とある桜が散る有様
『ガイオウモン、我が軍門に下れ』
よく通る、心地よい言葉が、すでにズタボロにされた体に響いてきた
この声に、どれだけの数が頷いてきたんだろうか。
そんな益体もないことを考えて、周囲を見回した。
砲身や、その咢の内に、光球を携え、照準をこちらに向ける幾つもの傀儡たちが、その答えだ
最初はただの勧誘だと思っていた。
強い敵を求めて、ダークエリアに流れ着き、その頃からずっと、
『もういいだろう?我が軍門に下り、七大魔王にその刃を突き立てよう』
そう、誘う声が、目の前のヤツから響く
『その後に、ロイヤルナイツとも、刃を交える機会が来よう。それは貴様が求める機会ではないのか?』
グランドラクモンの声、甘い甘い、堕落への誘い。
そうだ。七大魔王やロイヤルナイツ、強敵と刃を交え、鎬を削り、その切っ先を研ぎ澄ます。それこそが己が目的である。
そう、この場で頷き、彼の下で、戦おう。
そう頷きかけて
「死んでも断る」
勝手に口が動いた。遅れて気付く。己の刃を誰がために振るう気はないのだと
「俺の剣は、俺のモノだ。誰かに預けるつもりはねぇよ」
その言葉に、グランドラクモンが残念そうに
『あぁ、君はやはり』
手に入らないのか。その言葉は、振り下ろされた手に合わせて放たれる光線の破壊音に、かき消された。
がふ、げふ、血交じりの咳をして、暗い闇の中で、転がる。
生まれてからずっと、独りでただ力を信じて、いや、ソレしか信じられるモノがなくて
縋るように、必死に、必死に、それを研ぎ澄ませてきた。
ほかに何もない。空虚な自分から目を背けて、それに縋って生きていた。
その末に、血交じりの唾を吐き捨てて、立ち上がる。
背後で、自分を追う声がした。
嫌だ。そう思った。何が嫌なのか。
そうだ、もっと、力が欲しい。負けたくない。
敗北することを、受け入れたくない。
持っていたスマホに通知が来る
|己のための刃を、研ぎ澄ます信念に、死ぬ覚悟はあるか|
逡巡もしないうちに、その通知に、YESの答えを押した
光線が、収束し、爆裂する。
「ガイア」爆炎の中から
「リアクター」鎧を纏う腕が伸びる
空を握りながら、砕けた鎧を、脱ぎ捨てるように立ち上がる。
地面に落ちた、鎧の破片は、砕けて、桜の様に散る
握りしめたその掌に、双つ揃いの刀が厳刀に集う
BUON
爆煙を払うそのひと振りに、鎧桜が宙に舞う
「ガイオウモン:厳刀ノ型」
巨大な一刀と化した菊燐を、肩に乗せ、名乗る
「七大魔王、ロイヤルナイツ、確かに俺の刃はそいつらに届くだろう」
酷く冷たい、しかして蒼い炎のような、芯の通った目がグランドラクモンを射抜く
「だが、それは俺の刃だ、手前の傀儡の玩具じゃない」
一度砕いた鎧が、舞い散る桜によって、再構成される。
強く、硬く、しなやかで、そうして、先ほどよりも、確かに力強く
殺したと、滅したと思ったグランドラクモンは、驚きを表情に浮かべるが
『これだけの数の究極体相手に、もう一度挑むのですか?』
愚かな。その言葉は
「刀華静謐」一振りの斬撃に、切り伏せられた
百は下らない数の自身の部下たち、堕落させた天使に、手ずから育てた魔獣。ダークエリアの強者たちが、唯壱の斬撃のみで
「傀儡の糸を切るだけなら、百、二百、どれだけ揃えようと、物の数に入らないんだよ」
ひゅんひゅん、肩から降ろしたその刃を、抜刀術の如く構えつつ言う
「まぁ、さすがに後れを取ったがな。来いよ」
必殺、その文字を体現する如く構えたガイオウモンが言う
「頭を張るなら、俺くらい倒せる度量を見せてくれよ」
ギリィ、と、グランドラクモンは顔をしかめる。
計算外だった。常に戦いにおいて手を抜かないガイオウモンが、奥の手を持っていた事、
ダークエリアを飛び回り、集めた手勢が一蹴された事、
それ以上に、策を弄して戦う自身が、真正面の一対一を強いられている事が、この上なく不快だった。
『い、良いだろう。私の力、見せてやる』
そういいながら、即座に思考を建て直す。
グランドラクモンの強みは、決して策謀のみではない。戦闘力もあるから、ダークエリアの最奥にて居を構えているのだ。
そして、もう一度ガイオウモンとの闘いにおいて、自身に有利な状況を作る方法を考え始める。
『クリスタル…レヴォリューション!!!』
周囲を氷塊に変える必殺の技。ガイオウモンに倒された手勢を巻き込むが、この際仕方ない。そう割り切って周囲を破砕し、状況を再構築しようとしたが
「天燐厳刀流」
氷塊の向こうから、静かな声が
「菊燐一閃・號雷斬」
ズドン!!!!と、轟音になって、切り付けてきた。
痺れる雷電の如き斬撃が、氷塊化の波を、丸ごと一撃で切り伏せた。切り伏せられた。
グランドラクモンがその事実に気付いたのは、自身の体がデジタマに還る瞬間だった。
JIJI,ジジ、数瞬、ガイオウモンの姿がブレて
「「がっはぁ!」」双つの影に分かたれた。
黒いアグモンと、その戦友と呼ばれる人間との物語は、ここから始まった