隻眼の信濃さんが不器用可愛い   作:コロリエル

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5.放課後デートに行きましょう

 

「信濃さん。放課後は何か予定ある?」

 

 

 昼休みに並んで教室を出て並んで教室に帰ってきた男女二人。

 

 本来であれば帰ってくるなり質問攻めにされてもおかしくはない。しかし、入学二日目で距離感を掴みかねているという点と、昼休み開始直後にちょっとした騒動を起こした二人であるという点。

 それもあってか、教室に帰ってきてもあまり話しかけられるということもなく、穏やかで眠たい午後を過ごした……その放課後。

 

 HRを終わらせた我がクラスはクラスメイト達が皆思い思いの行動をしていた。俺は終わるなり、荷物を纏めていた信濃さんに話しかける。

 晴れて友人同士となったのだ。何かしらのアクションはしよう……そう考えての質問だった。

 

 

「特に。部活も興味無いし」

「じゃあ、帰りにどっか寄ってかない? 俺この辺の地理に詳しくなくてさ。どこに何があるかざっくり知りたいのよ」

「構わない。本屋だけ寄らせて」

「りょーかい」

 

 

 昨日と比べてみても、相当心を許してくれているのだろう。話しかけてみても(比較的)話しやすくなっている。これは大きな進歩だ。

 しかし、高校生活初めての友人が女子(めちゃくちゃ可愛い)かつ、明らかに何かしらを抱えてる人だとは夢にも思わなかった。それこそ、席が前後の男子辺りが相場が決まっていそうなものだが。

 

 

「なぁなぁ、お二人さん! それ、俺もついていっていいかい?」

 

 

 それこそ、昨日から俺に話しかけようとうずうずしていた前の席の男子とか──。

 

 席を立ち、そそくさと教室を後にしようとしたところで突然話しかけられた。声をかけてきた男子は、俺の前の席に鎮座していた……木谷裕也だったかな。かなり背の高い、バレーボール部入部希望だったはずだ。

 

 

「木谷くん……えっと、俺は構わないんだけど……」

「…………………………………………………………」

「はははっ……すっげぇ嫌そう……」

 

 

 喜怒哀楽は一応存在しているらしい信濃さん。目を細め眉間に皺を寄せ、俺の背後に隠れるようにしながら木谷くんを見ていた。

 折角話しかけてくれたんだ、ここで無下にするのも申し訳ない。しかし、この背中に隠れた小動物をどうしたらいいものか。

 

 

「んー……ま、今日は二人でのんびりデートしてきなよ。俺のことは気にせずにさ!」

「いいの? ……ごめんな」

「謝んなって! どうせ席も前後だし、話すこともあるだろ! じゃ、お先に失礼!」

 

 

 俺の困惑に気付いてか、また今度と手を挙げて立ち去る木谷くん。快活な笑顔と気遣い、優しい人なんだろうな、きっと。

 

 これは明日あたりにフォローしておかなきゃな、と考えていると、きゅっと制服の裾を引っ張る存在。

 

 

「……ごめん」

「俺は気にしてないよ。それでも申し訳ないって思うなら、明日木谷くんに謝ったらいいよ」

「……頑張ってみる」

 

 

 ただでさえ小柄な彼女が俯いてしまったら、俺からは彼女の表情は伺えない。まず間違いなくその表情筋は仕事をしていないのだろうけど。

 だけど、彼女にはきちんと喜怒哀楽が存在している。今だって木谷くんに申し訳ないとは思っている訳だし。

 

 

「ま、折角木谷くんが気を使ってくれたんだ。めいいっぱい楽しもうよ」

「……街の把握が目的じゃないの?」

「それもあるけどさ。折角できた友達と仲を深めたいじゃない」

「……やることは変わらない」

「旅行のガイドさんと友達とじゃ、見える景色も違うものだよ」

 

 

 からからと笑いながら、カバンを持って教室を後にする。ちらちらとこちらを見てくる目線が若干煩わしいが、無視。流石に今日はもう関わりたくない。

 俺の後ろをてくてくと小さな歩幅でついてくる信濃さん。廊下に出たタイミングで、彼女のスピードに合わせようとする。

 

 それでも、信濃さんは俺の後ろに回る。

 

 

「……あの、なぜ後ろを?」

「横に広がったら邪魔じゃない」

「あぁ……信濃さん、本当にいい子だね」

「そんなわけない。いい子ってのは、いつもニコニコ笑顔を浮かべて、物腰柔らかで、宿題を毎日真面目に提出するような人のことだよ……私みたいな女じゃない」

 

 

 初めて彼女が饒舌に語ったのかと思えば、その内容は何処か僻みを感じさせる独白だった。

 お礼も言える、気遣いもできる、反省もできる。そんな子がいい子じゃない訳ないだろう……そう否定したかったが、何を言っても聞き入れてくれなさそうな雰囲気が彼女にはあった。

 想像以上に自己評価低いな、信濃さん……と思いながら辿り着いた昇降口。買ったばかりの固いローファーを履く。これまでスニーカーだったから、どうにも慣れそうにない。

 

 

「じゃあ、まずは書店に行こっか? 歩いてどれくらい?」

「五分くらい。学校から西に向かって真っ直ぐ」

「あれま、家とは反対方向か……ま、今日は遅くなるって言ってたし、大丈夫か。信濃さんは? 門限とかある?」

「無い。ただ、あまり遅いと、伯父さんが心配する」

「…………伯父さん?」

 

 

 父親や母親ではなく、伯父。

 

 それに疑問を抱くなという方が無理な話だ。事実、恥ずかしい話だが俺は家に帰れば母親が居て弟と妹が居て、夜には父親が帰ってくるという、幸せな環境だったからだ。

 

 そうじゃない家庭のことなんて、画面や紙面の向こう側の話だった。

 

 

「伯父さん。訳あって、伯父さんの家に住まわせてもらってる」

「……そっか。なら、あんまり遅くならないようにしなきゃね」

 

 

 これもあまり踏み込まない方が良いだろう……そう感じた俺は、深堀せずにさっくりと話を終わらせる。

 

 ──後に、ここで彼女の家庭事情について踏み込まないで良かったと、心の底から感じるような出来事と遭遇することになるのだが、それはまだ先の話。

 

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