──さて、あたり前田のクラッカーだが、この後俺と咲さんは登校する。
俺の家に咲さんが寝泊まりするという話は誰にも共有していない、し……するつもりもない。変に詮索されるのも嫌だし。
まぁ、俺たちが言いふらさなければ誰にもバレることは無いはずなのだ。元々毎朝並んで登校してるし、そもそも住んでいるマンションが同じなのだ。もし仮にバレるとしたら、それこそ俺と咲さんが同じマンションの一室から出てくる瞬間を目撃されるくらいだ。
──そう、バレないと、思い込んでた。
「……ん?」
お昼休み、空き教室。いつも通り俺と咲さんと赤嶺さんの3人でお昼ご飯。
そんな中、焼きそばパンを頬張ってた赤嶺さんが、俺と咲さんの弁当に目を向けた。
俺の弁当箱、咲さんの弁当箱。俺の顔、咲さんの顔とみて……ふむ、と一言。
「…………黒澤。お前信濃の弁当作ってんのか」
「んぐっ」
忘れていたのだ。赤嶺という人物が良くも悪くも天才であるということを。
思わぬ指摘に思わず咳き込みかけてしまう。慌てて水筒のお茶をくいっと飲み、事なきを得る。
咲さんは相も変わらず一心不乱にお弁当(生産者:お袋、俺)を食べていた。美味しそうに食べてくれて嬉しい限りである。
「……まぁ、ね。たまーにだけど」
大ボラ吹いた。毎週遊びに行くたびに作ってるし、今朝なんか朝ごはんまで食べさせてる。
でもほら、嘘は言ってない。作ってあげてることは否定しなかったし。
「違う。毎週作ってもらってる」
しかし、そんな俺の思惑は信濃咲という可愛い存在によって木っ端微塵に吹き飛んだ。
ため息をグッと堪えた俺は、対面に座る咲さんの肩に手を置いた。
「…………咲さん。これから人の言葉の裏に隠された意図を読み取る練習をしよう。はてさて問題だ。俺は何故事実を隠そうとしたでしょうか?」
「恥ずかしかったから。別に赤嶺さんなら気付いてもおかしく無いし、私は問題ない」
「んー……んんー…………んー!」
意図を読み取った上で無視をされているのは完全に想定外だった。コミュニケーション能力は確かに足りていないけど、決して基礎スペックが悪い訳じゃないからできない訳では無い。
1人悶えていると、そんな俺たちを見てニヤニヤと笑みを浮かべる赤嶺さんが口を開いた。
「いいか信濃。みんながみんなお前みたいに感受性が乏しい訳じゃあないんだ。些細なことをうじうじ気にして、夜寝る直前に1人で反省会しちまうんだよ」
「成程。奏くんはしっかり反省する人だし……赤嶺さんは毎晩ぐっすり眠ってそう」
「そうそう……おいこら」
「事実」
「だなぁ」
ケラケラと笑う赤嶺さん。小さく笑う咲さん。咲さんの笑顔は可愛いなぁ。
笑っている内容が自分たちのコミュニケーション不足なのが笑えない。というか、2人とも仲良いね。そして赤嶺さん、しれっと俺をディスったね。
「はぁ……確かに俺は気にしすぎるきらいがあるけどさ……」
「実際気にしすぎだと思うぜ? 人は思ったより自分に対して興味無いもんだぜ?」
「それは赤の他人に対してでしょ……自意識過剰だけど、俺に興味津々じゃん」
「まぁな。面白いし」
何が面白いんだよ、と心の中で小さく呟く。俺は一般的な男子高校生だ。
……いや、この2人と関わっている時点で、そうとは言えないのだろうか? 申し訳ないが、咲さんにしろ赤嶺さんにしろ、様々な面で逸脱してしまっている。
退屈はしないだろうな、今後の高校生活。と今更ながら感じていた。入学してまだ2ヶ月だが、かなり濃く刺激的な毎日を送っている。
「……奏くん。お母様から。今日スーパー卵が特売」
と、ここで何やら通知が来ていたスマホを見ていた咲さんがそんなことを呟いた。
ここで俺が考え事さえしていなければ、まだここからどうにでも──ならない気もするけど──なったのだが、俺にそんな余裕は無かった。
「ん、あー……おひとり様1パックのやつかー。そうだね、帰りによっ、て……………………」
自らの失態に気付き、言葉を失う俺。あ、と小さく言葉をこぼした咲さん。
そして、本当に……本当に面白そうなものを見つけた子供のように目を輝かせる赤嶺さん。
次の瞬間、口を三日月のようにゆがませた赤嶺さんが、俯いた俺を覗き込んできた。
「くろさわぁ? しなのぉ? 何お前ら、同棲してんの? なんで黒澤のお母様から信濃に連絡あんのよ? えぇ?」
もうダメだと、喜色に染まった赤嶺さんの声色から察する。もはや誤魔化しも惑わしも戯言も通用しなくなってしまった。
「まじほんと何でだよ…………あーもう、全部話そう、もう! しゃーねぇ! 咲さんの伯父さんが出張で居ないから、帰ってくるまでウチに来てもらってるの! 女の子一人だと危ないから!」
「はへー、成程成程……カッコイイねぇ」
「もちろん。奏くんはカッコイイ」
ふんす、と謎に胸を張る咲さん。いや本当になんで?
この後、赤嶺さんに絶対に他の人に言いふらさないよう頼み込んだが……特に何も詮索することなく、案外あっさりと承諾してもらったことが救いだった。
お袋には通話アプリでしっかりと言い聞かせた、が……「どんまい」スタンプ一つで済まされ、流石にやり場のない怒りが身を焦がした。