ニンジャスレイヤーIF少女   作:BANZAINAMUSAN

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スティール・イン・ザ・シャドー

シャミソンは途方にくれた。影を盗まれたのだ。太陽、ランプ、ガス灯、月光……光の種類を問わず、浴びるものすべてが自ずと生み出すはずの影が、いつの間にかなくなっていたのである。

 

 

「スミマセン!影をなくしてしまったのですが!」都市間巡回ネオプロイセン警察に訴えたところで、奇人、変人、挙句の果てにはヘンゲヨーカイ扱い。紛失物の訴えは受理されず、落し物は届けられない。

 

 

都市間巡回ネオプロイセン警察は人によってアタリハズレが最も激しいジョブだ。シャミソンは巡り合わせ悪く、彼の住む村に訪れたのは、ハズレのほうだった。

 

 

このまま二週間すれば影の所有権はシャミソンのものではなくなるであろう。もはや彼は人目のつく光あるところを気軽に出歩けなくなり、自宅警備しつづける事を強いられた。

 

 

あたかも吸血鬼かなにか、それこそヘンゲヨーカイめいた生活……彼は藁をも縋る思いで友人に手紙を書いた。最速の早馬速達便。それでさえ二週間以内に間に合うかどうか……

 

 

鬱屈をした思いの晴れぬまま、影を盗まれてから10日が過ぎた。

ノックノック。

「やっと来たのか!」

シャミソンは希望を胸に扉を開けた。ガチャ!

 

 

「ドーモ、派遣ディティクティブのエヌエスです」

玄関の前に立っていたのは、子どもだった。

これでどうやって問題を解決すればいいんだ!?

 

 

金髪赤目。赤いビロードの頭巾を被り、同色のインバネスコートを纏う身長4フィート前後の子どもは、虫眼鏡を手にジロジロとシャミソンを見つめた。不躾に。「チェキ!」なんかいな都会の若者言葉だ。シャミソンには意味が分からない。

 

 

叩きだそうか、招きいれようか、迷う。「ムムム!チェキ!」少女はシャミソンの足元に虫眼鏡クローズアップした。あたかもアーネスト・トンプソン・シートンの動物観察奇行めいて。

 

 

――なお、アーネスト・トンプソン・シートンはまだ生誕していないことをこの場であらかじめ断っておく――シャミソンはロウバイした。あるはずのものがないところを見られて、良い事などひとつもなかったからだ。将来を約束していたはずの彼女にも裏切られた。

 

 

少女はしかし、影を盗まれた男を恐れることなく「ホントに影がないみたいですね」といった。少なくとも、警察よりは正当に調査をする意思を見せている。頭脳指数の高い調査力があるかどうかは疑問だが。

 

 

「確認するけれど、ドブネズミ=サンからの派遣だよね?」

「ウン」少女はうなずいた。

シャミソンは我が家に少女を招きいれることに決めた。

 

 

一般的なウッド造りの一軒屋。リビングにはダイニングテーブルにチェアが四つ。コーヒーサイフォンが片付けられずに卓上に。壁沿いの棚にはダイクボックス。DIY知育道具めいた玩具。複数のレターケース。「家族のかたは?」

 

 

「……ひとりだよ。ウェディー=サンと結婚出来ていれば幸せな家庭を築いていただろうけど!」少女の問いはやや奥ゆかしくなかった。被害者の心に寄り添わずプライベートに踏み込むなど!「ゴメンナサイ」「……いや、僕も奥ゆかしくなかった」相互に謝罪。

 

 

わだかまりはあれども、タテマエ上は収まった。「コーヒーでいいかい?」「ウン」「ヤギ・ミルク割合はどのくらい?」「25%くらいがいい」シャミソンはコーヒーサイフォンを一旦抱え、キッチンへ向かった。

 

 

影がないことによる身体的動作に異常はない。あるはずのものが無いという、あからさまな外見的特徴があるだけだ。それこそ、例えばニンジャめいて。「……」キッチンに向かうシャミソンの背を見つめる少女の目つきは鋭い。

 

 

……シュー、シュー。コポコポコポ。キッチンから響くコーヒーサイフォンの稼動音。そしてマグカップに注ぐ音。リビングへ持ち込まれたマグカップ中心に広がる芳醇オーガニックの香り。クロス木窓から差し込む夕日。

 

 

「たいしたモテナシもできませんが……」「アリガト」少女に差し出された木製マグカップ内には、後から注がれたミルク痕跡が揺らめく。すでに黒一色から、ミルク影響色に変化しかけている。

 

 

マグカップを乗せたソーに添えられたミニマムスプーンでマグカップ内をぐるぐるすると、ミルクは螺旋を描き、コーヒーと一体化して薄い茶色に変色した。

 

 

「ドブネズミ=サンには手紙で概要を書いたけれど、君にも10日前のことから順に話そう」

「オネガイシマス」

 

 

少女は虫眼鏡を手にジロジロとシャミソンを見つめた。不躾!

 

 

「それ、意味あるの?」シャミソンはやりづらそうにした。

「チェキが大事だってお兄さんが言ってた」少女は譲らぬ。

 

 

(お兄さん?ドブネズミ=サンの血の繋がらない妹だろうか?)シャミソンは訝しんだ。兄妹にしては目の色が違うと思ったのだ。

 

 

ほかに縋るあても無い。

シャミソンは10日前のことから順に話した。

 

 

ある日突然、何の前触れもなく影がなくなったこと。

町民に怯えられながら言われて、初めて気付いたこと。

巡回ネオプロイセン警察にはまともに取り合ってもらえなかったこと。

ダイク仕事も頼まれなくなり、彼女にも振られたこと。

のっぴきならない状況に陥り、友人のドブネズミに頼ったこと。

 

 

「いまはまだ、貯金で生活できている。村のみんなも、一応は相手してくれる。でも「カネが無くなったらユウジョウはつづかない」って誰かが言ってただろ?貯金がなくなったらオシマイだ」シャミソンは手で顔を覆った。

 

 

「エート、エート、怪しい相手や疑わしい人に心当たりはありますか?」

「いや、無いよ。ここはそんなサツバツとした村じゃない。怪しい旅人だって来てない。きみ以外はね」

 

 

シャミソンの言葉にはトゲがあった。

ちょっとしたイシュ・カウンターだ。

少女は虫眼鏡をシャミソンに近づけたり離したりした。

 

 

「エート、影がなくなったとき、回りに誰か居ましたか?」

「居ないよ。僕はダイクなんだ。その日は家具DIYしてた」

「影が無くなってから、イライラしたり、暴力的な気分になったりしますか?」

「そりゃあするさ。影が盗まれたんだよ?心穏やかじゃ居られない」

「じゃあ、だれかを殴ったり蹴ったり」

 

 

ダン!シャミソンは自作ダイニングテーブルを叩いた。限界だった。「いい加減にしてくれ!なんなんだきみは!まさか僕のことを疑ってるんじゃないだろうな!?」目つきがおかしい。パラノイア・ダークオーガめいて。その時である!「チェキ!」

 

 

少女は虫眼鏡をキッチン出入り口に向けた!「居たよ!」「ええっ!?」「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤー少女の投擲したスリケンがシャドーピンめいてシャミソンの影を貫いた次の瞬間、シャミソンはフィードバックダメージを受けたのだ!

 

 

「チェキデス!ニンジャはオマエだ!」「アイエエエエ!ニンジャ!?僕がニンジャナンデ!?」本体の危機を察知して舞い戻り、スリケンダメージを負ったシャミソンの影は、堪らずNRS発症中の本体の元へ戻っていた。

 

 

「シャミソン=サン。アタシはこの家に来る前に、他の村人にお話を聞きました。ここ10日間、あやしいかげがキッチンで作ってたスープを飲んだり、作り置きしてたビールを呑んだり、スカートの中を覗いたりしたらしいですよ?」

「そ、そんな!?ウソだ!そんな話、みんなから聞いてない!?」

 

 

シャミソンは手で顔を覆った。

影が盗まれたのではなく、影が盗みを行っていた?

誰からも忠言されなかったのは、ニンジャになった自分のことを、内心では恐れていたから?

絶望!シャミソンのニューロンに罪悪感過負荷!

 

 

「なんてこった……ぜんぶ僕が悪かったなんて……神様にどう申し開きすれば良いんだ……ただちにセプクします。ジゴクで反省します」ナムサン。シャミソンは罪悪感のあまり、壁沿いの自作棚にあるダイクボックスからハンドサイズノコギリを取り出した。

 

 

まさか……そのギザギザとして尖った部分の多いノコギリでセプクするつもりだとでも……言うのか!?そのセプク方法はジゴクだぞ!?ノコギリをシャミソン自らの意思で腹筋に押し当てた、その時である!「そこまで!」kick!少女はハンドサイズノコギリを蹴り飛ばした!?

 

 

(((バカ!何を考えておる!そやつはハデス・ニンジャクランのアーチ級ニンジャ!今すぐ殺せ!殺すのだ!)))(ナラクは黙ってて!)ニンジャスレイヤー少女は自らのソウルを御した。「シャミソン=サン。アナタは悪いニンジャです」少女はおごそかに宣告した。

 

 

「どうやらそうらしい。シャドー経験フィードバックが頭の中にダイレクト……なんたる卑劣漢!もう死にたい。死なせてくれ。カイシャクを頼む」

「ダメです」

「ナンデ!?」

「シャミソン=サンは反省してるから」

 

 

ニンジャスレイヤー少女はなんと残酷なのだろう。セプクして苦しみから開放するより、生きて苦しみ罪を償えと言っているのだ。「ベルリンのボッタクリ商店街に行きなさい。バッドアップル=サンが面倒を見てくれます」「うう……死なせてくれ頼む」「ダメです」

 

 

シャミソンはメソメソした。「メソメソスルナー!」バシンッ!「グワーッ!」ニンジャスレイヤー少女は腰のスナップの利いたビンタでシャミソンの頬を打つ!「本当に反省してるんだったら罪を償うことも出来るはずだよ!」手厳しい!

 

 

ニンジャスレイヤー存在であるならばこの場でスレイするのが一番手っ取り早い。後腐れもなかろう。だが少女は自ら再定義したミームを、エゴを貫き通す!あのとき、悪いニンジャ定義が甘いが故に起きたウカツを反省したのだ!

 

 

(本当に悪いニンジャは!邪悪を嘆かない!悪びれない!反省しない!)(((その判定が甘いというのだ!厳罰スレイ化!)))(アタシがルールだ!ナラクは黙ってて!)なんたるエゴか!反省してメンタルが強い!

 

 

「分かりました!ベルリンに行って、罪を償います!だからもう叩かないでください!」

「アマッタレルナー!」バシンッ!ビンタ!「グワーッ!」

「どうやって罪を償うんだ!言ってみろ!」

「無償でDIYダイクします!食事は乞食活動でしのぎます!」バシンッ!ビンタ!「グワーッ!」

 

 

いま余分に一回叩いたのナンデ?ニンジャスレイヤー少女はシャミソンに手を差し伸べた。「よく反省しようと決意しましたね。アタシ、感動しました」やさしみ。

 

 

「エヌエス=サン……僕、目が覚めました」何かに目覚めたシャミソンは情欲に潤んだ目で瞬きした。「ちゃんと心を入れかえて罪を償います」彼はもうメソメソしてはいない。

 

 

腰のスナップの利いた少女のビンタがシャミソンのネガティブな心を懲らしめたのだ……その後、シャミソンは無意識の悪事を村長経由で謝罪し、貯金全額を賠償金として支払い、村を出た……そしてベルリンはボッタクリ地区に移住し、ダイク奉仕活動に従事したという……

 

 

末永く幸せに暮らすのか?質素で清貧に生きるのか?はたまた反省を忘れて暴走するのか?未来のことなど誰にも分からぬ……しかしニンジャスレイヤー少女は、彼が反省の心を忘れ、真の悪いニンジャと化した時、必ずやスレイするであろう……

 

 

【スティール・イン・ザ・シャドー】終わり

 




◆忍殺◆ニンジャ名鑑#075【シャミソン】◆少女◆
寒村のダイク。無意識のシャドースティール・ジツによりフェアリー悪戯めいた迷惑を村にかけていたが、その影は今はもう大人しい。どうやらノーカラテニンジャソウル憑依者らしく、カラテは実質無い。
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