その日は、私の誕生日だった。しかも、その日は土曜日で……お父さんもお母さんも、両方とも仕事が休みだった。優しい両親だったよ。頑張ったことをきちんと褒めてくれて、悪いことした私をきちんと叱って……ちゃんと、愛されてた。
それで、さ。前々から私が行きたいって思ってた、遊園地に連れて行ってもらった。
凄く、楽しかった。朝から夕方まで、右を見ても左を見ても、大好きなもので溢れてて、楽しいアトラクションに乗って、マスコットキャラクターに抱きついて、写真を撮って……帰りたくないって思うくらい、楽しかった。
それだけでも最高の誕生日だったのに、最後にその遊園地のマスコットキャラクターのぬいぐるみまで買ってもらって……大切にするって、抱き締めながら帰りの車に乗ってた。
『お父さん! お母さん! 今日はすっごく楽しかった! ありがとう!』
今思えば、当時の私は、凄い元気な子だった。休み時間になれば外に出てドッジボールしたり、勉強より体育の方が好きだったり、空手は楽しかったなぁ……将来は、空手の師範代とかになりたいって思ってた。
お父さんとお母さんも、その日はずっと嬉しそうだった。本当に、幸せそうに、私を見てた。
『そっかぁ。それは良かったよ』
『ぬいぐるみ、大切にするのよ?』
『うんっ! 毎日一緒に寝るっ!』
乗ってた車が、丁度信号に掛かったタイミングで、助手席のお母さんがこっちに顔を向けた。そのまま私の頭を撫でようとしたんだと思う。こっちに手を向けて来て、私は目を閉じた。
──世界が、爆発したのかと、思った。
凄い衝撃がして、左眼が物凄く熱くなって、身体中が痛くて、呼吸が苦しくて……ガソリンと血の匂いがした所で、私、気を失った。
目を覚ました時には、病院。随分とやつれた伯父さんが、私が目を覚ました瞬間に泣き出して……何が何だか、分からなかった。
『あぁ…………よかった……咲っ…………目を覚ましてっ…………』
『…………おじ、さん…………?』
『そうだっ…………賢治伯父さんだ……っ! あれから、お前は一週間も寝たきりで…………っ!』
……私が目を覚ましたのは、誕生日から一週間後の土曜日。まる一週間寝たきりだったらしいの。その間、一番近くに住んでた伯父さんが毎日お見舞いに来てくれてたらしいの。昔から、優しい伯父さんだった。
ボロボロ泣き出した伯父さんがナースコールを押して、看護婦さん達が来るまでの間に……伯父さんに、聞いた。
『おじさん…………おとーさんと、おかーさんは?』
『……っ』
──私、あの時の伯父さんの顔、一生忘れないと思う。
言わなければならない、でも、どう伝えれば私を少しでも傷付けずに済むか……そんなことを考えてた。
──それだけで、分かってしまった。
けど、認めたくなかった。そんな訳ないって思ってた。お父さんとお母さんなら、絶対大丈夫だって、思ってた。
──即死だった、らしい。
運転中に心臓発作を起こした運転手が運転していたトラックが突っ込んで来たらしい。運転手は事故発生の瞬間には死んでたらしい。誕生日プレゼント、全部燃えたらしいよ。買ってもらったぬいぐるみも、一緒に。
で、私が意識を取り戻した時には、もうお父さんもお母さんも骨だけになって、山梨の私の家のお墓の中。
……嘘だって、叫びたかった。でも、絶対に嘘を吐かない伯父さんが、顔をぐちゃぐちゃにして言うものだから……本当なんだって、分かった。
──その日からの病院での生活は、ずっと苦しかった。
私、なんでも死んでてもおかしくない怪我だったらしいんだよね。何故か生き延びて、今もこうして過ごせてるけど……その時に、運動厳禁って言われた。
次、何かあったら、今度は車椅子生活かもしれない……そう言われたら、大好きだった空手は、諦めるしか無かった。
それに、左眼も無くしていたし。
……私の左眼に刺さったの、お母さんの手らしいよ。撫でようとしてた。
それで、今は義眼を入れてるんだけど……碧色にしてもらったのは、お父さんが、碧色好きだったから。
伯父さんやお医者さんは、最初右眼と同じ色にしろって説得してたけど……あの時の私、今よりも塞ぎ込んでたから。結局、伯父さん達が折れた。
その後、運転手の遺族の方が謝罪しに来てたけど……よく覚えてない。漣って、名乗ってた気がする。その人は悪くない、なんなら運転手の人も悪くないのに、なんで謝ってるんだろうって、思ってた。どこに怒りをぶつければいいのか、分からなかった。
何とかリハビリを終わらせて、学校に行くようになったけど……それまで仲の良かった友達が、凄く気を使うようになって。
元気が取り柄みたいだった私を、腫れ物に振れるように扱って。
これまでの私が、もうここに居ないことを──そこで初めて、実感した。
──だから、私は、誕生日が嫌い。
大好きな家族も、自分も無くして……残ったのは、なんで生きてるのか分からない、
私は、誕生日が嫌い。でも、それ以上に──私が、嫌い。
──だから私は、左眼を隠した。嫌いな私の、象徴だから。
──それから、私は伯父さんに引き取られた。そのまま中学からこっちに移り住んで……今。
──私は、