ニンジャスレイヤーIF少女   作:BANZAINAMUSAN

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トリーズナーズ・ウィズ・ディファレント・ポジションス#2

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

(「ダブルハンドフラワー!ドブネズミ!テメェいつの間に!」「ノー。ビジネス」束ねられた毛玉めいて、相互の思惑、意図が絡んでいた。「グリム兄弟」の働くベルリン・フンボルト大学に赤い影。「ロート・シュトルムボック可能性がある」「なんだと」)

 

 

(「トリーズナーズ・ウィズ・ディファレント・ポジションス」#2)

 

 

ジャッシュ・イッテンハイムは上の空で目を擦り、三度まばたきした。個室に飾られた「勉強会」の反体制的威圧感のある垂れ幕が目に飛び込んでくる。「どうしたんだい?眠いのかい?自己批判してリフレッシュ、どう?」とセンパイ。「アイエッ、ダイジョブです!」

 

 

ジャッシュはセンパイの勧めに首を左右に振った。凝り固まった肩が軋む。センパイはそれ以上肩こりをほぐすことを許さなかった。「何度でも言うけど、肝心なのは問題意識なんだ」赤原色の冊子に書かれたゲルマンショドーを指でなぞり、視線を誘導。

 

 

年齢もカラテ段位もジャッシュより上。ジャッシュは反体制問題になど興味はなかったが逆らえなかった。個室の出入口と、ジャッシュの背後に一人ずつ。三人の上級生に囲まれては勝てるわけがない。「ホラご覧。テッツォ=サンの実際ありがたい言葉だ。復唱して」「アッハイ」

 

 

【人とは力です。そしてロート・シュトルムボックとは、すなわち人だ。進歩的未来を信じて己を省みず闘う勇敢な革命闘士の集まりです。大学生は皆、目の上のタンコブ存在である貴族社会と王の支配に、問題意識を持って闘わなければならない】

 

 

【フランスでの活動は大成功を収めた。革命の輪は広がっている。次は我々だ。フランスでは今、多くの問題が起こっている。革命のイタミだ。ブルジョワ支配階級と労働者が血と汗と涙を流し、ひとつの答えを出そうとしている。我々は見ていることしかできないのか?否。革命理念を共有することはできる】

 

 

その復唱が何度目になるのか、ジャッシュは数えていない。だが、繰り返せば繰り返すほど、現政権の改善点や、惰弱な王家のリーダーシップに対する嫌悪がニューロンにブギーポップアップし……「いいかいジャッシュ君。君が現状に不満なのは、ネオプロイセン連合王国が中途半端だからだ」

 

 

「中途……半端……」ジャッシュの目つきがおかしい。頭の中でアジテーション文言がぐるぐるしている。「我々が問題意識を持って、学生運動を起こさなければ、一生変わらない。これは第一歩。マイレボリューションなんだ。君も大学生革命闘士に目覚めるんだ」「けど」

 

 

ジャッシュは抗おうとした。ジャッシュをジャッシュ足らしめる根幹が、言語化しがたいが少し考えれば幾らでも突けそうな、革命理論の穴を突こうとした。センパイはそれを許さず、肩を揺さぶって畳み掛けた。ブレインコントロールめいて。否。曖昧にする必要は無い。ブレインコントロールだ。

 

 

「ゲッティンゲン七教授事件を、君も知っているだろう?問題意識のある大人は、率先して動いている。地位も名誉も捨てて、だ。簡単なことじゃない。我々も闘わなければ、次の世代に禍根を残さないためにも」「アー……ハイ……言われてみれば確かにそうかも……」

 

 

ジャッシュの自我がより希薄となり、何がなんだかわからなくなってくる。【人とは力です。そしてロート・シュトルムボックとは、すなわち人だ。進歩的未来を信じて己を省みず闘う勇敢な革命闘士の集まりです】ジャッシュはセンパイから与えられる言葉を、何度も復唱した。何度も。何度でも。

 

 

ナムサン。この光景は、4月の反体制運動撲滅月間が終わってから、ベルリン・フンボルト大学の至るところで繰り広げられるチャメシ・インシデントである……潜伏狂人……もとい、潜伏先導者が秘めやかに広がり続けるコミュニティをネズミ算式に……たくさん仲間を増やしたのだ。

 

 

末端は、始点はどこに?その全容を把握することは実際困難。ロート・シュトルムボックは哲学的ゾンビめいて、モータルに擬態しどこにでもいる。アカはその全盛期に国一つ容易く転覆させてきた。ミームの悪性感染は留まる所を知らず……ナムアミダブツ、おお、ナムアミダブツ!

 

 

◆曲解◆

 

 

◆曲げて、解く◆

 

 

ベルリン・フンボルト大学はナポレオン軍と衝突し、国家存亡の危機に陥ったプロイセン王国をモラールV字回復に建てなおす逆転の一手のひとつであった。伝統ある大学に歴史の重みで及ぶべくもないが、当代随一の学者らを招き、ベルリン復興に合わせて建造。

 

 

プロイセン王国がネオプロイセン連合王国となった今でも、首都に位置する大学として国家の強い支援を受けることで更なる発展を遂げ、ドイツ文化圏を代表する大学へと成長しつつある。そこへグリム兄弟が招かれたのはそう昔のことではない。

 

 

いうまでもないが、童話編纂者だから呼ばれたのではない。「ゲッティンゲン七教授事件をご存知?」「興味ネェな」ドブネズミの問いを、バッドアップルは切り捨てた。「おっと、いけない。お嬢ちゃんに歴史の授業をする心地になってたよ。剣呑剣呑」

 

 

二人は今、学生に扮して法学部二階に入り込んでいた。黒の学生ローブをキッチリと着こなす正装だ。バッドアップルは美貌を隠すため、目深に同色フードを被っている。昨日渡したローブはゴス改造制服と化してしまったため、ドブネズミは潜入調査を強調してなんとか予備ローブに着替えさせた。

 

 

ガラス窓の外では霧雨めいた酸性雨。「屠殺代行」「受験戦争」「ホーリーブラウニー」のアドバルーンが霞んで見える。「ヤーコプ=サンは実際ドイツ古代史に詳しい人でね」「だから興味ないンだが」バッドアップルはナシの礫だ。

 

 

一見して、なよなよとしたナンパな男と、真の男女平等を成し遂げた大学に入らんとして、国外から流れてきた成人女性。実年齢に目をつぶれば、全くありえない組み合わせではない。が、不自然であることは否めない。つまり、やや浮いている。

 

 

昼休みの時間で無ければ、いつ巡回警備員に誰何されてもおかしくない。ドブネズミはバッドアップルにだけ聞こえる声で「お願いだから適当に話合わせてくれよ」と言ったが「だって興味ネェし」と切り捨てられた。(ウーン。失敗だったか?いや、しかし)

 

 

この場に至るまでの経緯に、ニンジャの身軽さは必要不可欠であった。ドブネズミもまたモータルの範疇内ではそうとうに身軽であると自負しているが、当然ニンジャには及ばない。潜入に当たって最低でも一人、ニンジャの協力者が必要であった。

 

 

ニンジャのワザマエに依らぬスマートな潜入……例えば、業者や関係者への変装……では、イマジナリーにおいて目的地に向かうことはかなり難しかった。その点、シノビ・ニンジャクランめいたスニーキングアクションであれば、中に入り込むことだけは簡単だ。入り込むことだけは。

 

 

肩を並べる相手が少女ではないのは、潜入後の立ち回りにおいて不足があるからだ。「さて、ここだね」ドブネズミはヤーコプに振り分けられた研究室前に立ち止まる。偶然か否か、いまこの瞬間には周囲に人影は無い。無人か、あるいは……ノックノック。

 

 

「誰かね?」「弟のエーミール=サンからの使いです」沈黙。「……入って、早く」「失礼します」カチャ。ドブネズミとバッドアップルはしめやかに入室した。「法学」のゲルマンショドー掛け軸が力強く存在感アッピールしている。その掛け軸の前、執務デスクの向こう側に初老の男。

 

 

不如帰の墨絵。書類棚。棚の上にはロマン調のコケシ。片隅に水道エリア。湯気をくゆらせるコーヒーサイフォン。カップは執務デスク上にひとつだけ。広げた羊皮紙は……ドイツ語辞典の草案か?清書ではあるまい。ドブネズミは注意深くクリアリングした。

 

 

「ドーモ、はじめまして。ドブネズミです」「アタイは付き添いな」二人を見るヤーコプは額から汗を流している。「……ドーモ、ヤーコプです。どうやってここに?出入りは、警備が制限」「潜入しました。まずはエーミール=サンからの伝言。『第五版、どうするんだ』とのこと」

 

 

ガタッ!「今はそれどころじゃない!」ヤーコプは立ち上がり、怒りを露わにした。「やっぱりな。アイヤッ、なにかただごとでは無い事態が起こっているのだなぁ、と推理していたもので」ドブネズミは一度言葉を区切り、室内を再度注意深く観察した。「事情をお聞かせ頂いても?」再び沈黙。

 

 

「しかし……信じられる筈がない……実際これはインガオホー……ニンジャなのだ……」ヤーコプは苦悩に顔をゆがめた。「信じますよ。なにせ、彼女はニンジャだ」ドブネズミは親指で背後のバッドアップルを指した。「ニンジャ!?」「アタイがニンジャだとなにか悪いことでもあるのかい?」

 

 

バッドアップルは不遜に腕を組んで立っている。カタナめいた眼差しは鋭くこそあれ、しかしどこか奥ゆかしい。ニンジャアトモスフィアは密やか。カタギには手を出さぬ頑なさが、そのアトモスフィアをマフィアレベルにまで落としていた。だが、モータルにはそれでも過分な脅威。

 

 

ヤーコプは瞠目し……諦めたかのように教授チェアに深く腰を沈めた。「どこから話したものか……数年前、私たち兄弟は陛下に招かれ、お声がかかった。『ニンジャの支配から逃れる方法は無いのか』と」ヤーコプは懺悔めいて滔々と語った。整理するかのように。

 

 

ニンジャとは、古代ローマをカラテによって支配した、半神的存在である。ヤーコプはドイツ古代史を調べる中、ニンジャ存在の片鱗に触れていた。しかしありえないものとして、半ば見て見ぬ振りをしつづけてきた。なんらかの警句がニンジャという概念に変異したものであると。

 

 

時は流れ、ヤーコプらは恩師の仲介によってメルヒェン収集に励むこととなる。メルヒェンとは「昔話」を意味するドイツ語で、実質メルヘンと相違無い。グリム兄弟はメルヒェンを収集したのであり、創作したのではない。

 

 

兄弟は口伝えと文献のふたつの方向からメルヒェン収集を進め、収集の成果である53篇をロマン派の詩人ブレンターノに送った。しかしブレンターノから音沙汰がなくなった。「いま思えば、疑うべきだった」とヤーコプは滔々と語る。強いて、滔々と語る。

 

 

ドイツロマン主義の文学者、義兄とともに民謡集『少年の魔法の角笛』を手がけたアルニムからも音沙汰が無くなった。そしてニンジャが兄弟に……「アイエエエエ!」NRSフィードバック!ドブネズミは一室の片隅にあったコーヒーサイフォンに残る中身をカップに注いだが、やや遅かった。

 

 

「教授!?」「どうかしましたか!?」ガチャ!力強く恰幅の良い大学生が二人押し入ってきた。「アテミ」バッドアップルは素早く二人の首後ろを軽くチョップし、意識を奪った。ワザマエ。ニンジャに目覚めた上でモータル相手に繊細なる力加減をこなすとは。「ッハ。面白くなってきやがった」

 

 

バッドアップルは攻撃的な笑みを浮かべた。「アータ、喋る順番を間違えたね。もっと喫緊の課題から済ませるべきだった」ヤーコプは震える手でコーヒーを飲み、ザゼン成分でいくらか落ち着いた。「ス、スマン。しかし重要なのだ」場の主導権は、トラブル担当のバッドアップルに移った。

 

 

「さあて、ここからはラックの時間だ。①すぐにトラブル担当が来る。②昼休みの間はダイジョブダッテ!③ラッキー!誰もずっと気付かない」「僕が望みたいのは当然③だが、楽観論が過ぎるな。①警戒重点が妥当でしょ」ヤーコプは顔を青くした。「二、ニンジャが来る、原色赤のニンジャが!」

 

 

やや落ち着きを取り戻しつつあったヤーコプが再び取り乱し始めた。原色赤。いつだったかの銀行強盗ニンジャのニンジャ装束も原色赤であったか。あの日は謎めいた幸運により救われたが今回は果たして……「やれやれ、つまらなくなってきやがった」ドブネズミは嘆息した。

 

 

そして黒学生ローブを翻し、ガンベルトを各所に仕込んだ八丁の六連発リボルバーを曝け出した。「アイエッ!?」「残念だよヤーコプ=サン。僕は真摯に事情を聞くつもりだったし、問題を整理するつもりだったし、手を貸すことも吝かではなかった。相互に欲しいものとの交換条件でね」

 

 

ドブネズミはツカツカと早足で執務机を回り込み、ヤーコプに歩み寄った。「けど残念、トークタイム・イズ・オーバー・デス。ま、ヤーコプ=サンが悲鳴をあげて潜入が発覚したんだし、自業自得と思って堪えてくれ」手招きするようなハンドジェスチャー。

 

 

「僕はだね、ヤーコプ=サン。グリムス・メルヒェン初版、その原稿が欲しい。編纂前が良い。僕の読みでは、そこにいくらかの確度が高いニンジャ真実があるはずだ。初版グリム童話の原稿をください」彼の口調は終始穏やかであったが、死んだマグロめいた目からは有無を言わせぬ圧力があった。

 

 

(「トリーズナーズ・ウィズ・ディファレント・ポジションス」#2終わり)

 

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