隻眼の信濃さんが不器用可愛い   作:コロリエル

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50.Happy Rebirthday

 

 

 ──苦しい、独白だっただろう。

 

 それでも、咲さんは全てを話し切った。途中何度も使えながら、震えながら、えずきながら、涙を流しながら……それでも、話し切った。

 

 ──両親がこの世にいないのかもしれないとは、考えが及んでいた。有り得る可能性の一つだと。

 

 しかし……あまりにも、重い。

 

 当時小学生の少女が背負うには、あまりにも重い。

 

 両親も夢もそれまでの生活も全て無くして、自分自身すら本質から変化してしまって。

 

 歪むに決まってる。壊れてもおかしくない。人生なんて滅茶苦茶だろう。

 

 どれほど──どれほど辛い人生だったのだろう。想像すら、できそうにない。できるわけがない。俺は咲さんでは無いから。

 

 

「……わた、しは……わたしが、きらい」

 

 

 だけど、今もう立てなくなってその場にへたりこんだ咲さんが、今にも消えてしまいそうだったから。

 どこにもぶつけることのできない怒りを、不器用に自分に向けているから。

 ──苦しくても辛くても掘り起こしたくなくても、それでも話してくれたから。

 

 ここからは、俺が頑張る番だと、震える身体に鞭を打ち、気合を入れる。

 

 

「咲さん」

 

 

 ベッドから腰を下ろし、床に座り込む咲さんを優しく抱き締める。

 これまでのような拒否は無く、自然と俺の背中に添えられる彼女の腕。堪らない愛おしさを感じながらも、彼女の頭を優しく撫でる。最近キチンと手入れしているからか、以前よりも髪がさらさらと触り心地が良い。

 

 

「ありがとう。君の……君の一番大切な話を教えてくれて、本当にありがとう。凄いよ。そんな風に自分の思い出したくもない昔の話を話せるなんて、できることじゃない」

「それ、は……奏くん、だったから……奏くんだったから、話せた」

「それでも、だよ。君のこれまでを考えたら……どれほどの覚悟だったか」

 

 

 ──嬉しい、と思うのは、酷いだろうか。彼女の過去を話させて、より傷ついている彼女を見て。

 普通に考えたら、酷い男だ。女の子を泣かせて、傷つけて。でも、これが咲さんが先に進むために必要なことなら。俺はいくら非難されても構わない。

 

 

「咲さん。俺は……咲さんが自分を嫌うそれ以上に、君のことを愛するよ。たとえ君が、わがままになっても、臆病になっても、元気一杯になっても。咲さんが……信濃 咲だから」

「……っ」

「俺が咲さんを幸せにしたいのは、咲さんが可愛いからでも、優しいからでも、読書好きだからでもない。君が、君だから幸せにしたいんだ」

 

 

 時計の針が、てっぺんを超える。

 

 今日は、咲さんの、誕生日。咲さんが嫌いで嫌いで仕方ない、彼女の人生が滅茶苦茶になった日。

 

 

「咲さんは、誕生日が嫌いだ。自分のことも、嫌い。だけど、そんな嫌いな咲さんのことを、全部全部、好きだからさ……どうか、そんな大好きな君が生まれてきた今日この日を、祝わせて欲しい」

 

 

 ──エゴかもしれないが。

 

 それでも、誕生日はやっぱり祝福されて欲しい。させて欲しい。その人がこの世に生まれてきてくれたことを祝いたい。

 嫌ならそれでいい。俺は今後一生、咲さんの誕生日を祝わないし、話にも出さない。

 だけど、咲さんが許してくれるなら──。

 

 

「……わた、し」

 

 

 腕の中、いつもよりも小さく感じる咲さん。彼女の腕の力が、僅かに強くなった。

 力強いとは言えないその控えめな力。昔の彼女がどれほど力強かったのかは、今では分からない。

 

 

「……いつもなら、誕生日の話をされるだけで、嫌な気分になってた。けど……奏くんと話してる時は、いつもより、大丈夫、だった」

「……咲さん」

「だから……お願い」

 

 

 ──私を、幸せにして。

 

 縋るような、祈るようなその言葉。

 

 俺は咲さんの両肩を掴み、目を合わせる。

 初めてまじまじと見つめる彼女の素顔。初めて、彼女の顔が、綺麗だと思った。

 

 

「……咲さん。誕生日、おめでとう。生まれてきてくれて、本当にありがとう」

「……あ、り、がとう」

 

 

 自然と出てきた祝いの言葉。咲さんは、目線を泳がせ、自分の胸に手を当て……そして、微かに微笑んだ。

 

 

「……大丈夫、ちゃんと、嬉しいよ」

 

 

 ──その笑顔は、どこか憑き物が落ちたようにも見えて。

 確かに、彼女が先に進めた証だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──すぅすぅと、ベッドでぐっすりと眠る咲さん。

 やはり精神的にかなり疲れたのだろう。少し話した後、すぐに眠りについてしまった。起こさないように咲さんをベッドに寝かせた俺は、暫くその寝顔を見つめていたが……やがて、よろよろと部屋を後にする。

 

 そのままリビングに向かい、ソファに深く腰かけ、たっぷりとため息。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──俺、ちゃんと、笑えていただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必死に抑えていた動悸が止まらない。吐き気が込み上げてくる。身体の震えが止まらない。

 そんなことあっていいはずが無いと、俺は自分の耳を疑った。だが、咲さんの滑舌ははっきりとしていたし、時期的にも場所的にも辻褄が合うし、何より嘘である理由がどこにも無い。

 荒くなる呼吸に耐えきれず、ソファに寝転び胸を抑える。目の前がぐるぐるする。頭の中もぐるぐるして、上下左右が曖昧になる。

 

 

「……なんだよ、それ……そんなことあっていいはずがねぇだろ……!」

 

 

 ──まさか。

 

 

「おかしいだろ……どんな偶然だよっ……最早運命ってか? ……呪うぞ、ちくしょう」

 

 

 ──咲さんの両親を死なせた運転手が。

 

 

「……どうすりゃ、いいんだよ」

 

 

 ──俺の親友、漣 恭介の、親父さんだっただなんて。

 

 

 

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