魔法少女まどか☆マギカ ~全てを開きし者は英雄となる~ 作:ぼけなす
これが絶望。
これが最悪な状況。
これが悲劇。
ではどうぞ!
「さよなら……母さん。さよなら……父さん。もう二度と思い出さないし、思い出したくない……!」
by『一ノ瀬』だったソラ
日曜日。本日は快晴である。そんな日を出かけられずしてはいられなかった。
鹿目まどかもまたその一人であった。親友のさやかと共にショッピングに出かけて、少女らしく遊ぶことが彼女の今日の楽しみであった。
「ん? あれって…………」
「あ、ソラくんだ! おーい!」
手をブンブン振るが彼は気づいておらず、そのままどこかへ走って行った。
「むーなんだよー。こんな美少女二人を無視するなんて許せないわね。次会ったらとっちめてやる」
「あはははは…………でもどうしたのかな? なんか慌てていたみたいだけど」
「ははーん…………」
さやかの眼が怪しく光った。
「これはアレだね…………デートだね!」
「ででででデート!?」
「違いないよまどか。あんなに慌てて、しかもまどかやあたし達のようなかわいい少女に目をくれず、真っ先に目的地に向かうなんてデート以外ないに違いないわ!」
「そ、そうかなぁ…………?」
さやかはマミからソラにはミカちゃんという友達がいると聞いているので女の子に興味のあるお年頃とわかっているからこそ、直感した。
まどかはさやかの直感は少し当てにならないと思っている。まさにその通りだが、暴走少女さやかは止まらない。
「もしかすと転校生とかな?」
「ほむらちゃんと!?」
「だって普段から一緒にいるし、よく見かけるじゃん」
「あわわわ、そうなのかなぁ…………!?」
「そんなわけないでしょ、美樹さやか」
凛とした声が彼女達の耳に入る。そこには件の転校生、暁美ほむらが髪を流しながら立っていた。
「あれ? 違うの?」
「私があんな子どもと付き合うはずないじゃない」
「じゃあ、ほむらちゃんは今何してるの?」
「私は彼が気になって追いかけているの。見滝原公園を見たとき彼が『気になることができたから、今日別行動でいい?』って聞いてきたものだから」
「ますます気になるなぁ。…………よし、あたし達も追いかけてやるわよまどか!」
「うぇ!? それはだめじゃない……かな?」
「気が合うわね。散々振りまわされた怨みを晴らすネタを得るチャンスだわ」
「ほむらちゃんも!? というか私怨だよねそれ!?」
こうして三人娘の追跡が始まった。
☆☆☆
電柱の影から覗く三人娘はおばあちゃんと話すソラをジッと見ていた。
「知らないおばあちゃんと話しているわね…………」
「穏やかそうな人だけど、知り合いなのかな?」
「あ。頭下げた」
「どうやら道を聞いてたみたいね」
『ありがとおばあちゃん!』
『いいっていいって。孫みたいだねぇ、ぼくは』
『お孫さんいるの?』
『いるともさ。最近、紅いの出したままで全く動かないのよねぇ。テレビを直すように鈍器で殴ったのに』
『病院に連れて行けば元気になるよきっと!』
『そうねぇ。試してみるよ』
「まどか、すぐに百当番。ソラの目の前に殺人犯いる」
「うん」
「さらりと現行犯と会話したソラに戦慄が止まらない」
ソラの鈍さにさやかは戦慄する。ちなみにこのおばあちゃんは一時間後捕まります。
☆☆☆
建物の影から覗く三人娘は杏子と話すソラをジッと見ていた。
「あ、今度は杏子と話してわね」
「なにを話してるのかな? あ。また頭下げたよ」
「いったい何を話していたか聞いてみましょう」
三人娘は手を振る杏子に話しかけた。
「あ。お前らなにしてんだよ?」
「ソラの追跡よ。何か慌ててみたいだし」
「うん、急いでたし。もしかすると、こここ恋人がいたりして…………」
「そんなのお姉ちゃんは認めないわ!」
「いつの間にかマミさんがいる!?」
さらりと参戦してきたマミにさやかはツッコミを入れていると、杏子は検討違いの答えを出した。
「なに言ってんだよ。あいつは自分の家の場所を聞いてただけだよ」
「「「「家の場所?」」」」
「ほら、アイツって異世界に飛ばされて神器使いになったとか言ってたじゃん。なら、あいつの故郷があるなら帰りたいって思うのが普通じゃん」
「つまりここにソラくんの故郷が?」
「彼もここの出身だったのね」
まどかとほむらは納得した表情となった。しかしってマミとさやかは違う。
「でもそれってあたしのような幼なじみがいることあるってことでしょ?」
「義理の妹がいる可能性も否定できないわね…………」
「お前らの想像力にビックリだわ」
呆れる杏子にマミとさやかは彼女の手を引いてソラを追いかける。
「いくわよ佐倉さん! そんな事実があったらソラくんのお姉ちゃんとして黙ってはいられないわ!」
「ってオイ! なんでアタシまで……」
「なんか面白いことが起きそうだから行くわよ杏子!」
「野暮なことするなって!」
口で止めようとするが行動派の二人は聞かず、そのまま杏子を連れて行った。
「……どうしようほむらちゃん」
「追いかけるわよまどか。彼女達の暴走を止めなきゃいけないし、それに……」
「それに?」
「そんな事実があれば脅せるネタが得られることじゃない」
「ほむらちゃん!?」
やはり振り回された怨みを晴らせねばという想いと共にほむらもまた追いかけた。
まどかはそれを止めるために追いかけるのだった。
☆☆☆
普通の一軒家にてソラは立ち止まっていた。ベルを押そうかどうしようかとソワソワしていた。
「ここがソラくんの……?」
「さあさあ、蛇が出るか竜が出るか!?」
「たくっ、ほんとに知らねぇぞ……」
「……ワクワク」
「はぁはぁ……止められなかった……」
曲がり角から覗く五人娘はソラがベルを押す光景を見守った。ドアから出てきたのは穏やかそうな女性とその女性と手を繋ぐ小さな少女だった。
「か、母さん?」
「もしかしてソラ……なの?」
感動の再会に誰もが目を奪われた。しかし、邪魔する野暮な輩がいた。
「これって魔女結界!?」
「こんなところで!」
しかもソラの後ろから魔女が現れた。彼は神器を召喚し、母親を守ろうと戦い始めた。
「母さんを守る!」
魔女は触手を使ってソラを貫こうとしたが、彼はそれを掻い潜り頭から一閃を下ろした。
「どりゃァァァァァ!」
あっさり決着はついた。猛者であるソラにとってこの程度の敵は朝飯前だった。
魔女は倒され、すぐに魔女結界は解除された。
しかしソラは失念していた。彼の後ろには一般人が……家族が見ていたことを。
「そ、ソラ……なにそれ……?」
「か、母さん……これはその……」
言えるはずもない。なんせ荒唐無稽なお話だ。
しかし母親は手で顔を覆い何かに納得していた。
「やっぱりそうよね。ああ、そうよ……!」
「母さん?」
「あなたはソラじゃない!」
その言葉に五人娘は目を開いた。
否定した。彼を、ソラを否定したのだこの母親は。
「六年も行方不明だったのよ! そんな子が今更出てくるなんておかしいわ!!」
「き、聞いて――――あぐッ」
「消えなさい! 消えなさいよ過去の幻想!! この化け物ォォォォォ!」
なぜ彼女がそう言うのかという理由はある。彼女は愛すべき息子であるソラを失ってからずっと励ましてくれていた夫も死別し、狂ってしまった。
それを救ったのは今の夫で、一児の娘をもうけて幸せだったが、目の前に現れた彼女のトラウマである過去の幻想だった。
彼女はフラッシュバックしたのだと誤解したのだ。
そして、それはソラの心を傷つけるのには充分だった。
ソラは目を向けず、走り出した。
前を見ず、下だけを見ながら全速力で。
五人の少女達も追いかけた。
彼の顔はとても泣きそうだった。
裏切られた。
否定された。
家族だったのに……。
自分の居場所だったのに……。
時間が経ちすぎた。もう自分に帰る場所なんてなかったのだ。
――――そして、遂に彼が転んだときに彼女達は追い付いた。
ソラは天を見上げて呟いた。彼女達が自分を尾行していたことに気づいていた。
そして一部始終見られていた。
「わかってた……六年も行方不明だったもんな……。変わってしまうよな」
「ソラくん……」
まどかの同情的な目で見られていた。それが堪らなくてソラは強がるように言った。
「化け物か……うん。化け物だよな。神器使いは化け物だって師匠も言ってたじゃねぇか……」
化け物だ。そうだ。自分は化け物だって自分の師が言っていた。
なんで忘れていたのだろうか。
それはきっと幸せな毎日を過ごしていたから忘れていたのだろう。
顔が見せない彼の表情は解らなかったが、まどかは背中から抱きついた。
「もういいよ。泣いていいんだよ?」
まどかは自分の弟をあやすように呟いた。ソラはそれでも泣こうとしない。
彼は泣くことは弱くなると考えていた。
「……泣きたくない。泣けばオレは強くなくなるよ……」
「強くなくたっていい。悲しいときは泣けばいいんだよ。だから思いきり泣いて。――――今なら私が隠してあげるから」
ソラの顔はまどかの胸で見えなくなった。
それを理解したソラは――――泣いた。子どものように。
年相応に泣いた。
ほむらはやっと彼のことがわかった。
――――彼はまだ子どもと変わらない年齢じゃないか。
怖くて、辛くて、苦しい環境なのに、泣いて当たり前な世界にいるのに彼は泣かずに必死に彼女達を助けようとしていた。
それに気づいていなかった自分の不甲斐なさと彼の悲しみに、同情しながら目を瞑る。
泣き止んだとき彼は言った。
「もう『一ノ瀬』なんていらない……。自分は『ソラ』だけでいい」と。
その日を境に彼は『一ノ瀬』と名乗らなくなった。
☆☆☆
「クヒヒヒ……クヒャヒャヒャ♪」
常世はソラが拒絶されるところを一部始終見ていた。
笑える。なんて笑える絶望だ。
彼の苦しみ、そして泣いた顔はとても愉快で愛しい。
「最ッ高ォォォォォ! もう決めた。彼だけとことん絶望させようっと!」
第二の悲劇――――彼が絶望に追い詰められ、そして壊れたときに第三の悲劇も起きる。
常世は電柱から降りたとき、三歳児と歩く親子を見た。
メガネをかけた父親と無邪気で元気な男の子だ。
それを見た彼女は笑う。
「いいねぇ……次は君が餌だよ――――
――――鹿目まどかぁ!」
この日、鹿目知久は重傷を負い、彼の血で濡れた鹿目たつやが泣いてるところを発見された。
☆☆☆
『一ノ瀬ソラの最初の絶望完了』
『以後、一ノ瀬ソラはソラと命名』
『肯定。血の繋がりを否定したことで最初の誘導完了』
『質問。なぜわざわざ血の繋がりを絶つ必要が?』
『答案。英雄たる者に血の繋がりは必要無し。また英雄たる者孤高であれ』
『納得。では次の誘導は?』
『提案。英雄たる者不殺にあらず』
『同感。ゆえに行うことはただ一つ――――』
誘導者は計画する。
誘導者は笑わない。
『彼/彼女』には感情はない。ただ『必然』的な作業を行うだけ。
その者達の目的は『ソラ』の英雄化である。
ヤベ、書いてて楽しくなってきた♪
主人公をいじめていじめて、最後には成り上がる。そんな物語も自分は好きです。
さて裏話です。
動き出した誘導者――――まあまどマギ世界のラスボスです。
こいつらは登場人物ではありません。
こいつらは人でも生き物でもありません。
あえて言うなら『事象』。それ以外ありません。
またこいつらには意思はありません。
意思はあると言えばありますが、個別化してるような共同化してるような曖昧な意思です。
ソラの英雄化――――それが達成するには彼を絶望化させる必要がある。
物語の主人公を覚醒させるには『過去を乗り越える』とか『危機的状況から奮闘する』などありますよね。
つまり主人公を追い詰めることで初めてその人が『覚醒』する――――そんな独自解釈が自分にはあります。
まあご都合主義と言えばご都合主義ですが、それも誘導者の狙いです。
なお、誘導者と書かれていますが正式名は違います。
前作を読んでいる方ならわかる名前です。
次回、ワナ
――――悲劇的で惨劇。もはや彼が辿る道に変更点はない