ゴウンゴウンゴウンゴウンゴウンゴン……一定速度の重低音ビートが工場内に響く。錆びたパイプラインがスパゲティーめいて節操なく上下左右に絡まり、順路に檻めいた壁を作る。巡回警備員はみな一様に同じ黒いスーツ、そして同じ顔で、定められた巡回ルートをぐるぐるしている。
工場外のカンバンには「ユタンポ・プラント」「日本」「歴史的な」と書かれ、ここが魅力的な施設ではないことを過剰なほどアッピールしていた。その地表部はもはや息をしていない。黒いダイヤ、石炭需要がネオプロイセン連合王国からユタンポ需要を駆逐した、という設定だ。
設定?では、この鳴り止まぬ重低音ビートはどこから?地下である。……プシューッ!ガコカコカコカゴ!プシューッ!カココガココカコ!壁から伸びる真新しいパイプの廃熱弁付近からスチームが噴出し、何らかのギアめいた連なりを動かすピストン原動力の余波を撒き散らす。
腕を組んで巨大ドラム缶めいた精密機器郡を見つめる白髪の老人はカラクリギア職人。センゾが江戸城にも仕えていた日本人だ。だが今は……そのワザマエは懐中時計の精度を遥かに超えるタツジン。スチーム貨物列車数台分ほどもある巨大カラクリ連動マッシーン完成に欠けていたピースを埋める男だ。
そのカラクリギアミーム優勢性を学び取らんとする優越性あるゲルマン民族の若者達は、日本語を学び、弟子となった。彼らは日本語で書かれたチェックリストの意図をあますことなく理解している。「ゲージヨシ!」「カイセキヨシ!」「キカンヨシ!」その優越性から時代を先取りする視差呼称確認!
順次、動作確認用のパンチカードプログラムを次のパンチカードプログラムに差し替える。プシューッ!カカコカコカコカ!プシューッ!カコココカココカ!「ゲージヨシ!」「カイセキヨシ!」「キカンヨシ!」幾度も繰り返される点検。非常に慎重だ。
「イチバンからハチバン、異常なし」「キュウバンからジュウロクバン、異常なし」「ジュウナナバンからニジュウヨンバン、異常なし」「サンジュウバン、要調整な」優越性あるゲルマン民族の若者達は折り目ただしく職人に日本語報告すると、カラクリギア老人はひとつ頷いてから動いた。
サンジュウバン接続パイプの停止弁を閉め、卓越した速度で多角的チェック!なんて速度だ!タツジン!優越性あるゲルマン民族の若者達はその一挙手一投足を見逃さぬ。優れたミームを埋もれさせるわけにはいかぬのだ。やがて問題点を発見。カラクリギア職人は日本語で解説しながら問題点を解決した。
その大部屋にいるのは彼らだけではない。部品トラブルに備えるイギリス人。ルーマニア生まれの少数民族生き残り少年は、皮膚感覚でアトモスフィア異常を感知する役割に従事。人的資材視察のヨロシサン錬金術士の姿も。エトセトラ全てを書ききるには140文字制限ルールはあまりにも少なすぎる。
全ての点検確認を終えたカラクリギア職人はひとつ頷き、現場監督に向けて親指を立てた。「総じ緑な!」現場監督は声を上げて白旗と赤旗をそれぞれ持った手を上げたり下げたりした。旗信号!「博士、お願いします」「うむ」俯瞰統括エリアから見下ろす、博士と呼ばれた毛根なき男が助手に促され動いた。
ダカダカダカ、ダカダ、ダカダカ、ダカダカダカ、ダカダ、ダカダカ。エーデルライト・エデル博士は専用カスタマイズされたタイプライターへタイプ。連動し、大部屋の精密機器郡が有機的に作動!壁際へ等間隔に戦列歩兵めいて垂直固定された1024個のフラスコが、光ったり消えたりする。
どよめく労働者たち。21世紀から見ればひどく原始的なモニター装置に見えるだろうそれは、19世紀視点で見れば未来的光景であることは疑いようもない。数分かけてその光は「**素早い茶色の狐が怠惰な犬を飛び越す**」という文章を構築した。
「おお!」「なんとシンピテキな!」「世界一!」マルチ連動実験成功!様々な人種の者達がそれぞれの言語で歓声を上げる!読者諸君には驚かずに聞いていただきたい。このスチーム機関を動力に動く人類史上最古のコンピュータは、数々の技術的、金銭的課題を克服したカイセキキカン改善である。
「カイセキキカン改善マルチ連動実験の成功。**素早い茶色の狐が怠惰な犬を飛び越す**ことを確認。引き続き、アカシャ・ダイアルアップ接続論の実証試験を開始する」記録盤レコードへの宣言後、博士は傍らにある「最重点」と書かれたレバーを引き倒した。ガッチャン!
ウォーンウォーンウォーン。カイセキキカン改善からおどろおどろしい作動音が鳴り響く。異音ではあるが異常ではない。俯瞰統括エリアにはさかしまに固定された巨大試験管めいた等間隔ガラスが並ぶ。中には銀色の輪切り円柱や中身の窺えぬブラックボックスといった用途不明品が所狭しと詰まっている。
統括主導するエデル博士は溢れ出る額の汗を拭った。プーピポパポパピピポピポ!「きたっ!」突如鳴り響いたのは、実際神秘的な電子音であった。電子音?このような電子音は19世紀の最新鋭ハイテックを駆使しても早々出しえぬのでは?電気エネルギもなく?なにがどうなっている?
トーピートピートゥビープ!ビープ!ピーピーピーピーヒョロロロ……ピーピーピーピーヒョロロロ……現実を重点する科学アカデミー社会はエテル博士を見捨てた。研究継続支援を縋る彼を、非科学的だとムラハチめいて追い払ったのだ。すべてを証明して見返してやる。復讐が彼の原動力だった。
アカシャ。あるいはアーカーシャ。すなわち虚空。妨げるものなきゼロの地平の果てに、不思議な黄金立方体が形成されており、ここには全宇宙の歴史が時間の流れにしたがって配列されている。それこそがアカシャ年代記。アカシックレコードである。机上の空論?絶対に違う!
無いものをあると言われても無いのだからあるわけがない。虚数記号は実在しないのだ。バカめ。それが科学アカデミーからの回答であった。所構わず叫びたいほどの屈辱だった。シキソクゼクー理論も知らんのか!私の論文を読め!「落ち着いて」助手の声に、博士は回顧イマジナリーから我に返る。
その点、この組織は柔軟であった。国境なき集団。選抜された者の集まり。博士は選ばれ、全てが報われようとしている。「どうですか博士?」艶やかな黒髪の銀縁眼鏡をかけた豊満助手は聞いた。「理論上は成功する。失敗したならカイセキキカン改善の精密性の問題だ」「なるほど」
フーリンカザン理論に従い地水火風へ適切にコネクトすれば、理論上はアカシャに繋がるはずなのだ。様々な実験の末、もっとも適した素材と結論付けたのはシリコンであった。シリコンを地に見立て、流水で不純物を除去し、火と風、すなわち熱化学反応を適切に送風し、シリコン上へシンピテキを配列。
スペイン植民地から見つかった高純度シリコンインゴットを用いた実験が決定打だった。運命がそうせよと命じているかのように、エデル博士が必要とするものはこの組織においてはすぐに集まった。個人研究者では到底用意できぬほどのカネが、この理論の実証に費やされている。
オバケめいて状況によって見えたり見えなかったりする、オバケ半導体。アカシャ空間へのアプローチ。「私が人類史上初!ザ・ファーストとなるのだ!」博士は願望交じりに叫んだ。ピーブピブーピーガーーーーーーピガッ!ピガガーッ!「……成功、したのか?」PING!博士は到達性を確認した。
フラスコモニターがON/OFF反応を分け、数分かけて意味のある文字をかたちどる。Request timed out.「クソーッ!絶対に成功するはずなのに!」制限時間内に応答はなかった。失敗だ。博士は両腕を振り上げタイプライターを叩こうとした。その振り降ろしを止める掌。
「乱暴はやめたまえ博士。そいつは今回のために作らせた貴重品なのだ」「アイエッ!?」俯瞰統括エリアに、異物が入り込んでいた。ニンジャであった。茶灰色の毛皮ニンジャ装束を纏うニンジャである。「安心せよ。半ば成功しておるわ。理論中心的な博士には感じぬだろうが」
「おおお……祖霊!祖霊!」感受性の高いルーマニア生まれの少数民族生き残り少年は、何かを感じ取るように独自の祈りを捧げた。カイセキキカン室の労働者たちにも原始的モニター表示が字句通りのRequest timed outではないことだけはアトモスフィアで伝わった。
「ほ、本当か!?だがRequest timed outが」「キンカク……アー……アカシックレコードには流石に届かぬよ博士。かような」オーカミ・ニンジャはタイプライター直下にあるブラックボックスに目線を向ける。「か細い糸ではな。ガーディアンがいて、切断する。まだ課題があるのだ」
「ガーディアン……ムーン……一体どうすれば……」「それを考えるのが博士の仕事だ」オーカミ・ニンジャは何らかのツテによりエデル博士の科学アカデミー提出理論を知り、こうしてパトロンとなっている。
「ハゲミナサイヨ。実際エーデルハイド博士が最もオヒガン……アー……アカシャに近いのだ。オレには確信がある。期待しておるぞ」「オオ……オオーン!」エデル博士は多幸感に落涙!上位存在に実績を認められる強い達成感!承認欲求充足がスゴイ・オオキイ!
そこにはやりがいがあった。とてつもなく。奴隷労働めいた環境になんら文句はなかった。研究が許される環境をこそ、博士は望んでいたのだから。頭脳労働搾取!「何か必要なものがあればEUヨーロッパアンダーグラウンドにすぐ言え」「ヨロコンデー」
ワッザ?ヨーロッパアンダーグラウンド?何だそれは?EU?それはエスタブリッシュメントな感じがする……悪のにおいだ。「良い子だ」オーカミ・ニンジャは毛根無き博士の頭を優しく撫でた。博士は感涙し達した。毛根無き頭部は、中々触り心地が良い。知恵の果実めいた脳細胞。
だがそれは、ニンジャが口の中で弾ける味わいには程遠いものであろう。
オーカミ・ニンジャには永らく続く立ち枯れの時代を終わらせる明確なビジョンがあった。そのために必要なのはモータルの科学技術だ。だからモータル科学者を利用する。モータルの研究にはカネがかかる。だからカネモチを従える。科学の発展を加速させるのは戦争だ。だから戦争を起こす。
すべてビジョンあってのことだ。なんたる邪悪!まさかアメリカ独立戦争から始まる人類の自由平等意識改革的な戦争の歴史の影では……このニンジャが糸引いていたのでは!?いや、よそう。私の勝手な予想で読者諸君を混乱させたくない……
「ああ、それにしても腹が減った」「アイエッ!?」頭部を撫でられていたエデル博士失禁!「オットット。怯えさせたか?安心せよ。オレはモータルなど喰わぬ」オーカミ・ニンジャはエデル博士の頭から手を離した。博士はあからさまに安堵した。
「オレはグルメなんだ。スシかニンジャしか喰わんよ」オーカミ・ニンジャは博士の助手を見た。そのバストは豊満である。「なにか?」「クックック……オレはスシかニンジャしか喰わんよ、と言った」「そうですか」豊満助手は右手中指で銀縁眼鏡を押し上げた。ハンドサインめいて。「クックククカカカ」
博士が瞬きをした次の瞬間には、ニンジャは室内から消えていた。「アイエッ?ユリコ=サン?どこに行った?ニンジャが怖くなって隠れているのか?ダイジョブだ。彼はモータルにも非常に理解のある紳士的なニンジャで……」エデル博士の助手もまた姿を消し、二度と現れることはなかった。
その後、助手の捜索を諦めた博士はアカシャへのPING到達性を確認し、実験結果を記録盤レコードに残した。研究はつづく……
……既にオーカミ・ニンジャが求めるものに、エデル博士はたどり着いていた。オヒガンへの接続。科学の力で辿り着くのはとてつもない困難だと予想された壁は、一人のテンサイが打ち破った。
ひとつ理論があれば、後続のテンサイたちが雨後のタケノコのように研究を深め、誤りを訂正し、より良く修正し、実証に実証を重ねて、理論性を高めていくだろう。科学技術とはそのように発展していく。それらを紳士的に収穫せんとするのが、オーカミ・ニンジャだ。
やはりモータルは素晴らしい家畜。使えるものは要保護。羊飼いめいて。整理整頓。不要なものを捨て、必要なものを必要とされる場所へ……オーカミ・ニンジャのビジョンに狂いが無ければ、あとはアクセス多様性を深め、か細い糸をネットめいて編み込めばビジョン実現する。インターネットビジョンが!
小型化、汎用化、量産化。オーカミ・ニンジャのニューロンに無数の候補可能性がポップアップしては消えていく。そして首を振った。「クックック。流石は伝説のニンジャ。噂には聞いていたがこれほどとは……オレの口から逃れたのは目が覚めてからは貴様が初めてだ。アッパレミゴト」
オーカミ・ニンジャの茶灰色ニンジャ装束は返り血と自らの血でおぞましく汚れ、そのメンポ下顎部位から血がボタボタと垂れ落ち、剝き出しの地面に血痕を作っていた。だが平然と生きて独白している。コワイ!草木も眠るウシミツアワー。荘厳なるトリイはひとつのイクサの終着点であった。
残された痕跡が、イクサの壮絶さを物語っている。木々は燃え、あるいは消し炭となり、アラシ被災地めいた。剝き出しの大地は歪んで捻れ、抉れ、砕かれ、デコボコオートツ多数!この立ち枯れの時代にこれほどのニンジャ災害を!?「いずれ喰らうさ。いずれな。だが今はビジョン重点」
アオーン!そのアギトからニンジャを逃したオーカミ・ニンジャはビジョン実現後の飽食時代を夢見て遠吠えた。(オレはラビット・ニンジャとは違う!飢えたオーカミはなんでもするぞ!さあ!キンカク・テンプルに眠るニンジャソウルよ!蘇るがいい!願わくばオレに満腹感をくれ!)
そのイクサ全てを見下ろしていた月は、果たして何を思うのか。黙して語らず、ただ闇夜を照らすばかり。
◆ここまでのあとがき◆
◆プシューッ!シュッポ!シュッポ!スチーム躍動感!プオォーッ!
メルヘンにニンジャが出て殺す!
アッゴウランガ!忍殺少女出た!
実際フシギなニンジャギアもいっぱいで復讐!
19世紀ヨーロッパ舞台。スチームパンクな。ニンジャスレイヤーIF少女。
BANZAINAMUSANから◆
◆以上の4話がニンジャスレイヤーIF少女世界観の基本プリセットだ。こういうアトモスフィアのIF次元でやっていく。時系列は必ずしも投稿順とは異なり、メルヘンめいてふわふわする。ニンジャスレイヤー原作リスペクトであり、またインスピレーションの問題だ。◆
◆これからニンジャスレイヤー少女は、このスチームパンク世界で、ベルリンニンジャミッションしたり、忍殺メルヘン紀行したり、悪の組織と戦ったり、青春したり自我確立成長する。忍殺少女だからだ。ここまで右に偏っていたので、バランス調整で次の話は左向きの忍殺メルヘン紀行になるだろう。◆
◆以上、今後ともヨロシクオネガイシマス。ではオタッシャデー(あとがきおわり)◆
◆忍殺◆ニンジャ名鑑#006【エーデルハイド・エデル】◆少女◆
国境なき集団EUヨーロッパアンダーグラウンド所属の科学者。人類史上初のアカシャ接続者と歴史に名高く、のちに「インターネットの父」と呼ばれ教科書に乗るが、その道は既にニンジャが4000年前に通過していたと知り自殺。
◆忍殺◆ニンジャ名鑑#007【オーカミ・ニンジャ】◆少女◆
立ち枯れの時代を終わらせるべく、18世紀ごろ、ヨーロッパ激動の時代の闇で暗躍していたリアルニンジャ。ニンジャスレイヤー少女の敬愛する祖母のカタキだ。
◆忍殺◆ニンジャ名鑑#008【ユリコ】◆少女◆
ドラゴン・ゴールド・トークン刻印女性と非常に似通った顔立ちの謎多き美女。そのバストは豊満である。オーカミ・ニンジャによれば伝説のニンジャであるらしい。一体何者なんだ?