隻眼の信濃さんが不器用可愛い   作:コロリエル

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62.天然たらしクソボケ兄貴

 

 

 ──俺としては、将来的に咲さんと恋人関係になり、結婚し同じ墓まで入ることは確定事項である。

 

 過程がどうあれこの結果に至るのは間違いない事実であり、俺は既に生涯を掛けて咲さんを幸せにする所存である。これは、このまま咲さんの元を離れたら最悪彼女自ら命を断ちかねないからという理由ではなく、心の底から彼女のことを好きであるからこその覚悟である。

 

 しかし……じゃあどっちから告白するの? という問いに対しては、確かに考えたことがある。

 俺から告白するのは、そりゃあドキドキもするし不安にもなるだろうが……咲さんの気持ちを知っている今、それらは多少どころかかなりマシだ。俺が腹を括れば問題も何も無い、すんなり彼女と清いお付き合いの始まり。

 

 俺から告白して、と言うのは既定路線だろう……そう考えていた。

 

 

「でもよ? お前との行く末がどうなるか分かんねぇんだし、経験積ませるべきだと思うぜ? アタシは」

「……俺の気持ちを抑えろと?」

 

 

 ──そんなもん俺と咲さんの勝手だろう。

 ──確かに咲さんの成長にはいい機会か。

 

 そんなふたつの考えが自分の中に産まれる。しかし、普段あまり感情的にならないように務めているはずの俺も、流石に眉を顰める。

 俺のそんな態度は予想通りか、赤嶺さんは分かったかのような顔で頷いていた。無理やり連れてこられた屋上。日陰になる場所で2人並んで腰を下ろしていた。

 

 

「まぁ気持ちはわかるさ。男女平等が叫ばれて久しい昨今、それでも告白は男からだろうと言う奴が居るのもまぁ分かる。だが聞いてくれや」

「……政治的思想の話なら聞かないよ?」

 

 

 違うって、とおどけてみせた赤嶺さんは、内緒話をするかのように口元に手を当て、小さな声で囁いた。

 

 

「──告白する瞬間の最っ高に可愛い咲、見たくないか?」

 

 

 ──瞬間、脳裏を駆け巡る無限大の可能性。

 

 ある可能性は、放課後夕日が差し込む空き教室。

 

 ある可能性は、2人並んで座る公園のブランコ。

 

 ある可能性は、月明かりに照らされた薄暗い自室。

 

 恥じらいながらか、あるいは堂々としているか、泣きそうになりながらか定かではないが──咲さんが俺に向けて精一杯真っ直ぐな好意を伝えようとする、そんな幸せな可能性の数々。

 

 見てしまった。見えてしまった。感じてしまった、想像してしまった。

 

 恐らく史上最高に可愛い瞬間の──信濃 咲を。

 

 

「……黒澤ってさ、最初は常にニコニコしてるから本心分かりずらいと思ってたけど……咲の事好きすぎだろ」

「……分かるかい? 結構顔に出てないと思うんだけど」

「そうかそうか、黒澤は咲の事が好きすぎる自覚があると。いいこと聞いたわ」

 

 

 カマかけられた。しかも割とベタなやつ。

 こんなのに引っかかる位、最近の俺は動揺しているのだろう。考えてみたら、ここ数日間色々なことがありすぎた。諸々隙ができていてもおかしくは無いだろう。

 ため息一つ。否定しようにも、自分の気持ちに嘘をつくのは宜しくない。嘘を言い続けていたら、それが本当になってしまってもおかしくない。

 

 

「前々から思ってたけどよ……キチンと男子高校生してるよな、お前さん」

「そりゃあね……俺はまだ15才の少年ですから。好きな子位、そりゃあ、まぁ」

「ふーん……なーんで咲のやつ、自分がこんなに好かれてるって気付かないかねぇ」

 

 

 ふと、赤嶺さんはそんな風に吐き捨てていた。

 色々と原因はあるのだろうが……有力なのはやはり、ここ数年コミュニケーションを拒絶していたからだろう。

 人からの好意から離れすぎていた。そうでなかったら、あの夜に、俺からの好意に、気付、いて…………。

 

 

 ふと、思い出す。

 

 咲さんの誕生日数分前。彼女の事を受け止めるために、彼女を抱きしめた俺は、咲さんに、なんて言った?

 彼女の事を慰めるために、このあほはどんな言葉を彼女に送った?

 

 

 

『咲さん。俺は……咲さんが自分を嫌うそれ以上に、君のことを愛するよ。たとえ君が、わがままになっても、臆病になっても、元気一杯になっても。咲さんが……信濃 咲だから』

 

 

 ──えげつねぇこと言ってるぞこれおい。

 

 

「おいどうした。急に頭抑えだして。咲の鈍感さに絶望したか?」

「いや……俺の悪癖を思い出して、悶えてる」

「あぁん? ……それ、咲に悪影響、あるか? あるなら話せや。話さなかったら……分かってるな?」

 

 

 あまりにもドスの効いた声で話すものだから(赤嶺さんも、大概咲さんのこと好き過ぎる)、あの日の夜のことを……かなーりぼかして話した。咲さんの秘密には触れずに、訳あって落ち込みまくった彼女の事を慰めるために、どんな言葉を発したかを説明。

 これもこれで新手の拷問だが……あの赤嶺さんが、それはもう顔を真っ赤にするほど、俺の発言は小っ恥ずかしい物だったようで。

 

 動揺した赤嶺さんが、震える手で紙パックのバナナミルクを手に取り、一口。

 

 

「……その、なんだ。絶対責任取れよ……咲の男性観、ぐちゃぐちゃにしてるぞ、奏の馬鹿野郎」

「です、よね」

「それはそうと、咲もさぁ……そこまでやって、初めて自分が奏のこと好きって気付くって、さぁ……」

 

 

 天を仰ぐ赤嶺さん。

 生憎の曇り空。今日の天気予報は曇のち雨。傘はきちんと持ってきている。

 

 ──結局、咲さんからの告白を待つという形に、なし崩し的に決定するのであった。

 

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