隻眼の信濃さんが不器用可愛い   作:コロリエル

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57.唯一人

 

 

 

「……あかみ……瑠璃、さんは、私が中学の時に、何も聞いてこなかった……って前に話したけど、それだけじゃなかったの」

 

 

 帰り道。超上機嫌の赤嶺さんといい勉強ができたと満足気な裕也と別れて、今は咲さんと二人きり。

 となると、話は今日の一大イベント……赤嶺さんの話に自然となる。

 

 ──赤嶺 瑠璃。

 

 俺が知っている情報は本当に数少なく、精々咲さんと同じ中学校の出身で、天才じみた記憶力と発想力を持っている。一人でいる事を苦に思わず、常に不敵な笑みを浮かべている。

 そして、咲さんと同じ中学出身にも関わらず、咲さんから非常に高い好感度を得ていることくらい。

 

 ……今にして思えば、咲さんの左眼の事情に触れないってだけで、咲さんが心を許す訳が無い。

 それに、今日の赤嶺さんの様子。咲さんから友達になってくれと言われた時の表情を考えると──。

 

 咲さんは自分の左眼を抑える。その下の碧を、俺は確かに知っている。

 

 

「中一の時……同じクラスだったんだけど、最初はあんな感じじゃなかった。髪も黒かったし、大人しそうだった。少なくとも、あんな笑顔を浮かべる人じゃなかった」

「……んー、んー、ん?」

 

 

 初めて聞く、咲さんが中学生の時の話。と言っても赤嶺さんの事だが、想像していなかった内容が咲さんの口から飛び出てくる。

 いつもの公園に立ち寄った俺と咲さん。動物の形をしている、跨ってゆらゆらと揺れる遊具に腰掛ける。真っ白なウサギは、高校生の俺が乗っても大丈夫なくらい丈夫だった。

 

 何してるの、と言わんばかりに微笑んだ咲さんも、隣の白馬に股がる。中々様になっていた……っていうのは、言ったら失礼だろうな。

 

 

「初日は、そんな感じだった。でも、周りの皆と同じように、私のことをちらちら見てたから……他の人達と同じだと思ってた」

「……あぁ」

 

 

 嫌でも目立つ、眼帯姿の同級生。

 

 高校生ともなれば、色んな事情があるのだろうと深入りする人間も少ないだろうが……入学したての中学生が見た時、どうなるかは火を見るよりも明らか。

 

 

「初日……色んな人から、沢山聞かれた。なんで眼帯してるの? って……あの時は、まだ私の中で折り合いなんて着いてなかった」

 

 

 ──当たり前だ。事故からまだ日が浅い。

 折り合い……というか、最近になってようやく過去と向き合えるようになったのだ。

 だからこそ今、咲さんは俺に中学生時代の話をしてくれる。

 

 

「ふとした瞬間に、思い出しちゃうような時に……触れてほしくないのに、沢山、聞かれて……酷い子は、眼帯を無理矢理取ろうとした子もいた。まぁ、気になるのは理解できるけど」

 

 

 ゆらゆら、ゆっくり揺れる咲さん。

 白馬の頭を優しく撫でながら思い出したくない思い出を語る咲さん。

 ──その表情が幾分穏やかな分、自分の表情が歪んでいるのを自覚する。

 

 

「……………………」

「……奏くん、怖い顔してる」

「っ……ごめん」

「ううん、ありがとう。やっぱり、奏くんは優しいね」

「はは……ありがとう」

 

 

 咲さんから指摘されてなんとか笑みを浮かべている時に俺は、以前咲さんが言っていた言葉を思い出す──『世界に私の味方が、伯父さんしかいないってずっと思ってた』という、あまりにも悲しい独白を。

 

 そう考えるようになるのも当然だ。友人も知り合いも誰もいない新しい場所で、初日からそんな事になれば。

 その時の咲さんの孤独は──どれほどのものだったのだろうか。

 

 ……その時の咲さんに寄り添うことが出来なかったのが悔しい、と思ってしまうあたり、俺は咲さんのことが心の底から大切なのだなと理解する。

 

 

「……結局その場は、ホームルームのために教室に入ってきた先生が収めてくれたけど……正直、もう学校に行きたくないくらいには、傷付いた」

「……咲、さん……」

「……でも、伯父さんにこれ以上迷惑を掛けたくなかったし、心配もさせたくなかったから……何も無かったかのように振舞ってた」

 

 

 ──ばかだよね。伯父さんは何があっても私を心配するに決まってるのに。迷惑を迷惑なんて、思わないに決まってるのに。

 

 賢治さんと真正面から話し合った今だからこそ、そう言えたのだろう──咲さんは穏やかに笑っていた。

 

 ──今でこそ合点が行く話だが、咲さんが優しく、それでいて誠実な所が垣間見えるのは、例の事故以前の、本来の性格なのだろう。

 きっと、彼女の両親は、本当にいい親だったのだろう。そして、例の事故を経て尚本来の性格が変わってない辺り、賢治さんは本当にいい親なのだ。

 

 

「毎日、重い足を無理矢理動かして、学校に向かって──一週間後、だったかな。土日明けの月曜日、私の机に、瑠璃さんが座ってたの」

 

 

 そして、咲さんはゆっくりと、当時のことを語り出す。

 

 

「──どこに居ても目を引く、目が覚めるような金色の髪になって」

 

 

 苦しくて辛くて、絶望の中にいた咲さんの──それでも確かに存在した、大切な思い出を。

 

 彼女の大切な、友達の話を。

 

 

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