隻眼の信濃さんが不器用可愛い   作:コロリエル

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54.分かりやすい子

 

 

「……なぁ、黒澤さんや」

「どったの、木谷くん」

「……気の所為じゃなければなのですが、信濃さん、なんか変わった?」

 

 

 翌日。普通に学校。

 

 咲さんはあの後賢治さんとたっぷり4時間腹を割って話し合っていた。その後仕事のために帰らなければならない賢治さんを見送った後戻ってきたのだが、その顔は憑き物が落ちたかのように晴れやかだった。

 まるで見違えたかのように顔つきが明るくなり、表情も柔らかくなっていた。初めてであった時と比べたら、一目瞭然なほどだ。

 

 まぁつまり、他人からしてもその変化は明らかなのだ。

 

 いつも通り二人で登校してきた俺たちを見たクラスメイトが、ちょっとザワついたくらいだ。

 代表して、という訳では無いだろうが、俺の前の席の木谷くんが質問を投げかけてくる。咲さんは例によって例の如く、図書室に向かっていた。

 

 

「うんまぁ……そうなのかな?」

 

 

 あくまでとぼけてみせる。俺は知らないていなのだ。

 

 

「いやだって……信濃さんが黒澤を見る目……こんな言い方したらあれだけど、その、らぶだったぞ?」

「……………………ん?」

 

 

 あれ、そっち?

 

 指ハートを作り、頬を引き攣らせた木谷くん。

 あー、と顔には出さず1人納得。そうだよね、そんなこともあったよね。土日は色々ありすぎて、その辺の記憶彼方に飛んでたや。

 そうじゃん。今の咲さん自覚しちゃった恋する乙女じゃん。そりゃあ表情も柔らかくなるし顔つきも明るくなるじゃん。

 

 

「……土日、なんかあったろ」

「……まだ、カレカノの関係では無いよ」

 

 

 色々と良くしてもらってる木谷くんに嘘をつくのは心苦しかったので、一言。

 その瞬間、ざっと教室を見渡してみる。俺と木谷くんの会話に耳を傾ける人も居た。北中の人達が、その中で半分。

 

 そして、分かりやすくほっとした表情を浮かべた人が、1人。

 パチリと目が合ったかと思うと、その人物は弾かれたかのように目を逸らした。

 

 

「……はぁ」

 

 

 性格が悪いことを思ってしまうが……正直、今の咲さんが俺以外の人間に心を奪われる可能性は極めて低い。

 入学から今日まで山あり谷あり、彼女自身の根幹を揺るがすような交流をしてきた俺と、拒絶に近い感情を持たれてしまっている北中の方々。

 

 なのに、そんな俺がまだ彼女と恋人でないと聞いて、胸を撫で下ろしてしまう。恋は盲目、とはよく言ったものだ。もしかしたら、気付いていないだけで俺も盲目になっているのかもしれない。

 

 まぁ、俺のやることは変わらない。

 

 

「……なぁ、木谷くんや。今日の放課後、部活無かったらどっか行こうよ」

「ん? 今日は部活無いから別に構わないけど……信濃さんは?」

「無論、咲さんにも来てもらうよ。あと、そうだなぁ……赤嶺さんにも来てもらうかな」

「…………え?」

 

 

 俺のやることは、咲さんの世界を広げること。

 

 彼女に、普通の高校生らしい遊びを教えてしまおう。俺と咲さんだけではいつも通りだし、赤嶺さんだけを混ぜても彼女にとっては安心出来る人との合流で終わってしまう。

 

 木谷くんなら、問題無いだろう。今の所咲さんの地雷に触れるような事はしないし、最悪眼のことと、家族のことに関しては釘を刺しておけばいい。

 

 

「ほら、前俺言ったじゃん? 咲さんの依存先を増やすって。期待してるぜ? 木谷くん」

「……重いっての……別に構わねぇけどよぉ……何する気だ?」

「ほら、木谷くんこの前の中間テストで赤点あったでしょ? 学年1位の咲さんに、勉強教えて貰いたくない?」

「……………………あー、ファミレスでいいか?」

 

 

 よし、と小さくガッツポーズ。誰だって成績が良いに超したことは無いわけで、木谷くんもその例に漏れない。しかも相手が全科目満点の学年1位相手となると乗ってくるだろう。

 あとは、俺が咲さんと赤嶺さんを誘うだけだ。お袋に今日の晩御飯は要らないと伝えるのも忘れちゃダメだ。

 

 

「アタシは別に構わないぜ? っつっても、勉強する事なんかねぇけどな」

「よし、あとは咲さんから許可もらってー…………おはよう、赤嶺さん」

「うわびっくりした!」

 

 

 あまりにも自然に会話に混ざってくるもんだから、反応が遅れてしまった。木谷くんが飛び跳ねるのも無理は無い。

 

 よっ、とへらへら笑いながら片手を上げる赤嶺さん。

 神出鬼没、とはよく言ったものだ。本当に気が付いたら傍にいるし、気が付いたら居なくなっている。

 

 

「そりゃあ赤嶺さんは勉強要らないだろうけどさ……楽しそうだろ?」

「黒澤や信濃がファミレスで勉強してるのは見てて楽しそうだが……こいつはどうだろうな?」

「だから俺は木谷だっての……割と話してるんだから、そろそろ名前覚えてくんない?」

 

 

 俺そんなに影薄いかなぁ、と悲しそうな顔をする木谷くんの肩をぽんぽんと叩く。

 大丈夫。そこに関しては赤嶺さんがちょっとおかしいだけだから。

 

 

「……おはよう。赤嶺さん」

 

 

 そんなこんな話していたら、やがて咲さんが図書室から帰ってきた。手には借りてきたのだろうか、何冊か本が握られていた。

 

 そんな咲さんを見た赤嶺さんは、へぇ、と一言。

 

 

「なぁ信濃。今日の放課後ファミレス行こうぜ? 黒澤や木谷も一緒によ」

 

 

 そして、俺が切り出そうとしていた放課後の件を、赤嶺さんがなんて事ない様子でさらりと語り出した。

 一瞬、目を見開いた咲さんは、俺を見て、木谷くんを見て、木谷くんをじっと見て。

 

 少しだけ考えた咲さんは、こくりと小さく頷いた。

 

 

 

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