FATE/IN THE DARK FOREST   作:shellfish

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episode28 鮮血校舎・後

「では、手筈通りに」

 

 冷たく響いた主の声。

 この世界に召喚されて以来、おそらく一番数多く聞いた、彼女の声。

 平静で、冷静で、閑静。

 しかし、それは未だに私の平穏を打ち壊して止まない。

 

「承知。魔術師殿は戦場に。私はこの屋敷にて情報収集。それで間違いないな」

「はい。私と彼は、校舎に向かいます。きっと学校は戦場になる。故に、情報収集は可能な限り手早く終え、こちらに急行すること。いいですね」

 

 私は頷く。

 

「破壊工作は慎んで下さい。今の段階で、貴方と私の関係を勘繰られるのは避けねばなりません」

 

 再び、私は頷く。

 

「さて、おそらく今日は暑くなるでしょう。ふふ、水浴びの一つでもしたいところですね」

 

 そう言って、彼女は私に背中を向けた。

 季節は冬。

 冷たい水は、水浴びに相応しくない。

 ならば、生暖かい液体くらいが調度いい按配だろう。

 彼女は、さぞ盛大に水を浴びるのだろうと思う。

 しかし、それは赤黒く濁った、鉄臭い水だ。

 そうだ。

 彼女は、いつだってそうだった。

 私が召喚された時も。

 心臓を穿たれた、かの少年の前に跪いた時も。

 あの槍兵と戦った時も。

 いつだって、己と、己以外の者の血に塗れていた。

 私には、それが。

 その姿が。

 例えようも無く。

 

「アサシン」

 

 忘我の表情は、仮面が隠してくれたはずだ。

 ほんの少しだけ早鐘を打つ心臓をどやしつけ、努めて平静を装った声を出す。

 

「……なんだろうか、主よ」

「……貴方は、私に不信を抱かないのですか」

 

 その声は、常の主の声ではなかった。

 どこか、虚ろ。

 どこか、後ろ向き。

 己の罪を恥じ入るような、何かを悔いるような、声。

 

「説明を求めたい」

 

 ほんの少しだけ躊躇して、彼女は消え入りそうな、か細い声で、こう答えた。

 

「……貴方は英霊だ。この上なく、気高い存在だ。本来、私などが使役していい存在ではない。それを、華々しい戦場には赴かせず、命じたのは、こそ泥のような家捜しだけ。不信を抱いても、当然でしょう」

 

 俯き加減の、彼女。

 おそらくは求めているであろう、私の返答。

 しかし、私は何も答えない。

 

「……それに、私はライダーを切り捨てた。いや、切り捨てた方がまだマシ。私は、彼女の存在そのものを汚そうとしている。全て、私の欲望のために。その事実に、貴方はどういった感想を抱くのでしょうか」

 

 神に縋りつくような、おぼろげな声。

 ああ、きっと彼女は恐れているのだろう。

 唯只管に、己の道を歩くことを、恐れているのだ。

 誰一人前を歩かない、未開の荒野。

 そこを、唯一人、歩く。

 恐れを抱かぬ人間など、それこそ恐ろしい。

 彼女は、頼りたいのだと思う。

 誰かに、正しい、と。

 お前のしていることは、間違えていない、と。

 そう、言って欲しいのだ。

 そして、私は頼られた。

 ならば、嘘偽り無く、自身の見解を述べようと思う。

 

「――醜悪だ」

 

 びくり、と彼女の背中が震えた。

 俯き加減だった頭が、より深い角度を作る。

 まるで、誰かに詫びるように。

 

「しかし、首尾は一貫している。その点には、一種の美々しさを覚えるな」

「……ありがとう、ございます」

 

 弱弱しい、声。

 

「私を斥候として使役することは、及第点だろう。要塞のように罠だらけのこの家、ここを捜索するのに、気配遮断のスキルは、この上なく相応しい」

 

 戦いとは、戦場で剣を打ち交わすことだけではない。むしろ、そこに至る過程においてこそ、真の勝敗は決まる。

 故に、彼女の視野の広さは好ましい。強力なサーヴァントをもって敵を粉砕することだけが戦闘だと思い込んでいる猪よりは、遥かに。

 

「ライダーを堕落させたこともそうだな。我々はあくまで戦闘のための道具に過ぎない。より役立つ用途があるのならば、迷わずにそちらで使うべきだ」

 

 ライダー。

 私が、この世界で初めて出会ったサーヴァント。

 彼女の真名など、知らない。

 しかし、今、彼女が変質しつつあることは、理解出来る。

 おそらく、彼女は戻りつつあるのだ。

 なにか、より彼女の本質に近いモノに。

 しかし、その一事をもって、ライダーが彼女を非難する資格はない。

 我々は、目的を持って召喚に応じた。

 その中に、三つの令呪という概念も確かに存在するのだ。

 自らの意に沿わぬ行いを強制される、そんなことは既定事項だ。

 そんな覚悟も無しに召喚に応じたのだとしたら、それこそ非難されるべき無知だろう。

 

「……ならば、貴方は何をもって私を醜悪と蔑みますか」

 

 何かに震える声。

 怒りか、それとも悲しみか。

 戸惑いか、それとも決意か。

 

「……私が醜悪と感じるのは、貴方の弱さについて、だ。

 さっき、貴方は私にどんな返答を期待した?貴方は間違えていない、と。そう言えば、満足だったか?ふん、くだらぬ。己の従者に媚びる主など、この上なく醜悪だ。貴様がその程度の存在ならば――」

 

 その心臓、ぐびりと、喰ろうてやろうか――。

 

「……そうでしたね。貴方は、いつだって己の欲望に忠実でした。いつだって、『貴方の家』に帰るために、その手を朱に染めてきた」

 

 何かを嘲るような、声。

 彼女は、何を言っているのだろうか。

 霞がかった、遠い記憶。

 

「……しかし、おそらく、貴方の言は、正しいのでしょう」

 

 いつの間にか、彼女の背筋は、ピンと伸びていた。

 

「では、後ほど」

 

 そう言って、彼女はドアを閉めた。

 ややあって、玄関から『行ってきます』という、決意に満ちた声が聞こえた。

 彼女は、淡々と己に課せられた義務を遂行するのだろう。

 ならば、私は己に課せられた義務を遂行するだけだ。

 やがて、人とサーヴァントの気配の絶えた家の中で。

 私は、一人静かに、哂った。

 

 episode28 鮮血校舎・後 

 

 いきなり、吹っ飛ばされた。

 何を喰らったのか、全く分からない。

 身体に穴は開いていないみたいだから、あの短剣で突かれたんじゃないと思う。

 だから多分、前蹴りを喰らったか、拳をまともに喰らったか。

 ただ、一撃。

 それで、俺の身体は廊下の端まで吹っ飛んだ。

 途中、何かが背中に当たった気がするが、そんなことは意識の埒外にある。

 断線した意識と身体。

 それを繋ぎ直すのに、精一杯だ。

 

「はは、すごいぞ、衛宮!まるでボウリングの玉じゃないか!あと少しでストライクだったのにな!」

 

 慎二の哄笑。

 なるほど。

 俺がボウリングの玉で。

 倒れ伏した生徒が、ピンか。

 確かに、そっくりだったかもしれない。

 

「さあ、来いよ、衛宮。あれだけの大口を叩いたんだ、まさかこれで終わりじゃないよな?」

 

 身体の各部に、異常は無い。

 強化した学生服が救ってくれたのか。

 それとも、本質的に俺の身体は頑丈なのか。

 まあ、どうでもいいか。

 とりあえず、まだ戦えるらしい。

 ならば、十分だ。

 ゆっくりと立ち上がる。

 ライダーは、相変わらず慎二の前に佇みながら、好戦的な笑みを浮かべている。

 どうやら、一思いに殺すつもりは無いと見える。

 好都合だ。

 今、脳天をあの巨大な杭で貫かれてたら、それで勝負は決まっていた。

 ある意味、慎二の嗜虐性が俺を救ったと言えるのかもしれない。

 

「よし、そうだ。まだまだ楽しませてくれよ、衛宮!」

 

 両の肘を、それぞれの逆の手で握る、妙に気障ったらしい立ち方。

 気に食わない。

 その立ち方が気に食わないんじゃない。

 今は、慎二の為す事全てが癪に障る。

 例えば、今あいつが道端で震えている子犬を拾ったとしても、俺は唾を吐きたくなるだろう。

 思考回路を切り替える。

 今の一撃は有難かった。

 身体と意識が断線したせいだろうか、妙に頭がクリアだ。

 さっきまで怒りで真っ赤だった視界が、心持ち色を緩やかにした。

 今、景色が赤いのは、きっと結界だけのせいだろう。

 むしろ、不思議と青みがかって見える。

 そう言う意味では、さっきの一撃は俺を救ったと言える。

 あのまま、怒りに身を任せたまま突っ込んでいたら、俺は間違いなく殺されていた。

 ほんの少しだけ、冷静になれた。

 為すべきこと。

 俺が、今為すべきこと。

 それは、この結界を解呪することだ。

 その為には、何をすべきか。

 選択肢は少ない。

 

 1、ライダーを倒す。

 

 不可能。

 さっきの一撃で分かる。

 一撃喰らえば十分だ。

 あれは、俺の手に負える相手じゃあない。

 

 2、結界そのものを破壊する。

 

 これも、無理。

 キャスターをして不可能と言わしめたのだ。俺如きに何が出来るか。

 

 3、マスターを、殺す。

 

 そうすれば、サーヴァントは一時的に制御を失うはず。

 確実に解呪が成るとは断言できないが、かなり高い確率で、結界は消え失せるはず。

 ならば。

 

 4、マスターを説得、或いは強制して結界を解かせる。

 

 却下。

 

 ならば、俺の採りうる選択肢。

 

 3、マスターを、殺す。

 3、マスターを、殺す。

 3、マスターを、殺す。

 

 あれ、おかしいぞ。

 火は、消えたはずなのに。

 赤く染まった視界。それを染色していたはずの、燃え盛る炎。

 それは、さっきの一撃で、鎮火したはずなのに。

 何かが、ちろちろと燃えている。

 とろとろと、鉄を溶かすような炎だ。

 青く、鮮やかな、炎。

 見た目には涼やかな、しかし、赤い炎よりも、遥かに高熱な。

 触れるもの全てを溶かすような、火。

 それが、燃えている。

 視界の奥、水晶体の裏側。

 脳と視神経を繋ぐ、ちょうどその箇所で。

 ちろちろと、舐めるように、燃えている。

 これは、怒りの炎じゃあない。

 目的を遂行する意志。

 それを種にして燃え盛る、より醜い炎だ。

 ああ、そうか。

 要するに、何も変わっちゃあいない。

 むしろ、堅固になっただけか。

 怒りに任せた殺人よりも、目的の為に犯す殺人の方が、一般的に罪は重い。

 ならば、俺の罪はより重くなっただけだ。

 それだけ。

 それだけの、こと。

 さぁ、行こうか。

 方向性は、定まった。

 視界は良好。

 今は、余計なことを考えるな。

 考えなしに突っ込むんじゃあないぞ。

 それは、足りない脳味噌を振り絞って考えなけりゃあいけない。

 でも、その後のことは考えるな。

 今は、あいつを如何にして殺すか。

 それだけを、考えろ。

 

 じゃらり、という鎖が擦れる音と、『点』が飛んできたのは、ほぼ同一の拍子だった。

 まったくもって、点としか言いようのないもの。

 よく分からないが、この上なく危険な物。

 本能的に、身をかわす。

 髪の毛ほどの一瞬の間があって、かつん、という乾いた音が響く。

 寸前まで俺の左肩のあった場所。

 そのすぐ後ろの壁に、巨大な杭がめり込んでいた。

 硬質なコンクリートの壁。

 そこに、ライダーの釘剣が、深々と突き刺さっていたのだ。

 ごぼり、という不気味な音と共に、引き抜かれる杭。

 あっという間に所有者の手に戻った。

 

「あれ……はずれた?」

 

 甚振るような声。

 どこか知性を置き去りにしたような、無邪気な声。

 まるで、無垢な子供。

 笑顔のまま虫の足を引き千切る、それくらい無垢な子供。

 彼らだけに許された、輝くような笑顔だ。

 理解した。

 あれは、俺を楽に殺すつもりは無い。

 甚振って甚振って。

 手足を一本ずつ捥ぎ取って。

 芋虫みたいになった俺の首を、やはり哂いながら捻じ切るのだろう。

 それは真実の双子みたいな確信だった。

 だから、俺は安堵した。

 少なくとも、一瞬で殺されることは無い。

 以前の彼女には、そんな雰囲気は無かった。

 人間というよりは人形。

 生き物というよりは機械。

 最短距離を、最小限の労力を持って走破するランナー。

 そんな冷徹なイメージが、確かにあった。

 あのときの彼女なら、一切の躊躇いを見せずにこの首を削ぎ落としていただろう。

 しかし、今の彼女は生々しく、それ以上に毒々しい。

 冷血な蛇の目と、獲物を甚振る鯱の口を併せ持っている。

 余裕、なのだろう。

 そもそも、人間相手におたつくサーヴァントっていうのもお笑い草だ。

 だが、余裕とは隙の別称だ。

 ならば、付け入る隙があるということだ。

 そこに、活路を見出せ。

 

 周囲の状況を覚える。

 意識して覚えるのではない。

 脳が、勝手に認識していく。

 あそこに、柱――。

 あそこに、消火器――。

 あそこに、扉――。

 倒れ伏した生徒の位置。

 己の立ち位置と、敵との距離。

 火のついたガソリンのような思考速度。

 泡立つように煮え滾る全身の筋肉。

 握った拳が、そのまま拉げてしまいそうなほど、熱い。

 いいぞ。

 俺は、こんなにも強かったか。

 もちろん、これは錯覚だ。

 キャスターの薬によって得られた、偽りの強さだ。

 しかし、構わない。

 ドーピングを罰する規律は、今この場において存在しない。

 殺せば、勝ちだ。

 殺せば、勝ちなのだ。

 だから、いくぞ。

 いつものやりかただ。

 いつも、朱に染まった戦場を、渡り歩いてきた、あのやりかたで。

 

 再び、杭が飛んできた。

 さっきよりも、疾い。

 影すら出来ないような、そんな速度。

 反射的に剣を振り上げるが、間に合わない。

 ひゅ、っという擦過音。

 焼け付くような、右耳の熱さ。

 ぽたぽたと、何かが垂れる音が、不思議なほど大きく聞こえる。

 

「はは、衛宮、どうしたんだ、その耳は?鼠にでも齧られたか!」

 

 なるほど、俺の右耳は未来の猫型ロボットみたいになってるのか。

 サンキュー、慎二。

 丁寧なご解説、どうもありがとうございます。

 あとでお前も同じ目にあわせてやるから、覚悟してろ。

 俺の耳を削り取った杭を無視して、ライダーの懐に飛び込む。

 

「はっ――」

 

 爪先に力を集中する。

 小指の骨が軋みをあげるほどの踏み込み。

 一息でこの間合いをゼロに出来るのではないか、そんな錯覚。

 でも、かの槍兵でもなければそんな芸当は不可能だろう。

 当然、俺に出来ることではない。

 だから、走った。

 景色が、凄い勢いで流れていく。

 普段の自分では到底適わない速度。

 しかし、視界は不思議なほどクリアで、倒れ伏している人影の詳細までも見て取ることが出来る。

 あの髪型は、氷室だろうか。

 あの制服の着こなしは、おそらく後藤。

 あの栗色の髪の毛は藤ねえ。

 ここは俺達の学校。

 見知った顔ばかりが目に付くのは仕方ないが、それが納得できるわけではない。

 そうだ。

 早いとこ結界を解呪しないと、彼らは二度と目を覚まさない。

 それは、衛宮士郎にとって受け入れられる限界を超えている。

 歯を軋らせる。

 よし。

 これで、目的がまた一つ。

 いいぞ。

 青い炎が、少しずつその火勢を強めていく。

 ぶちぶちと、筋肉が沸騰していく。

 これなら、勝てる。

 これなら、勝ち得る。

 要するに、これは我慢比べだ。

 目の前に、蛇のような、ぱかりと裂けた笑み。

 いくぞ。

 0.1秒だけ、驚いてろ。

 

「っしゃああぁぁぁ!」

 

 開いた喉を迸る、気合の声。

 それと共に放った、必殺の一撃。

 右から放つ、袈裟切り。

 鉄すら両断するような、必殺の一撃。

 しかし、目の前の化け物は、薄ら笑いを浮かべたまま、難なく受け流す。

 構わない。

 手数の多さが、双剣の身上だ。

 今度は左手で、首を狙った横薙ぎの一閃。

 奴はスウェーでかわす。

 構わない。

 右、刺突。

 左、逆袈裟。

 右、切り上げ。

 左、逆風。

 当たらない。

 防がれる。

 悉く。

 

「うん、がんばったね。じゃあ、もういっかいがんばって」

 

 意味不明な呟き。

 瞬間、右顎にとんでもない衝撃。

 

 ―――――――。

 

 ――――――。

 

 ―――――。

 

 ――――。

 

 ―――。

 

 ――。

 

 ―。

 

 あ。

 ここは、どこだ。

 俺は、何を――。

 とりあえず、起き上がらないと駄目だ。

 

「顔が変形してるじゃないか、ひゃはは、お前誰だよ?」

 

 不快な声。

 ああ、慎二。

 思い出した。

 お前の声のおかげで、はっきりした。

 今、俺は戦闘中だったんだ。

 そして、ライダーにぶん殴られた。

 少しの間、意識を失っていたらしい。

 舌で下顎の骨を押すと、動く。

 なるほど、顎の骨が砕けたか。

 視界に映る慎二の顔は、不思議と小さい。

 ああ、どうやらまた吹き飛ばされたらしい。

 ということは、また――。

 精神ではない。

 思考ではない。

 反応し得たのは、身体の意志。

 咄嗟に廊下を転がる。

 かつん、と。

 やはり、俺が倒れていたその場所に、散々見覚えのある杭が突き立っていた。

 

「すごいね、きみ」

 

 賞賛の言葉はしかし、攻撃の手を緩める慈悲を含まない。

 杭を投げ、それを手元に戻す。

 その動作が抜け落ちたような、連射。

 かん、かん、かん、かん、と。

 廊下と壁が、蜂の巣みたいになっていく。

 這うように、無様にそれをかわす。

 

「いいぞ、衛宮!もっと僕を楽しませてくれ!」

 

 何か聞こえた気がするが、そんなの意識の埒外だ。

 何とか、立ち上がる。

 目前に迫ってきた杭を、ダッキングでかわす。

 いい加減、馬鹿でも慣れてきた。

 予備動作さえ見逃さなければ、もうあれには当たらない。

 再び、疾走。

 間合いを、ゼロに。

 突然、後頭部に衝撃。

 新手か。

 そう考えながら、前のめりにバランスを崩す。

 

「ゆだんたいてきだね」

 

 哂う怪物、その手にはやはり杭。

 ああ、なるほど。

 あの杭を手元に戻すとき。

 その動作の中で、俺の後頭部を狙ったのか。

 近づいてくる地面。

 しかし、足を出して踏ん張る。

 じくじくと、頭が痛い。

 ぬるりとした首筋の感触は、垂れ落ちる血液のものだろう。

 ぐらんぐらんと、視界が歪む。

 まるで大時化の海にいるようだ。

 それでも、もう倒れない。

 俺の身のうちに宿る、偉大な誰かの経験に誓って。

 俺の身のうちに宿る、偉大な誰かの遺物に誓って。

 走れ、走れ、走れ。

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