隻眼の信濃さんが不器用可愛い   作:コロリエル

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15.そういう性格、性質

 

 

「たーだいまっと……あれ、しーとつーは?」

「あらおかえり。二人なら昼ごはんの後遊びに行ったわよ?」

「ホント仲良いよなぁあの二人……そこが最高に可愛いんだけど」

「ねー」

「仲がいいのは良い事だ」

 

 

 信濃さんを無事に送り届けた俺は、その足で自分たち家族が住む部屋へと帰っていた。親父とお袋は居たが、最愛の双子の姿は見えなかった。

 相変わらず仲良しだなぁ、と三人でうんうんと頷く。キッチンで晩御飯の準備をしているお袋に断りを入れ、自分と信濃さんの弁当箱を流しに置く。晩御飯を終えたタイミングで洗わせてもらおう。

 余談だが、信濃さんは弁当箱をきちんと洗って返すと言ってくれたが、どうせ来週も使うからと言うと納得してもらった。やっぱり、信濃さんはいい子だ。ちょぉっと口下手なだけで。

 

 

「お袋様、まじでありがとうございました。信濃さんにも喜んでいただけました」

「あらそう! それは良かったわ……流石お父さんを射止めたレシピなだけあるわね!」

「おい、その話は……」

 

 

 ソファで何やらパソコンをカタカタ叩いていた親父が思わず振り返る。しかし、お袋はそんな親父を完全に無視して話を続ける。

 こういう時のお袋は無敵だ。虹色に輝くとか星を振りまくとかBGMが変わるとかはしないけど、大体の存在を轢き殺してくる。

 

 一番被害を受けるのは、親父だ。

 

 

「高校の二年生の時にね? 初デートに張り切ってお弁当を持って行ったのよ。その時に入れてたのが、ハンバーグだったの。もう本当に美味しい美味しいって食べてね……お弁当作る度に、ハンバーグ入れてくれないかって、申し訳なさそうに聞いてたのよ? 本当に可愛かったわぁあの時のお父さん」

「……親父、どんまい」

「気にするな。どうせお前もこうなる。うちの家系の男は、基本的に尻に敷かれるんだ」

 

 

 歴史が証明してる、と親父はどこか遠い目で西の方を見つめる。恐らく、岡山の実家に目を向けているのだろう。そういえば、じいちゃんもばあちゃんに頭が上がってなかったっけ。

 

 俺も将来、そうなるのだろうかと思わず苦笑い。そんな未来、想像もできそうにないが。

 

 

「そういえば……親父。腕時計サンキューな」

 

 

 そう言いながら俺は、朝親父から渡された腕時計を外し親父に差し出す。

 なんだかんだ、時間を確認するためにスマホではなく腕時計で済ませられたのは大きかった。人と話す時にスマホを触るのは、あまり気が進まない人間なのだ、俺は。

 

 親父はじっと、その腕時計を見つめていた。やがて、ゆっくりと首を横に振る。

 

 

「お前が使え。俺よりお前が付ける方がいい」

「へ? そりゃあ有難いが……そもそもなんでこれ渡してきた?」

 

 

 俺の疑問に、親父は沈黙した。答える気は無いのだろう。

 しかし……残念ながらここには、親父の人生に寄り添い生きてきた人間が居た。

 

 

「その腕時計はねぇ、お父さんが私との初デートの時につけてきた腕時計なのよ」

 

 

 天を仰ぐ親父。大変嬉しそうに笑うお袋。

 勝者と敗者がはっきりと別れた所で、お袋は洗い物の手を止める。笑っちゃうくらいニコニコだ。

 

 

「なるほど? その時のデートが上手く行ったもんだから、ゲン担ぎに俺にさせた、と……」

「それ以上はやめてくれ。俺だってダメージは食らうんだ」

 

 

 パタン、とノートパソコンを閉じた。降参だ、と言わんばかりに足を投げ出す。

 

 どう反応すればいいのだろうか。父親と母親のデート事情に対する語彙を俺は持ち合わせていない。親父をフォローするにしても、下手したら俺もお袋からロックオンされかねない。

 

 

「……いいか、奏」

「あ、はい。なんでしょうか?」

 

 

 不意に、親父が立ち上がって俺の方へと歩み寄ってきた。両肩に手を置き、いつにも増して真剣な表情だ。

 

 

「恋人が出来たら連れてきなさい。全力で歓迎するから」

「何囲おうとしてるの……別に信濃さんはそんなんじゃない……恭介と同じようなものだよ」

 

 

 恭介。

 

 その単語に、親父は勿論、お袋も表情を変えた。心配するような、不安なような。

 

 

「心配しないで……って言っても、無駄だよな、うん」

「当たり前だ。親ってのは、無条件で子供が心配なもんだ」

「たとえ鬱陶しいって思われても、ね」

 

 

 当然だ、親父とお袋の心配も。恭介を助けるために、散々無茶をしたし傷つきもした。

 そんな俺の様子を見てきたんだ。心配するなって方が無理だ。俺だってしーやつーが同じように無理しようとしてたら、心配するに決まってる。

 

 

「……ありがとう。でも……」

「『止められない』だろ?」

「ほんっと、誰に似たのかしら……」

「……ごめん」

 

 

 無理なのだ。追い詰められたような顔や、諦めたような顔を見てしまったら。

 無理なのだ。他人の心の闇の一端に触れてしまったら。

 

 お節介だと、迷惑だと言われても、引き上げてしまいたくなる。身体が動く。

 

 

「謝るな。胸を張れ。それはできることじゃない」

「そうそう。あ、でも嫌がることだけはしちゃダメよ?」

「……うん。分かってるよ」

 

 

 優しい両親を持ったと、自分でも思う。最近までは、これが普通だと思っていた。

 

 だけど、そうじゃない人がいる。俺が当たり前に享受してきたものが当たり前じゃなかった人が。

 

 親友に、できたばかりの女友達。

 

 

「……分かってる」

 

 

 幸せにする。

 

 その言葉の意味を、今一度考える必要がありそうだ。

 

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