魔法少女まどか☆マギカ ~全てを開きし者は英雄となる~ 作:ぼけなす
by巴マミ
美樹さやかの失踪した。
始まりはまどかの狼狽した電話からだった。
ほむらが最も恐れていた事態が起きたのだ。
美樹さやかは失踪後魔女化する。彼女の魔女化はもはや止められないかもしれない。
魔法少女の真実が明るみになる。
(かと言って美樹さやかを始末すれば、それこそ彼女達から信用を無くすことになる……)
もちろん彼にもだ。
打てる手は少ない。けれど、最善を尽くすしかない。
ほむらは夜の町を駆けるのだった。
一方、我らの主人公は――――
「さやか~? いる~?」
路地裏のゴミ箱の中まで探していた。
……オイ、お前。さやかをどう思ってるんだホント。
☆☆☆
杏子は無人の駅でやっとさやかを見つけ出すことができた。影の魔女のときからおかしかった彼女を杏子なりに慰めようと思っていた。
――――だが、全ては遅すぎた
さやかの濁りは浄化するにはほぼ皆無と言っていいくらい濁っていた。
「あっ……」
「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない……。あたし達魔法少女って、そう言う仕組みだったんだね」
さやかから一筋の涙が零れた……。その涙がソウルジェムに辺り――――グリーフシードになるところを杏子は目撃した。
「あたしって……ホント、ばか」
それが美樹さやかの最期。
さやかの中からナニカが吹き出し、原形が生まれる。
突風に吹き飛ばされた杏子はすぐに体勢を立て直して魔法少女となった。
そこにいたのは魔女。
顔は騎士のような鉄仮面。
にも関わらず、身体はスーツのような格好。
何より足はマーメイドと同じ魚の尻尾だ。
人魚の魔女。
悲劇のヒロインがここに誕生したのだ。
「さやか! どこだ。さやか!」
さやかの死体は魔女の目の下にある。キッと魔女を睨み付ける。
「何なんだよ! テメェ一体何なんだ!? さやかに何をしやがった!?」
槍を構える。するとほむらが杏子の腕を掴み、時間停止を発動した。
「下がって」
「何しやがる! 今からアイツを……」
「あれはかつて美樹さやかだった者よ。見届けたでしょう?」
「そんなこと……!」
「見たでしょう? あの子からナニカが吹き出したのを。ソウルジェムがグリーフシードになったところを」
杏子は何も言えなくなった。
あれは美樹さやかである事実を否定したい。けど、目撃してしまった事実を覆せない。
「私から手を離したら、あなたの時間も止まってしまう。気を付けて」
「逃げるのか?」
「嫌ならその余計な荷物を捨てて。今すぐあの魔女を殺しましょ。出来る?」
「ふざけるなッ」
ギリッと歯を食いしばる。
悔しい。今自分ができることなんて何もない。
だから今は耐えるしかないのか?
杏子の心情を理解しているほむらだが、今の彼女は足手まといでしかない。
だから一旦引く。
杏子はさやかの遺体を持ち運び、ほむらは彼女の手を引いて撤退した。
☆☆☆
まどかは線路でほむらと杏子を見つけることができた。
しかしさやかは既に魂無き人形になっていた。
マミも彼女達を見つけ、合流し、そしてさやかが亡くなったことを知った。
さやかのソウルジェムはグリーフシードに変化した後、魔女を生んで消滅した。
ソウルジェムが濁りきって黒く染まる時、私達はグリーフシードになり、魔女として生まれ変わる。
その事実をまどか達に伝えるとまどかは彼女の遺体を覆い被さり泣いた。
「嘘よ。嘘よね、ねぇ……。そんな……どうして……? さやかちゃん、魔女から人を守りたいって。正義の味方になりたいって、そう思って魔法少女になったんだよ? なのに……」
「その祈りに見合うだけの呪いを、背負い込んだまでのこと」
「テメー……何様のつもりだ。事情通ですって自慢したいよか? なんでそう得意気に喋ってられるんだ。コイツはさやかの……。さやかの親友なんだぞ!」
ほむらの胸ぐらを掴む杏子。だが、ほむらは話しているときに気づくべきだった。
ここには巴マミがいて、話が終わったときにその彼女がいないことに。
(ッ、しまった。巴マミのことを失念していた!)
彼女は豆腐メンタルから脱却したが、それはソラがいるからこそだ。
その彼が今いない。だから次に魔女になる可能性が高いのは彼女だ。
ほむらはさっさとここから立ち去るべきだと考えた。今の彼女は明らかに敵意ある目で杏子に見られていた。
「今度こそ理解できたわね。あなたな憧れていたものの正体が、どういうモノか。わざわざ死体を持って来た以上、扱いに気をつけて。迂闊な場所に置き去りにすると、後々厄介な事になるわよ」
風でロングストレートが流れる。杏子はぶちギレ、怒鳴った。
「テメー、それでも人間か!?」
「もちろん違うわね。あなたもね」
皮肉を言って彼女は巴マミの絶望を止めるために動くのだった。
☆☆☆
ほむらの説得はなんとかなったがマミは絶望していた。
自分は人間ではない。けど彼の言葉で救われた。
その言葉には自分が人間だと言える自信を与えた。
しかし今度は違う。化け物になったとは言え、自分は人間だった者を殺した。
「……それなら…………私は」
人殺しだ。最悪だ。
もう彼に顔を見せることができない。
それからマミは部屋から出なくなった。まどか達が彼女を訪ねてきたが、それでも応じることができなかった。
彼女達に会わせる顔は自分にはないのだから。
もうこのままいっそ……とマミは自分も魔女になろうと考えたある日、ソラが部屋のドアを叩いた。
「マミさーん、いる~?」
ソラの声で躊躇した。もうソウルジェムが黒くなりかけているが、その声で彼女の魔女化を立ち止まらせる。
「入るよー?」
「…………え?」
ソラはドアを蹴破る――――もとい破壊した。
いつものニコニコした顔ではなく、真剣で彼女を見つめる。
「いつまでそうしているの?」
「………………」
「みんな心配していたよ? マミさんのことを。なのにいつまで甘えてるつもりなの?」
「そんなのわかってるわよ! でも、私は人殺し……!」
ハッと怒鳴ってしまったことに気づいたマミはまた顔を俯かせた三角座りをした。
小さな子に八つ当たりしてしまい、また自己嫌悪に陥る。
「マミさん、それならオレも同罪さ。いや杏子だって、さやかだって、ほむらだって同罪だよ。でもオレは魔女を倒したことに後悔してない。だってオレから見ればあいつらは人間の心を失った化け物だったから」
マミにはそれはわかってる。だけど、自分は人間ではない上にその行き着く先は魔女になることだ。
自分は彼といるべきじゃない。でないといつか彼を……。
「いつかあなたを……いや私はあなたに殺されることになるわね……。そんな辛いことを……」
「させたくない……か。でもマミさん。いつかは今じゃないよ」
ソラはマミの手を握り微笑む。彼は彼女を立たせるために手を引く力を込める。
「マミさん、立ってください。あなたにはまだ足があるんだ。生きるだけの力があるんだ。前だけを見て歩いて生きてください。オレはマミさんが魔女になって死ぬことは見たくないです」
ソラの師匠は言った。
戦うときは前を見ろ。後ろは振り返るな。
今このときは過去は見ずに未来だけを見る――――
それが師匠から譲り受けた前向きに生きるソラの信念だ。
「……ふふ、いつの間にか立派になってるのね」
「むっ、それだと今まで立派じゃないってことですか。男の子だって成長するんですよ」
プイッと拗ねて頬を膨らませる。
マミは微笑みながら彼の頭を撫でる。
今自分ができること――――それは目の前の少年を一人にはしないこと。
いつか彼が両親と再会するその日までだと普通は思うが、彼ならたぶん今まで通りに会いに来るだろう。
そんなことを考えながら彼女は立ち上がれた。
もうその目には迷いも絶望はない。
「スンスン……あら。におうわね」
「あー……お風呂はご無沙汰だったしね、マミさん」
「それならお姉ちゃんと一緒に入りましょ?」
「え、あの、その……うにゃ!? なんでそんな力を込めて連れてくの!?」
「ソラくんの成長を確認する義務が私にあるから、見させてもらうわ」
「うにゃァァァァァ!?」
その後、ソラも綺麗になりましたとさ。
それを知ったほむらは「どうしてこうなった」と呟いたとかないとか。
こうしてお姉ちゃん化のマミさんが誕生した――――
ってどうしてこうなった!?
まあ、前作のカオス設定にさせるための過去がこうだから現在がこうなった言う過程がありますから、お姉ちゃん化は避けられませんでした。
未来の彼女は豆腐メンタルと厨二は無縁なお姉ちゃんになっています。
甘やかす相手はソラで決まってますけど。
なお、今回のも含めて前作にあった過去のお話を少し盛り上げて書いていますので「あれ、これ見たことあるぞ」と思った方は気にせず読んでください。
さて次回、そして彼は理解する
――――ソラは理解した。『カギ』の概念を、さやかを救う方法を……