──とまぁ、恋心を自覚した咲さんからの告白を待つことにした、天然たらしクソボケ兄貴こと、この私黒澤 奏。
最初は、「それでも咲さん、思ったことはわりとズバズバ言ってくるタイプだし、早ければ3日以内に告白してくるんじゃないか」とタカを括っていた。
それこそ、知り合ってすぐの時は、友達としてとはいえ「黒澤くんが好き」とはっきり口にしていたのだ。
そんなに遠くない未来に、ゲームセット、ゴールイン……そう、思っていました。
「……あの、咲さん」
「……なに」
「うちの家族が……ご迷惑を……」
「構わない。むしろ嬉しいし、こっちこそ申し訳ない」
週末。土曜日。
実は、明日は賢治さんが出張から帰ってくる日。つまり、咲さんが我が黒澤家に泊まるのは、今日が最後。
最後の一日だからと、うちの両親としー(隠しきれてないがつーも)は張り切っており、晩御飯はちょっとしたパーティーにしようと、張り切っていた。
俺も、そして咲さんもなにか手伝おうとしたのだが、「主役に手伝わせるなんて出来るわけないでしょ! あなた達はデートにでも行ってきなさい!」と昼食代を押し付けられ、家から追い出された俺と咲さん。行く宛もなくどうしようかと考えながら、取り敢えず駅の方面へと歩を進めていた。
成り行きとはいえ、咲さんが恋心を自覚してから初めてのデート。
期待もするでしょう。そりゃあ。俺、男子高校生だし。
「……どこ行く?」
「んー……どこ行きたい?」
「どことかは無いんだけど……奏くんのご家族と……その、伯父さんに、プレゼント買いたい」
──助けてください。俺の好きな子が本当にいい子すぎて、余計に好きになってしまいます。
──助けてください。下心満載だった罪悪感に押し潰されてしまいそうです。
咲さんの優しさに目が眩む。自分の浅ましさに泣きそうになる。
確かにそうだよね。2週間、食事に寝床にお世話になった上に、お見送りのパーティーまで開こうとしてくれてるもんね。そりゃあお礼もしたくなるよね。
確かにそうだよね。これまで自分の事をずっと支えて、見守ってくれた親からの5年分の愛を受け取ったもんね。そりゃあなにかしてあげたいよね。
その辺に気付かず、今日中には咲さんから告白されて恋人同士かー、なんて妄想してた自分を蹴飛ばしたい。浮かれてましたよこんちくしょう。
「……なんか、奏くんが百面相」
「いやぁ、うん……咲さんがいい子だなって思っただけだよ」
「そんなこと……なくは、ない?」
──最近、咲さんの身に起きた変化。それは、過剰に自分を卑下することを辞めようとし始めていたことだ。
これに関しては、間違いなくしーの影響だろう。スキンケアやヘアケアなどで、咲さんがしーに話を聞くことは多々あるのだが、そんな中で、
「咲さん、謙遜しすぎ! そんなに謙遜してたら、自分で自分をひつよーいじょーに傷付けちゃうよ! 胸張って行こー!」
と、ポジティブ大魔人からの強い光を受けてしまったらしい。我が妹ながら、なんだあの圧倒的光属性は。
そんなわけで、咲さんは最近その辺を意識しているらしい。いつも通りそんなことないと否定しかけていたが、最終的には首を捻って疑問形。
しー、マジでナイス。シュークリーム買って帰ろう。
首を捻る咲さんに笑みを浮かべてみせる。事実、咲さんはいい子である。
「よし、それじゃあ喜んでくれそうなプレゼント探しに行きますか……と、意気込んでみましたが、道案内というか、その辺お願いします……」
「任せて」
そう答えて歩道の脇に避けて立ち止まり、スマホを取り出す彼女は、中々上機嫌。
今にも鼻歌を歌い出してしまいそうなほど、その指はダンスを踊るかのように、軽やかにマップアプリの上を動いていた。
「なんか機嫌いいね」
「当たり前。機械に弱くて土地勘のない奏くんの役に立てるのは、嬉しい」
「咲さん咲さん、言い方言い方。えっぐい鋭いよそのセリフ」
段々と改善が進む咲さんの意識だが、それでもふとした瞬間に切れ味鋭い発言が飛び出ることがある。
まぁ、これは仕方ないことだ。多感で人格形成がほぼほぼ完成する中学生時代に塞ぎ込んでしまっていたのだ。いくら根が優しいとはいえ、染み付いた攻撃性はもう抜けない。
だけど、それを外付けのスキルでカバーすることは十分できる……とは、お袋の話である。
『お父さん、あなたが産まれる前は切れたジャックナイフだったのよ?』
ジャックナイフは切れねぇよ、と突っ込んだ記憶が中々強烈だったので、よく覚えている。
つまり、現在咲さんは絶賛外付けスキルの習得中。道のりは長いかもしれないが、咲さんは元々の素養があるとはいえ、面倒くさい勉学を結果が出るまで努力できる人。牛歩でも確かに前に進んでいくだろう。
そんな彼女が間違えないように、俺が傍にいればいい。
むー、と頬を膨らませた咲さん。どんまいどんまい、と笑いかければ、申し訳なさそうに眉を八の字にして笑みを浮かべてくれていた。