魔法少女まどか☆マギカ ~全てを開きし者は英雄となる~   作:ぼけなす

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「お前の罪は覚悟がないこと。お前の罪は無知であること」

by無血の死神


第十九話 ハジメテノヒトゴロシ

 

 

 福神常世は人格破綻者である。彼女の過去は至って普通ではない。

 母親は早く失い、七歳になったばかりの彼女は父親に犯された。

 泣いて、お願いしても性的虐待は止まらなかった。

 極めつけに自分の味方だと思っていた担任の教師まで父親と結託し、犯された。

 最初から彼女に味方などなかった。周りは敵だらけだった。

 だから彼女は殺す力を求めた。そして十三歳のときにキュウべぇと契約し、父親を殺すことが

できた。

 不運だったのは、歪んだ彼女は苦しみ絶望する担任を見て思ってしまったのだ。

 

 

――――なんと醜く面白いモノなのか

 

 

 

 絶望フェチに目覚めた彼女は以後、快楽殺人を行った。そして目につけた少年もまた自分の娯楽を満たすモノでしかなかった。

 

 それが間違いだと気づかずに……。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 許さない。絶対に殺す。

 ソラの中に渦巻く感情は怒りと憎しみでいっぱいだ。

 普段の彼ならヒーローごっこを始めるところだが、今の彼はヒーローでもなければ夢見る少年ではない。

 

 復讐者。その一言に尽きる。

 

「うあォォォォォ!」

 

 がむしゃらに神器を振るう。常世はそれを冷静に対処した。

 

「く、へぇ……力がとんでもなくなったけど。動きが単調だねぇ!」

 

 常世のカウンターが腹部に直撃した。蹴りを受けたソラは二、三歩後退する。

 常世はナイフを逆手に持ち、既に切り刻む準備に入っていた。

 

「斬殺してあげる!」

 

 切り刻まれ、ソラの身体中から血が噴き出す。

 常世はニヤリと笑い、とどめにソラの背中に向けて投擲した。そのナイフは胸部辺りに突き刺さり、ソラは倒れる。

 

「クヒャ……クヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 呆気ない。なんと他愛のない最期だ。

 絶望し、果てに憎悪に染まり自分を殺そうとしたくせに最期は呆気なく死んだ。

 なんとも滑稽だ。だから笑える。

 

 常世の高笑いがまどかとほむらの耳に届く。まどかは口を手で覆い、ほむらは悔し涙を流す。

 

「さぁて次はあの暁美ほむ――――ぐふ……?」

 

 暁美ほむらを標的にした常世だったが、背中に何か刺された感覚があった。

 それを抜いた。ナイフだ。

 自分がソラに刺したナイフ。それはいったい誰が投げた(・・・・・)

 

「まさか……!」

 

 倒れた彼の死体――――いや身体は既になく、常世の視覚は次の瞬間ブレた。

 

「がッ!?」

 

 鉄パイプを側面からぶつけられたのだ。鉄パイプを握っているのは自分が殺したと勘違いしたはずの少年――――ソラが鉄パイプを振るったのだ。

 

「まどかに手を出すんじゃねぇェェェェェ!」

 

 彼は叫びながら鉄パイプをガンガン身体へ殴り付ける。

 普通の少女なら最初の一撃で死んでもおかしくない威力だった。

 しかし魔法少女の身体は頑丈であり、なかなかくたばらない。

 

「あァァァァァ!」

「調子に……――――!」

 

 ここで常世はソラの顔を見た。

 

 

――――修羅

――――鬼の形相

 

 生きるために殺す。

 怨みを晴らすために殺す。

 

 まさに憎悪で染まった怒りの形相だ。

 

「らァァァァァ!」

 

 ソラは今度は神器で常世を切り裂いた。常世が今ので封印されたのは魔法。

 つまりもう彼女は魔法が使えない。そして次の二撃目は彼女の命を狩るモノだ。

 

「あ……そうなんだ」

 

 常世はわかってしまった。

 目の前にいる少年がなんなのか。

 

 だから彼女は最期に笑った。

 

「君は私の――――『死』なんだね……」

 

 それを最後に魂を切り離された。ソラはさらに魂無き肉体を蹴り飛ばした。

 それは五階から落下していった。

 

「はぁはぁ……――――あれ?」

 

 正気に戻った。ソラは自分が何をしたのかわかっていなかった。

 グチャリと肉が潰れた音が自分の下から聞こえた。

 

「駄目よ! ソラ、見ちゃ――――」

 

 しかし遅かった。ソラは見てしまった。

 自分が何をしたのか。そしてこれが第三の悲劇。

 

 

――――中央にある針千本のオブジェには串刺しとなった肉塊があるではないか。

 

 

 誰が殺した?

 誰がこの肉塊を作り出した?

 

 

――――ジブンガツクリダシタジャナイカ

 

 

 

 

「あ……うあァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 懺悔を求めるかのようにソラは頭を抱え、叫びあげた。

 彼が犯した罪は……重い。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 その後の話をすればソラは意識を失い、ほむら達はまどかを連れてその場から離れた。

 人を殺したという精神的なショックにソラが失神するのは無理もない。

 

「ほむらちゃん……」

「まどか、平気?」

「うん……大丈夫。けどソラくんが……」

「……わかってる」

 

 今、ソラはほむらの家で眠っていた。交代制で今はマミが看病しており、未だ意識が戻らずにいた。

 無理もない。友達を殺され、犯人を殺した。

 怒りに呑まれた彼の判断は間違ってはない。あの魔法少女はやってはいけないことをした。

 だが、十歳の少年が……小さな男の子が殺人を犯すことに耐えきれるはずがない。

 特にソラは感受性が強い。だから人を殺したことの罪悪感、嫌な感触、そして後悔に呑み込まれた末の失神だ。

 

「……なんでこんなことに。ソラくんが何をしたって言うの。家族に拒絶されて、私のために戦って、その上で大切な友達が殺されることになって……!」

「まどか……」

「私、ソラくんを止めることができなかった……。ソラくんが怖くて……別人のように見えて……私…………」

「もういいの。それ以上自分を責めないで」

 

 ほむらは涙を流す彼女を優しく抱き締める。子をあやす母のように。

 するとソラが眠る部屋からマミが急に出てきた。

 それにより台所でお茶を沸かしていたさやかとつまみ食いしていた杏子も反応した。

 

「どうしたんだマミ!」

「杏子、それより口元のアンコを拭きなさいよ」

「あ、ヤベ」

「私のお萩を食べたのね!?」

 

 密かに楽しみに取っていたお萩を食べられてショックなほむらはさておいてマミの一言で全員目を開くこととなる。

 

「ソラくんが目を覚ました!」

 

 一斉にマミごとソラの部屋に押し入ることなった。

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 ソラの顔はいつもの無邪気さや元気はない。死んだような目で絶望した顔になっていた。

 

「ソラ、大丈夫?」

「お前大丈夫か?」

「…………うん、もう大丈夫」

 

 無理な笑顔で彼はいつものように振る舞おうとしていた。

 だが、次の一言で異常だとわからせることとなる。

 

「ミカちゃんは無事(・・)だよね? 生きてよね?」

(え…………)

 

 友達の死を否定する。ソラの目は完全に虚ろだ。

 本当に心が死にかけている。

 だから彼は友人の『死』を受け入れることができなかった。

 

(どうしよう……真実を言うべきかな。でも嘘をついてもいずれ……)

 

 今かいつか。ソラが友人の『死』で絶望するのは早いか遅いかでしかない。

 ほむらを含めて彼女達は沈痛な顔をしていた。

 

「もう……いいよみんな。うん。もういいから……」

「ソラ、生田ミカは……」

「わかってるよほむら。オレは……知ってるから。今のは冗談だから……」

「ッ……」

 

 冗談を言ってるようには思えなかった。本当にそうであってほしいと願いを込めて言ったに違いはなかった。

 ほむらは何も言えずにいた。

 彼の心を癒せる気休めさえもない。それほど、ソラの絶望は深淵だった。

 

「ありがとう……みんな。今は一人にしてくれないかな」

 

 ソラを残して彼女達は部屋から出ていった。

 残されたソラは呆然と天井を見上げる。そして涙を流す。

 

「涙を流せば弱くなる、か……。涙を流さなくてもオレは弱いじゃねぇか……!」

 

 出てきた雫は収まることなく溢れかえる。

 

「チクショウ……チクショウ……。オレは弱い――――弱かったんだ……」

 

 少年は涙を流す。

 悔し涙だったのか、悲しみの涙だったのかはわからない。

 

 泣き言を聞いていたほむらはギリッと歯を食い縛る。

 

(どうしてなの……神様。あの子が何をしたって言うの……?)

 

 自分の無力だけでなく、理不尽を呪う。まどかもまたそうであった。

 

(ひどい……こんなのってないよ……)

 

 彼女達の嘆きはソラの絶望からだった。しかし結果や過去は変わらない。

 過ぎた時間は返らず、こくこく時間は過ぎていくだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

『ソラの第二、第三の絶望完了』

『以後、ソラは人殺しを躊躇うようになる』

『それにより第四の悲劇が起きる』

『第四の悲劇で躊躇うことをやめる――――それが英雄化をほぼ完成させると言ってもいい』

『質問。しかし些かやり過ぎな点があったのでは? この悲劇でソラの召喚術も不安定になっているのでは?』

『同意。いくら我々が造り出したイレギュラーであっても目の前の死はやり過ぎでは? ソラの召喚術は心理的な面も配慮しなければならない。不安定では今後に支障があるのでは?』

『心配無用。彼はそこまで弱くない。なぜなら彼はあらゆる絶望と理不尽に立ち向かおうとする愚かでお馬鹿さん。ゆえに不安定はすぐにある人物の親族で解消されるだろう』

『納得。ではこの世界の最終段階――――いや■■■■■としての最後の役目を果たそうではないか』

 

 

 

『『『ワルプルギスの討伐がトリガー。あなたの絶望と悲劇は必然』』』

 

 

 

 誘導者は最後の役目を果たす。

 『彼/彼女』は最後の敵としてソラに立ちはだかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゅふふふ……これはこれは、面白いことになってるよライト♪」

 

 混沌の神器使いは一部始終見ていた。そして彼女はあくまでソラの傍観である。

 どんな結末になるのかが彼女の楽しみである。

 

 

 

 




殺す覚悟のない者が殺人を犯したとしたらそれに耐えきれる精神はないと思われます。

今回のお話がそれです。

殺人を犯してしまった罪悪感と後悔にソラは苦しんでいます。覚悟があれば何かが違っていたかもしれませんが、それはもう『ソラ』ではなく違うナニカです。

救えない人は救えない。無力だから失う。

戦争や戦いとはそういうモノだと自分は思います。
そして彼の悲劇は終わってません。

まだ取りこぼした少女のお話をしてませんから。

え? ミカちゃんと常世?
黒幕の造り出した心ある傀儡だから取りこぼした少女ではありませんよ?

次回、ありがとう。助けてくれて

――――だけど、確かに助かった人がいるんだよ? ソラくん……
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