「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY……Ninja Slayer……」
雨が降っていた。長時間に渡って酸性雨を浴びつづけ、ミーミアの皮膚が露出している全身のいたるところからセンコめいた化学反応が立ち上る。ミドル級平民服である麻の服はとうに襤褸切れと成り果て、かろうじて局部を隠すばかり。荒れ果てた荒野を一人、孤独に走る。
「Ninja Slayer……Ninja Slayer……!」
ミーミアは人語を忘れたかのようにひとつの単語を繰り返した。手には乙女の聖剣「オトメマル」故を知らぬ者が見ればただの包丁にしか見えぬ。だがノロイに詳しいものが見れば、夥しいノロイバイパスが彼女に進むべき道を指し示して見えるに違いない。
愛を奪われた憎しみがミーミアを動かしていた。かつて有していた年相応の可憐さはそこにはない。チャームポイントであったソバカスはマダラめいて顔中を覆い、憤怒に歪んで固定された顔をおぞましくデコレーションしている。そして酸性雨効果によりおぞましさ倍点!コワイ!
その髪質は見るも無惨に荒れ果て、赤茶と白髪が入り交じる。日本のヨーカイモンスター「ヤマンバ」では?だがモータルを逸脱していない。彼女は、人間だ。人間なのだ。これほどの様相になったとしても。
ミーミアは「オトメマル」に引っ張られるイビツなカラクリめいて、非人間的に荒野を走る。「Ninja Slayer……!」憎しみのあまり言語野に不備が?ニンジャを殺すニンジャを怨むモータル。ニンジャスレイヤー少女にとってのニンジャスレイヤー。
彼女の歩みの先には、例年に無いほど荒れ狂う川が見えてきた。その川の名をミーミアは知らない。広い世界を知る機会を、ニンジャスレイヤーに奪われたのだ。「Ninja Slayer!」果たして、ニンジャスレイヤー少女は座り込んでいた。
筆舌尽くしがたい死闘の末、ついにアンタイコクシ存在である治療薬『タイヨウ』を手にしたニンジャスレイヤー少女。しかし、カラテ限界が、彼女を荒れ狂う川の前に座り込ませた。執拗にニンジャスレイヤーを追跡していたミーミアはノロイに導かれ、ついに追いついたのだ。
ウサギアンドカメのメルヘン伝説めいて、ニンジャとモータル間の速度が大いに異なっていても、ニンジャが動かぬのならば追いつくことは理論上可能!「フゥー……ッ!ハァー……ッ!」ニンジャスレイヤーは二度、息を吐いた。プシュー。勢いの無いスチームめいた熱気。
カラテ廃熱がうまくいかないほどの激闘に次ぐ激闘……いかなニンジャスレイヤーとてワンデイ・ワンナイトで得ることの叶わぬニンジャ耐久力の上限限界が、そのボトルネックを露呈していた。危険だ。
「NinjaSlayer……WRYYYYY!」
ナムサン。ミーミアは右手で逆手に持ったオトメマルを高々と振り上げ、なおも走った。両足が車輪めいて回る。後ろ足が左右でくるくるしているのだ。ガールダッシュ。そこにカラテはない。あるのは殺意のみ!
タタミ20枚距離は徐々に埋まり、15枚、10枚と減っていく。「フゥー……ッ!ハァーッ……ッ!」ニンジャスレイヤーは座り込んだままだ。気づいていないのか!?アブナイ!タタミ9枚距離、8枚、7枚、6枚、5枚、4枚、3枚、2枚、「今何時?」ワッザ?
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYA!」ワン・インチ距離!乙女の聖剣オトメマルが振り下ろされる!catch。ニンジャスレイヤーは座ったままの姿勢でケープから懐中時計を取り出しつつ、片手対応した。カラテ防衛圏によるオートガード反応。「なるほど、こうやるのか」
僅かでもニンジャ新陳代謝を高めるべく閉じていた目を、少女は開いた。彼女の目は、死んだマグロではない。全てを諦めた、絶望した者の顔では無い!「NinjaSlayer!」ミーミアは我を忘れたかのようにオトメマルを押し込む!
「そしてこう!」少女は座ったままの姿勢でコンパスめいた円を描いたかと思うと、瞬く間にミーミアの右腕間接を極めつつ地に伏せ、抑え込んだではないか!今のは!ザレイカラテと古代ローマカラテ『獅子の構え』による大地抑え込みを高度にハイブリットしたのでは?
なんたる各カラテの優越性を高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に活用したワザマエか!「WRYYYYYYYYYYYYYYYY!」ミーミアは必死にジタバタするが、右腕関節を極められ、地に抑え込まれたまま動けぬ!
「謝らないぞ」少女は宣言した。ただ己のエゴを押し通す。「悪いニンジャはみんな殺す。アタシはそう決めたんだ」「WRYYYYYA!」ボキッ!ミーミアの右腕が折れた。
少女が折ったのではない。ミーミアが関節破壊を厭わず暴れたのだ。ゴロゴロゴロ。ミーミアは拙いワーム・ムーブメントめいた動きで一度少女から離れる。
「……」ニンジャスレイヤー少女は見逃した。僅かでもニンジャ新陳代謝を高め、よりニンジャ耐久力を回復しなければならないからだ。走るために。
ミーミアは右腕を一切庇わず、左手でオトメマルを逆手に握り直し、なおもニンジャスレイヤー少女を襲う!「WRYYYYYA!」「こっちのほうが良いのかな!」だが少女が抑え込む!
今のは!ザレイカラテと古代ローマカラテ『獅子の構え』による大地抑え込みを高度にハイブリットしたものを更に洗練したのでは?なんたる各カラテの優越性を高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に活用したワザマエか!
「WRYYYYYYYYYYYYYYYY!」ミーミアは必死にジタバタするが、左腕関節を極められ、地に抑え込まれたまま動けぬ!少女はただただ、己のエゴを押し通す。「悪いニンジャはみんな殺す。メッサーハンド=サンは悪いニンジャだった」ミーミアはより激しく暴れた。
「WRYYYYYA!」ボキッ!左腕骨折。ゴロゴロゴロ。ミーミアにもう無事な腕関節はないぞ。いったいどうするつもりなのだ……アッオトメマルの柄を口に咥えたではないか!
最後まで愛した男の、ニンジャであるメッサーハンドの仇討ちを辞めぬつもりなのだ!ニンジャスレイヤー少女が同様の流れを繰り返せば、首をへし折り、殺してしまうであろう……「人を殺してはいけません」のジッカイが忌諱感増幅!
「止まれ!殺したくない!」「GRYYYYYYYYYY!」モンド・ムヨー!ミーミアはオトメマルを噛み締めたまま三度目の突貫!相互に危険!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤー少女!殺人ジッカイを破ってしまうのか!?否!
ニンジャスレイヤーはオトメマルにカラテパンチ!krush!オトメマル無残!更にカラテ振動でミーミアの前歯無残!「アアアアァァァアアアア!」ミーミアは意味ある言葉にならぬ唸り声をあげて泣いた。最後の繋がりを奪われて。
「イヤーッ!」僅かながらにニンジャ耐久力を回復させたニンジャスレイヤー少女は、荒れ狂う川に挑む!ニンジャなら問題ない!川幅タタミ8枚距離までなら!「アアアアァァアアアア!」ミーミアは意味ある言葉にならぬ唸り声をあげて泣きつづけた。バンシーめいて。
「謝らないぞ……謝らないぞ……絶対だ!」ナムサン。少女は決断的にミーミアを見捨て、走った。彼女は、信じている。ドブネズミがまだ生きていると。己の命なぞは、問題ではない。セプクして謝罪、などと気のいい事は言って居られぬ。
困っている人を助けないのは腰抜け。あの日助けたドブネズミに、彼女は救われたのだ。その人間性が。恩には然るべき報いがなければならぬ。インガオホー。そこに善悪無し。いまはただその一事だ。走れ!ニンジャスレイヤー少女!走れ!
やがて降雨地帯を抜け、後光が差す。日が登る。「まだだ!まだ登ってない!」再び立って走れるようになりはした、だが、間に合うのか!?ああ、陽が登る。ずんずん登る。日が登っては、間に合わぬではないか。
待ってくれ、時を止めてくれブッダよ。少女はうまれた時から正直な少女であった。マッポーの理は、善なりしインガオホーだけは叶えぬというのですか!ブッダよ!まだ寝ているのですか!朝ですよ!インガオホー!
ああ、ドブネズミ、ドブネズミのために少女は、いまこんなに走っているのだ。あの男を死なせてはならない。急げ、ニンジャスレイヤー少女。おくれてはならぬ。誠のニンジャのカラテを、いまこそゼウス・ニンジャに知らしめてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。
(((もうおやめなさい。走るのは、おやめなさい。いまは少女の命が大事。あの方は、あなたを信じていました。それで良いではありませんか)))ゼクスマイレンが諦めの境地を囁く。(それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。理屈じゃない!)少女はあくまでもエゴを押し通す!
(アタシはなんだか、もっと恐ろしくて大きいものの為に走っているのよ。止めるなゼクス!) (((アナヤ、狂人。気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走れるだけ走るがいい)))言うに及ばぬ。走れ、ニンジャスレイヤー!
まだ陽は登らぬ。小川を飛び越え、少しずつ登っていく太陽の、100倍は早く走った。カラテを尽くして、少女は走った。少女の頭は、もうからっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな何らかの何かにひきずられて走った。
ゆらゆらする地平線に、ベルリンの活気あり。走る走る走る!あと6マイル距離!(((流石にもう、駄目でしょう。無駄でしょう。走るのは、おやめなさい。もう、ドブネズミ=サンを助けることは出来ません)))(まだだ!まだ陽は登らぬ!)少女の目は死んだマグロではない!
(((仕様書のとおりであれば、ちょうど今、アンコクトンめいて全身が溶けているころでしょう。あなたは間に合わなかった。あの場にミーミア=サンがいなかったなら!ほんの少し、もうちょっとでも、ニンジャ耐久力を回復できていたなら!)))無慈悲な宣告!(黙れゼクス!)
ああ、だが、見よ。思いとは裏腹に、少女のカラテ尽き、ニンジャの速度が失われていくではないか。ああ、ダメかニンジャスレイヤー少女!屈してしまうのか!「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!」精神力で走る少女の足の早さは、もはや外見相応のもの。
ここから6マイル?無理では?だが、新たに読んだヨロシサンの病毒改変非合法ウイルス「コクシ」の詳細な仕様書の通りであれば、今日の朝がた、ドブネズミは死ぬ!吸血鬼伝説めいて日光に全身が焼かれ、グズグズに溶けるのだ!
【ラン・アニュウェイ】終わり。【マッドマン・リブート】につづくが、それは次ではない
◆忍殺◆アイテム名鑑#008【オトメマル】◆少女◆
爆発四散したメッサーハンドがカラテ生成していた包丁に、ミーミアが意味をこめて名付けることで何らかの神秘的な接続がなされた。ニンジャスレイヤー存在の現在地座標をブックマークし、所持者を導く。