プオォーッ!シュッポ!シュッポ!スチーム機関車の力強い躍動感。「バレエオペラ」「ヴァイツファミリー・カゾク」「屠殺代行」カラフルなアドバルーン広告。散り散りの曇天の隙間から陽光が神の加護めいてベルリンに注ぐ。時折、酸性雨も混じる不吉な空模様。
太陽の光や酸性雨は、ネオプロイセン連合王国の君主住まうベルリン王宮にも、下層階級のワケありどもが集うパンカラス地区にも分け隔てなく平等だ。無論、ニンジャスレイヤー少女の住まうアパートメント「ミニミ」にもだ。
アパートメント「ミニミ」は2LDKの優良物件。近代化スチーム設備の行き届いた建築家のワザマエが見られるが、建てる場所が悪かった。パンカラス地区は低所得者層が集う場所であり、設定家賃を払える年収の者など不在だったのだ。年収の高い者は賃貸住宅をそもそもの選択候補から除外する。
このままでは家主は首を吊るしかなくなる。必要がアイデアを生み出し、家主はルームシェア概念を発明。家賃は実質半額となり、無事「ミニミ」は満室となったのである。「ウンショ、ウンショ」かようなアパートに見合わぬカワイイな少女が、自室と割り振られた部屋を整理整頓している。
ナリキンめいた野放図な高級感を漂わせながらも、足の踏み場もないほど散らかった汚らしい部屋。そこが先日、少女自身の手でスレイしたばかりのヨタモノニンジャ、ミンナペロリの私室であったなどと少女は思いもよらぬ。ドブネズミが言わなかったからだ。
彼が先ほど少女に言ったのは、一週間以内にメルヘン真実のひとつを精査するということだけだ。そして少女を一人置いて出かけた。果たして、改編され、修正されたニンジャ真実が一週間程度で暴かれるものなのか?冷静になって考えてみれば、どこか怪しい。怪しいが、他にニンジャを探すアテはない。
アテもなくネオプロイセン連合王国内ニンジャスレイの旅?無理では?かような行いは狂気的バイタリティを持つニンジャスレイヤー存在だけが出来よう。つまり異次元のIF存在にすぎない。ニンジャスレイヤー少女は少女なのだ。
「一週間も、いったいどう過ごしたら良いのかしら」呟いた少女は、玩具メガコーポの売り出し品、ヴァイツファミリー・カゾクのクマチャンのぬいぐるみを抱きしめてザブトンチェアに座った。どちらも床に乱雑に置かれていたものだ。掃除ごっこには飽きた。部屋の片隅に積み上がる用途不明品。
ナリキンめいた品は、故の知れぬ骨董品から新発売の娯楽品まで節操が無い。少女はカワイイなものを要保護し、あやしいものを隅においやった。アイゼンダンベル。大きな姿見。バレエダンサーの描かれたポスター。ウサギピラミッド。柱時計。柱時計はもう止まっていて、正確な時刻を示していない。
動かし方も分からぬ柱時計を見て、少女はこの先の漫然とした未来を思った。おばあさまの敵討ちをしたい。カタキのニンジャを殺したい。でもどうやって?(((カラテだ!カラテあるのみ!)))突如、少女のニューロンにアクマめいた声が!
少女は不完全燃焼めいてくすぶる殺忍衝動を発散すべく、クマチャンをベッドに置き、部屋の中央でネコカラテを構えた。否、ネコカラテのような、出来損ないだ。カラテのなんたるかも知らないからだ。「エート、エート、どうだったっけ?」両肘を曲げ、手首を顔の高さで曲げる。
構えに不足。ネコアシスタンディングを忘れている。構えも不恰好だ。「エーイッ!」そのまま右肘を突きだした。そこにワザマエはない。昨日は無我夢中であった。ニンジャを殺す、ただその一点に極まった集中力が、今はない。ネコ肘打ちとは?「エーイッ!」左肘を突き出す。何かが違う。
からてのおさらいも満足にできぬ。「エーイッ!」右肘を突きだした姿勢で、少女は姿見を見てフォームをチェックする。「こっちの方がいいのかな?」しかし何が正しいのかわからぬ!誰か!誰か!読者諸君の中にネコカラテに詳しく堪能な読者はいらっしゃいませんか!(((憎悪が足らぬわ!)))
次の瞬間、少女は大きな姿見を見て動きを止めた。鏡の中で少女は、赤黒のビロードの頭巾を被り、同色のケープを羽織り、服はニンジャ装束になっていた。その顔は白魚めいた白い肌ではなく褐色であり、瞳孔が邪悪に開き、センコめいて瞳を収縮させ、少女を厳しく見つめ返していた。コワイ!
『そんなヤル気のない肘打ちでニンジャが殺せると思っておるのか!』「ミラーミラー?あなたはだあれ?」少女は怯まず、純粋に問いを投げかけると、鏡の中の少女は両手を合わせてオジギした。『ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。【ピーーーーーー】です』少女は耳鳴りがした。不自然な。
『あのメギツネが!スゴイ・シツレイ!』【ピーーーーーー】はジゴクめいた声で誰かを罵倒した。一体どうしたというのだ?「ドーモ、ピー=サン。ニンジャスレイヤーです」少女もオジギを返した。「あなた、変な名前ね」これはあまり奥ゆかしくない指摘だ。
『グググ……今は儂の名前なぞどうでもよい』褐色少女はかぶりを振った。『反省は殺してからすれば良い。良く聞けコムスメ。もはや一刻の猶予も無し』褐色少女のセンコめいた両方の瞳が小さく収縮し、赤く光る。『コムスメ、オヌシはこのままでは実際死ぬ』「えっ」少女は困惑した。
『死因はブレインウォッシュによる自我漂白死だ。再び記憶を失い、今度こそコムスメという一個人は死ぬ。とにかくどうにか抵抗せよ。さもなくば儂に身体を預けるのだ』それは何度も繰り返された、アクマめいた誘惑であった。だが脅し文句を付け加えるにしては……あまりにも必死。
『二度あることは三度四度と続くというが、三度目の正直と言う言葉もある。次なるコンティニューは無いと知るが良い。死にたくなければ忘れるな。カラテなくば祖母の仇など討てんぞ?憎悪忘れるべからず!ニンジャ殺すべし!』祖母の仇と聞いた少女のカンニンブクロが温まる。
「おばあさまの仇……ニンジャ!」『その通り!殺意をニンジャに突き立てよ!しからばカラテはついてくる!』「ニャーッ!」ネコカラテシャウト!踏み込み!そして肘!ニンジャへの憎しみが少女の集中力を引き出し、カラテ・ミラーリング獲得した挙動を力強く引き出す!
『そうだコムスメ!心のニンジャを心で殺せ!』少女がアクマめいた甘言に耳を傾け、徐々に精神的主導権を譲りつつあった、まさにその時!(((アブナイ!騙されてはなりません!)))ニューロンにアクマと対をなすテンシめいた声が響き、制止したのである!
『ヌウーッ!邪魔な』(((ダマラッシェー!)))『ヌウーッ!』ニンジャシャウトにより鏡像が乱れ、褐色少女の姿が掻き消えた。鏡像の乱れが収まると、いつの間にか鏡の中の少女は、ニンジャ装束が修道服めいて、赤黒の配色がぜんたいてきに青黒くなり、顔を神秘のベールで覆った姿に変わっていた。
「ミラーミラー?あなたはだあれ?」少女は殺忍衝動に呑まれかけたところから我に返り、鏡に純粋な疑問を投げかけると、鏡の中のシスター少女は両手を合わせてオジギした。『ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。私は天に召します我らが主に遣わされたブッダエンジェルのビジョン』
こ、この声はまさか!お前はあのとき【ピーーーーーー】にスレイされたはずでは!?『今日はあなたを救済しに来ました。穢れ無き純粋な少女よ。復讐など忘れ、【心を入れ換えて】日々を誠実に生きなさい。それがあなたの最善の選択です』
そのテンシめいた声は、己の命にかえて邪悪なるニンジャソウルに聖なるゴスンクギ「ネイル・オブ・ザ・テンコマンドメンツ」を打ち込み、復讐に狂い暴走するアワレな少女の狂気を鎮めた、かのシスターニンジャの声に酷似していた。
(「ミラー・ミラー・フー・アー・ユー?」#1終わり。#2へつづく)