ニンジャスレイヤーIF少女   作:BANZAINAMUSAN

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マスコットキャラ・カム・ヒア

 

ノックノック。その日ドブネズミがリビングでニンジャ疑惑情報を整理していると、玄関の扉がノックされた。「……」ドブネズミは無視した。(僕は気付いてませーん。チラシか郵便ならポストに入れてお帰りくださーい)ナムサン。居留守だ。

 

 

居留守とはそこにいながらにしていなくなる、さながらステルス・ジツじみた時間浪費回避方法である。ドブネズミは訪問予定に無い来客を無視する傾向にあった。残念ながら、現在少女はいない。メルヘン紀行中だ。少女がいれば代理で相手させるのだが。

 

 

ブウウーz_ン。窓の閉まった室内に、ハエが飛んでいた……ドブネズミはニューロンがチリチリした。「……」インセクツ・オーメン。ドブネズミは手早くニンジャ関連可能性のある資料を自室に片付け、玄関の覗き窓を見た。誰もいない。イタズラか?

 

 

ノックノック。再びのノック。ちょっと待っていただきたい。つい先ほどドブネズミは、覗き窓で外にだれもいない事を確認したはずだ。ドブネズミのニューロンがより強く警告を発する。生死の瀬戸際の予感。

 

 

居留守継続、不可。物音を立ててしまった。窓から脱出検討、死ぬ。「マ?」ドブネズミは訝しんだ。何らかの、命の危機が迫っていた。唐突に。ドア越しに居るであろうノック者殺害検討、むごたらしく死ぬ(自分が)

 

 

何もしない、あと3秒後にむごたらしく死ぬ(自分が)「おいおい、ちょっと待ってくれ」ドブネズミは覚悟を決めてドアのロックを開錠した。ガチャ!「ドーモ、マスコットキャラです。ニャンニャスレイニャーはおるかや?」

 

 

――マスコットキャラはまさに半神めいている。美の体現。滝のように長い青髪は風の流れとは無関係におのずから揺らめいており、乳白色じみた目は白く光っている。全身は白魚めいて白く、耳は長大であった。エルフ。現実に実在していたというのか。その身長は6フィートを超えていよう――

 

 

お 前 の よ う な マ ス コ ッ ト キ ャ ラ が い て た ま る か

 

 

マスコットとは幸運をもたらすオマモリ・タリスマンの一種であり、身近に置いて大切にする人形を指す。また「幸運の女神」とも解釈できる、マルチプルを内包する。

 

 

「ニャンニャスレイニャー=サン?アッシ、そんな名前、聞いたことないでヤンス」ドブネズミは即座に存在格下アトモスフィアを纏い、賢明にもツッコミを入れなかった。彼に芸人根性があれば、ツッコミ直後に惨たらしく殺されていたであろう。

 

 

「おかしいのお?住所検索したらココだと」『ピー。目的地に着きました。目的地に着きました』二頭身のカワイイなマスコットキャラがマスコットキャラの肩で抑揚のない機械音声めいて喋った。「ほうれみよ、ここであろう?」ドブネズミはその案内めいた存在の意味が分からない。

 

 

意味が分からないが、これ以上否定したら死にそうだ。「もしかして、ニンジャスレイヤー=サンのことでは?」「おお、おお、そうそう。そんな名前であったか。大体あっておろう?」「言われてみれば確かにそうかも」ドブネズミは適当に話を合わせ、リビングへとマスコットキャラを招き入れた。

 

 

しっとりとした足跡がフローリングに残っていく。裸足で、濡れている。何故?ここ数日、酸性雨は降っていなかったはずだが……「ニャンコはどこかや?」「ニンジャスレイヤー=サンはいま所用で」「なんだと?」「ウワーッ!」ドブネズミは即座にキッチン床を転がった。

 

 

あたかも視線が物理的な破壊力を持つかのごとく、マスコットキャラの視線がドブネズミの背から胸を貫いた……かのような錯覚。多少なりとて感受性があるならば、真に胸を貫かれたと錯覚し死ぬか発狂していたであろう。(アブナイってマジで)ドブネズミは珍しく憤慨した。

 

 

「アラマ。賢しいの。ニャンコが弄ぶネズミにピッタリな」マスコットキャラは悪げなく糸めいて目を細めた。「手慰みに可愛がってやろうと思うたが、おらぬというなら仕方あるまい。そなた、妾のミームを知っておろう?」「ミーム?」ドブネズミは誤魔化しつつ、何とか飲み物を用意しようとした。

 

 

「……知っておることをいちいち相手に確認を取るのは、賢い者のすることではない。そうは思わぬか?のう?」「――ッ!」マスコットキャラは立ち姿勢を一切ブラさず、物音ひとつたてず、ドブネズミの真背後に立っていた。ニンジャだ。ニンジャでなければ、かような動きができるわけがない。

 

 

「オーケイ。答えよう。ゴールデンアックスとシルバーアックスはお嬢ちゃんの部屋にある」「それで良い」瞬きの間もあらば、マスコットキャラは少女の部屋の扉に手をかけた。「良いのかい?人のものを勝手に持っていったらドロボウだぜ」その背へと、ドブネズミは言葉を投げ掛けた。

 

 

なんとエクストリームな!相手はニンジャだぞ!?「これは異な。手癖の悪いニャンコから、自分の物を取り返そうというだけ」「残念ながら、今のネオプロイセンの法律だと犯罪になるんだなそれが」「なんだと?」「ウワーッ!」リアルニンジャの凝視!ドブネズミはキッチン床を転がる!

 

 

言わんこっちゃない!少しは身の程を弁えねば死ぬぞドブネズミ!「マッタ!僕は善良な一般市民として犯罪としらぬ者が犯す犯罪を止めただけだ!凝視ヤメテ!」「そうかえ?そなたの物言いは、いちいちシャクに障る。キョート城の腐敗臭に近い」「エッキョート城って臭いの?ちょっとショックなんだが」

 

 

ドブネズミは言葉を弄し、なんとかマスコットキャラを自己のペースに乗せようと画策する。一番の安全策は、何も口を出さず、マスコットキャラの狼藉を見逃すこと。しかしピンチはチャンス。会話できる相手なら、ニンジャとだってビズしてみせる、ドブネズミの強かさであった。

 

 

「何が欲しい薄汚い正直者。願い事を3つ言え。答えねば惨たらしく殺す」マスコットキャラは眉を顰め、剣呑なアトモスフィアを隠さぬ。「殺さないでください。話を聞いてください。ダブルアックスは少女と交渉してから回収してください」ドブネズミは即答で3つ願った。

 

 

例えばここでどのような願い事にしようかと迷えば、30秒後に殺されていただろう。あるいは1つだけ願い事を言っても、3つ言えと言ったはずだ、などと返され死の危険。だがドブネズミは即答した事で数多のメルヘン伝説に残される理不尽なりしニンジャ・ウィッシュ・キルを回避。ワザマエ!

 

 

「……及第点。ま、よかろ。戯れに妾の前で言を弄すことを許す」マスコットキャラはリビングテーブルに備えられたチェアの一つに座った。「ハハーッ。アリガトゴザイマス」ドブネズミはヤギ・ミルクを用意しかけ、はたとこれで良いのかと疑念を持った。(いや、ダイジョブだ。イケル)

 

 

そしてバァムクーヘンとともに差し出した。「まずはこちらを」「マ。賄賂的」「イエイエ、来客へのオモテナシですので」ドブネズミもまたチェアに腰掛けた。正念場だ。口の利き方を誤れば死ぬ。(ミスれば死ぬ。いつも通り)

 

 

「整理します。ゴールデンアックスとシルバーアックスの所有権はニンジャスレイヤー=サンにあります。僕じゃない。ニンジャスレイヤー=サンはトアル湖の底にあったダブルアックスをトレジャーしたと言いました。取得物です」「ふむ」マスコットキャラはバァムクーヘンを手に取り多角的に眺めていた。

 

 

「マスコットキャラ=サンは言外にこのダブルアックスの所有物は自身にこそあると主張しています。紛失物という認識でよろしくありますか?」「うむ。モッチャム、モッチャム」マスコットキャラはひとつ頷き、バァムクーヘンを咥えた。(ジャスティ=サンとこの最高級品を喰らえ!)

 

 

いつかこんなこともあろうかと少女のニンジャ美食力から隠しとおした一品だ。口に合わぬなど言わせぬ。「ネオプロイセンの現行法では紛失物の所有権は二週間で損失します。二週間以内にしかるべきところで主張していれば話は違いますが、そのような話は出ていなかった。確認済みです」

 

 

「なるほど。さすがイギリス人。話が巧い」マスコットキャラはヤギミルクを物音ひとつたてず飲む。「舌先三寸口八丁。露骨な二枚舌多用であればエンマに変わってペンチで摘み引き千切ってやるところだが、ミスは無い。なるほどのう」その頷きは、ドブネズミの話とは別のところから来ている様子。

 

 

マスコットキャラの視線は、ドブネズミを見ているようで見ていない。あるいは、見ている世界のレイヤーが違う。whois?あるいはsearch?なんらかのコトダマコマンドを通して、伝説のジョルリ・ミラー越しにしか見えぬはずの世界を見ている。

 

 

「ユニークな過去な。はて、エンマ・ニンジャであればどのような裁定を下すか、興味がある。通称はドブネズミ。本名はイ」BANG!ドブネズミは躊躇い無くピストルを構えて引き金を引いた。「失礼。ハエが飛んでいたので」その射線上にはマスコットキャラの頭があった。

 

 

マスコットキャラは首を傾け回避!「ニャンコの添え物と思うたが、ソウル記録の読み応えがあるのお。良い良い。特に赦す」「僕のことを名前で呼んで、生きている奴はもういない。謹んで頂きたい」「言うのが遅い。読んでしもうたわ。さて、そなたの言いたい事は分かった」

 

 

ピョン!マスコットキャラの肩に立っていた二頭身のカワイイなマスコットキャラが卓上に飛び降りた。「端末を置いていく。ニャンコが来たら端末越しに交渉する故、帰ってくるまで良く世話するが良い」『ドーモ、マスコット端末です。気軽にマスコットとお呼びください』

 

 

バタン。ドブネズミが卓上のマスコット端末に視線を向けた次の瞬間には、椅子に座っていたマスコットキャラは玄関の向こう側へ消えていた。『ところでお兄さん。スシをください。今すぐに。私はお腹が空いていますよ?』「チクショーメ!」ドブネズミは吼えた。

 

 

その交渉仲介役の立場を担って、あわよくばと考えていたのだ!ナムサン。欲張り者にはインガオホー。ドブネズミはその日から、やたらと図々しい要望を繰り返す口うるさい同居人と過ごすことになってしまった。「こういうことだと分かっていれば、直接願いを叶えてもらうんだった!」

 

 

『まあまあ良いじゃないですか。特にカワイイな私と一緒に生活できるのですから、嬉しいですよね?嬉しいと言え。言わなきゃ殺す』「ホントなんなんだコイツ!カワイイなマスコット=サンと一緒に生活出来て嬉しいです!」『よろしい♪』ドブネズミの明日はどっちだ!

 

 

(「マスコットキャラ・カム・ヒア」終わり)

 

 




◆忍殺◆ニンジャ名鑑#058【マスコットキャラ】◆少女◆
存在格を低下させたイズミ・ニンジャ。ヤモト・コキの変身と似たような感じで一回り小さいが、6フィートとは1.82メートルを指し、十分デカい。ゴールデンアックスとシルバーアックスをニンジャスレイヤーから取り返そうと動く。


◆忍殺◆ニンジャ名鑑#059【マスコット端末】◆少女◆
コトダマ空間とハイパーリンクしている全長1フィート少々の幽鬼めいたニンジャモンスター。人語を理解し、喋る。好物はスシ。ニンジャとしての実力はマスコットキャラの十分の一程度だが、アメーバめいた不死性をもつ。
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