ニンジャスレイヤーIF少女   作:BANZAINAMUSAN

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クローズ・エンカウンター・オブ・ザ・ドゲザ#1

 

春爛漫と呼ぶにはまだ早い、ベルリン各地の自然公園が徐々に情緒豊かに色づき始めたばかりのある日、少女はメルヘン紀行からベルリンに帰ってきた。スチーム機関車からの途中下車だ。大荷物は無く、身軽なものだがはしたない。

 

 

空には「革命は許さないです」「屠殺代行」「蒸かした芋」のアドバルーン。曇り空で、雨が降ったり止んだりしている。少女は雨にぬれる屋根に足を取られることなく、ピョンピョンと跳ね回る。ショートカットだ。ニンジャ第六感に訴えかけるようなニンジャはいない。

 

 

ガチャ!バターン!「タダイマーッ!ネーネーお兄さんお願い!準備して!」ダイナミックアンロック帰宅!「……居ない!?こんなときに!」どたばた!どたばた!少女は三度自室とリビング、キッチン、トイレ、スチーム風呂を覗いて、九度ドブネズミの部屋をノックしてようやく家主の不在を理解。

 

 

それから少女は、改めて頭を整理するためにスチーム風呂に入った。プシュウウウウウ!すっぽんぽんの少女の肢体を適温化したスチーム湯気が隠す。「スガン=サンを見逃して良いのか悪いのか分からないのだわ。一回だけウソついたけど、良い人だったもの」

 

 

すかさずアクマめいた声とテンシめいた声がステレオサウンドに真反対の意見をぶつけ合わせる。精神のチャネルが合った時だけ聞こえるはずの声。少女は感覚的に、チャネルの合わせ方が分かってきたのだ。(((迷ったのなら、殺すべきではない!スレイは取り返しがつかないのですから)))

 

 

カイスイヨクじみた正反対の舌戦のなか、その言葉は妙に少女の心に残った。殺す理由。殺さない理由。感覚的な。キュドーはカラテ探求だけでなく、その人間性の在り方にも応用できる……少女は旅の垢を落とし、自室に戻った。慌てていても仕方が無い。ドブネズミの帰宅を待つ。

 

 

少女は部屋の中央で跪座。足の甲を床につけず、爪先を地に引っ掛ける正座姿勢。自然と背筋が直線に伸び、また座ったままの姿勢でカラテ警戒を維持する古式メディテーション姿勢。組み手トレーニングの合間にスガンから学んだ座礼だ。「スー、ハー」深呼吸し、イマジナリーカラテ。

 

 

かつては手足の動かし方とスレイ回想で終わっていたそれは、キュドーを通して進化し、豊かな想像力からよりよいスレイ方法をカラテ検証する状況判断トレーニングに至っていた。(今ならヴァイスサムニテ=サンにも一人で勝てる)古代ローマカラテ、獅子の構えの使い手を回想。

 

 

ほんの十秒たらずの攻防。その後のアクマめいた声の持ち主が繰り出す3秒間のサツバツコンボ。リプレイの組み立てを変える。やや腰を落とし、両手指第一関節第二関節を曲げ、掌を下に向けて前に出すヴァイスサムニテを相手に、イマジナリーの中でネコカラテを構える少女。

 

 

獅子の構えには弱点がある。それは、やや腰を落とし、攻撃を待ち構える関係上、間合いのコントロール権利を相手に譲っているということだ。ウカツに攻撃を繰り出した相手を絡め捕り、そのまま関節を破壊するが、やりようはある。キリングフィールド・コロッセウムで体験済み。

 

 

ユメミル体験により解像度の上がった獅子の構えを相手に、少女は仕掛けそうで仕掛けない。完全に備えた古代ローマカラテの使い手を相手にスリケンは通じぬ。つかず離れず、初動を引き出す。「あわよくば」と仕掛けるなら、地を這うネコゾリ・ノバシ・アシは有効だが、虚を狙うは弱者のカラテ。

 

 

『……』アクマめいた存在感が少女のイマジナリー・カラテをじっと見ている。このあと批評しようというのだ。「ニャ」少女は間合いを定めシャドウ・ピン・パンチ!「イヤッ」ヴァイスサムニテのイマジナリー体はコンマ1秒パンチ軌道に掌を合わせる。「ニャニャ」シャドウ・ピン・ワンツー!

 

 

「イヤヤッ!」ヴァイスサムニテはネコジャラシに釣られたライオンめいて掌をパンチ軌道に伸ばしつつ、やや前傾姿勢重心が前のめりになった。「イヤーッ!」少女のカマめいたフィッチ!「イヤーッ!」ヴァイスサムニテの獅子の構えは対応し、フィッチ足首を掴む!

 

 

少女は掴まれることを確信して地から足を離し済み!天地逆転姿勢から前身を丸め、獅子の構えの内側に入り込んだ!「ニャー!」逆さネコパンチ!「グワーッ!」逆さネコフック!「グワーッ!」『甘い!』アクマめいた声が制止した。このあとのスレイ手順が読めたのだろう。

 

 

「カラテウケテミロオネガイシマース!」『なんだそのヌルい想定は!足首を掴まれたコンマ2秒後には間接破壊されていると思え!まだまだ甘い!モーイッチョ!』「アーッス!」少女は解像度の上がった古代ローマカラテ使い手をイマジナリー対戦相手に古式メディテーションを継続。

 

 

アクマめいた声の薫陶はやたらと実践値を意識したもので、カラテ学び始めた少女にとっては意味不明な呪文であった。いまは言いたいことがワカル。カラテ段位が上がった、実感がある。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「ニャーッ!」「グワーッ!」「ニャーッ!」「グワーッ!」『甘い!』

 

 

「カラテウケテミロオネガイシマース!」『バカ!調子に乗るな!まだまだ未熟!モーイッチョ!』「アーッス!」だがその成長はアクマめいた存在にしてみればドングリ・コンペティション。ビフォーアフターに大差無し。真のニンジャのイクサのレベルにはほど遠い。

 

 

……「おかえり」気付けばドブネズミが帰宅していた。「アッお兄さんただいま」少女はスッと跪座姿勢から立ち上がった。その後の夕食の席で、少女はメルヘン紀行について語り、ひとつお願いした。「そんなわけで、決闘裁判したいの。できる?」少女は小首を傾げつつ嘆願した。

 

 

「できるよ。やろうと思えば」ドブネズミはなんでもないかのように回答。「場所はこないだみたいに地下施設を借りれば良い。第三者はそれこそ神父なり牧師なり司祭なり呼べば良い。そっち方面にもアッシのコネはある。呼べるのは生臭だがね」

 

 

その後ドブネズミは、死んだマグロめいた目でジッと少女を見た。「いま思いついたんだが、第三者をスムーズに呼ぶための布石というか、クエストがあるんだけど」「なあに?」「リアルズンビーの噂があるんだよ。荒唐無稽な話として、アッシの情報収集センサーに引っかかってる」

 

 

ズンビー、あるいはゾンビーとは、ムラハチに似たアフリカの社会的制裁の一形態である。罪人を死者扱いし、共同体の保護と権利を奪う。つまり、一般的な社会的サービスの一切を受けられなくする。また、死者扱いされた者が誰かに話しかけようと完全無視され、存在格が空気と化す。

 

 

常人にはおよそ耐えられぬ残虐な社会的制裁だ。その単語の頭にリアル、とつけることで、読者の皆様も良く知る生ける死体という意味になる。教会において死者蘇生とはラストジャッジメントの際に起きる超常現象であり、聖なる奇跡でも無い限り、それ以外のすべては異端の邪悪。

 

 

「教会はリアルズンビーの存在を認めない」「そーなんだ」(((そのとおり!この世おば/死者を起こすな/眠らせろ、というハイクはよく言い聞かされたものです)))(オマエがリアルズンビーでしょ!)(((ニンジャはまた別なので良いノデス!)))ゼクスマイレンの言葉は信用しづらかった。

 

 

「アッ」そこで少女は思い至った。そうだ。ニンジャ化とリアルズンビー化は、ある意味良く似ている。「お嬢ちゃんも気付いたようだね。このネタ、真実とすればニンジャ案件かもしれない」ドブネズミはルーラーデン・スシをナイフで切り分けながら言った。

 

 

「まだ情報精度は荒い段階だが、このネタに集中すれば数日で纏まるだろう。ベルリン内でのことだからね。ワンハンド・ダブルアドバンテージ。両者ウィンウィンのクエストになると思う。どうかな?」「モッチャムモッチャム。良いカモ」少女はルーラーデン・スシを完食した。ユニークな味だった。

 

 

◆ズンビー◆

 

 

◆それもまたニンジャ?◆

 

 

夜闇がベルリンを覆い、薄く儚いガス灯がごく一部の闇を払う。特に煌々と輝くのはエロスセンタービル前通りを始めとした限られた領域。光射す領域から外れれば、そこに真の暗黒がある。しかしニンジャであれば、各処の闇に紛れ暗躍することができる。

 

 

「どうなっている」ドゲザニンジャはベルリン各処の肉屋をさ迷い歩き、途方にくれていた。既にベルリン中の肉屋を三週巡っている。ニンジャシュレヒタなるニンジャ存在はどこにもいない。ウィリアム側近リアルニンジャからの確かな情報だ。誤りがあるはずがない。

 

 

このような達成目標の明確なクエストを失敗すれば今度こそケジメ。その後はどことも知れぬ地方で下らぬ下働きに任ぜられるだろう。上位者から直々にクエストを受領しつつ成り上がる、いわばラストチャンスなのだ。「何の成果も得られませんでした」で済ませるわけには行かぬ。今度こそ。

 

 

ドゲザニンジャは一度、目に付いた自然公園で座りこんだ。跪座。足の甲を地につけず、爪先を地に引っ掛ける正座姿勢。自然と背筋が直線に伸び、また座ったままの姿勢でカラテ警戒を維持。ザレイカラテ基本の構えだ。ニンジャ野伏力も高まる。「考えるな。分かれ」呟き、ニンジャ第六感に集中。

 

 

【ザレイカラテ!実際異端なるカラテ流派。日本は世界で唯一、正式な儀礼の場で正座姿勢を求められる。そのため、アサシンが正座姿勢者をアサシネイトする特殊な環境が実在した。結果、座ったままの姿勢で跳躍したり、あらゆる攻撃の無効を目指すザレイカラテが考案されたのだ!――いつもの抜粋】

 

 

(スガン・カブレラ……あやつは敵であったが一理ある男であった……カラテ射す道を往くべし!)ピッキーン!ニンジャ第六感に感アリ!「イヤーッ!」ドゲザニンジャは座ったままの姿勢で跳躍!そして空中で三回転すると匍匐姿勢となり、着地後瞬時に匍匐前進開始!ハヤイ!

 

 

最低でも時速70kmは出ている!平均的なチーター並みの速度だ!この立ち枯れの時代にこれ程の匍匐前進を行う者がいようとは!?地面色のニンジャ装束もあいまって、もはやドゲザニンジャの姿は地面スライド蜃気楼めいた何かにしか見えぬ!

 

 

徐々に加速!80km、90km、時速100km突破!ズザーッ!ドゲザニンジャはややドリフトスライドしながら制止した。そこはアパートメントであった。(ここにニンジャがいる!)ドゲザニンジャは匍匐姿勢から跪座へとシームレス移行した。とてもノーカラテ弱者には見えぬ。

 

 

ドゲザニンジャは立ち上がらず、座ったままの姿勢で前進した。地に着いたままの両足爪先部分を器用に活かした歩行であった。その速度は、比較すれば相当遅い。しかしもっとも攻撃的な姿勢であるタイガー・シューティングスターの構えよりはまだしも俊敏だ。

 

 

バタン!唐突にアパートメント101号室の扉が開いた。「アー」「アー」ナムサン。現れたのは男女の成人リアルズンビーだ。襤褸切れめいた衣類。不気味に変色した緑皮膚。白目。なんらかの悪性体調不良影響下にあるのは明白。「イヤーッ!」

 

 

ドゲザニンジャは座ったままの姿勢でスリケン投擲!「アバーッ!」「アバーッ!」脳天に二枚のスリケンが刺さったリアルズンビー2体の頭は爆散し、仰向けに倒れた。「なんだこやつらは。常人ではないな。アワレな被害者といったところか」邪悪。ウィリアム傘下に相応しくないニンジャでは?

 

 

このアパートメントに死者をジョルリめいて操る邪悪存在がいる。ドゲザニンジャはますますカラテ警戒を漲らせた。ピッキーン!ニンジャ第六感に感アリ!後方から急速接近しつつあるニンジャ存在あり!挟み撃ちか!バタン!アパートメント102号室が開き次なるリアルズンビーが!

 

 

身体が大きい!スモトリズンビーだ!まともにやりあえば凄まじいタフネスに違いない!「イヤーッ!」ドゲザニンジャ跳躍!座ったままの姿勢によりニンジャ溜めの原理で存分にカラテを漲らせた両足開放!凄まじい威力のダブルケリ・キックが一撃でスモトリズンビー瞬殺!ワザマエ!

 

 

(すべてのカラテは大地から力を得る!すなわちザレイカラテは最も大地のフーリンカザンを味方とする!)その意識の変化は、確実にドゲザニンジャのカラテを高めていた。ドゲザニンジャはスガン・カブレラの敵として対面しながら、そのキュドー影響を受けたニンジャの一人なのだ!

 

 

ズザーッ!その時である。ドゲザニンジャの感知していた急速接近ニンジャ存在がアパートメント前でスライド制止したのだ。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ドゥゲザーです」ドゲザニンジャ……もとい、ドゥゲザーはザレイカラテの構えを変えた。

 

 

一見すれば、それはアワレを誘うドゲザ姿勢にも見えよう。しかしてその実態は、ザレイカラテでもっとも攻撃的な、タイガー・シューティングスターの構え!ドゥゲザーはこの胡乱な乱入者を、リアルズンビー操作存在の一味と疑っているのだ!

 

 

(「クローズ・エンカウンター・オブ・ザ・ドゲザ」#1終わり。#2につづく)

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