魔法少女まどか☆マギカ ~全てを開きし者は英雄となる~   作:ぼけなす

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「安心してとっと死ね」

by神威ソラ


第五十六話 前世よ、消え去れ

 

 

 ソラと鍵の魔女の戦いはやはり剣劇である。お互い得物は剣であり、黒と銀の閃光が虚空に描かれる。

 

「くそッ!? なんでだ!」

 

 悪態をついたのは鍵の魔女だ。ポテンシャルに置いて鍵の魔女の方が有利だ。数々の戦場を駆け抜け女神との契約で強靭な肉体を手に入れた。しかし、ソラはその上をいく。

 

 記憶と経験しか残されてないソラが『ソラの肉体』に敵うはずがないと鍵の魔女は考えていたのだが、予想の斜め上にいく。

 

「なんだその体たらく? ホントにオレか?」

「当たり前だ偽者。このオレが『無血の死神のソラ』だ」

「ほざけ脱け殻。お前が『無血の死神』だと? ふざけんな。そのオレがこの程度で苦戦するかよ」

 

 ソラは右足で鍵の魔女のソードを押さえつけ、剣柄で頬を殴る。威力が高い打撃に、鍵の魔女はふらつくが、なんとか踏みとどまり、今度はソードを地面から生やす。

 

 剣の雑草に対してソラは跳躍し、壁に足をつける。魔力を使った吸盤で壁を地にしたのだ。

 

「魔女化して頭がおかしくなったか? 自分が本物か偽者かなんてどうでもいいことだろ。オレは、オレの(ココロ)が本物であればそれでいい。それ以外はあまり気にしない。そうだろ?」

「黙れェェェェェ!」

 

 鍵の魔女がソードを射出する。そのソードは既に回避していたソラがいた壁を破壊。凄まじい威力だ。

 

 射出した腕からまたソードが生えてくる。

 

「オレは本物だ! 本物でなければならない。そうでないと主が!」

「見捨てるってか? つーか、お前はその主を殺したのだろ?」

「ある、じを……?」

 

 ピシリ……と鍵の魔女のナニカに皹が入る。

 

「千香が言ってたぞ。『無惨に殺されて痛かったなぁ。でも気にしてないよ。――――もういらないから、君は』って」

「やめろ……」

 

 

ピシ……ピシピシ……!

 

 

「つまりお前は所詮千香が言う失敗作。欠陥品。最低最悪なオレの劣等体ってことだ。よかったな三冠王。最高の誉め言葉だぞ?」

「やめろォォォォォ!!」

 

 

ピシピシ……ガシャァン!!

 

 

 ガラスが破壊された音が鳴り響き、鍵の魔女は暴走した。身体中からソードが生えていき、鬼の形相でソラを捉えていた。

 

「オレはいらなくない! オレが『ソラ』だ。オレこそが『ソラ』だ。『ソラ』だ『ソラ』だソラだあァァァァァ!!」

 

 自分のアイデンティティーを失った男の末路とは今の鍵の魔女が起きてることだ。

 

 人はなんらかの証明がなければ自分ではいられなくなる。つまりアイデンティティーを失えばその人間は壊れてしまう。

 

 彼は『ソラ』だった。しかしそれは否定されて、無意味となる。ゆえに鍵の魔女は壊れてしまった。自分がなんなのかが、わからなくなってしまった。

 

 ただしソラだけは彼がなんなのか理解していた。ソラにとって彼は――――

 

 

「お前は『ソラ』じゃない――――ただの化け物だ」

 

 

――――単なる敵。

 

 ソラはドコでもドアを展開し、鍵の魔女をアスナロタワーまで誘き寄せる。鍵の魔女には既に人間の理性や思考はなく、ただソラを殺す殺人マシーンと化していた。

 

 それゆえに簡単に誘き寄せられ、上空へと投げ出され、身動きがとれなくなる。

 

 ソラは硬化魔法で空気中の『水蒸気』を氷にして固め、足場にした。それを蹴り、落下する鍵の魔女に向けて振りかぶる。

 

「オノレオノレェェェェェ!! ボウレイガァァァァァ!!」

「亡霊はお前だろ。まあ――――来世でまた会おうってことでよろしく!」

 

 ソラの斬撃――――二つの黒い一閃が鍵の魔女を切り裂いた。二つの斬撃の一つはイービルナッツを切り離し、もう一つは『ソラ』の中途半端な『(ココロ)』だ。完全に中身を失った身体は上空から落下していく。

 

 ソラはとどめとばかりに火炎魔法で前世の自分を燃やした。

 

 それから宙回転をしながら着地し、燃え尽きて落下した前世の自分に向けて言った。

 

「でも、まあ……お前とは二度と会わないけど。だってオレだし」

 

 彼はそう言ってラスボスが待つ最上階へ向かう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 カンナは混乱していた。人間という――――それも魔法少女ですらないとるに足らない存在が目の前で戦っている。それも一人は「キャッホォォォォォ!」とはしゃぎながらだ。

 

「オラオラオラオラ! ストレス発散タイムじゃゴルァァァァァ!!」

「杏子が荒れてるなぁ」

「それもそうね。ソラくんというツッコミ不在で彼女一人がまどかさんと千香さん、ときたまほむらさんを相手しなきゃならなかったのよね」

「発狂するわー……」

 

 のんびりとお茶を飲みながら解説する二人。というか杏子一人が戦っていた。

 

 元から彼女一人で事足りることだから問題はない。

 

 カンナとしてはいろいろツッコミたいが他にもある。それは千香である。彼女はあろうことか使い魔にコスプレさせていたのだ。

 

 猫耳メイド、バニー、婦警、エントリープラグスーツ、勇者や戦士に僧侶、そして裸エプロンである。

 

 ここはコミケ会場かと思えるくらいコスプレイヤーとなった使い魔が自分達の衣装にキャッキャッ、キャッキャッする。

 

 ……彼女達も少女なのである。かわいい衣装には弱い……。

 

 またまどかとほむらはそんな女の子達に振り付けを教えていた。アイドルグループにするつもりなのだろうか、真剣に教えていた。

 

 

「真面目に戦えやお前らァァァァァ!」

(((同感……!)))

 

 シャウトしたカンナにかずみ達三人は心の中で彼女に同情した。

 

 

 

――――もはやカオス

 

 

 杏子以外まともなヤツなどいない。

 

「黙りなさい金髪。今、彼女達――――『AKATUKI』に振り付けを教えているのよ。邪魔しないで」

「ほら、そこ! 間違ってるよ。そこはターンだよ!」

「いや私の手下に何を教えてるの!? 敵に何をさせてるの!?」

 

 全くのその通りである。次にカンナが指差したのはマミとさやかである。

 

「お前ら何くつろいでるの!? なに茶の間感覚でティータイムをとってるの!?」

「いやぶっちゃけ杏子だけで事足りるし、なんかあたしらも動けばあんたが負けるじゃん。あ、マミさん。お茶おかわり」

「ふふ……はーい♪」

「その余裕腹立つなぁ!!」

 

 完全に下に見られている。絶対参戦させてやると誓いながら最後の千香に言う。

 

「そしてお前はなに人の使い魔にコスプレさせてるの!?」

「素材がいいから」

「時と場所を考えろ!」

「TPO問わずにコスプレさせる――――それが千香ちゃんクオリティ!!」

「胸張るなァァァァァ!」

 

 カンナのソウルジェム濁りは更に進む。はっきり言って魔法少女の天敵とは『変態』ではないだろうか……。

 

 SUN値をゴリゴリ削るのが理由として。

 

 するとかずみがカンナに向けて得物を振り下ろし、彼女はそれを防いだ。

 

「カンナー! わたしと戦えー!」

「いや戦えるか! こんな状況でよくそんなことが言えるな!」

「頭を空っぽにしておけば問題無(モーマンタイ)!!」

「駄目だ! かずみも何かに汚染されてる!!」

 

 原因はさやかである、と海香とカオルは呑気にクッキーを咀嚼しているアホの娘を脳裏に浮かべる。ハザードはまどかや千香だけではなかったようだ。

 

 後で文句を言ってやると彼女達二人は拳を固める。

 

「人間なんかにィィィィィ!!」

 

 カンナに応じて『ヒュアデスの暁』の両手から強力な魔力を全員感じた。

 

 かずみもまずいと思って近づこうとしたがコスプレした使い魔が妨害してきた。しかし、それを阻止する者がいた。

 

「裏切り者には制裁を……ってね」

 

 千香はナイフで使い魔達をバラバラにし、かずみは前へ進む。次々に使い魔が襲いくる中で、背後から無数の魔力矢が使い魔達を貫く。

 

「援護射撃よ」

「いっきまーす!!」

 

 まどかとほむらの二人がマジックアローでかずみの道を確保する。しかし、『ヒュアデスの暁』の魔力チャージは完了してしまう。カンナは発射に移ろうとした刹那、巨大な槍と剣が『ヒュアデスの暁』の腕を貫く。

 

 カンナの目に入ったのはシタリ顔で投擲したさやかと杏子だ。そしてその中央には巨大な大砲を構えたマミがいた。

 

「ティロりなさいな♪」

 

 満面の笑顔で放たれた超砲撃魔力弾は『ヒュアデスの暁』の腕を破壊した。これでもう魔力放射はできない。

 

「とどめだァァァァァ!」

「「はあァァァァァ!!」」

 

 かずみと海香、カオルの三人の魔法が合わさり合体魔法となる。それは自身を一種の魔力矢となり、『ヒュアデスの暁』の身体を貫いたのだ。

 

 複合魔女は消え去り、カオルは瀕死の状態で離れたソウルジェムに手を伸ばす。

 

 しかしそれはソラの手に収まり、彼は冷めた目で敵を見ていた。

 

「待って!」

 

 かずみは待ったをかけた。ソラはそれにはなぜか応じて彼女にソウルジェムを渡して、任せて背中を見せた。

 

「わたしは、ねカンナ……。あなたには最後には『元のカンナ』に戻ってほしいんだ」

 

 カンナを抱えてかずみは続ける。

 

「ニコと出会っちゃうまで……カンナにも家族がいたよね。友達もいたよね。カンナはみんなが大好きだったんだよね。

 

――――だから自分が作られた存在だと知って悲しかったんだよね。

 

 わかるよ…………わたしも同じだから」

 

 でも、とかずみは続けてこう言った。

 

「でもきっと本物だよ。カンナがみんなのこと好きだった気持ちも。みんながカンナが好きだったことも」

 

 もうカンナの目は淀んでいなかった。自分がしてしまったことに対する後悔と理解だ。ふと、彼女の脳裏に母親との会話が思い出される。

 

『カンナ、あの事でもう自分を責めなくなったのね』

『何のこと? お母さん』

『ううん。お母さん、嬉しいの……』

『おかあさん?』

 

 カンナの目から涙が溢れる。ああ、どうしてこんなことに気づかなかったのだろう。どうしてもっと早く気づくべきだったのだろう。

 

 カンナの涙の理由はかずみが答える。

 

「ニコはカンナを観察したかったんじゃない。カンナを本物の自分(・・・・・・)したかったんだよ。

 

 笑顔も涙も捨てて、家族も友達も本当の名前も全部――――カンナに託したかったんだよ」

 

 それが答えだ。カンナは間違っていた。ニコを恨むべきではなかったのだ。

 

 彼女はただ平穏に過ごしてさえいれば、彼女が自分の代わりに生きてさえいれば、ニコは幸せだったのだ。

 

 なんと皮肉なことだと海香は思った。その幸せが誤解された形で解釈され、ニコ自身に牙を向いた。

 

 たった一人の少女の願いが破滅へと導いたのだ。

 

「かずみ……私は……」

 

 カンナのソウルジェムは限界だった。かずみは既にカンナにソウルジェムを渡していた。生殺与奪権は持っていなかった。

 

「約束する。わたしはわたしの力の続く限り、カンナが大好きだった人たちの笑顔を守るよ」

 

 それを聞いたカンナは安心した表情となる。

 

「かずみ…… いつだって(・・・・・)君の言葉は(・・・・・)ココロにくるね(・・・・・・・)……」

 

 ありがとう、と呟いてカンナはタワーから落下しようとした。それは原作通りの結末だ。彼女はソウルジェムを爆発させて消滅する自害という選択肢をとった。

 

 

――――だが、忘れてはないだろうか?

 

 そんな『逃げ』を許さない彼がいたことを。

 

「ふざけんな」

「なっ!?」

 

 カンナの腕を引っ張りあげ、彼は神器で居合いの構えに入る。

 

「お前のせいで死んだヤツらがいる。お前のせいで悲しんだヤツらがいる。それを償うために死にますって――――ふざけんなよ。お前は逃げることは許さない」

 

 ソラは神器でカンナを斬る。それによりカンナは『魔法少女』ではなくなった。ソラの封印だ。

 

「罪の意識を感じているなら生き続けろ。苦しんで泣いて後悔し続けろ。それがお前の贖罪だ」

 

 ソラは残酷だ。カンナは死ぬことで全てを清算するつもりだったが、彼は生きて償い続けろと言った。

 

 それは罪の意識で苦しみ続けろということだ。

 

 まあ、彼にとってこれはまだぬるい罰だ。ソラは『鹿目まどか』達を殺したことを許してはいない。そのため、もっとも残酷で最低な罰はカンナの家族や知り合いを抹殺することだ。

 

 それはカンナにとって最低最悪なバッドエンドだ。本来ならそうなるはずだった。

 

 しかし彼はそうしようと考えなかった。原因はかずみの言葉だ。

 

 最後に言った『カンナが大好きだった人たちの笑顔を守るよ』という言葉。それがあのピンクの魔法少女だった彼女が言いそうな言葉で、かずみと重なって見えたのだ。

 

「どこまで言っても……お人好しはバカばかりだな」

 

 だが、ソラはそんなバカは嫌いではない。他人のことを思いやれる心を彼は否定しない。たとえ、それが自己満足だったとしても『他人のことを思っている』限りそれは間違いではない。

 

 かずみは「よかった……よかったよぉ……」とカンナを抱き締めて泣いていた。

 

「さて、と……」

 

 ソラは切り換える。まだ彼がやることが残っている。

 

「あの……神威さん? なんでそんなに笑顔なんですか?」

「安心しろメガネ。死にはしないから。――――ただ、お前ら三人をぶった斬るだけだから」

「いや、その時点で不安なんですけど!? あ、ちょ、待って――――きゃあァァァァァ!!」

 

 ソラは笑いながらかずみ達を『魔法少女』から普通の女の子に戻した。

 

 その際に彼女達は涙を出しながら逃げ回っていたことを追記しておく。

 

 

 え? なぜソラが笑っていたのかって?

 

 スカさんの仕事をたった一人で連日にこなしていたことによるストレス発散からである。

 

 

 

 

 




やっぱり最後はこうなるよね(確信犯)

さて次回でこのお話はおしまいです。

次回、最終話――――おしまい

――――またね、みんな(byまどか)
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