隻眼の信濃さんが不器用可愛い   作:コロリエル

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シン仮面ライダー観てきました。めっちゃ良かった。


21.変わってきた日常

 

 

 昼食の場に赤嶺さんが加わってから、早くも一週間が経過した。

 最初はあの一日だけかと思っていたのだが、ずっとお昼になると空き教室に足を運び続け、俺たちと共に昼食を食べていた。

 

 最初こそ戸惑っていたが、信濃さんがすんなり受け入れていたので俺も何も言わずに過ごしていた。

 

 

「信濃。お前んクラス英語先進んでたよな。小テストどんなだったよ」

「問題集の15ページが中心。それ以上は言わない」

「十分だ」

 

 

 意外だったのは、信濃さんと赤嶺さんが想像以上に話しているという事だろうか。

 信濃さんは言わずもがな、信濃さんに興味はないと口を零していた赤嶺さんだ。会話が弾むとは思えなかったが、雑談から授業の内容まで、本当に色々と話している。

 

 大体が赤嶺さんから会話を始めていて、信濃さんからは全く話しかけていないのはご愛嬌だ。

 

 

「……んだよ。アタシが信濃に話しかけちゃ悪いってのか?」

「そんな事言わないよ。ただ、ちゃんと話しかけるんだなぁって」

「そりゃあ、信濃は真面目だからな。疑問にはきちんと答えてくれるからそれなりに信用してるんだぜ?」

 

 

 などと赤嶺さんは口にしていた。しかし、彼女はやはり知らないのだろう。信濃さんが俺と赤嶺さん以外から話しかけられた時の塩対応を。

 先程の会話だったら、自分で見れば? ……この一言で終了だ。信濃さんの優しさは、限られた人にのみだ。

 

 自分がそんな特別枠に入っているとは露知らず、呑気に問題集を眺め始める。お気に入りなのか、今日のお昼も焼きそばパンだった。

 

 

「そういやよ」

 

 

 教科書に目を向けたまま、赤嶺さんがなんてことない様子で話し始めた。

 

 

「黒澤ってさ、アタシら以外にダチいるのか? なんかずっとここ居るけど」

「あー……うん、大丈夫。ちゃんと居るよ。ほら、この前うちのクラスに来た時赤嶺さんを案内してた背の高い……」

「あのデカブツか」

「木谷くんね?」

 

 

 何度か名前を言っているはずなのに、一向に他人の名前を覚えようとしない赤嶺さん。本当に興味無いらしく、担任の名前すら覚えていなかったのは流石に衝撃的だった。

 申し訳ないが、どうやって日常生活を送ってきたのか知りたい。それなりに支障が出ると思うのだが。

 

 

「まぁ、それなら何よりだ。アタシや信濃に付き合ってばっかだからアタシら以外のダチが居ないか心配だったんだよ」

「そりゃあどうも。だけど、そうだね……うちのクラス、今雰囲気最悪なんだよね……」

 

 

 結論から言うと、今クラス内は俺を擁護する側と北中側で完全に二分されていた。もっと言えば、北中かそうでないかで、である。

『北中で何があったか知らないし信濃は確かに無口だが、それはそれとして北中の連中は面倒臭い』……これが共通認識として広まってしまったのだ。そのせいで、北中の人達の扱いが雑になりつつある。

 

 正直、ここまでの大事になるとは思わなかった。まさかここまでになるほど彼らが信濃さんと赤嶺さんにお熱だとは。

 

 どうしたものか、と気が重くなる。そうなってしまった原因の一人としては、かなり息苦しい。

 

 

「どうでもいいじゃねぇか。お前を嫌うのは北中のつまんねー奴らばかりなんだしよ」

「容赦無いね……」

「だってそうだろ? お前を嫌う理由は嫉妬位しかねぇよ」

 

 

 そもそも嫌われたく無いんだけどなぁ……と窓の外に目を向ける。生憎の雨模様。今頃外には色とりどりの傘が咲き誇っているのだろうか。

 ぱたん、と本の閉じる音が響く。当然、発生源には黙々と読書を続けていた信濃さん。

 本を置き、じっとこちらを見据える彼女。

 

 

「私は黒澤くんが好き」

 

 

 ──後に。本当に後に。

 

 この事を目撃者である赤嶺さんは「あの時の奏の顔を写真に残さなかったのがアタシの人生での一番の汚点だった」と、本当に、本当に悔しそうに話していた。

 

 当人である俺は、あまりの衝撃に世界中の音という音が全て遮断され、世界中で信濃さん以外を認識できなくなっていた。

 

 

「……? 黒澤くん?」

「え、あっ、その、えっと、うん、あの、ね? ん? あ? え?」

「くっくっくっ……たはははははっ……信濃、それだとただの告白だぜ?」

 

 

 赤嶺さんからの指摘を受け、信濃さんは顎に手を当て目線を泳がせる。やがて、あぁ、と小さく声を出す。

 

 

「それは違う。ただ、私は黒澤くんの味方だよって伝えたかっただけ」

「あぁ、そう……そうだよね……そうに決まってるよね……」

 

 

 齢十五。遂に俺にも春が来たかと勘違いしてしまうところだった。

 冷静に考えれば、こんな状況で突然愛の告白など有り得るはずもないのだが、経験不足の男子高校生にそんな脳みそあるはずもなかった。

 

 

「だけど、確かに黒澤くんのことは好ましく思ってる」

「……ん?」

「話していて心地良いし、何より楽しい」

「んん!?」

「こんな人が隣にいてくれたら、どれだけ幸せか」

「へうっ!?」

「今後ともずっと友人として仲良くして貰えるなら、嬉しい」

「あぁ……友人として、ね……それは勿論だよ、信濃さん」

 

 

 再び、上げて落とされる。最早わざとやってるのではないかと言うくらい、丁寧に丁寧に持ち上げて、ぱっと落とされた。

 お昼休みの空き教室には、赤嶺さんの笑い声が響き渡っていた。

 

 

 

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