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◆「概要を説明する。明日マルロクマルマル、ポツダム駅をジャックする」「派手にカマして増上慢を困らせる。それで良いじゃねぇか」「始末しろ!ニンジャ小隊を投入しても構わん!最優先はポツダム駅!優先順位設定!経済影響順!」「ドーモ、悪いニンジャのみなさん。ニンジャスレイヤーです」◆
【アングリー・プロレタリアート・ストライキ】#2
「なァ、小隊長。聞いてた話と違うんだが」ヘドロはニーゼン銃を手に尋ねずにはいられなかった。銃は軍用の横流し品だ。駅員は既にいない。同志とやらの集団が囲んで鉄パイプで叩いて殺したからだ。「鉄道ストってのはもっと平和的抗議活動じゃなかったか?」「俺もそう思ってる」
小隊長も同意。その額には冷や汗。彼が扇動したのは全体の1割に満たなかった。ポツダム駅には数百を超える同志存在がいる。「革命!」「決断!」「行使!」同志の革命一体感がスゴイ。話が違うなどと訴えれば囲んで鉄パイプで叩かれて殺されかねなかった。サボタージュしてもだ。
指揮系統の最上位存在はニンジャマニアックなのか、原色赤のニンジャ装束を着ており、ポツダム広場中央付近で陣頭指揮を取っている。「労働力搾取に躊躇い無き退廃的経済活動に従事するブルジョワジー存在を撃滅せよ!産業革命は同志諸君のために!進歩万歳!」「万歳!」「万歳!」「万歳!」
「イカれてる」ポツリと呟いたヘドロに向け、ニンジャマニアックの恐ろしい双眸が睨んだ。ヘドロはしめやかに失禁した。(まさかニンジャなのか?死んだミンナペロリ=サンみたいに!死んだミンナペロリ=サンみたいに!)否、とヘドロは首を振った。ニンジャがそこらにいてたまるか。
ヘドロたちのスチーム義肢部隊の任務は、ポツダム駅の占拠維持にある。総員20人程度で、歩兵小隊の定員に満たない。同志や一般市民を通しても構わないが、マッポやヘータイは撃てという。確かにデブリーフィングではそういう話だったが、周囲の環境が想定と違いすぎる。ヤバイ。
「展開!」「進歩!」「成長!」同志たちは、ポツダム駅前に居を構えるヨロシサン製薬ビルを襲撃しはじめた。そんな話、聞いてない。ヤバい。「有害汚染物質を散布し退廃的経済活動に従事する邪悪ブルジョワジー企業を打倒せよ!」ニンジャマニアックの突撃命令に同志たちは喜んで従った。
「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」BBANGG!出入り口に立ち塞がる、全く同じ顔をした黒スーツ2人がピストルで抵抗!二人の同志が倒れ、しかし後続は駆け足を止めず、その屍を踏み越え、破城槌突撃めいて突っ込む!「「「「革命一体感!」」」」「「グワーッ!」」大惨事!
「ドッソイ!」「グワーッ!」「ハッキョホー!」「グワーッ!」ビル内ロビーに待ち構えていたのはバイオスモトリ試作一号機1ダースだ。その人的資源素材、ミュラーのことをヘドロは知るまいが、全く同じ顔をした12人のスモトリがいれば只事ではないと分かる。同志が次々と張り手殺されていく。
スデッポ、というスモトリの基本的な張り手は、リキシリーグ所属のヨコヅナレベルともなるとカノン砲のゼロ距離射撃に匹敵するという。流石にそれは日本発信のプロパガンダ成分を含んでいるであろうが、大口径ピストル並の破壊力はありそうだ。そう思わせるコワイさをスモトリは持っている。
「なぁ、あいつら、ツヴェルフズじゃネ?」小隊のうちのスモトリマニアックが呟く。「スモトリレスリングに詳しくねぇよ」「オレは詳しいんだ!」スモトリマニアックは興奮した。「ヤベェよヤベェよ。ちょっとカラテ齧った程度じゃスモトリには勝てねえぞ。タフネスが違う」
「イヤーッ!」「ドッソイグワーッ!」その時である。突然まったく同じ顔をしたスモトリが次々と倒れていくではないか。「見よ!その腐敗的邪悪成分血液を!緑だ!人間ではない!これも退廃的経済活動の産物!革命打倒せよ!」ニンジャマニアック扇動!「ウオオーッ!」同志は損害無視して更なる突撃!
……その先の顛末をヘドロたちが認識することはない。「来たぜ、ヤッコサンだ」周囲警戒を怠っていない小隊長がある一点を指差した。ポツダム駅を取り返しに来たヘータイ存在が戦列を組んで駆け足で近づいて来ている。中隊規模。1小隊の規定人数以下のヘドロたちの小隊とは10倍近い差になる。
「来たぞセンシ諸君。革命的義手義足機構を活かす時が来た」「えっ」気付けば、原色赤のニンジャマニアックがヘドロたちの背後に陣取っていた。まさか、本当にニンジャ……?「悪しき権力構造を打倒する勇気!諸君に足りないものはそれだ!足りない人数は義手義足で補え!国土防衛線準備!」
「「「「ウ、ウオオー!」」」」ヘドロたちは備えていた土嚢に身を隠し、わけもわからず声をあげた。声をあげねば、発狂しそうだった。コワイ!国境線で小競り合いめいてピストル兵器実験がてらに撃ち合っていた頃より100倍コワイ!逆らえば殺される!
その時の経験が、こうして遮蔽物に身を隠していれば、黒色火薬を詰めて導火線に火をつけるナゲル・バクチクでもなければそうそう破られることはないということなのだ。授業料は体で払った。おそらく、この場に残る大半が。
「たくさん撃てば実際当たりやすいという言葉もあるが、早々に当たるものではない。火炎瓶距離は分かるな?諸君らが火炎瓶を投げたら、私が撹乱に出る。個人を狙わず軍隊の中心部分をめがけて適当に撃て。エンゲージ距離になれば革命的義手義足機構で徹底抗戦だ」「「「「アッハイ」」」」
(こんなことになるなんて!母さん!)ヘドロはビョーキで死んだ母を想った。国境警備隊の高年収で救いたかったが救えなかった。足のロストでケマリ選手生命も断たれた。人生のロスタイムで、生きていて楽しいことなんて一つも無かった。だが、こんな最期はあんまりではないか!
「メメント・モリ!」原色赤のニンジャマニアックが謎めいたコトダマを叫んだ。「死んだ誰かを想え。誰かの遺志を守ることが主義主張を守ることに繋がるのだ。主義主張を守ることが革命に繋がるのだ。例えば家族の遺言を想え!火炎瓶距離までドライ!」(母さん!)ヘドロは火炎瓶に火をつけた。
導火線めいた布を浸透し、工業用アルコールがまたたくまに昨日呑んだビール瓶内に浸透していく。あの日母が自分に何を言い遺そうとしたのか、ヘドロには結局分からなかった。「トォーッテキ!」小隊長の合図にあわせて立ち上がり、火炎瓶を全力投擲した。(ヘータイは何も考えない!)「イヤーッ!」
小隊が各個投擲!「グワーッ!」中隊のどこかから悲鳴!「中隊の中心に狙ってトリガ!」BANGBANGBANGBANG!一斉射とは言いがたい射撃。ピストルの射程はそれほど長くない。発砲煙でどこにどう当たったかさっぱり分からない。「伏せ!」だがまずは身を隠す!
「イヤーッ!」原色赤のニンジャマニアックもまた動いた!「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」誰かの悲鳴!ヘドロはもう自分を誤魔化せない!ニンジャマニアックはニンジャだったのだ!ミンナペロリと同じに!ナンデ社会のあちこちにニンジャがいるのだ!こんなの絶対おかしい!
「アイエエエエ!?ニンジャ!ニンジャナンデ!」ヘドロは悲鳴をあげた!ニンジャリアリティショック!
◆赤です隊長◆
◆原色赤のニンジャマニアックが◆
BANG!ウィリアムは作戦室のオーク机を叩き割った。「オソイスギル!ニンジャ小隊は何をしているのだ!ポツダム駅広場奪還の報はまだか!」いくつかの拠点は問題なく鎮圧した。ニュービーへータイ中心と言えども、教導部隊が優秀なのだ。アイゼン・ティーガーもすばやく展開した。
しかし、肝心要のポツダム駅方面からの報告が未だなかった。ニンジャが先行し、追って歩兵中隊規模で制圧。戦力比に一切問題ない。はずなのに。「報告!」伝令モータルが全力疾走で作戦室に入室した。ウィリアムはモータルに配慮し、そのアトモスフィアを抑えねばならなかった。
「目標地付近に出没したニンジャと交戦しニンジャ小隊全滅!」「ナンダトォー!」「アイエエエエ!」ナムサン。ウィリアムはすぐにアトモスフィアを抑えきれなくなった。伝令モータルは呼吸困難となりその場に倒れた。「これだからニンジャソウル憑依者は!エンゲージも満足にできんのか!」
パン!パン!「ダレカ!ダレカアル!」ウィリアムはハンドクラップ合図し側近リアルニンジャを招いた。銀縁眼鏡をかけたオイランメイドがしとやかに入室した。その胸は豊満である。「なにか?」「ポツダム駅広場を奪還せよ!経済に悪影響だ!」「ヨロコンデー」オイランメイドは瀟洒に退室した。
そのオイランメイドは在野のリアルニンジャであった。確かな報酬を約束すればウィリアムに従った。知的であり、ウィリアムさえ知らぬニンジャ知識を持つため、傍仕えさせている。あまり詰まらぬ用途に活用したくなかったが、成長機会分配に問題発生であり、緊急事態なのだ。
(オーカミ・ニンジャ=サンからプレゼンされたUNIXがあればこんなことには!)情報伝達網を画期的に広げる未来的発明品、カイセキキカンUNIX。だがウィリアムは鉄道網完備による輸送網経済圏拡充を優先し、新技術導入を先送りしてしまっていた。
平行して取り入れるのは効率が悪いからだ。ウィリアムは最大効率を求めた。せいぜい数年程度の誤差で相互に問題ないと納得したものだが……選択と集中にミス。要改善。またぞろとてつもない資金が要求されるであろうが、国家の用途不明金が増えるだけでウィリアムの懐はもう一切痛まない。
「オノレ、せっかく機会の窓チャンスをやったのに!ワシの期待を裏切るとは!」ウィリアムは激昂管理メントのため、作戦室内の木人拳でカラテトレーニングをはじめた。では、ニンジャ小隊を全滅させたニンジャスレイヤーの現状は如何に?
……「フゥーッ……!ハァーッ……!」少女は二度、息を吐いた。プシューッ!スチームめいた熱気を全身から放出。褐色になりつつあった皮膚色が白魚めいた白に戻った。油断ならぬスリーマンセルであった。チョットツヨイ・スリケンでアンブッシュしておらねば爆発四散していたのは少女だった。
(((グググ……まだだ!まだニンジャがおるぞ!かきいれ時!)))アクマめいた声はポツダム駅広場方面をイメージ的に指摘した。視線を向ければ、ポツダム広場で百人を超えるヘータイがアビインフェルノジゴクめいて血濡れに倒れている。その中心位置には、原色赤のニンジャ装束を纏うニンジャの姿。
(許せない!)ゴウッ!憎悪の炉の内燃機関燃焼!少女のカンニンブクロがヒートアップ!放出したばかりの熱気の残滓がすぐに少女の体温を上げ、その皮膚を褐色に染めた!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは憤怒に背を押されるがままトビゲリ・アンブッシュ!「イヤーッ!」
原色赤のニンジャは6連続バック転回避。ニンジャスレイヤー少女はしめやかに6連続前転着地した。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」素早く立ち上がりオジギ。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ミュルメティオです」両者がアイサツを交わした、その1秒後!「イヤヤヤッ!」
ミュルメティオが常人の三倍の速度でスリケン三連投!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤー少女はブリッジ回避!「イヤーッ!」ミュルメティオが常人の三倍の速度で間合いを詰めカラテチョップ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤー少女は3連続バックフリップ回避!だがミュルメティオがハヤイ!
「イヤーッ!」常人の三倍ダッシュ慣性を残した鋭いトビゲリでニンジャスレイヤー少女のバックフリップに追従!「ニャーッ!」ニンジャスレイヤー少女はコンパクトな対空ネコフックで横からトビゲリを払う!「イヤーッ!」素早く両手を地に着いたミュルメティオのメイアルーアジコンパッソ!
常人の三倍速度のケリへの対応にニンジャスレイヤー少女ではカラテに不足!連戦で回復が万全ではない!「ンアーッ!」プシューッ!全身から吹き出るスチームめいた熱気とともに水平飛行!「単機とは想定外な。ニンジャ小隊のひとつでも寄越されると想定していたが」ミュルメティオは訝しんだ。
少女は地に伏した死体の一つに指を引っ掛け慣性ブレーキ。そのままサイドローリング受身に移行した。「ハァーッ!ハァーッ!ニンジャはみんな悪いから殺してやる!」立ち上がったニンジャスレイヤー少女の瞳はピクピクと拡大収縮を繰り返している。
ちかごろ無かった本格的イクサがニンジャスレイヤー少女をばくはつさせやすくしているのだ!彼女は自身一人では到底抑えきれぬ殺忍衝動コントロール方法のヒントを一刻も早く掴みたかったのである!二者が再び対峙し、次なる交錯の隙を探らんとする、その時である!
「ドラゴン!」ニンジャスレイヤーの見せたトビゲリ・アンブッシュとは次元の異なる凄まじい爆発的鋭角トビゲリが、ミュルメティオをサイドから吹き飛ばした!「グワーッ!」ミュルメティオは少女の30倍の速度で水平飛行!KRASH!そのままヨロシサン製薬ビルに突き刺さった。
「ドーモ、ロート・シュトルムボックのみなさん。ドラゴン・ニンジャです」龍が天に登る金の刺繍が入った赤のニンジャ装束を纏うニンジャがしめやかにオジギした。時の重みとでもいうべきアトモスフィアがサツバツとしたポツダム広場を満たした。
――若く美しいドラゴン・ニンジャ。腰元まで伸びる黒檀めいた髪はポニーテールにまとめられている。鼻から下を覆うレザーメンポ。ニンジャ装束の一部には網タイツ形状が用いられ、軽量化による機動力重点。複数本のドスダガーを各所に装備し、背には弓。腰には矢筒。そのバストは豊満である――
イズミ・ニンジャより遥かに冷ややかなドラゴン・ニンジャの眼差しがニンジャスレイヤーを射抜いた。「それで?あなたは誰です?どうやらロート・シュトルムボックと敵対していたようですが、組織の者ではありませんね?」
返答しだいではカラテも辞さない、ドラゴン・ニンジャはそのアトモスフィアと眼差しで言外に物語っていた。
【アングリー・プロレタリアート・ストライキ】#2終わり。#3に続く。