隻眼の信濃さんが不器用可愛い   作:コロリエル

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65.お礼

 

 

「良かったね。喜んでくれて」

「……うん」

 

 

 お袋の作ったいつもより豪勢な料理を美味しい美味しいとパクパク食べた後、落ち着いたタイミングで咲さんは家族5人(しれっと俺も含まれてた)に一生懸命選んだプレゼントを渡してくれた。

 5人でお揃いのハンカチセット……シンプルなデザインのそれは日常的に使いやすいもので、相手を選ばないプレゼントと言えばそれまで。

 

 しかし、それでもきちんとこちらのことを考えてくれたプレゼントであることに変わりは無い。感激したおふくろとしーが咲さんを抱きしめ、親父とつーもしっかりお礼を言っていた。勿論、俺も。

 

 喜んでくれるか不安だった咲さんは、一安心といった様子で俺の部屋のベッドに腰掛けていた。時刻は10時。しーとつーは眠そうに部屋に引っ込んで行ったので、話すなら俺の部屋だ。

 俺はそんな咲さんの隣に腰を下ろす。

 

 

「……本当に、ありがとう、奏くん。すごくお世話になった」

 

 

 そう言うと彼女は、眼帯を外した。

 咲さん曰く、確かに3年間はずっと付けっぱなしだから違和感は無いが、外して過ごすのが一番楽との事だ。

 確実に二人きりになれる時には、ちゃんと外して過ごしていた。

 咲さんの碧い眼が露になる。彼女の抱えている暗部は、俺の前でだけ晒される。

 

 

「……私さ、この2ヶ月くらいで、生まれ変わったんじゃないかってくらい、息がしやすいの」

 

 

 唐突に、咲さんは自分の胸に手を当てる。落ち着いた呼吸で、上下しているそれは、彼女が安心しきっている何よりの証拠。

 

 

「……息が、しやすい?」

「うん。意識してたわけじゃないけど……多分、ずっと息苦しかったんだと思う。小学生の頃に、戻った気分」

 

 

 頭もすっきりするし、体調もいいしと続ける咲さん。

 規則正しい生活と十分な睡眠。それらによって肉体の調子が上向いている上に、精神状態も非常にいいと来た。

 

 初めて会った4月と比べても、明らかに顔色がいいし、目にも活気がある。

 本当に──本当に、見違えたようだ。

 最初から咲さんは可愛かったけど……最近の咲さんは、更に可愛い。

 

 

「奏くんと会ってから、世界が変わった……いくらお礼を行っても、足りない位助けられた」

 

 

 だから、さ。

 

 そう口にした咲さんは、もじもじとしながらも、勢いよく立ち上がったかと思うと……両手を広げてみせる。

 

 

「奏くんに、恩返ししたい。なにかして欲しい事があったら、言って。できる範囲で、頑張る」

 

 

 ──さて、世の中の男子高校生諸君。

 

 もし君が意中の相手から上記のような発言を受けた場合、どのような気持ちになるか。

 

 赤嶺さん曰く──男子高校生なんて股間と脳みそが直列に繋がっているとの事らしく。

 これが三、四年後の俺だったら、そりゃあもうである。

 

 しかし、この時の俺は、なんというか、「咲さんを全力で幸せにする」バーサーカーであった。昼間の下心が咲さんの手によって浄化されていた影響である。

 

 結果、この時の黒澤 奏が出力した回答は以下の通りである。

 

 

「じゃあ、咲さんが俺にやって欲しいことをやったげるよ。何でもしてあげる」

 

 

 こんなどこの乙女ゲーのセリフだって回答を即答していた。このセリフに下心なんて存在せず、本当に、本当に心の底から咲さんがして欲しいことをしてあげようと思っていた。自分で言うのもなんだけど、タチが悪すぎる。

 当然、カウンターパンチのような形になり、戸惑うのは信濃 咲。

 

 彼女からしてみても、この状況は先程の俺と変わらない──意中の相手からして欲しいことしてあげると言われたのである。

 

 明確なフリーズ。咲さんは読書の幅が広く、割と攻めた内容の小説とかを読んでいることもあるので……それはもう、知識は豊富である。咲さんは、意外とむっつりなのである。

 しかし、裏を返せばチャンスである。ここで私と付き合って欲しいと言えば、その時点で試合終了。

 

 当然、その選択肢は脳裏に過ぎっていた……と、後に咲さんは語っていた。

 

 

「じ、じゃあ……今日は、私が寝るまで、私の側にいて」

 

 

 ──しかし、咲さんは後にこうも語っていた。

 

「お願いの対価で付き合ってってお願いするんじゃなくて、きちんとかな君が好きって伝えたかった」

 

 なんて、伏し目がちに、恥ずかしそうに。

 真面目だ。本当に真面目だ。だからこそ好きになったわけだけども。

 

 

「お安い御用だよ。っと言うか、そんなのでいいの?」

「……いい。大丈夫」

 

 

 想像よりも可愛らしいお願いに、頬が緩む。

 確かに、今日が最後なわけだし、寝るまでくらいだったらそばに居てあげても良いか──そんな風に、呑気に語っていた。

 

 

「……あ、いや、その……問題なければ、お願いしたいことが……もう一個」

 

 

 

 しかし、この時の咲さんは……いつもよりほんのちょっとだけ、欲望に忠実だった。

 

 

「その……私が寝るまで、耳元で、喋ってて、欲しい」

「……………………………………………………ん?」

 

 

 なお、その原因が自分自身であるということに……この時の俺は、全く気付いていなかったのである。

 俺の軽はずみな行動が、いたいけな少女の性癖をぐちゃぐちゃにしてしまっていたとは……全く気付いて、いなかった。

 

 




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咲さんが奏くんに甘えるボタン
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