ダークエリアと一口に言っても、多少の多様性はある。
そして、今居るここは
「砂漠か何かか」と、つぶやく程度に荒廃していた
そこら辺に砂埃が舞い、崩れかけた岩山が幾つか視界に入る。
「本気で何もないな」そう言って自分の黒い髪をわしゃわしゃと掻いた。
さっきのアグモンと別れて、体感一時間ほど、
唯一の持ち物のスマホの時刻表示が、アグモンと別れた頃から時刻表示が18から19に変わっていることが、体感が間違っていないと信じさせてくれる。だが、
「このままだと、行き倒れ・・・で済めばいいけど」
ため息混じりに呟くと、岩山の影で何か動いたような気がした。
少し時間を遡り、ダークエリアでそう遠くない場所
「ちっくしょおぉぉぉぉ!!!」
彼と別れた、黒いアグモンが、全力で走っていた。いや
ギャッギャ!!と、背後で愉悦に嗤う影が幾つも蠢く
イビルモンに、アグモンは追い回されていた。
それはそうだ。デジタルワールドで成長期のデジモンは基本的にどこかのコミュニティに属して相互に守り合うような存在で、
そんな未熟な存在が、たった一匹で歩き回っている。
弱い者虐めが好きで、安全な勝利に、怠惰な飢えを覚えているイビルモンにとっては、アグモンは恰好の獲物だった。
出会い頭にベビーフレイムを数発お見舞いしてやったけれど、
成熟期と成長期の能力差、そして何より、数が多い
一対一だったら、と、歯噛みしながら必死に足を動かすアグモン
負けはしないなりに、立ち回れたんだ。と、自分に言い訳をする。
ガイオウモンだったら、退化していなければ、そう言い訳を考えて、屈辱に涙が出そうになる。
力を失ったからではない。負けることではない。
戦わない選択をせねばならない事、強くなれない事が、悔しくて、視界がにじむ
それでも、もしそうであっても
「まだ、俺は強くなりたい!!」
だから、ここで消滅させられる訳にはいかない。
そう思い、足を走らせた。
時は戻り、視点は彼に還る
岩陰で動く影に目を向ければ、
『お前・・・何だ?』と、デジモンの声がした
「何って・・・人間?としか答えようがないんだが・・・」
どうしたもんか、と腕を組みそうになって、途中でやめた。
話しかけてくる声から敵意を判断付かなかったのと、
目の前の相手が、ゲラゲラと愉悦に富んだ声で嗤ったからだ
『ニンゲン!人間か!やったやった!!』と、喜悦にまみれた声が
『じゃあ、弱いな!』その声といっしょに、空気が歪む超音波を飛ばしてきた。
「んなっ!?」動けるように構えていてよかった。と、思うより前に、足元で超音波が弾けて、地面を転がる。
小石がぶつかり多少怪我したが、直撃を貰うよりマシだと即断して、駆け出した。
「くそったれ!!」と、吐き捨てながら駆け出す背後で『ニ~ンゲ~ン?逃げるなよぉ』と、歪んだ愉悦の声が、超音波と共に飛んでくる
「ぐがっ!」足元で爆ぜるソレに転がりつつ、そのままの勢いで立ち上がって走る。
相手からの敵意、そして、攻撃の威力から考えて、武器なしで勝てる相手でない事を理解して、背後の気配から遠ざかろうと足を動かす。
悔しい、力がないことが、相手が侮っている事に対して、何もできないことが
死にたくない。けどそれ以上に、「まだ、死ねない」こんなところで終わるのは嫌だ。
もっと強く、もっと力が欲しい
「まだ、俺は強くなりたい!!」
ポケットの中で、通知が届く。
震えるスマホを岩陰に飛び込みながら確かめる
《再起動》
その文字と共に大きな矢印が表示される。
地図アプリの方向指示に似たそれを疑う間もなく
『みぃつけた』その声に、くそったれ!と悪態を吐いて転がるように駆け出して、自分が隠れていた場所が音波に破砕されるのを背後に感じた。