!この悲劇的メルヘン展開には全裸ルカノール伯爵の逸話を思い出さずにはいられない!その平坦な胸中には様々な暗澹たる思いがイカスミ・スパゲティーめいてクルクルしている!

 

 

(嘘つきだ!嘘つきだ!嘘つきだ!みんな嘘つきだ!みんなアタシを見て笑ってた!ヒドイよ!ヒドイだよ!)それまでに得ていたポジティブ高揚感はネガティブ反転!このままでは感情の総転移が憎悪の炉を彩るスパイスめいてしまうのでは!?(((少女!聞きなさい!)))その時である!

 

 

ゼクスマイレンのテンシめいた声が少女の脳裏に響いたのは!

 

 

(「アインズ・スープ・ウィズダム」#2終わり。#3につづく)

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