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◆カラテメルヘン◆
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【ウェイティング・フォー・サムワン・ストロンガー・ゼン・ミー】#4
むかし、ヤギのなかには山羊飼いの囲いを破り、野山に逃げ出しては狼に食べられるものがいた。
人の作る檻に囲われたヤギは毎日、囲いの外に見える野山を眺めては自由にかけ回る幸せを夢想し、数世代に一匹くらいはビジョンを実現させてきたのだ。
逃げ出したヤギがどのようにオーカミに食べられるのか、伝承は語り継ぐ家によって異なるが、おおむね最後は、自由を求めたことを悔いたところを狼に喰われる。慈悲は無い。窮屈に思える囲いは弱い身を守るための物だから、厭うのはよくないという教訓を残し、民間伝承は終わる。
そのアーキタイプにそった逸話は、カブレラ家のすむ寒村にも伝わっており、カブレラ家にもそういうヤギがいた。しかしながらカブレラ家は昔、ヤギととある契約を交わしてしまっていた。
「カブレラさん、わたしをどうか、山に行かせてください」
「ダメだダメだ。山には狼がいるんだぞ」
「大丈夫。わたしがカラテで、やっつけてやります」
「ダメだダメだ。どうしても行きたかったら、カラテで縄でも千切ってみろ!」
「カラテで縄を千切ったらいいんですね?」
カブレラ家はヤギとカラテ契約をしたので、自由を夢見るヤギに逃げられてしまうようになった。
そんなヤギを押さえ込むため、カブレラ家の者もジュドーを鍛え、カラテ動物とカラテを切磋琢磨してきた。
自分を蹴り拒めない程度ではウルフに食べられてしまうぞ、と。
両者は飼い、飼われる関係でありながら、ワザマエを競い合うライバルでもあったのだ。山羊と聞くと、草食動物だしなんだか弱そうでは?と誤認する読者諸君もいるかもしれないが、山羊のバックキックはホースキックと比較対象になることもある強力なウシロアシなのだ。
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……「そして、ある日私自身が山羊頭となり、その脳裏にカラテガオカという謎めいた【約束の地】を指し示したとき、ようやくこの寝物語が、謎めいた暗喩であると気付いた。おそらく真実は曲解され、改変されていよう。私が思う確かなことはひとつ。狼にカラテで打ち克てば、すべては終わる」
少女は困惑した。そこに欺瞞の気配は無かった。そこには断固たる決意があった。カラテガオカからは決して旅立たぬという、ただそれだけの決意があった……先ほど見せた、ああいう欺瞞を、人はオトナの対応と言うのだ……スレイするべきかせぬべきか、少女にとっては、それが問題だ。
(((ウソつきは殺せ!悪いニンジャだ!コムスメ自身が決めた取り決めであろうが!)))(((殺してはなりません!迷える子羊に道を示す者を殺すだなんてとんでもない!)))テンシとアクマがすっかり元気!なんてやつらだ!
だが少女は聖徳太子じゃないんだぞ!そんなにいっぺんに左右から話しかけたら、少女のニューロンに過負荷であたまがばくはつしてしまう!少女は保留した。今はまだ、スレイすべき時ではない。今はまだ。
「狼が来るぞ」スガンは言った。まるでオオカミ・ボーイめいて……「狼が来るぞ。聞こえるだろう。この遠吠えが」少女は耳を澄ませましたが、狼の遠吠えなんか聞こえませんでした。「狼が来るぞ。メルヘンに予言されし運命の日とは、今夜だったのだ」それは、欺瞞……?
だが、スガンの発するアトモスフィアに嘘は無い。もしやこれが、謎めいた暗示可能性なのか……?「狼が来るぞ。オヌシはもう、帰るが良い。故郷に家族がいるだろう」「家族はいない。故郷も知らない。みんな死んだ。殺された。だから悪いニンジャを殺す」少女の目つきが鋭くなった。
「私は殺さぬ。倒して、制する。それを成しえてこそ、私はようやく『徒に他者を害せぬ』自信を持てる」スガンの決意はシリアスだ。二者の視線がぶつかりあった。どちらも譲らぬ。ファーストコンタクトから分かっていたことだ。音楽性の違いならぬ、人間性の違い。睨み合っていても、埒が開かぬ。
スガンは少女へ左手を差し出してこう言った。「聞け、我が手を差し伸べし汝、ニンジャネーム、ニンジャスレイヤーなる者よ。我が名はスガン・カブレラ。汝の意見は受け入れられず。またいかなる意味にてもその殺意を許せず。父よ聖者よ。ここに我、汝に対し我が身体を以て正道を示す者なり」
少女は困惑した。カッキエーと思っている場合ではない。「エット……」「決闘裁判だ。『天にまします我らが父は正しい者に味方する』受けるならば握手に応じて返答し、このあとイクサする。受けぬなら右手で左手の甲を叩いて『オマソウ』という儀礼的な定型チャントを残して去るのだ」
どうする?と尋ねられ、少女はますます困惑する。どちらにしても、お別れ?イクサすれば、きっと、殺してしまう。組み手トレーニングで遅れを取っていたのは、憎悪の炉が働いていなかったからだ。いまその炉は温まり、熱を帯びている。速度が違う。「マッタ!考えるから!」「認める。考えよ」
少女は整理した。整理の間、手癖でサイセンボックスにゴールド・トークンを投下したらやたら強いイアイド使いが出てきてぜんぜん整理にならなかった。(しかもコットン・ケンより何倍もインチキなオリガミ・ミサイルも使ってきた!)少女の心は千々に乱れた。
悩みに悩み、ニンジャスレイヤー少女は、握手に応じた。「決闘裁判は、一ヵ月後、ベルリンで!」「何?」スガンは瞠目した。時と場所を指定する権利は、決闘を挑まれた側にあるというルールを知っているとは思わなかったのだ。
「裁判って、ソノ、エト、法律だから、ちゃんとタチアイニンとか、いると思う。だから。ベルリンに来て。パンカラス地区「ミニミ」の202号室にいるから、来てね!約束!」それは少女の保留癖が導き出した結論だった。「だから運命の狼とか、そういうのには負けないように!」「……分かった」
スガンがそれを望むなら、少女は謎めいたメルヘンウルフ討伐を手伝ったやもしれぬ。だが、キュドーの証明、その血の運命……入り混じるふくざつなしんきょうが、スガンにそれを言わせなかった。「お世話になりました。オタッシャデー」少女は腰から90°曲げて頭を下げた。
「ああ、私にも学びがあった。サヨナラ」二人は別れた。
◆……酸性雨が、降っていますね?◆
◆カラテの高まりを感じる◆
ピシャッ!ピシャッピシャッ!ゴロゴロゴロ!強い酸性のハルサメが降っていた。雷雲が幾度も轟き、夜闇を裂く稲光が幾度も明滅。草木も眠るウシミツアワー。スガンは焼け落ちたドージョー入り口で正座し、運命の時を待った。アオーーーーン!狼の遠吠えが聞こえる。ソウルに響く。すぐ傍に。
ザッザッザッザッ。オーカミ・ニンジャはスガン・カブレラから畳6枚距離で立ち止まった。そして両手を合わせてオジギした。「ドーモ。カブレラ家の末裔=サン。オーカミ・ニンジャです」スガンは意を決し、正座姿勢から立ち上がって振り返り、アイサツを返す。「ドーモ、スガン・カブレラです」
そしてジュドーを構えた。「オヌシと対面するのは初めてだが、あえて言おう。ようやく会えたな」「クッククククク。その感覚は、宿ったニンジャソウルが感じさせておるのよ……殺人クエストのひとつでもこなし、一皮剥けて欲しかったところだが……時勢ゆえ仕方なし。今宵、喰らわせてもらう」
確かなカラテの高まりに呼応し、カラテガオカに濃霧が経ち込める……「ワアー」墨絵めいたヒトガタの影が空虚な歓声をあげた。(((入るのは二人。出るのは一人。キリングフィールド・コロッセウム)))等間隔に白黒のラインが碁盤めいて張り巡らされたフィールド。畳十枚距離四方の闘技場。
『逃げることはできません。準備?はじめて!』無慈悲かつ嗜虐的な声が響いた、そのコンマ05秒後!「イヤーッ!」「イヤーッ!」スガンはシャウトとともに敵に背を向け、身を丸めた。まさか、真のニンジャのイクサに怯えて?否!取った!取っている!?オーカミ・ニンジャの腕を!イポン背負い!
「イヤーッ!」オーカミ・ニンジャはイポン背負いより早く跳び、身体を丸め、取られた腕でジュー・ウェア袖を掴み返しイポン背負い背負い!「イヤーッ!」スガンはイポン背負いより早く跳び、身体を丸め、掴んだ腕を放さずイポン背負い背負い投げ返しイポン背負い!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」投げ返して投げ返して投げ返して――ッ!
地をのたうちまわりなお絡み合うヘビめいて相互にエンドレススローを繰り返す様はまさにカラテのアステロイドベルト!「イヤーッ!」オーカミ・ニンジャは獣のパワーで強引にクラッチを切り、空中回転勢いをコントロールし獣めいた柔軟性でオーバーヘッドキック!「イヤーッ!」
スガンは前方へ出した片腕の肘先を上向け、肘先を捩じって手の平を外側に向けた構えから、手の平にケリが届いたと同時に全身をタツマキめいて巻き込みサイドローリング!こ、これは!色々あって失伝されたとも噂されていたドラゴン・ニンジャクランの投げ技!ドラゴン・タツマキ・ナゲではないか!
ジュドーにあるまじき無慈悲なる横回転がオーカミ・ニンジャの足間接を捻り切って破壊――「イヤーッ!」――否!オーカミ・ニンジャはカラテ満ちる全身を機敏に回転させ、自らサイドローリングすることでニンジャコロの原理で前足間接破壊回避!「イヤーッ!」
だがスガンは白黒フィールド叩きつけ完遂!「グワーッ!」マウントチャンス!……かと思われたが、スガンは3連続バック転で距離を取る。何故?「クッククククク。惜しいな。イヤーッ!」事も無げに立ち上がったオーカミ・ニンジャは爪先を一瞬、10フィート伸ばし、戻した。コワイ!
いまマウントを取りに行けば、確実に心臓摘出されていた。オーカミ・ニンジャは爪先伸縮動作を見せた直後にクロス腕から五体引き裂きチョップ!退いても爪先が伸びて切り刻むぞ!「イヤーッ!」スガンは逆にインステップし、両手首を掴み、クロス腕から開放させぬまま投げる!KRASH!
「ずうずうしいぞ!」ああ!投げられたオーカミ・ニンジャのメンポが観音開きして口が大きい!「イヤーッ!」「ARRGH!」スガンはその顔面に容赦なくカワラ割りパンチ!問題なし!カワラ割りパンチ顔面ダイレクト程度なら!
スガンは憎悪の炉の働かぬニンジャスレイヤー少女が自分よりちょっと上くらい、と思う程度の強さなのでは?違うのだ。カラテ段位の客観性を抜きにした主観判定とは、たいていフィルターがかかるものなのだ。
自分より下手、というのはだいたい同じくらいで、自分より少し上くらいかな、というのは実質、自分より遥かに上くらいのフィルター差があるものなのだ!「イヤーッ!」スガンのカワラ割りパンチ二発目!「ヌウーッ!」
オーカミ・ニンジャはメンポをカラテで閉じてガード!スッ。スガンがマウントに近い姿勢から引いた。シャキンシャキン!10フィート伸びた爪が直後にスガンのマウント位置を通り過ぎた。「クッククククク。惜しいな。惜しい惜しい」オーカミ・ニンジャは立ち上がった。
「カラテに満ち、自己解釈でフーリンカザンの一側面を修めたニンジャ……実に惜しい。そのカラテに殺意あらば、より芳醇に……味わい深い……独特の旨み成分……」「コットン・ケン!」「オット」狼は爪先でコットン・ケンをあしらった。
「コットン・ケン!」「オット」「コットン・ケン!」「オット」「コットン・ケン!」「オット」狼は爪先でコットン・ケンをあしらい続ける。「そのようなワザマエを真のニンジャのイクサではな、ただの児戯というのだ!イヤーッ!」ああ!オーカミ・ニンジャがコットン・ケンを正面から!
「イヤーッ!」その正面突撃を感知していたが如くスガンはヤリめいたサイドキック!「オソイ!」ドオォーン!オーカミ・ニンジャのカラテ満ちる右腕が一瞬赤く光り、スガンのヤリめいたサイドキックを拒絶し、シリモチをつかせた!スガンは一切体勢を立て直すこと叶わぬ!身体が痺れて動けない!
オーカミ・ニンジャはアイサツめいて両手を合わせ、首を90°傾け、メンポを開き、体勢の崩れたスガンに、喰らいついた!「イタダキマス!」その時である!「ソリューション・ケン!」スガンは天に拳を突き上げ跳躍するスカイアッパーにより咀嚼から逃れたではないか!?何という機転!
……逃れた?全身麻痺から?どうやって?答えはジュー・ウェア内にある。そこにはスガンが被るべき全身麻痺を肩代わりし、カラテ乱反射により帯電する白いモコモコあり。ヤギ・コットン・ジツ。その本質はカラテミサイルなどではなく、防御にある。「デン・ケン!イヤーッ!」
スガンはサンダーボルトめいて中空から落下攻撃!「グワーッ!」デン・ケンはオーカミ・ニンジャの横面をしたたかに打ち、大いに怯ませた!「イヤーッ!」スガンはオーカミ・ニンジャを掴んだ!「イヤーッ!」地面に叩きつける!「グワーッ!」オーカミ・ニンジャの口がみるみる小さくなる!
スガンはしかしオーカミ・ニンジャのニンジャ装束をガッツリと掴み、離さない!「イヤーッ!」「グワーッ!」180°反転!地面に叩きつける!スガンはオーカミ・ニンジャをガッツリと掴み、離さない!「イヤーッ!」再び叩きつける!「グワーッ!」
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
ゴウランガ!スガンは絶対にニンジャ装束を掴んで離さぬ!投げ続ける!投げ続ける!ジュドーのベーシック・アーツにして情け容赦なきヒサツ・ワザ!エンドレススロー!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
ガシイッ!「イヤーッ!」「グワーッ!」そんな……オーカミ・ニンジャ、無事である。彼はスガンの顔面を万力めいた怪力で掴みあげた。「グーワー……ッククククク。楽しかったか?スガン=サン?ナイスファイト」「アバーッ!」咀嚼音無慈悲!「ア、クマ……」ナムサン。スガンの右肩から首筋に歯形。
歯形が一口に肉を噛み切り、抉り取った痕を示している。「良いカラテだった。だが無意味だ。殺す気のないカラテにニンジャソウルは砕けぬ。しかし新たな味覚に目覚めそうだ。オレはお前の味わいをしばらく忘れぬだろう。ハイクを読め。咀嚼してやろう」
「アバッ……カラテの道に終わりはない……第二第三のキュドーで勝つ」「イタダキマス!」咀嚼音無慈悲!「アバーッ!サヨナラ!」スガン・カブレラはしめやかに爆発四散した。『オーカミ・ニンジャの勝ち』
謎めいた声が姿見せぬままグンバイを掲げ、オーカミ・ニンジャはキリングフィールドの理に従い元の世界へ……「は?何を勝手に店仕舞いしようとしているのだ?今日のメインディッシュは貴様らだろうが」元の世界に、帰らない!?「利用価値がある故に放置していたが……貴様らはもう用済みよ」
オーカミ・ニンジャの手元には謎めいた掌大の意味不明ハイテック。「フリップフロップ反転。世のコトワリを狂わせん」そのハイテック越しに彼が何らかのチャントを唱えた瞬間。白黒フィールドの一部白が黒に、一部黒が白に。何らかの不具合。世界の法則が乱れている。
コトダマウイルス対策に次々とキリングフィールド・コロッセウムに登録されたニンジャたちが次々とフスマから現れ……「食べ放題!我が世の春よ!」おお、ナムアミダブツ!ナムアミダブツ!血の狂宴が始まってしまった!
【ウェイティング・フォー・サムワン・ストロンガー・ゼン・ミー】終わり
◆忍殺◆ニンジャ名鑑#054【スガン・カブレラ】◆少女◆
山羊頭のジュドーマン。カラテガオカでトレーニングし「ブッダカラテ・ノーキル」という古代のコトワザを実現しかねないほどのワザマエに達していたが、オーカミ・ニンジャに殺された。
◆忍殺◆ニンジャ名鑑#055【ファイアゾイレ】◆少女◆
炎のパラニン。カトンブレイズは実際強大なジツであったが、立ち枯れの時代で頼りにするにはエテル消耗があまりにも激しすぎた。ノーカラテと言うほど未熟ではなかったはずだが、本領を発揮できずにニンジャスレイヤーに殺された。
◆忍殺◆ニンジャ名鑑#056【グリューンアレン】◆少女◆
コンポジット・ユミの使い手軍人ニンジャ。パラニンと国境警備隊ニンジャは最終的な頂点は同じはずだが、組織の違いゆえか必ずしも一体感とは限らぬようだ。縦割りな。