「……なんというか……赤嶺さんって……その……」
「ばか、だよ」
「言葉選んでたのに……」
ばか、なんて酷い言葉を口にしているにも関わらず、頬が緩んでいる咲さん。視線の先には、5時が来たからと帰る準備をしている小学生たちの姿。
6月の今は日も長く、まだまだ明るいけど、名残惜しそうに友達と一緒にランドセルを背負う彼ら。
人が居なくなった公園で、俺はおもむろに立ち上がる。帰る、という訳ではなく、ただ何となくだ。
咲さんも俺に合わせて立ち上がり、示し合わせた訳でもなく、公園の中を歩き出す。昔は巨大に思えたジャングルジムもどこか小さく、一生懸命ぶら下がった雲梯は足が着いてしまう。
「だって、そうでしょう? 突然ぴっかぴかの金髪にして、朝から机の上に座って、悪目立ちしてた私に絡んでくるんだよ?」
「状況だけ並べると、すごい面白いね」
「今となってはね。あの時は本当に混乱したんだから」
よっと、と咲さんは滑り台の階段を一段ずつ登る。
そのまま座って滑ろうとしてたので、スカートが汚れると持ち歩いていたタオルを手渡す。最初はきょとんとしていた咲さんも、説明したら納得したようで、ありがとうとひとつ呟くとタオルをお尻に敷いて、すーっと滑る。
「やっぱり、変。こんなに目立つものについて、気にする素振りも見せずに、可愛いって」
「……やっぱり、赤嶺さんへの評価、改めないとなぁ」
「……?」
赤嶺 瑠璃は、天才だ。それは紛れもない事実。
だけど、恐らく彼女の人格は、精神は、狂人のそれでは無い──あくまでそう演じているだけ。
確証はしていないが、あながち間違えてないと思われる。
──どうしても脳裏に焼き付いて離れない、咲さんから名前で呼ばれた時の赤嶺さん。
あれは、あの喜びようは、それこそ数年かけた努力が実った瞬間のような、歓喜に打ち震えているもの。
これまでの赤嶺さんのイメージからは、とてもじゃないが想像できない。
「咲さん。咲さんは本当にいい友達を持ったよ」
「……だと、思う。瑠璃さんは、ずっと、私のそばにいた……こっち側に、来た」
今なら、分かる──そう咲さんはため息混じりに吐き出した。
滑り台の終点に座り込んだまま、咲さんは空を見上げる。
これまでの彼女が浮かべているところを見たことがないような──寂しさを孕んだかのような笑み。
「──私、本当に周りを見れてなかったんだって、最近感じる」
「……」
「あんなにいい人が、ずっと私のそばにいたのに……気付くのに、3年もかかった。冷たい言葉ばかり投げかけて……なのに、心の中ではどこか彼女を許してて。わがまま、だったなぁ……」
──それは、明確な後悔と、成長だった。
精神的に落ち着いてきたこともあり、彼女は中学時代の3年間に対して向き合えるようになりつつあるのだろう。
その一環が、今回の赤嶺さんへの向き合い方の変化なのだろう。
「……咲さんは、赤嶺さんとどうなりたいの?」
彼女が変化しても、成長しても、俺のやることは彼女を支え、背中を押すこと。
咲さんの目の前にしゃがみこみ、目線を合わせようとするが、彼女の目線が揺らぐ。
いつもなら真っ直ぐ見つめ返してくる彼女は、最終的に俯いて地面を向く。
「……わから、ない」
話を聞く限り、彼女は小学生の時はそれなりに活発な少女だったらしい。当然友人と遊ぶことだってあっただろう。
だが、今の彼女には3年分のブランクが存在する。他人との間に壁を作り、拒絶し続けていた彼女には、荷が重いのかもしれない。
でも、分からないからって分からないものをそのままにしておくのは、どんな状況でも褒められたものではない。
「じゃあ、赤嶺さんに対して、その罪悪感を持ったまま、ずっと友達で居続けるのかい? ……俺としては、それはお勧めできないなぁ」
「……罪悪、感?」
「そうだよ。君は赤嶺さんに対して、酷いことをしたって思っているんだ。勿論、赤嶺さんがそうは思ってないかもしれないけど……でも、悪いことしたと思ったら、ごめんなさいだよ」
『ありがとう、ごめんなさいが言えない人間だけにはなるな』
いつか、親父が言った言葉だ。感謝と謝意を素直に口にできない人間がどうなっていくかは、高校生の俺ですら容易に想像ができる。
咲さんは、きちんとそれができる人間ではある。だけど、今は数少ない友人に対しての罪悪感で、動けなくなってしまっているだけ。
持つべきなのは、悪いことをきちんと認めて、謝れる勇気だ。
「……許して、くれるかなぁ」
「許してくれないような人だと、思うかい?」
「……思わない」
「じゃあ、明日きちんと謝ろうよ」
「……うん」
少しばかり表情の晴れた咲さんが、それでも不安を隠しきれないようすで、それでも立ち上がる。
それくらい、咲さんにとって赤嶺さんは大きな存在になっていたのだと、純粋に喜ぶことができていた。
12/6現在、配信で小説書いてます。良かったら遊びに来てね。