魔法少女まどか☆マギカ ~全てを開きし者は英雄となる~   作:ぼけなす

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「勝算なんてない。けど、負けたくなかった……!」

by暁美ほむら


第二十三話 抑止の存在

 世界にはそれぞれルールがある。

 例えば『鋼の錬金術師』の世界にある錬金術。禁忌とされるのは人体錬成だ。

 それを犯したとき罰が与えられる。真理の扉が知識を与えて、身体の一部をもっていくという罰だ。

 

 しかしそれでもなお、成功する者がいる。

 百憶分の一の確率で成功する者がいる。

 

 だが、それは許されてはならない。『絶対』に成功などありえない。

 そのためそれを否定するためにヤツら存在する。

 

 ルールを否定する者を裁定し、そして裁きを与える存在――――それが『抑止の存在』だ。

 

 ヤツらは登場人物でも人でもない。事象だ。世界を守ろうとする審判だ。

 ヤツらに勝ちも負けもない。『死』も『生』もない。

 あるのは断罪と裁定あるのみ。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 ソラとほむらはまどかが言ったことに呆然していた。

 

『私はいなくならなくちゃいけない』

 

 それはほむらにとって最も否定したいことだ。だから彼女は言う。

 

「何を馬鹿なこと言ってるの!」

 

 まどかに掴みかかる。彼女は冷静を失っていた。

 

「私達はワルプルギスを乗り越えたのよ!? あなたが死なないようにやっとあの魔女を倒した。なのに、なんであなたがいなくならなくちゃいけないのよ!?」

 

 越えたのに。

 まどかをやっと救えたと思ったのに。

 それをまどか自身から否定されるのは聞き入れられなかった。

 

「どうでもいいだろほむら」

 

 ソラは言った。

 

「こいつがどんなことを思って自分を否定したのかは知らない。どんな想いでここにきたのかは知らない」

 

 けど、と彼は続けて言った。

 

「そんなことどうでもいい。オレ達は鹿目まどかに生きていてほしい。一緒にいてほしい。自分のエゴのためにオレは彼女を肯定する。自分をどんなに否定してもオレは肯定するために戦う」

 

 ソラは最初からそのつもりだ。ほむらはソラの言葉を聞いて空間の亀裂から出てきた魔女を剣呑な顔で見る。

 木のように巨大で禍々しい存在――――救済の魔女。

 どんな世界でも終末を迎えさせた魔女。

 

 ほむらにとって因縁のあるまどかのなれの果てだ。

 

「そうね……ソラ。戦ってくれる」

「もちろん」

「あたしもだよ! まどかがいなくなるなんてあたしも嫌だ!」

「よくわかんねぇけど、やるしかねぇだろ!」

「お姉ちゃんもがんばるわ!」

 

 彼と彼女達は最初から答え出していた。すると魔女が喋りだした。

 

『愚か。あなた達は世界の審判者に反逆するのですか?』

「喋った!?」

『喋りますとも一ノ瀬ソラ――――いえ、ソラ。我々はこの魔女の身体を借りた仮初めの姿。能力全てはもちろんオリジナルの力があります。それでも挑みますか?』

「当たり前だ!」

 

 自分達はみんながいる。だから負けない。

 ワルプルギスを乗り越えたんだ。だから負けるはずがない。

 

 そう信じていた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――しかし

 

――――それは

 

――――呆気なく否定される

 

 

ズドォン!!

 

「――――え……?」

「さ、さやか……?」

 

 黒い触手がさやかのいた場所に延びていた。そして触手と地面の隙間から血が溢れ出ていた。

 

 さやかが潰された。それも目にも止まらぬトップスピードの突きで。

 触手が持ち上がったとき、彼女はもはや人の形をしていなかった。

 

『では我々はあなたを否定しよう』

『我々に勝ち負けは生死ではない』

『我々の勝ち負けは肯定と否定』

『武力をもって接するならば(敗北)を』

『知力をもって接するならば否定(敗北)を』

『あなた方にもはや勝ち目など与えないという絶望をあげましょう』

 

 複数の声が魔女から聞こえた。

 

 男のような女のような。

 子どものような老人のような。

 そんな複数の人を集めた声だ。

 

「さやか……そんな……」

「全員構えろ……!」

 

 杏子が握り潰されたような小さな声で彼女の死を悼む。

 そしてキッと『抑止の存在』を睨み、突貫した。

 

「待て杏子! 早まるな!」

「うるせぇ! さやかの仇だ!」

 

 幻想魔法で作り出された分身達を連れて、魔女へ槍を投擲した。投擲された槍は巨大になり、ザクザクと魔女に刺さった。

 

「へっ、思いしっ――――」

 

ザクザクザクザク!!

 

「――――ったか……?」

 

 杏子は呆然とした顔で自分の身体を見た。地面から伸びた触手が彼女を串刺しにしたのだ。

 口から血を吹き出し、そして魔女から伸ばされた触手を見て呟く。

 

「ワリぃ……みんな。アタシは馬鹿やっちまったよ……」

 

 最期に笑った。悔しいが自分は死ぬ。だからこそ、最期には笑おうという彼女の意地だ。

 

 

ブチャン!!と杏子は潰された。肉塊にされたところを目前と見たソラは呆然として、マミはヘタリ込んだ。

 

「嘘だろ……」

「そんな……ことって……」

 

 唯一ほむらは冷静だった。まさか戦力を一気に二つも減らされたことになるとは思わなかった。

 だから考える。自分が何ができてみんなとどうやってここを乗り切るか。

 そして浮かんだ答えは――――絶望だった。

 

「勝てるはずがないじゃない……」

 

 最凶の魔女の早さと力。なにもかも桁違いだ。

 それにあの魔女の最も最悪な攻撃は生命エネルギーを吸いとる吸収能力。全ての生き物を救済するために命を奪う最悪な能力がまだ使われていない。

 

「それでも……それでも!」

 

 ソラは絶望を振り切るように叫んだ。

 

「負けてたまるかァァァァァ!」

 

 彼は駆け出した。彼の神器ならばもしかすると魔女を封印することや魔女となったまどかの魂を解放できるかもしれない。

 しかしそれは近づければの話だ。

 魔女から迫ってきた触手が雨のように降りかかる。ソラの近くに触手が落ちたとき、彼は吹き飛ばされた。

 

「くぁッ!」

 

 空中に放り出されたソラはリボンで受け止められた。それからマミは彼の頭を撫でて言った。

 

「ソラくん……私はあなたと出会えてよかった。私の弟になってくれてうれしかった」

「お姉ちゃん……?」

「孤独から解放してくれてありがとう……」

 

 彼女は慈愛の微笑みを浮かべてほむらに向けてソラを放り投げた。地面に叩きつけられる前にスライディングでほむらがクッションになってくれて頭は無事だ。

 ソラは放り投げたマミに理由を問おうと叫ぼうとした。

 そこには――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――触手と触手によって頭をサンドイッチにされて潰されたマミが……いた

 

 死体はそのまま落ちて、さらに触手がその死体を潰した。

 

「チクショウ……チクショウ……!」

「う……うぅ……」

 

 ソラは仲間の死に涙を流した。ほむらは自分の無力さに泣いた。

 

「なんで……時間遡行が使えないの!」

『当然。ここは我々が隔離した庭』

『ワルプルギスのときあなた方を閉じ込めた』

『よって遡行は使えない。隔離された時間軸なのだから』

 

 『抑止の存在』はそう答えた。逃がしはしないと言っているようなモノだ。

 もう逃げ場所なんてない。ほむらのソウルジェムが濁り始めた。

 

『暁美ほむら。あなたは魔女になって私に対抗しようと考えている』

「そうよ……! 化け物同士なら!」

『しかしそれも不可能』

 

 理由は次の瞬間だった。さやかは生きていた。

 魔女の姿になって救済の魔女に掴みにかかった。

 

 

――――救済の魔女は彼女をバラバラに切り裂いたのだ

 

 

 さやかは今度こそ死に、黒い血は雨となって降り注ぎ、ほむらに更なる絶望を与えた。

 

『これで理解したはず』

『我々には絶対に勝てない』

『否定されれば否定される』

『これは世界の決定なのだから』

 

「ごちゃごちゃとうっせぇよ!!」

 

 ソラは怒鳴った。自分の無力が悔しい。仲間を死なせたことが悔しい。

 だけど……だけど!

 

「世界の決定なんか知らない! お前らの言い分なんて知るか! オレはまどかを助けたいから助けるんだ! 邪魔するなら皆殺しにするまでだ!」

 

 それはもはや決意。邪魔する者は排除するという覚悟。

 人を殺すのは怖い。だけどここで止まってはいられない。

 ソラが叫んだ直後、ソラとほむらは虚脱感に襲われる。

 

「こ、れは……」

「あの魔女の力よ……」

 

 遂に魔女が力を使い始めたのだ。このまま自分達は殺される。

 そしてまどかも殺される。それが悔しい。ソラとほむらはお互い支え合いながらなんとか立っていた。

 

「まだまだ……」

「いける……」

 

 一歩、一歩前へ。

 

「オレ達は……」

「まだ生きている……」

 

 あの魔女を倒すまで倒れてたまるか。彼と彼女はまだ負けてない。

 しかし気づいていなかった――――『彼女』がいたことを、覚悟してしまったことを。

 

「もういいよ」

 

 まどかはトンと二人を押して倒した。二人は呆気なく倒れて「なぜ」と言った顔をしていた。

 

「ほむらちゃん、ごめんね。私、魔法少女になる」

「まどか……そんな……」

「ふざけんなよ……! こいつがどんな想いをしてきたのかわかってて言ってるのか!?」

 

 ソラは吠えた。しかしまどかの決意は変わらない。

 

「ソラくん……私ね、やっとわかったの。叶えたい願いごと見つけたの。だからそのために、この命を使うね」

 

「やめて! それじゃ……それじゃ私は、何のために……」

 

 ほむらは泣いていた。彼女の覚悟は変えられないと実はわかっていたかもしれない。けれど納得できるモノでもない。

 まどかは申し訳なく思い、彼女を抱き締める。

 

「ごめん。ホントにごめん。これまでずっと、ずっとずっと、ほむらちゃんに守られて、望まれてきたから、今の私があるんだと思う。

 

ホントにごめん。

 

そんな私が、やっと見つけ出した答えなの。信じて。

 

絶対に、今日までのほむらちゃんを無駄にしたりしないから」

「まどか……」

「数多の世界の運命を束ね、因果の特異点となった君なら、どんな途方もない望みだろうと、叶えられるだろう」

 

 キュウべぇは契約し、魔法少女になれればそれだけでよい。『抑止の存在』はまどかが『いなくなる』ことを望んでいるから手出しはしない。

 魔女となって終わる――――そうキュウべぇは思っていた。

 

「本当だね?」

「さあ、鹿目まどか――その魂を代価にして、君は何を願う?」

「私……」

 

「はぁ……ふぅ……」 と彼女は呼吸した。その願いは彼女にとって途方もない覚悟と決意――――そして全ての希望を示している。だから口に出す。

 

「全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい。全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を、この手で」

「――!  その祈りは――そんな祈りが叶うとすれば、それは時間干渉なんてレベルじゃない! 因果律そのものに対する反逆だ!」

 

キュウべぇはここで気づいたことを口に出した。

「――君は、本当に神になるつもりかい?」

 

 しかしまどかは首を振った。まあ違うとは言えない。彼女の願いは神様より上の段階の願いだ。

 

「神様でも何でもいい。

 

今日まで魔女と戦ってきたみんなを、希望を信じた魔法少女を、私は泣かせたくない。最後まで笑顔でいてほしい。

 

それを邪魔するルールなんて、壊してみせる、変えてみせる」

 

 彼女は手をキュウべぇに伸ばした。

 

「これが私の祈り、私の願い。さあ! 叶えてよ、インキュベーター!!」

 

 キュウべぇに感情があれば何かが変わっていたかもしれない。まあ、その可能性は愚問だ。しかし結果的に言えば拒否がしていればまどかの願いは叶わなかった。

 ほむらが悲しむことはなかったはずだ。

 ソラの視界にはピンクの光とそのフリフリの魔法少女服を身に纏ったまどかがいた。

 彼女は天に向けて矢を放ち、そしてその矢は雨のように世界中に広がった。

 

 ソラはそれを見ていることしかできず、ほむらは手で顔を覆い、彼女の結末を知り、泣いて悲しんだ。

 

 

 

 

 

――――これがソラにとって取り残してしまった少女……まどかを失った瞬間だった

 




鹿目まどか――――ソラが取り残してしまう少女。
そう彼女を救えないのがソラにとって悲しい結末でした。

だが、彼女は死んでいない。ならば彼はどうするか?
簡単な話です。彼は取り戻そうとする。
どんなに大きな壁があっても彼は乗り越えようとする。

それがソラですから。

次回、円環の理と交わした約束

――――さようならほむらちゃん……
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