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◆スガン・カブレラはジュドーを構えた。「カラテを通して分かることもある。私は不器用な男だ。まずはかかってこい」カワラ割りパンチ!「……結論から言うと、キュドーとはこのフーリンカザンすべてを実践するところから始まる。「つまり?」「殺意コントロールできる」「スゴイ!」◆
忍殺メルヘン紀行より【ウェイティング・フォー・サムワン・ストロンガー・ゼン・ミー】#2
少女はウサギかバッタめいてスガンの周囲をぴょんぴょん跳びまわり、地に足をついていては見えなかったものの見つけようとする。隙だ。スガンがツカツカと歩み寄れば、その分離れ、あるいは回り込み、目に付くカラテの変化、乱れと言ったものをイーグルのほうの視点から……
しかし見当たらぬ。真剣勝負であれば、ウカツに手は出せぬ。「イヤーッ!」だが少女は、ひとまず頭頂部踏みつけめいたトビゲリを仕掛けてみた。通じるかどうかは、やってみなければわからない!ガードされても連続攻撃着地からのラッシュ継続で攻撃アドバンテージ有利!
少女がそのようなイマジナリー・カラテを組み立てていた、まさにその時!「ソリューション・ケン!」スガンは力強いシャウトとともに、対空スカイアッパーを突き上げたではないか!「ウワアーッ!」ソリューション・ケンが少女のトビゲリ迎撃!少女は三連続バックフリップし、目を瞬かせた。
ジュドーではなかったからだ。「いまの、なに?」拳は半ばで引かれていた。振りぬいていれば、強力なヒサツ・ワザであっただろう。それこそ暗黒カラテ、サマーソルト・キックに匹敵するやもしれぬ。
「私なりの、風のキュドーだ。昨日言ったはずだ。私はフーリンカザンを実践していると。ジュドーだけではない。ソリューション・ケンを破らぬ限り、オヌシに勝ちの目はない」スガンはやや早口だ。
彼は少女の拙いカラテ対応策に確かなカラテ対応策を見せることで、更なるカラテ成長へと導こうとした。不器用ながら。その先にあるフーリンカザンを通して、ともすれば不殺の心得に目覚められるように。
カラテとは、敵をスレイするためのものではない。スレイするなら武器やテッポウを使えば良い。カラテを通して出る力とは、パワとは、心なのだ。メンタルであり、ソウルなのだ。「いつまで怯んでおる!どうした!オヌシのキュドーはその程度か!探求せよ!」スガン叱責!
「イヤーッ!」少女はムキになって様々な角度からジャンプ攻撃をしかけてみた。あるいはジャンプ高さをあげて跳び越えてみようとした。しかし、そのことごとくがソリューション・ケンを前に天高くイポン釣りされたマグロめいて撃墜!
今日の組み手トレーニングはこのような風景が延々と続くことになるのだろうか?否。太陽がそれなりの高さまで登った頃、20人からなるアウトローパンクス集団がカラテガオカにやってきたではないか。鍛えたカラテをもてあます無軌道集団だ。
「ドーモー、あんた、スガン・カブレラさん?」「俺ら、ドージョーブレイカーなんだけどよ?」「マジで山羊頭な」「被り物だろ」全員の手には鉄パイプ。パイプドーか。スガンは少女のジャンプ攻撃をソリューション・ケンで撃墜すると、そちらに目をやった。「次の者が来ている。待て」
スガンは少女にそう言い残し、ドージョーブレイカーたちへとジュドーを構えた。「試して見るがいい。ドージョーブレイカー」ドージョーブレイカーとはドージョー・ヤブリとは似て異なる集団だ。
ドージョー・ヤブリは破ったドージョーの看板を奪い、解散させるか、あるいは自身の門派の傘下におくこともあるが、ドージョーブレイカーはその名の通り破壊するだけだ。破壊してスカッとしたいだけの連中だ。「そもそもこのドージョーは私の物ではない。誰の物でもない」
呟きながら、スガンはジュドーを構えたまま彼らにツカツカと歩み寄った。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ドージョーブレイカーたちは囲んで鉄パイプで叩く!なんと卑劣な!「イヤーッ!」
しかし凄まじい一回転ハイキックが振り下ろされる鉄パイプすべてを迎撃し、へし折り、曲げ砕いたではないか!「「「「ウワアーッ!」」」」少女は退屈そうに事の成り行きを見た。モータルがニンジャに勝てるわけが無い。見所を感じず、あくびを噛み殺す。
ふと少女は、謎めいた祠が気になった。ニンジャ第六感に訴えかけてくるものがある。祠には到底ブッダには見えぬ何らかの石像が安置され、前面に「サイセンを入れてください」と書かれた小さなサイセンボックスがある。少女は戯れにスペンス銅貨を入れてみた。チャリーン!
次の瞬間、少女の意識はカラテガオカではなく謎めいたコロッセウムにあった。何度も体験したことがある、ユメミル空間めいて。ゾウ・ニンジャの系譜か。類似存在か。(((入るのは二人。出るのは一人。キリングフィールド・コロッセウム)))脳裏におどろおどろしい、機会音声めいた声が響く。
等間隔に白黒のラインが碁盤めいて張り巡らされたフィールド。墨絵めいたヒトガタの影が歓声をあげ、畳十枚距離四方の闘技場を取り囲んでいた。ターン!白黒の障子戸が開き、通路の奥から現れたのは左右の手それぞれにトライデントと網を持つ墨絵めいたニンジャ。「ドーモ、レテファキナスです」
レテファキナスは両手を合わせてオジギした。その装備、古代ローマカラテの武器使い手ニンジャに相違あるまい。生きた気配を感じぬ。カイデンネーム無きままハラキリし、リングネームだけ残ったゲニンあるいはレッサーニンジャか……
「ドーモ、レテファキナス=サン。ニンジャスレイヤーです」考察は殺したあとすれば良い。ラストジャッジメントでもないのにグラディエーターが目覚めるのは悪いことに決まっている。アイサツを返したニンジャスレイヤーは場のアトモスフィアに合わせ、ネコカラテを構えた!
◆オヒガンとかけましてキリングフィールド・コロッセウムと解きます◆
◆どちらもサイセンが繋ぐでしょう◆
スガン・カブレラが丁重に20人からなるカラテアウトロー集団の心を折りきったのと、ニンジャスレイヤー少女が謎めいたコロッセウム体験を終えたのはほぼ同時だった。「待たせたな」スガンが少女に声をかけると、ハッと我に変える。「待ってないよ」少女はカラテを構えた。
カラテに篭るアトモスフィア変化に、スガンは途惑った。(殺気が増している?)少女はスガンの回りを凄まじい速度でぐるぐるしはじめた。スガンは無理に目で追わず、バックアタック警戒重点。「ニャーッ!」あんのじょう少女のバックアタックが迫ると見るや、即座にニンジャ反応!
少女は地を舐めるようにして頭を下げ、スガンの股下通過を目指す!ネコゾリ・ノバシ・アシ!「フッ!」しかしスガンは股下通過前にローキック迎撃!「ウワーッ!」少女はのけぞり、しきりなおす。バック転で距離をとり、再びぐるぐるしはじめた。スガンはバックアタック警戒重点!
「イヤーッ!」あんのじょう少女がバックから迫ると見るや、即座にニンジャ反応!少女は地を舐めるようにして頭を下げ、スガンの股下通過を目指す!ネコゾリ・ノバシ・アシ……と見せかけてジャンプ!フランケンシュタイナー!「ソリューション・ケン!」「ウワアーッ!」
ジャンプ直後を捉え、スカイアッパー迎撃!反応ハヤイ!少女は空中で大きくのけぞり、しかし体勢を立て直す。三連続バックフリップで距離をとり、再びぐるぐるしはじめた。スガンは無理に目で追わず、バックアタック警戒重点。今度は正面からスライディング・キックだ!「イヤーッ!」
「フッ!」しかしスガンはバックステップ回避。更に少女のスライディング勢いの静止際を狙い済ましてローキック!こ、これは!?太古のカラテ技、ザンシン・ケン!「ウワーッ!」少女転倒!なんたるカラテ見切り精度か!?「相手のウカツに期待するようなカラテに、私は負けん!」スガン一喝!
実際ニンジャスレイヤー少女の攻め手は相手のカラテ対応力を試すようなワザマエばかりであった。格下にはニンジャ反応を許さず、あるいは揺さぶりきって殺し、しかし確かな反応を見せる格上には通じず、勝てぬ……(違う違う、こんなのぜんぜん成果じゃない)少女は自戒し首を振った。
「マッタ!考えるから!」そして掌をスガンに向け、組み手続行を静止。散らかった思考をまとめなおす。「構わん。好きにせよ」スガンはドージョー裏手に回って湧き水を汲み、草を食み、波打って連なる丘陵の合間に見える国境警備隊の演習風景を見た。
無論、その大多数は国境に張り付いていよう。国境沿いからやや離れて訓練するのは現場配属ニュービーヘータイだ。イクサバのアトモスフィアをほのかに体感させ、基地訓練とイクサバは何もかもが違うことを理解させる……
キュラキュラキュラ。無限駆動音を轟かせるアイゼン・ティーガー……その巨体、1トンは軽く超えていよう。19世紀の技術限界を超えた、未来兵器だ。その技術的特異性をスガンは理解していない。小回りのきくスチーム機関車もあるのだなと感心するばかりだ。
おそらく、次にネオプロイセンがどこかと本格戦争したなら、かのスチーム機関のパワはナポレオン・ドクトリンを上回るであろう……感覚的に分かるのは、それだけだ。彼は軍師やウォーロードではない。
チャリーン。少女はある程度考えをまとめたあと、サイセンボックスへターラー銀貨を入れてみた。ふたたびのキリングフィールド・コロッセウム。フスマから現れるのは、先ほどとは違う墨絵ニンジャだ。「ドーモ、クレストスクトゥムです」
トサカ付きフルフェイスニンジャヘルムを被り、右手にグラディウス、左手に長盾を手にした古代ローマカラテ武器の使い手ニンジャだ。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤー少女はニンジャ反射神経を試さぬ、地味で地道な、対スガン・カブレラを意識したカラテで挑む!
……(神頼み、ではないな。イマジナリーカラテでもしているのだろうか?)スガンは遠目に、謎めいた祠の前で瞑想めいて硬直した少女を見て訝しんだ。それ以上の予想はできぬ。実際無一文であり、謎めいた祠のサイセンボックスへトークン投入したことがないからだ。
少女はイマジナリー成果をひっさげて、様々にカラテスタイルを変えてスガンに挑む。だが、そのどれもがスガンに通用しなかった。しかしこれはキュドー。そこに失敗は無い。組み手トレーニングに失敗があるとするなら、不幸な事故か、挑戦しないままウカツを見過ごすことだけだ。
キュドー探求の日々が二日経ち、三日経ち、四日経った。
カラテアウトロー、国境警備隊の斥候。聖地巡礼者。興味本位の旅人。カラテガオカには色々な連中がやってきた。スガンが律儀に来客たちへと相手する間は、少女はキリングフィールド・トレーニングした。
少女は心折れず、負け続けた。敗北を繰り返す中で、強者と弱者の間に何が違うか、感覚的に分かりかけてきた。(スガン=サンはベースラインがしっかりしてるんだ。とてつもなく)ニンジャベースライン。すなわち基準値。
スガン・カブレラは状況判断力がズバぬけている。だから惑わされない。見てから反応しても間に合い、間に合わないものはガードする。それを理解してから、少女の負け方は、より進歩のある敗北へと推移していた。「カラテウケテミロオネガイシマス!」「来い!」何千本目か分からぬタチアイ!
(まず、自分から崩れちゃダメ)少女はアラウンド・ザ・キュドーの結果、ウサギやバッタめいてピョンピョンしなくなった。また、ファンタズマゴリアに動き回り、ニンジャ動体視力を試そうとしたりとせず、ジッとネコカラテを構えて待ち構える。
スガンはジュドーの構えを維持しツカツカと歩み寄る。「ニャッ」少女はネコ前足足払いをしかける。スッ、とスガンは歩みを止め、障子戸一枚距離で回避。「ハッ!」「ウワッ!」スガンはコンパスめいて大地に半円を描く斧めいたローキック。逆に少女を転ばせた。
少女は後ろ回り受身で素早く立ち上がる。そして間合いを詰めてきたスガンのジュドーグラップルを、袖を取らせずに振り払う。ジュドー必殺の型に持ち込ませず、カラテマンめいたギリギリのせめぎ合いをタタミ1枚距離で仕切りなおす。
少女にとって、このタチマワリは窮屈であった。ニンジャのカラテはこうじゃない、と。生死の瀬戸際とはもっとサツバツとした、生きるか死ぬかの……しかし、カラテ環境高速化以前、あるいはモータルのカラテとは、このような、地味で地道なものであった。
派手なジツやスリケンに頼らず、掴んで、倒すか。転ばせて、トドメを刺すか。あるいは武器でヒトツキか。二人のタチアイはニンジャらしからぬ、モータルめいた、あるいは時代錯誤の太古の時代のカラテであった。しかし太古の時代のカラテからしか学べぬカラテもある!
派手なサツバツコンボ。あるいはジツ。一撃でケリをつけるヒサツ・ワザ。それらはたしかに目立つだろう。カッキエーだろう。だがブック・オブ・ファイブ・リングスめいたカラテロジック知恵の輪がすべて繋がる、この地味で地道なカラテファイトの、なんと崇高で高潔なことか!
じりじりと付かず離れず、二人は小刻みに運動コストの低いけん制を振り回す。ローキック、あるいはジャブ。こまごまと前後する。動きが似てきている。ザンシン・ケン。すなわち攻撃からザンシンにカラテ移行するコンマ1秒を狙いあう、アウトボックスカラテめいた。
バグベアーからのユメミル・インストラクションによって、少女はその概念を言葉の上では知っていた。だが理解に程遠かった。理解しきらぬ上っ面のオママゴトめいていた。しかし今は!
「ニャ」少女は絶妙な間合いに踏み込みネコジャブを繰り出した。パンチ先端が腕を掠めるかどうかの、微妙なジャブであった。しかしスガンは安全マージンを取り、ニンジャ的な反応速度で腕ガード。そこに隙があった。スガンはガードモーションのためにコンマ1秒硬直!
(ここを、掴んで、投げる!)「イヤーッ!」昨今のニンジャ事情しか知らぬ者は、少女のグラップル直前に見せた一見地味な太古の魔技を知るまい。シャドウ・ピン・ジツのアーキタイプとも呼ばれる、ニンジャ反射神経を優れている者をこそコンマ1~2秒縛るシャドウ・ピン・パンチのことを!
「ヌウーッ!」スガンはジュドー受身!少女はついに、ジュドーグラップルをやりかえし、スガンの背を地に叩きつけた!そしてマウントを取りカワラ割りパンチ!CRASH!カワラ割りパンチは、スガンの頭部右側を貫いていた。「掴んだか」スガンは仰向け姿勢のまま、それだけ言った。
「……ウン」それは、物理的に、という意味だけではなく……もっと、精神的な……抽象的な……キュドー。探求のカラテ。とにかく、少女はそのとき、スガンの主張するフーリンカザン概念の、ほんのひとかけら、一端を確かに掴んだのだ!
5分弱の休憩ののち、スガンのキアイは明らかに変わった。「先ほどはオヌシがイポン取ったからな。こちらも発揮カラテ段位を上げるぞ」カラテ高める者の誰もがそうであるように、スガンもまた負けず嫌いのきらいがあった。
【ウェイティング・フォー・サムワン・ストロンガー・ゼン・ミー】#2終わり。#3につづく