魔法少女まどか☆マギカ ~全てを開きし者は英雄となる~ 作:ぼけなす
by天ヶ瀬千香
アスナロドームはイベント会場によく使われるドームだ。今月はそういうイベントはなく、広々とあるので戦いの地には効率がよい。
かずみ達は魔法少女服で周囲に警戒していた。するとスポットライトに当てられ、目が眩む。
『レディース・アンド・ジェントルマン! ようこそ地獄の釜へ!』
スピーカーからユウリの声が響いた。
不意を付かれた。海香がそう思った刹那、黒いカギの剣が投擲された。
海香は光球でそれを相殺し、次にスポットライトを破壊した。目に写ったのは仮面の男――――道化師の魔女だ。海香は相手の特徴、弱点を読み取る必殺技『イクス・フィーレ』を使用した。
しかしそれは驚くべき事実があった。
(弱点が……ない!?)
弱点がない。これまでの魔女や魔女モドキには弱点があったがこの魔女モドキには弱点が一切ないのだ。
「みんな気を付けて。あの魔女モドキに弱点がないわ」
「嘘……力だけであれに挑めって言うの?」
カオルは嫌そうな顔をしていた。それもそうだ。先ほどからあの魔女モドキはビンビンと濃密な殺意敵意を向けている。仮に知り合いじゃないにしても戦いたくない敵である。
「チッ、仕留め損ねたか」
「……失敗。マスター次なる指示を」
「苦しませて殺せ」
道化師の魔女は「イエス」と答えた直後、彼の仮面に変化が起きる。仮面が崩れ落ちて、次に出てきたのは素顔ではなく狼の仮面だ。
その仮面はまるでホントの顔のように口を開けて咆哮をあげた。
「グルアァァァァァ!!」
ビリビリとかずみ達の肌が痺れる。あの魔女モドキの仮面は見かけ倒しではないことが彼の次の行動で証明された。
里美の目の前に道化師の魔女が剣を振りかぶっていた。
「え……?」
「危ない!」
サキは里美を押し倒してその斬撃を回避することができた。今のが直撃していたら里美は切り裂かれていた。
彼の次の行動はみらいの大剣を回避することだった。しかも動きは魔法少女達はとらえきれていない。
「速すぎる!」
「魔法少女の目にも止まらないスピードなんて!」
ありえなかった。ただの人間から魔女となった男がここまで力があるなんて。
みらいはテディベアを召喚し、彼の動きを止めようと一斉に乗しかからせた。しかし彼は自分の身体にまとわりついたテディベアを引き裂き、潰し、問答無用に駆除する。
「もー! ぼくのぬいぐるみを壊すな!」
みらいは次に召喚した合体させたテディベアで道化師の魔女を潰そうとボディプレスをかけた。しかしそれを受け止め、耐えきった。これにはみらいは唖然とした。
合体テディベアをぶん投げて道化師の魔女は膝についた。
「ダメージがあるみたい……」
「なら、私が!」
里美はお返しに道化師の魔女に他人に意識を憑依させ自在に操る『ファンタズマ・ビスビーリオ』を使う。
憑依は成功した。しかし里美は頭を抱えて悲鳴をあげた。
「いやあァァァァァ!!」
「里美! くっ!」
サキはやむ得ず雷で里美の魔法を中断させた。息を荒げて里美は震えていることに気付き、どうしたのか聞くと彼女は答えた。
「あ、あの人の中に……たくさんの悲しみと憎悪が……!」
「悲しみと憎悪?」
「ええ……怒り、悲しみ、憎しみ――――そんな負の感情に支配された思い出があの人の中にあったのよ!」
憑依することとは他人と共有することだ。里美が見たのはおそらく零の記憶だろう。
「なんなの……あれは。見たことのない戦いをあの人は体験している。多くの憎悪を持ち、多くの憎しみを受け続けてるなんて……!」
「里美、大丈夫だ。それは君ではなくあの人の記憶だ。今は忘れて集中してくれ」
サキは里美をなだめていると道化師の魔女にまた変化が起きる。狼の仮面がフッと消えて、そして今度現れたのは目を瞑った修行僧の仮面だ。
「馬鹿にしてるのか! 海香」
海香は光球を作り出し、カオルはそれを蹴る。その光球はカオルの必殺技だ。当たればただでは済まない。しかし道化師の魔女は避けることはなかった。
いや避ける必要はなかった。透過したのだ。道化師の魔女の身体を光球が通過したのだ。
「な、なんだと……!?」
「カオル、後ろだ!」
カオルが振り向くと道化師の魔女はグーパーした手を見ていた。まるで力量を試すかのように。
(彼は力を把握していない……? いやそれだけでもなさそう!)
海香は改めて『イクス・フィーレ』を使う。やはり弱点がなかったがその特徴は書かれていた。
先ほどの仮面は『怒りの仮面』そして今の仮面は『哀しみ』の仮面だ。海香が最初に思い浮かんだのは『喜怒哀楽』という四字熟語だ。
『怒』は力任せの肉体強化で、『哀』の仮面は幻想で相手を惑わせる能力を持つ。
そしてまだ『喜』と『楽』の仮面は使われていない。
『喜』は相手の身動きをとれなくすると書かれていたが『楽』は開示されていなかった。
海香は『楽』の仮面だけは使わせてはならないと考えていると、周囲の光景が変わった。
「これは幻覚!?」
かずみは周囲の光景が変わったこと戸惑った。そして道化師の魔女が一人の少女の幻想を作り出したとき、プレイアデス聖団は衝撃を受けた。
「ミチル……?」
かずみとそっくりな少女がそこにいた。
☆☆☆
飛鳥ユウリこと杏里あいりは満足していた。『飛鳥ユウリ』を魔女として殺されたことを目に焼き付け今日まで彼女は復讐のために生きていた。
(予想以上じゃない!)
プレイアデス聖団は彼の力に手足も出ない。しかも今幻覚を見せて苦しめようとしているではないか。
(ま……そろそろ終わりにするか。もう飽きてきたし)
あいりも動き出そうとした刹那、自分の身体が何者かの魔法に拘束された。
「こ、コイツは!?」
「こんばんわお嬢さん」
彼女の前に現れたのは六人のローブで顔を隠した少女達だ。その中の一人が指をさす。
「今日は君にプレゼントがあるんだ」
あいりは拘束を解いて拳銃を向けた刹那、地面から大量の紙袋を顔で隠した集団が現れた。
「ッ、スゴい数だけどアタシの敵じゃない!」
「残念ながら彼らは敵ではない」
少女は首を振り否定した。じゃあなんなんだと聞くと彼女は答えた――――
「君の
「は?」
男達は一斉に喝采をあげる。
「うおォォォォォユウリ様ァァァァァ!」
「その美脚で踏んでくだせェェェェェ!!」
「もしくわ罵ってお姉さまァァァァァ!」
ドドドドッと一斉にあいりに迫る
「なんなのアンタ達!?」
「あなたに踏まれて目覚めました!」
「あなたに罵られて目覚めました! そうみんな――――」
「「「あなたのシモベです女王様!!」」」
「アタシはそんなことした覚えはないわよ!?」
身に覚えのない所業にとりあえず変態達を大部屋に閉じ込めることに成功したあいりは息を荒げながら先ほどローブ少女達のところへ戻る。文句を言ってやりたいくらいだ。
すると少女達は待ってましたとばかりに円卓でティータイムをしているではないか。
「あ、戻ってきた」
「あの熱烈なファンを捌くとは君――――アイドルの素質があるな!」
「ねーよ! そんな素質いらねぇよ! てか、アンタ達誰よ!」
「よくぞ聞いてくれました! いくよ、トウッ!」
六人の少女の一人が焼夷弾の光であいりの視覚を遮る。そして次に目に入ったのはポ一部制服だが魔法少女服を着た少女達だった。
「みんなのお姉ちゃん、巴マミ!」
「美少女剣士、美樹さやか!」
「じょ、情熱なシスター……佐倉杏子……」
「時間遡行者、暁美ほむら」
「プリティ神器使い、鹿目まどか!」
名乗り終わり少女達は一斉にポーズをとりだす。そして最後の千香がナレーションする。
「彼女達五人は正義の魔法少女だった者達! そして本日をもって少女を卒業し、乙女となった魔法使い達の名前は」
「「「「「ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット!!」」」」」
ドドーンとテロップが出ているじゃないと錯覚するくらい奇行である。あいりは唖然とその様を見ていた。
「…………恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいに決まってるだろがァァァァァ!!」
ポツリと呟いた一言に最初に爆発したのは杏子である。
「高校生にもなって戦隊コスプレヒーローの真似事するか普通!?」
「ティヒヒヒ、杏子ちゃんの恥ずかしがる姿は萌え萌えだよ!」
「私はまどかのプリティーさに萌え萌えよ!」
「ノリで言ってみました!」
「テメーらバカ言ってるじゃねぇよ! 特にさやかのは許せねーよ! ノリで言うなら止めろよ!」
常識人杏子さんのツッコミは今日も冴え渡る。あいりは「コイツ……苦労してるな」と同情的視線を送っているとほむらがあいりのファンの真相を告げる。
「ちなみにあなたのファンを増やしたのはこの私よ。あなたの姿でが千香が考案した言葉で罵り、踏んでやったわ。感謝しなさい」
「アンタの仕業かよ!? 責任とれよ!」
「嫌よ。あんな変態よりソラを踏みたいわ。……そうね。次に会うことがあったら拘束してイジメるのもありね♪」
「誰だコイツをSに目覚めさせた変態は!?」
犯人は千香だがこればかり違う。きっかけはほむらの先輩の中に戦場ヶ原という人が教えたからだ。
決して蟹とか関わっていない。アホ毛の恋人はいるが彼が『怪異』という化け物とは関わっていない。
愕然と膝につく杏子。
呑気にティータイムをとるさやか。
ポーズをとるまどかに写真を撮るほむらに、「ふふふ」と微笑むマミ。
要するに――――
「カオスだね!」
「その通りだよチクショウ!!」
あいりの受難はこれからである。
ユウリ様の受難はこれからだ!
まあカットしますけど。次回からミチルと彼の亡霊が現れます。
彼は零に何を伝えるのでしょうか?
次回、和沙ミチルと『一ノ瀬だった男』
――――亡霊よ。この断片に伝えよ……