魔法少女まどか☆マギカ ~全てを開きし者は英雄となる~ 作:ぼけなす
by無血の死神
一ノ瀬ソラはまだ神器の力を把握していない。
全ての扉を開けたり、魔法をキャンセルすることしか行えない――――いや間違った言い方だ。
正確にはまだその特性を理解していないのだ。
一ノ瀬ソラの来世――神威ソラは『カギ』の概念を理解し、それを駆使して敵を倒してきた。
そしてここから未来の話――『無血の死神』となったソラもまた同じだった。
ではいつどこで『カギ』の概念を理解したのか?
答えはこの世界で得た、ということだ。
魔力攻撃をキャンセルする場合、魔力がかなり喰う。
そのため燃費の悪い戦い方になる。
なら、どうすれば効率良く戦える?
簡単な話だ。根元である魔力攻撃そのものを使えなくすればいい。
そんなことはできるはずはないと思える者がいるが、見滝原に訪れる前、彼は様々な敵と戦っていた。
その中には魔力を打ち消す者や魔力攻撃を封印する者がいた。
ゆえに打ち消すことや封印は不可能ではないことだと知っている。
だから魔法をキャンセルすることが自然とできた。
ゆえにこのお話で彼は理解することになる。
――――この神器は何かを閉じ込めることができる
――――同時に何かを解放できる
そして彼は理解する。後者は皮肉な話だが実践することによってだが……。
☆☆☆
美樹さやかの魔女化。それはマミにメンタル的に答えることだったがソラの励ましで復活――いや余計に暴走お姉ちゃん化して復活した。
どうしてこうなった。それがほむらの感想である。
現にマミ宅を訪ねてきたら頬をスリスリされてマミに抱えられたソラがお出迎えされた。
「復活したのね……」
「ほむら~助けて~……。マミさんが話してくれないの~」
「だが断る。しばらく愛でられてなさい」
「本音は?」
「羞恥で困るあなたにザマァ」
「お前も誰かに毒されてね?」
誰のせいだ誰の。まあ羞恥で顔を紅くするこの少年にザマァと言える彼女も変わったということだろう。
本音はあまり喋らなかった少女の成長とは言えないが。
「で、何しに来たの?」
「巴マミの安否のついでにあなたに呼び掛けをしようと、ね」
「……さやかの退治か?」
マミの抱き抱える力が強くなった。まあ当然と言えば当然だ。
どんな形であれ、あの魔女はさやかだった魔法少女だ。それを退治することは殺すことである。
「……そうよ」
「なら、お断り。オレはあいつを討伐するつもりはないよ」
「甘いわね。あのまま放っておけばいずれ誰かを襲うのがわかっているはずよ?」
「わかってるよ。でも……」
だからって殺せるはずがない。魔女だった人間を、いやソラの場合だと友達だった人間を殺せるくらいの覚悟はない。
「そう……わかったわ。私だけでも彼女を討つわ」
彼にはできない。そう判断したほむらは踵を返した。
するとソラは意を決したかのようにマミのホールドから離れて、ほむらの前に立つ。
「何のつもり?」
「さやかの討伐はさせない。あれはオレがなんとかする」
「できるはずがないわ。だって今までそうしようとしても犬死にだったことをこの目で見ているのよ」
「けど、それでも……!」
「くどい。邪魔だからどきなさい」
ギロリと睨まれるソラ。しかし彼は阻むことをやめない。
現時点で彼には
そう
「……ほむら、お願いがあるんだ」
「さやかを討つことやめろって言うの?」
「言わない。もしかするとほむらの言う通りかもしれない。けど、やってみたいことがあるんだ」
可能性はゼロじゃない。
やってみないわからない。
分の悪い賭けだろうが、成功率が低かろうが彼はさやかを救うことはやめない。
「オレに任せてほしい。証明したいことがあるんだ」
ソラが指さすのはマミのソウルジェムだ。
黒く濁っていたそのソウルジェムは
閑話休題
杏子とまどかはさやかを元に戻すべくさやかの魔女結界に入った。
魔女に感情が――理性がまだ残っているなら、僅かな可能性にすがり付きたい想いが二人にはいっぱいだった。
無数の扉が開き、その先には人魚の魔女がいた。
魔女は演奏しているようだ。今は大丈夫だと思い、まどかは声をかけた。
「さやかちゃん!」
それがスイッチだったのか、魔女はまどかに向けて歯車の形をした使い魔に指示を出した。
指揮棒で歯車はまどかに襲いかかる。それを杏子は蹴散らす。
「杏子ちゃん!」
「続けろまどか!」
友達になった少女を守る。それが杏子の役割だ。
まどかはさやかの心に声を出して呼びかける。
――――しかし
――――それを否定するかのように
――――近づいてきたまどかを握る
「う……あ、……ぐ……」
握り締められ苦しそうに呻くまどかを見て、杏子はぶちギレた。
「テメー、いい加減にしろよ!」
握り締める手を切断し、まどかを解放させた。
そのまま魔女に一発を与えようとした――――が、魔女は杏子を剣で吹き飛ばした。
それでも杏子はめげない。諦めない。
体勢を建て直して、すぐにまた魔女に突貫する。
「アンタ、信じてるって言ってたじゃないか! この力で、人を幸せにできるって」
杏子自身もさやかに呼びかける。声を出す。
しかし魔女には慈悲はない。心には届かない。
そう言わんばかりか杏子を叩いて、飛ばした。
「杏子ちゃん!」
まどかの声が杏子の耳に届く。そして彼女の目から涙が零れた。
「頼むよ神様、こんな人生だったんだ。せめて一度ぐらい、幸せな夢を見させて……」
地面に叩きつけられた杏子だったが、立ち上がる。それから槍の結界でまどかが自分より前に行けないようにした。
なぜ?とまどかが考えた直後、ほむらが訪れた。
「…よう。その子を頼む。アタシのバカに付き合わせちまった」
彼女は無言のほむらに対して言った。
「足手まといを連れたまま戦わない主義だろ?いいんだよ、それが正解さ。ただ一つだけ、守りたいものを最後まで守り通せばいい」
不意に笑えてきた。馬鹿馬鹿しくて、滑稽で――――だから杏子は笑った。
「ハハハ、何だかなぁ。アタシだって今までずっとそうしてきたはずだったのに……」
自分らしくない。ホントどうしちまったのやら。
杏子には幻惑魔法が使える。それはかつて自分の願いを否定したことによる失った力だ。
だけど今回は使わなかった。使おうとは思えなかった。
友達になれたかもしれない少女を本気で殺そうという気にはなれなかった。
「行きな。コイツはアタシが引き受ける」
杏子は振り返らず、槍を構える。リボンを解いてストレートヘアーにした。
「心配すんなよさやか。一人ぼっちは…寂しいもんな。いいよ、一緒にいてやるよ。さやか」
原作通りならば彼女は大きな槍を造りだし、自爆魔法でさやか諸とも心中するつもりだ。
その覚悟は彼女にはある。
だが、ほむらは未だにまどかと共にここにいた。
「なに勝手に話をしているのかしら」
「ほむら? なんでお前まだ……」
「勝手に決めて勝手に終わらせないで。私はただ美樹さやかだった者の結末を見守りきただけよ」
「それならアタシが……」
「心中して終わらせる? そんな最低最悪な結末を見にきたわけじゃないわ」
魔女は痺れをきらしたのか歯車を杏子に仕向けた。
しかしそれは何者かに弾き飛ばされた。
「ヒーロー参上!」
「お姉ちゃんも参上!」
杏子が張った結界をぶち壊してソラとマミが魔女と対峙する。
「オイ、なんでお前らが!」
「おんやぁ? 杏子たんの髪がロングですぞお姉ちゃん」
「これはレアだわ! あとで写真を撮りましょう佐倉さん!」
「誰が撮らせるか! てか、何しにきたんだテメーら!?」
わかっている。ソラ達はさやかを殺しにきたことを。
だけど、それをまどかの前で行わせるわけにはいかない。
それならばいっそのこと……と杏子は考えていた。
しかし今回のソラは違った。
「オレはさやかを救いにきた」
「できるかよ。そんなこと!」
「さあ、やってみないとわかんないや。試したことないし、ぶっちゃけマミさんのソウルジェムを使ってみたらなんかできた副産物だし」
「マミのソウルジェム……? って、あれ……?」
杏子はマミのソウルジェムは黒く成りかけていたことを知っていた。しかもグリーフシードでは浄化しきれないほどだった。
だが、今のソウルジェムは黒く染まっていたどころか完全な清潔な色を帯びていた。
どこでグリーフシードを、と杏子は考えたがソラは続けて言った。
「まあこっから先はバトンタッチだ。いざって時はほむらがさやかを殺すことになるけど」
「何するつもりだよ……?」
「『解錠』と『封印』。今、ほむらがさやかの遺体を寝かせている。オレはその二つを行うことするつもりだ」
肉体と魂を結びつけるのは精神という糸であると彼は師匠から教わった。さらに魂と肉体の結びつけは強く、戻るべき肉体があれば魂はその肉体へ戻るという。
ソラはそれを知っているからこそ、行うつもりだ。
ただし、時間が経てばその結びつけは弱くなり、元に戻らない可能性がある。
つまり精神という糸が薄くなって、終いには消滅してしまうと元には戻らないということだ。
(だからこれは賭け。さやかの精神が強固であることが前提の大博打)
ふと、ソラが思う。お前は何のためにこんなことをする?
なぜこんなことをする?
まどかのため?
杏子のため?
ほむらのため?
いや違う。
自分はさやかのダチだから、さやかと友達だから命を張る。
「レートはオレの命だ。さあ、殺ろうぜさやか! お前がオレを殺すか、オレがお前をぶっ倒すかの勝負といこうぜ!」
おのれの魂を賭けてソラは神器を構える。
魔女は雄叫びあげてソラとマミに襲いかかる。
――――さあご都合主義の始まりだ、人魚の魔女よ!
☆☆☆
マミの役目はソラの接近のサポートだ。彼の神器の真価は近距離戦。
近づかなければ彼は力を使えない。
「うにゃ!? ちょ、どんだけ来るの!?」
マミをガン無視して魔女は歯車や槍を一斉にソラに仕向けた。
なぜか彼オンリーに攻め始めた。
もしかすると彼女の残存思念に彼のこれまでの恨みがあるがゆえの行動ではないのかとほむらは思った。
現に、ガンガンいこうぜがソラだけに仕向けられているし。
まあそれはさておき、彼女は近づく使い魔をマスケットを使って射撃と打撃を与えて蹴散らす戦法をとる。
ソラに群がる使い魔はこれで少なくなり、これで進行方向は確保された。
一方、ソラはただ魔女に近づくことを考える。
彼が神器を使えば一撃必殺は可能。しかも可能であればさやかの魂を元の身体へ戻せるかもしれない。
だから彼に後退する理由はない。
マミが使い魔を蹴散らし、そのお零れの使い魔をソラは蹴散らす。
(ただ前を見る!)
ただ目の前のことしか考えるな。
後ろは考えるな。
ソラは歯車を足場にして跳躍する。そこから魔女の指揮棒と思われる剣が迫ってきた。
ソラを神器で滑らせて受け流し、空中でマミが作った数個のリボンを足場にして機動力を確保した。
翻弄されてる気配はないが、魔女は剣を振るう機会をなくすことができた。
「もらったァァァァァ!」
顔面から垂直斬り。ソラの黒い一閃が魔女をとらえた。
魔女は悲鳴をあげ、グリーフシードへ還元された。
だがまだ終わってない。
ソラは空中から現れたグリーフシードに向けて、突き刺す動きをとる。
「戻ってこいやアホ女ァァァァァ!」
散々迷惑をかけ、友達を傷つけ心配させた迷惑なダチに向けてソラは言った。
神器に刺さったグリーフシードは光を帯びて、宿主に戻るような動きを見せた。
その光はさやかの遺体に戻るところを確認したソラはクルクルと前回転しながら着地した。
「う……フラフラするぅ……」
神器の燃費の悪さが原因で魔力が不足していた。どうも数匹の使い魔やさやかの解放と封印であまり魔力が残されていないようだ。
気分は優れない。だけど――――
「大丈夫?」
ほむらが心配そうに手を差し出す。それを掴んでソラは言った。
「ま、終わりよければ全て良しか……」
「……そうね」
ソラとほむらの目に写るのは普段通りに目を開けたさやかがまどかと杏子に泣かれて、抱きつかれている光景だった。
「さてと」
「殺りますか」
しかしこれで終わるほど彼と彼女はあまーくない。
二人の目はギラギラと輝いていた。
まずソラがバッとさやかを二人の少女を引き離してから、大腰で倒した。
そしてほむらは海老反り固め、ソラはキャラメルクラッチを決めた!
「人に迷惑かけたのどこのどいつじゃァァァァァ!?」
「みぎゃあァァァァァ!!」
ギブッギブッと言っても二人が満足するまで止まらなかった。
ちなみにマミさんは微笑んで見守っていた。
……助けてあげようよ。
ご都合主義で救われたさやか。
まあこれも『誘導者』の想定内のことです。なので干渉はしてきません。
ちなみにマミさんのソウルジェム浄化はソラの『解錠』による者です。
溜まった呪いを外に出すこと浄化される――――グリーフシードによる浄化を見て思い付いた独自解釈です。
この解錠と封印を使えば魔法少女も普通の少女に戻せます。まどかの魔女も可能――――と言いたいところですが近づいて神器と刺し込まないと効力は発揮されないので当たらなければ意味がないというデメリットがあります。
さて次回は、取り戻した日常
――――平穏な日々。それは何かの前触れではないだろうか?