(あらすじ:昔、騎士ルドルフは、ドナウ川の岸辺に咲く青く美しい花を、恋人ベルタのために摘もうと岸を降りたが、川の流れに飲まれてしまう。ルドルフは最後の力を尽くして花を岸に投げ、「僕を忘れないで(Vergiss-mein-nicht!)」というハイクを残して消えた。)
(残されたベルタはルドルフの墓にその花を供え、彼の最期の言葉を花の名にしたという悲劇的伝説があるのだよ。以後、ドウナ川上流のなんか流れがきびしいとことかの岸辺に咲くワスレナグサを摘もうとする者のもとにルドルフのオバケが現れて、って、アイヤー、お嬢ちゃん、どこ行くネ?)
「ドーモ、突然ですが、私は誰でしょう?」禍々しいオサラヘルムを被る、青紫カメゴーラニンジャアーマー装束のミュータントニンジャが、ドナウ川の中からニンジャスレイヤー少女の前に姿を現し、両手を合わせてオジギした。
連日の雨により、川の流れは激しい。にも関わず、平然と。「ドーモ、ルドルフ=サン。ニンジャスレイヤーです。今日はあなたを救済しにきました」少女はインスタントドヒョウリングを作成する手を止め、アイサツを返す。「ルドルフ?救済?」ドヒョウリングの中央にはワスレナグサ。
ザバッ。ルドルフは岸辺へ上がった。「残念だけど、それは私の名前ではないね。以前、名前をこの川に落としてしまって、ずっと探しているのです」「ワカル……アタシも、名前を忘れたの」ギョロリ。異様に見開き見るものを竦ませる、おどろおどろしい双眸が少女を捉えた。
「いま、ニンジャスレイヤー=サンと名乗ったが」「それは真実の名前ではないのだわ」「自己を定義する唯一があるというのは素晴らしいことだ。私にはない」ルドルフはさりげない足取りでニンジャスレイヤー少女へと歩み寄り、その手を掴もうとした。
スッ。少女もまたさりげない足取りで後ろに下がる。掴みは空を切った。「つれないね」スッ。「ペアダンスはニガテ」スッ。「紳士としてエスコートしよう」スッ。「行き先はジゴクですか?」スッ。「その花は、ベルタのものだ。キサマのような者が我が物顔で所有権を主張するでないわ!」
ルドルフは両手を広げて迫り、ついにニンジャスレイヤー少女を捕らえた!少女も?少女もだ!ガップリヨツ!「ハッキョホー!」「ノコータ!」とてつもなくしぜんなながれで命懸けのオスモウが始まった!「イヤーッ!」激しいシャウト!次の瞬間!
……特に何も起こらない!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」相互に激しいシャウト応酬!だが!特に何も起こらない!一体なにが!?オスモウ拮抗!ここで読者の皆様方にはひとつ、思い出していただきたい!
リキシはその場に留まるために、常に全力を出さねばならない。かつてドブネズミがオスモウバーで発した言葉がまさにいま、現実のものとなっている!まさにリキシの小宇宙!単純な体格、ニンジャ腕力はみたかんじルドルフにグンバイ!だが!
巧みな重心コントロールと押し引きの駆け引きで勝っているのはニンジャスレイヤー少女のほうだ!ワザマエ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」オスモウ拮抗!
「聞いて!あなたは実質死んでいて、ベルタ=サンももういない!あなたは実質オバケで、ニッカーなんだ!」(注釈・ニッカーとは女子供を川や池で溺れさせようとするゲルマンヨーカイである)「ダマラッシェー!私はベルタにその花を届けるのだ!そして告白!結婚!私は生きている!」
ズル!ズルズルズル!ああっ!オスモウ拮抗が!怒りのパワーできゅうにつよくなったルドルフの押し込みがじょじょにニンジャスレイヤー少女を押す!ワザマエでは凌げない!「イヤーッ!」「ヌウーッ!」ズルズルズルズル!ニンジャスレイヤー少女の踵がドヒョーリングに接触!
なんという怪力!ニンジャモンスターめいた!まるで日本ヨーカイのカッパだ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ズルズルズルズル!ニンジャスレイヤー少女は巧みな重心コントロールでドヒョーリング外周部の荒縄に沿ってスライド移動!上手いぞ重心!しかし!
「このままドナウ川に突き落として沈めてくれるわ!イヤーッ!」「イヤーッ!」ズルズルズルズル!ドヒョーリングはまだ完成していない!ドナウ川側の縁が作成途中で未完成!このままスチーム機関車線路走行じみてドヒョーリング外周部をスライドし続けていればキマリテは押し出しだ!危ない!
「イヤーッ!」「ヌウーッ!」重心移動!ルドルフの押し出し勢いが泳ぐ!アイン・ツヴァイ・ドライ!巧みなステップでニンジャスレイヤー少女とルドルフの位置が入れ替わる!ドヒョーリング際の駆け引きがうまい!
しかしこのまま押し出ししたとて、ルドルフは川に逃げ帰るだけなのでは?否!「イヤーッ!」ズルズルズルズル!ニンジャスレイヤー少女はまたしても押し返される!ドヒョーリング際の荒縄の力を踏ん張りのパワに加えた押し返しだ!
後退するニンジャスレイヤー少女の足元にはワスレナグサ!「アブナイ!」ルドルフは思わずカラテを緩めた。次の瞬間!「イヤーッ!」ルドルフの重心下に入り込んだニンジャスレイヤー少女が、おお、見よ、ゴウランガ!体格差を覆すイポン背負い!「グワーッ!」
ルドルフはニンジャ梃子の原理に従い宙を舞う!支点力点作用点!グッシャア!「グワーッ!」キマリテはイポン背負い!ギョウジがおらずともこのオスモウの勝敗は明らか!「アーッ!アーッ!」ルドルフは大いにロウバイした。
身を起こし、己のヒップ下を見やるルドルフの視線の先にはグシャグシャに潰れたワスレナグサ。「アーッ!アーッ!」彼は頭のオサラヘルムの水をワスレナグサに浴びせた。水のエテルでひとりでにムクムクと起き上がるワスレナグサ。「アー……良い……遥かに良い……」「良くない」「ナンデ?」
「いま分かった。そいつがニンジャだからだ」「え?」グッシャア!踏みつけ!ワスレナグサ無残!「グワーッ!」第三者の悲鳴!「え?」ルドルフはロウバイした。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤー少女はワスレナグサを根絶やしにせんと赤黒の炎を腕にまとわせての瓦割りパンチ!
「グワーッ!」第三者の悲鳴!抉れる地中!中からニンジャ!頭頂部にワスレナグサを生やしたドトンニンジャ登場!「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「ド、ドーモ、エニグマグラスです。馬鹿な、何故分かった。俺様の『寝て起きたら実質最強になってる計画』をどこから嗅ぎつけた」
「イヤーッ!」「グワーッ!」右カラテパンチ!「なにそれ。知らないのだわ。っていうかバカ?」「このクソガキ」「イヤーッ!」「グワーッ!」左カラテパンチ!「バカ丸出し。寝てるだけで最強になるわけないじゃん」「このクソガキ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」右カラテパンチ!
「アタシのカンニンブクロはとっくにばくはつしてるんだ!よくもアワレなルドルフ=サンをヨリシロに邪悪行為に働いたな!悪いニンジャはみんな殺してやる!イヤーッ!」ナラクの炎のパンチ強烈!クサ・ニンジャクランはほのおたいぷのジツによわい!「アバーッ!サヨナラ!」爆発四散!
「アアアーッ!?」ルドルフは絶叫した。悲しみから?否。思い出したのだ。自らが成した、罪の重さを。「わ、わたしは、なんということを……かのものに名前を奪われ、いいように操られていたなんて……私はルドルフ……私はルドルフ・フォン・アーリッテン」
ルドルフは二度とその名を忘れまいと何度も繰り返した。青紫カメゴーラニンジャアーマー装束はヘンゲヨーカイし、騎士鎧めいて……おそらく、イヴォリューション・ジツ亜種の悪影響だ……やがてその騎士鎧姿も蜃気楼じみてあやふやとなり、ヒトダマとなっていく。
「祖先に申し訳がたたぬ。すべての領民に謝罪の意をしめすべく、ただちにドゲザし、ギロチンしたい……」「その罪は、ニンジャのものです。フリーデン。ブッダチャリタ。フリーデン。ブッダチャリタ」ニンジャスレイヤー少女は幼稚なゲルマンお経を繰り返した。「本当に申し訳ない……」
悔恨の到り。苦悩の表情解けぬまま、ルドルフは煙となって消えていく。少女のゲルマンお経は、かの者の心に安らぎを与えることは出来なかった。(((くだらぬ。つまらぬ余興など挟む暇なく、スレイすればよかろうが)))(ナラクは黙ってて)少女は十字を切った。
聖なる修行を積み、徳を高めたわけでもない彼女のそれに、とくべつなシンピテキは宿らない。だが、メメントモリ。死を想うことに徳の高低などありはしないのだ。(((とても良いです。このへんに徳が溜まってきたことですね?)))(そういうの良いから)少女はゼクスマイレンの言葉を切って捨てた。
今日もまたひとり、悪いニンジャを殺した。ニンジャ力学の深遠はいと深き井戸のよう。覗きすぎれば落ちる。だが、ドヒョーリング間際の駆け引きじみて、ニンジャ力学を実戦で的確にコントロールすることさえできれば、更なるカラテの高みに至れよう。
その牙を以って、オーカミ・ニンジャを殺す。必ずだ。少女はニンジャピルを口に含み、新陳代謝を活性化してコンマ数秒自身を焼いた赤黒の炎治療の準備をすると「フゥーッ……ハァーッ……」二度、息を吐く。プシュー。コンセントレーション。
ニンジャスレイヤー少女の双眸がドナウ川を睨んだ。「行ける。イヤーッ!」そして走る!机上の空論では可能!ニンジャが川を走ることは!「イヤーッ!」オーカミ・ニンジャを殺すだけのカラテ段位に至るべく、いまは励め!ニンジャスレイヤー少女!
【ハーフ・ロスト・オブ・ワスレナグサ】終わり
◆忍殺◆登場人物#112【ルドルフ】◆少女◆
なんびゃくねんかまえに伝説となった有名なミームをドナウ川流域に残した男。既に死亡しているが、エニグマグラスにそのミームを利用され、死を冒涜されていた。
◆忍殺◆ニンジャ名鑑#111【エニグマグラス】◆少女◆
クサ・ニンジャクランのグレーターニンジャソウル憑依者。ヤドリギ・ジツなる他者操作&ヘンゲヨーカイをハイブリットに内包したジツで不労所得カラテを高めようとしていたが、ニンジャスレイヤーに殺された。