「ヂューッ!」「ヂューッ!」「ヂューッ!」ネズミ・ダンジョンの最奥に、無数のハツカネズミがいた。前歯鋭く、疫病を持ち、目が紅い。何度も咬まれればアナフィラキシー・ショックで実際死ぬであろう。「シュシュ!」「「「「ヂューッ!」」」」かような場所でカラテ振るう者あり。
青白のエプロンドレスニンジャ装束を身に纏う金髪碧眼乙女ニンジャ、ミラーマッチである。「シュシュシュシュ!」「「「「ヂューッ!」」」」ミラーマッチはグルグルと回り、自らこそがミニマル木人拳めいて自身に迫るおぞましいハツカネズミを打ち払い、蹴り飛ばす。
前後左右、全方位におぞましい数の暴力。カラテ処理しきれぬ時には僅かな空間隙間へ回避し、息つくヒマもなく回転カラテ殺。「シュシュシュシュシュシュシュシューッ!」「「「「ヂューッ!」」」」ひたすらハツカネズミを殺す。キックボックスカラテ。
「カラテウケテミロオネガイシマース!」「良い!ここまで!」ピュルリー。笛の音。「「「「ヂューッ!」」」」ハツカネズミは笛の音に操られ、怒涛の如くミラーマッチに迫っていた飛び掛かり勢いを静止し、統率された動きで身を引いた。「良くぞ生き延びた。ミラーマッチ=サン」
カラフル継ぎ接ぎニンジャ装束を身に纏うニンジャは、おごそかに羊皮紙へ一筆を記す。「我がクラン伝統のハツカネズミ100万匹キル達成な。今世紀ではソナタがイチバン目だ。誇るが良い」ニンジャは羊皮紙を両手に持ち、ミラーマッチへ差し出した。
「アリガトウゴザイマス」ミラーマッチは儀礼的にメンキョを両手で受け取った。そこにはネズミののたくったようなドイツ語で【ミラーマッチ=サン。貴殿は全身にカラテ漲り、ハツカネズミ100万匹キル達成したので、私は高評価する。アルジャーノン】と書かれている。
ネズミ・ダンジョンは、ハーメルンの笛吹き男が笛の音でハーメルン在住の子どもを130人ばかり拉致し、閉じ込め、二度と姿を現さなかったというモータル間にも有名な伝説のダンジョンである。その場所は改変され、隠蔽されたが故に所在はモータルの目に届かぬ。
「そしてコイツもくれてやる」ニンジャは懐から横笛を取り出した。ニンジャアーティファクト。「殺しあったらユウジョウ。ハツカネズミは死してソナタのワザマエを共有無意識に刻みこんだ。その音色に込めた声なきコトダマに恐れ敬い、共通無意識一体感のままに従うであろう」
「……ドーモ」横笛も受け取り、ミラーマッチはしめやかにネズミ・ダンジョンを後にした。メンキョさえ得られれば用は無かった。チェシャ・ニンジャは「ニンジャアニマルとニンジャではメンキョの質が違うから」と言って修行を見てくれたことはなかった。
(今日からアタシも、カイデンだ!中途半端だったいままでとは違う!復讐!)ミラーマッチは双眸に憎悪の炎を燃え上がらせ、色のついた風めいて走る。「赤黒の女王!ニンジャスレイヤー=サン!アタシがオマエを殺す!」ナムサン。その脳裏にはワンダーランドの惨劇。
あの日、実際たくさんのニンジャアニマルが殺された。生存者がいたなら、リヴェンジにソウルを燃やす存在と成り果てるのは必然。こうして暴走ニンジャスレイヤーの負債は、ニンジャスレイヤー少女が支払うことになるのだ……「ドーモー、ミラーマッチ=ニャン。ニャまえ変わった?」
ネズミ・ダンジョンの外で待ちうけていたのはチェシャ・ニンジャ。ミラーマッチが生きて出てくる日をのんびり心待ちにしていたのだ。今日の外見はブチキャットのオス。だが特徴的なロングブーツ姿の二足歩行であれば特定は容易。「……カガミ・ニンジャ。赤黒の女王のパープル・ミラーにアタシはなる」
あたかも20世紀都市伝説じみた由来。未来的すぎる?それは違う。都市伝説は20世紀に発掘されたイニシエの伝承が発露したものだ。その実態はニンジャ真実。パープル・ミラーの起源を遡るのは得策ではないとあらかじめ申し上げておこう。
「それで?ニンジャスレイヤー=サンは生きているの?死んでいるの?」「生きてるニャ。イギリス人のイケメンとにゅくにゅく暮らしてるにゃ。楽しそうだにゃー」「楽しそう?」ギリッ。カガミ・ニンジャは奥歯を噛んだ。個人的憎悪が溢れる。
「アタシがネズミ・ダンジョンでフケツな連中とカラテ・トレーニングしてる間、赤黒の女王はイギリス人のイケメンとイチャつきながら楽しそうに生活?」復讐の憎悪に個人的憎悪を乗せたボトルネックカットチョップ!SRASH!憎しみにカラテをかけて実質100倍!
小ぶりな雑木林の幹切断で自然破壊!タツジン!「良いカラテだニャ。絶対勝てるニャ。100%ニャ」戯言めいた応援。「案内して。でも手は出さないで。アタシが殺す。絶対殺す」ミラーマッチのキアイは凄まじい。
「おお、コワイコワイ」チェシャ・ニンジャは全く怯えた様子を見せずに口を裂くかのように笑った。「でもちょいとだけ待つニャ。3日くらい」「どうして?」カガミ・ニンジャの形相は凄まじい。カラテもだ。若々しくもフレッシュな時の重みが荒ぶるニンジャ災害めいている。アラミタマ!
「みたかんじ決闘裁判やるらしいニャ。そこでやっつけるニャ。失敗しても決闘裁判放棄で実質死刑ニャ。勝率100%にょフーリンカザンだにゃー」「なんでも良いから!さっさと案内してよ!」コワイ!
「そにょ前に川かどっかで身を清めるニャ。くっさいくっさい」「モーッ!」バリン!カガミ・ニンジャの手の平の中で超自然桃色発光するミラーが砕けた。ミラーはカガミ・ニンジャの血中カラテ粒子を吸ってニンジャビーストとなる。ニンジャユニコーンナイトの召喚!
「ヒヒーン!」ニンジャユニコーンナイトは重層騎兵めいたアーマーを身に纏うニンジャユニコーンだ。並のホースとは根本的に馬力が違う。「……それじゃ、ヴェーザー川に行って頂戴」カガミ・ニンジャはその背に跨り、身を清めることに決めた。バカラッバカラッバカラッバカラッ!
◆身を清めるには◆
◆脱衣が必要だ◆
……カガミ・ニンジャは辿り着いた人目の届かぬヴェーザー川の一角で、青白エプロンドレスニンジャ装束を脱ぎ、柔らかな肢体を川に沈めた。「つめたっ」雪解け水の混ざる冷水は当然、冷たい。ヒートアップしていたた血中カラテが適度に冷やされる。
だが復讐の炎は消えることは無い。焼けた石に水をかけても蒸発するだけ。「ニャーはミラーマッチ=ニャンってニンジャネームも好きだけどニャー」チェシャ・ニンジャは身体を丸めて戯言を口にする。「ヒヒーン」ニンジャユニコーンナイトはヴェーザー川の水をぺろぺろした。
「どうしてそういうこと言うの?」カガミ・ニンジャはチェシャ・ニンジャを半眼で睨む。「噛み合わせ的に?ニャンニャスレイニャー=ニャンは復讐の権化。ミラーマッチ=ニャンはいま、復讐の化身。復讐の権化と復讐の化身のイクサだから、ミラーマッチにゃ?」
ザバッ。カガミ・ニンジャは川の中に長居せず、すぐに川岸に上がった。局部は謎の超自然的桃色発光で隠される。「だから何?」「特に意味はニャいけどー?サツバツしてるにゃ?余裕がないやつはすぐ死ぬニャ。スマイルスマイル」チェシャ・ニンジャは口を裂くかのように笑った。
カガミ・ニンジャは笑わなかった。「スマイルは元来攻撃的ニャ。笑ったほうがカラテも増すにぇ」「こう?」カガミ・ニンジャは笑った。悪鬼めいた壮絶な笑みである。「ニャッハハハハハ!ミラーマッチ=ニャン顔コワイ!」チェシャ・ニンジャは全く怯えた様子を見せずに口を裂くかのように笑った。
「モーッ!バカ!キライ!」カガミ・ニンジャは怒った。「にぇっへっへ。リラックスにゃ。死んだら終わり。ミラーマッチ=ニャンは二時間ばかしニャンニャスレイニャー=ニャンと遊んでれば良いにゃ。決闘裁判の習いで、ニャンニャスレイニャー=ニャンはそれで死ぬ。物理的にも社会的にも」
決闘裁判はある意味、神の御前試合に近い。そのイクサを放棄する不名誉は計り知れない。ムラハチ、ズンビー、セプク、ギロチン処刑……各地の風習を見渡しても、およそ社会的制裁は免れぬ。「イヤ。アタシがこの手で殺してやる」だがカガミ・ニンジャは直接的スレイに拘る。
「だったら、コイツを上手く使うニャ」チェシャ・ニンジャはぺしぺしと前足でニンジャアーティファクト横笛を叩いた。「ベルリン中のハツカニェズミを操って、決闘裁判ポイントに襲撃。あとは誘導ニャ。フーリンカザンにゃ。ミラールームにご招待にゃ。勝率100%」ナムサン。なんたる戦術眼!
ニンジャスレイヤー少女の現在のカラテでは。ミラールームに潜むカガミ・ニンジャをスレイすることは相当厳しいであろう。勝率100%というのは流石にチェシャ・ニンジャの戯言だろうが、かなり分が悪いイクサになることは間違いない……
「チェシャ・ニンジャ=サン」カガミ・ニンジャは青白エプロンドレスニンジャ装束を纏った。「アタシは実力勝負したい。このカラテ、試してみたい」華奢な拳を握る。ハツカネズミをスレイしつづけた拳。そのカラテはパワーではなくスピードに特化。「エート……バカ?」瞬間!カラテジャブ!
「ニャン!ニャンコ虐待ニャ!ニャンコ愛護団体に訴えてやる!」カラテジャブを浴びたチェシャ・ニンジャはいちゃもんをつけた。シャウト無しの腕試しにしても、一切見えなかった。(こりゃ、ひょっとするとひょっとするかも)彼は内心では低く見積もっていたミラーマッチのワザマエを上方修正。
「どうしてそういうこと言うの?」カガミ・ニンジャはチェシャ・ニンジャを半眼で睨む。「もう、しょうがにゃいにゃあ。じゃあ良いよ。好きにしたら?カガミ・ニンジャ=ニャン」チェシャ・ニンジャはやや突き放すようにそう言った。
もう彼女は、寄る辺無き自身の庇護下フォーセイクンではない。一人前のリアルニンジャだと認めたのだ。「ニャンニャスレイニャー=ニャンはベルリンに居るにゃ。ニャーのしょーさいな調査情報が、コレニャ」チェシャ・ニンジャは羊皮紙を差し出した。
そこには、流麗な現代ドイツ語で仔細な情報が書き連ねてある。カガミ・ニンジャは熟読した。「そいじゃ、オタッシャデー」「えっ?案内してくれないの?」乙女はロウバイした。てっきりチェシャ・ニンジャは付いてきてくれるとばかり思っていたのだ。
「子どもじゃニャいんだから忍殺紀行くらい行けるでしょ?ニャンニャスレイニャー=ニャンは行ってるにゃ」「行けるよ!チェシャ・ニンジャ=サンはついて来ないで!」カガミ・ニンジャは見栄を張った。「ハイヤーッ!」そしてニンジャユニコーンナイトの背に跨り、走らせた。
バカラッバカラッバカラッバカラッ!あっという間に走り去り、離れていく背を見送って、チェシャ・ニンジャは黄昏た。「一度スピードで戦うと決めたなら、一発のカラテストレートパンチに頼ってはニャらぬ」独白は、ボックスカラテの基礎的なインストラクションか。
「敵のカラテシャウト一回分の間に3発カラテジャブを打ち込んでインターラプトすれば良い。集中力アドバンテージ差でかなり有利。億千万のカラテジャブを打ち込むのら」やがてチェシャ・ニンジャの姿は霧に紛れて消えた。
(「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・メルヘン」#1終わり。#2につづく)