隻眼の信濃さんが不器用可愛い   作:コロリエル

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誰何の夢から覚める時
https://www.alphapolis.co.jp/novel/747400081/429834135



47.地雷

 

 

 さて、事の発端は咲さんが家に泊まり始めてから1週間が経った土曜日の事だった。

 

 本来であれば図書館デートのために準備を済ませているはずなのだが、暫く雨が酷いと天気予報のお兄さんが言っていた。

 流石に天気が悪いのに態々外に行くのもどうなのかという話になり、昨日のうちから今日は家で過ごそうと決めていた。

 

 というわけで、俺は部屋着。咲さんは服が無かったので学校指定のジャージを着ていた。

 

 

「……暇だなぁ」

「…………そう」

 

 

 真面目な学生を演じている俺と、単純に学力が高いから時間が掛からない咲さん。課題なんてものは金曜日の夜に全部終わらせている。

 結果、ソファでダラダラしている位しかやることが無くなっていた。それは咲さんも同じ。

 

 ただ──咲さんの様子が、少しだけおかしかった。

 

 兆候自体は3日前ほどからあったのだが、日が進むにつれ考え込むことが増え、ぼーっとすることが増えていた。それだけならいいのだが、顔が強ばっているし眉間に皺を寄せている。

 

 どうしたのか、と思いつつも触れられずにいた、土曜日の昼下がり。

 

 

「……梅雨って、やだよね。洗濯は乾かないし、外には出られない」

「……気分もへこむ」

「早く梅雨明けしないかなぁ……夏の方が好き。誕生日近いし」

「……誕生日」

 

 

 ──何やらピクリと反応した咲さんに、おや? と思わず視線をそちらに向ける。

 そう言えば、咲さんの誕生日を知らなかった。最初の自己紹介の時も、誕生日については言及していなかった。

 

 

「そう言えば、咲さん誕生日いつ? 俺は7月13日」

「……………………明日」

「……………………………………え」

 

 

 さらり、と告げられた事実に目を見開く。

 明日。日曜日。誕生日。16歳の、誕生日。

 

 

「ほんとっ!? じゃあ、お祝い──」

「──いらない」

 

 

 ──浅はかだと笑って欲しい話だが。

 

 俺にとって誕生日とは、正真正銘のお祝いであり、その人が産まれてきたこと産まれてきてくれたことを感謝し祝う事が当然だと思ってきた。

 

 だからこそ、我が家では誕生日はやはり特別で、大切で、尊いものだった。

 

 ──それが咲さんにとっても同じだと、思い込んでいた。

 

 

「……え」

 

 

 最近和らいでいた態度が豹変し、まるで出会った時の頃のような──いや、それ以上の冷たさを孕んだ声。

 それに思わず息を飲む。

 

 そんな俺の様子を見て、しまった、とでも言わんばかりに顔を青くした咲さんだったが……ふいと顔を逸らし、そのままソファから立ち上がる。

 

 

「……ごめん。ちょっと、部屋に行く」

「……う、ん……こっちこそ、その……ごめん」

「……奏くんは、悪くない」

 

 

 俺にとって幸いだったのは、俺に背を向けての咲さんの声色が柔らかくなっている事だった。

 すたすたと立ち去っていく咲さんを見送った俺は、深いため息とともにソファに1人で寝転ぶ。

 

 ──こんなところに地雷があると思わないじゃん。

 

 誰に言い訳するでもなく、俺は心の中で小さく呟いた。

 

 

「……これ、俺、どうするべきだ?」

 

 

 正直──踏み込んでいいのかどうか、分からなくなっていた。

 明らかにあの反応は──左眼と同等か、それ以上に大きな何かを抱えている。

 

 左眼の件は、偶然たまたまパーフェクトコミュニケーションができて、それ以降俺が一切触れていないからどうにかなっているだけで──例えば今から眼帯引っぺがしたりしたら、咲さんは本当に終わる。俺との関係だけでなく、心が。

 

 それと同じくらいの見えてしまった地雷となると──流石に、困る。

 

 

「あー……手段自体は、ある、けどさぁ」

 

 

 途方に暮れていた時、スマホに来ていた連絡──賢治さんからの連絡を見て、悪い考えが過ぎる。

 

 簡単だ。今賢治さんに聞けば完全解答がすぐに得られる、が……啖呵をきった手前、はばかられる。

 

 

「はぁ……なになに……賢治さん、遅いよ…………」

 

 

 賢治さんからの連絡はずばり、『明日は咲の誕生日なのだが、本人は触れてほしくないから話を振らないで欲しい』というものだった。

 流石に賢治さんに『すいません。話の流れで振っちゃいました』と連絡すると、既読が着いた瞬間に鳴り響く着信音。相手は当然、賢治さん。

 

 

「すいませんでした」

 

 

 通話を開始すると同時の謝罪。しかし、謝らないでくれと焦った様子の賢治さんに声をかけられる。

 

 

『……これに関しては伝えてなかった私が悪かった。本当にすまなかった……どうだった、咲は』

「……一瞬だけ、出会った時みたいに冷たい態度で、お祝いはいらない、と。今は使ってもらってる部屋に帰ってます」

『……その程度、なのかい? 以前は、話を振られるだけで泣き出していたんだがな……』

 

 

 ……喉の奥まで出てきた、「何があったんですか」という言葉を無理矢理飲み込む。

 尋常ではない。何があったらそんな状態になるんだ。PTSDとか、そういう話じゃないか。

 

 言葉に詰まっていると、電話の向こうの賢治さんが、気合を入れたように、よし、と呟いた。

 

 

『……済まない。少し咲と話してくる……奏くん。私は……君を信じるよ』

「え、あ、ちょっと…………切れちゃった」

 

 

 通話が終わったスマホを握り締め、途方に暮れる俺。

 結局、自分の部屋に咲さんがいる都合上リビングに居るしか無くなった俺は、今日一日寝るまでをリビングで過ごすこととなった──リビングにゲーム機と勉強道具を置いておいて良かったと、割と真面目に考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その夜。

 

 

「──奏、くん」

 

 

 晩御飯を食べ風呂に入り、何処かぎくしゃくとした雰囲気に気付いているはずなのに触れてこない家族に心の中で感謝しつつ、もう寝ようかと考えていた時。

 昼から最低限の会話しかしていなかった咲さんから、不意に話しかけられた。

 

 

 

「話が、あるの……2人きりで、話したい」

「……へ」

 

 

 いつもより真剣さを感じさせる咲さんの表情は怯えきっているようにも──覚悟を決めているようにも、見えた。

 

 

 

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